或る物語の終焉:Phase3「ゾディアック・イクリプス」

「最強を極める戦いっていうのは……こうでなくちゃねえ!」

 輝きに包まれたディードは幼蛇のような姿に一瞬変化した後、急速に巨大化しつつ四肢や両翼が生えていく。絶大な熱波とともに、眩く緋色に輝く龍が顕現する。体表が溶け切ったマグマのように熱と光を放つ以外は、アルヴァナの竜の姿に瓜二つであった。

「アハハハハハハ!」

 笑い声に従った咆哮が撒き散らされ、どこからともなく溶岩が吹き出て両者が降り立つ足場となる。

「これが!三千世界の夜明け!」

 更なる咆哮によって溶岩が喚起され、高く火柱のように吹き上がる。

「塵も残さず……私たちの全部を燃やし尽くすわよッ!」

「ええ!旦那様のために……そして、私たちのためにも!」

 余燼が両翼を開き、紅い蝶の塊を左右に大量に並べ、光線を撃ち放つ。ディードは両翼を畳んで力み、光線の直撃を受けながらも両翼を開き、そして生じた猛烈な熱気を、両翼を前方に振り抜くことで猛進させる。余燼は右翼を盾にしながら熱波の中を突っ切り、振り払いを当てようとする。だがディードは即座に力を溜め直し、胸部を輝かせて総身に紅い粒子を帯びつつ闘気を解放し、振り抜く寸前で至近距離で直撃を受ける。余燼は衝撃を逃がしつつ直上に飛び上がり、両翼を正面に向けて急降下する。ディードはその瞬間に咆哮し、天から大量の隕石が降り注ぐ。速度は先程までの比ではなく、衝撃も爆炎も凄まじく、自らを巻き込んで余燼を叩き落とす。両翼を振り抜いて熱波と斬撃を起こして余燼を吹き飛ばしつつ後方へ飛び上がり、莫大なエネルギーを口許に凝縮させ、一瞬首をもたげて力み、首を突き出して口から極限の火炎を吐き出す。余燼は受け身を取ってから再び右翼を盾に堪える。

「(この底の見えない力……!)」

 ディードは短く吐きつけた後、ほんの一瞬力んでから超絶的な威力の真炎を解放する。余燼は自身を中心に巨大な火柱を作り出し、極悪な火炎放射の中を貫いて飛び上がり、ディードよりも高い位置から力んで大量の紅い蝶を降り注がせる。ほぼ全弾が直撃し大爆発を起こす。しかし余燼もまた隕石に撃ち抜かれて叩き落され、両者は溶岩上で立て直す。

「へっ……へへへ……!」

 ディードは嘲笑のように声を漏らし、天を仰いで咆哮する。凄まじい勢いで流星群が降り注ぐが、敢えてか余燼に当たらぬように溶岩に叩きつけられる。当然、質量と衝撃から極悪な破壊力が乱立するが、両者ともに視線を逸らさない。

「今この瞬間が……最高に楽しいわ!全てを賭けて、自分の“最強”って最高の看板を守り抜くのは!」

「……!」

「そうでしょうね!アンタも、本当の意味でテッペン獲ろうってんだから、楽しくないわけがないわよねェッ!」

 余燼が僅かな溜めから熱線を吐き出すと、ディードは狂乱の笑い声とともに火球を撃ち返す。そのまま激突して爆発すると、瞬間的に力んで両翼を振り抜き、熱波を前方に解放する。余燼は紅い蝶を爆発させて自身を前方に吹き飛ばし、熱波の最中を貫通して突撃する。肉薄した瞬間に両翼を振り抜いて斬撃を起こし、ディードの胸部に深い切創を刻みつける。間近に迫った余燼の首を右前足で鷲掴み、そのまま口から極大の火球を撃ち込む。余りの衝撃に右前足は吹き飛び、余燼も左翼と頭部を失いながら後方に吹き飛ぶ。

「あー、ハハッ。世界ってこんなにも、生きるってこんなにも……死に一直線に突っ込むことがこんなにも楽しいなんてねえ!」

 平然と右前足を再生し、余燼も立て直して一瞬で完治させる。ディードは余燼を見つめ、笑みを抑えるように舌舐りを見せる。

「人生は花火でなければね。火薬を詰めて、その全てを燃やし尽くして一瞬で終わる……」

「……」

「私もアンタもまだ、弾ける高さまで辿り着いてないってことよ。まだ、全てを燃やし尽くしてないでしょ」

「ええ……」

「三千世界を焼き尽くす派手な華を咲かせてこそ!人生の終わりに相応しいッ!」

 首をもたげ張り裂けるような咆哮を撒き散らしながら、両翼を押しやるように体内から猛々しい腕が突き出る。全身から壮絶極まる熱気と闘気と真炎とを放出しつつ身体を出鱈目に振り回し、余燼をその度に押し出しながら大きく上体を反らして大爆発を起こして周囲の溶岩を励起させる。

「くっ……ふふ……!」

 右翼で衝撃を逃がしていた余燼が構え直し、思わず笑みを溢す。

「こんな力……どの時代のどんな瞬間でさえ、世界の方が耐えられないのに……!」

「だからこそ!アンタとここで戦うんでしょ!?」

「全くその通りですぞ……!」

 両腕を掲げ、その掌の狭間で巨大な火球を生み出し、弾けて弾幕が降り注ぐ。闘気の放出を抑える素振りすら見せずに踏み込みながら右腕を豪快に振り下ろし、余燼は躱しながら軽く飛び、流れるように横に回り込む。左腕に全体重をかけて無理やり軸合わせしながら薙ぎ払い、右翼で凌がれたところに最上段から右腕を振り下ろす。余燼は後退して躱しつつ、紅い蝶の群れを左右に並べて光線を撃ち込む。ディードは特段対応を見せず、右腕をそのまま力強く溶岩に撃ち込んで熱波を起こしながら次々と火柱を立てる。余燼の視界を妨害しながら、掌から噴出させた真炎で飛び上がり、空中で左腕から真炎を噴出させて飛びながら軸を合わせ、両腕を後方へ向けて真炎を噴出し、超高速で突貫する。左翼で防御した余燼に直撃し、防御の上から甚だしく吹き飛ばす。間髪入れず、ディードは余燼がそうしたように火球を自身の左右に並べ、それを解放して極太の熱線を繰り出す。立て直した余燼は応えるように紅い蝶の群れを同じだけ並べ、光線にして迎え撃ち、ディードは右腕を足元で突き立てて真上に振り上げ、五方向に斬撃を飛ばし、左腕を自身に水平に伸ばして真炎を噴出し、余燼の周囲を高速で旋回しながら再び超絶的な威力の真炎を解放する。余燼は斬撃を弾きながら錐揉み回転して上昇することで火炎放射から逃れ、頭上から大量の紅い蝶の群れを叩き込む。ディードは避けられた瞬間に放射を止め、両腕を足元に突き刺す。そして凄まじい勢いで力を注ぎ込み、自身を中心として波濤のように大量かつ極大の火柱を噴出させ、余燼を叩き落とす。追撃として両腕を振り上げて熱線を放ち、余燼は即座に立て直して体表に怨愛の炎を纏い、熱線を弾き、そのまま自身を蝶たちに吹き飛ばさせて一気に接近し、ディードは両腕を足元に、杭のように突き立てて固定し、胸元から喉までが青く輝き透けるほどの出力で真炎を滾らせ、三度超絶的な威力の真炎放射を解き放つ。余燼は右翼を盾に突進を継続し、火炎放射の威力と余燼の推進力が拮抗する。余燼が徐々に距離を詰め、間近に迫った瞬間に互いの威力が爆発し、両者を後方に吹き飛ばす。

「そろそろ身体も温まってきたんじゃない?」

「……!」

 余燼が覚悟を極めた視線を遣ると、閃光と共にディードが大爆発し、溶岩が消し飛んで両者は虚空に投げ出される。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る