☆☆☆エンドレスロールEX:雷霆万鈞のデバステート
エンドレスロール 王龍結界 雷激の死闘場
夕闇が辺りを包む森林、その最中の草原にて、フードを被った細身の男が立っていた。
「終わった世界、閉じた世界……そんなもんに踏み込むなんざ、てめえはよほどクソみたいな宿命に縛られてるらしい」
男の正面の地面から炎が上がり、その中から片耳のハチドリが現れる。
「叛王龍シュンゲキ……」
「俺は五王龍の役目から解放された。もう誰に構うこたぁねえ」
シュンゲキは左手を上げ、顔の辺りで握り締めて真雷を弾けさせる。
「だが……バロンがてめえに何を見て、全部預けたのか……それは興味がある」
「ならばあなたを……戦いの火で、燃やし尽くしてあげます」
ハチドリは脇差を抜き、刀身に怨愛の炎を宿す。
「我が名は〈暴虐の造反者〉叛王龍シュンゲキ!行くぜ!」
シュンゲキは右半身を引き、右鷹爪を突き出しながら雷光となって駆け抜ける。盾となった分身を貫き、即座に重ねられた脇差の一撃を左腕で弾き、素早く向き直って右手刀を繰り出す。しかしそれも左腕で払われ、続いて左拳を顔面で受けて吹き飛ばされる。倒れずに両脚で堪え、捩じるようにして構え、高速回転しながら突進する。ハチドリが分身で受けて飛び上がるが、シュンゲキは即座に反応して勢いを殺し、腕から垂れている帯電している長布を伸ばしてハチドリを捕らえ、地面に引き寄せて叩きつける。そして両手に真雷を宿し、踏み込みながら連続で振り回す。ハチドリは落ち着いて脇差で流しつつ、最終段の直前に目にも止まらぬ速度で切り返し、シュンゲキの右手を切断する。
「甘い!」
シュンゲキは手首のまま右腕を突き出す。されど、真雷が喪った手の形を保ったまま放たれ、ハチドリは左手で掴んで受け止める。そこへ重ねて左手刀が放たれ、ハチドリは火薬となって逃れ、脇差を異形の刀へと変え、シュンゲキへ急接近してから、珍しく全身を使って豪快に薙ぎ払う。シュンゲキも当然のように背を向けた瞬間を狙うも、ハチドリはその場で勢いをどんどん加速させながら何度も薙ぎ払い、シュンゲキを巻き込む竜巻を生み出す。何度も何度も繰り返して巨大化させたところで大きく身を引いて構え、竜巻もろとも回転二連斬りで切断してシュンゲキを吹き飛ばす。シュンゲキは吹き飛ばされ、左手を地面に打ち込んで耐える。立ち上がりながら右手を修復し、肩を竦める。
「ったく、派手な挑発を決めてくれるじゃねえか!」
「……」
「間違いなくてめえの速度でなきゃ出来ねえ芸当だが……あんな隙だらけの攻撃がそもそも選択肢に入った時点で気に入らねえ!」
シュンゲキは瞬時に本来の王龍としての姿に戻り、僅かに螺旋を描きながら上昇して両翼を広げて放電する。
「死ねえ!ハチドリィ!」
夕闇に覆われていた空には、雷雲すら無く真雷が迸り、落雷が雨のように降り注ぐ。シュンゲキは右翼から真雷を解放しながら急降下して叩きつけ、莫大な電力で岩盤を貫いてなお拡散させる。ハチドリは分身で躱しながら飛び上がり、脇差に戻して刀身で電撃を受け止め、撃ち返す。しかし、流石に本来の持ち主と言うべきか、シュンゲキの体表に迸る真雷に阻まれて微塵もダメージとならず、逆に左翼による強烈な一撃で吹き飛ばされ、シュンゲキはそのまま尻尾で薙ぎ払いつつ飛び上がり、素早く、けれど強烈に力んで電磁球を放出し、そこから吸引する力場を生じさせる。吹き飛んでいくハチドリが無理矢理引き寄せられ、重ねて鶏冠を展開したシュンゲキが、そこに巨大な電撃の刃を作り出して振り下ろす。ハチドリは体勢を立て直しつつ火球を打ち込んで電磁球を粉砕し、脇差で電撃の刃を受け止める。
「その程度で俺を止められると思うかァ!」
力を込め、そのまま振り下ろし切る。ハチドリは電撃の刃に沿って押し込まれ、リーチの外まで離される。シュンゲキは間髪入れずに滑空し、着地しながら連続で両翼を交互に叩きつける。ハチドリはそれぞれに律儀に脇差を当てて弾きながら、蒼い太刀を籠手に移動させつつ、攻撃の合間に脇差を手放し、続く一撃が届くより先に籠手を爆発させて抜刀し、振り下ろされていた右翼先端の爪を折り取り、瞬間に分身を踏み台にして飛び上がりながら籠手に納刀し直し、落下しながら再び抜刀して、右翼を切断する。シュンゲキはよろけつつも即座に左翼で薙ぎ払うが、数拍遅れてしまった程度の攻撃で捉えられるはずもなく、虚しく空を切る。逆に着地していたハチドリの再三の抜刀攻撃によって左翼も半ばから叩き切られ、その上でハチドリには捻りを加えながら宙返りで後退を許す。ハチドリはそのまま脇差を異形の刀へと変え、左半身を引いて構える。
「俺の力はこんなもんじゃねえ!」
一瞬で両翼を再生し、即座に飛んできた巨大斬撃光線を飛び上がって躱し、最大級の電力を放出する。
「王龍式!〈払暁滅尽轟電雷〉!」
電撃の膜を纏いながら、全身から大量かつ極悪な威力の雷霆を撒き散らす。
「この世の涯は!ただ一つ!」
斬撃光線を撃ち終えたハチドリが左手を掲げ、間もなく握り締めて大爆発を起こす。雷霆を打ち消しながら炸裂し、シュンゲキの雷膜を引き剥がしつつ、その表皮までもを焼き焦がし、落下させる。
「戦いに尽きる、死の淵のみ」
「ちいっ……」
シュンゲキは両翼で地面を捉え、殺意に満ちた視線を向けてくる。
「わからねえ……てめえのどこからこんな力が湧いて出る……!」
「……」
やがて、ハチドリから立ち上る赫々たる炎を見て気付く。
「まさか……バロンへの、愛情だけがてめえを支えてんのか!?馬鹿な!いくら人間の力の根源が感情だっつっても限界があるだろうが!」
「刃を交えて伝わったものが全部です」
「くっ……くっはっはっは!なるほどなぁ……!如何にもバロンが好きそうな女だ、てめえは……!ならよォ!」
シュンゲキは自らに真雷を一条落とし、力を発する。
「俺の極み穿つ真雷で、てめえの愛をぶっ壊してやる!」
煙が晴れると、彼の身体は白く変わっており、翼膜は眩いほどのコバルトブルーに染まっていた。
「ならば私も、相応しい姿であなたを焼き尽くす!」
炎に包まれ、程なく余燼が姿を現す。左翼を盾にしながら突進すると、そこにシュンゲキが右翼を叩きつけ、読み合いもなく激突する。左翼を振り抜いて右翼を払いつつ、余燼の右翼を突き出して胸部を狙う。シュンゲキは自身を真雷そのものに変えて僅かな隙の狭間に自身を余燼へ捩じ込んでから身体を戻し、強烈なタックルを当てながら強引にマウントポジションを取ろうとする。が、余燼も瞬時に判断して自身とシュンゲキの間に紅い蝶を生み出し、爆発させてこちらも強引に距離を離しつつ、右翼爪で地面を斬り裂き、直線に熱線を生み出してシュンゲキを撃ち抜き、続けて左翼爪でも一閃する。シュンゲキは捻りを加えながら飛び込んで二撃目を躱し、右翼で一閃する。余燼には右翼を盾にされて凌がれるが、その動きに合わせて迸る電撃の衝撃波と、扇状に広がる落雷によって拘束しつつ、翻ってサマーソルトをぶつけながら再び前方に落雷を起こしながら電磁球を出してその場に縫い付け、両翼に悠長に力を溜め、真雷で巨大な翼を象る。
「万物滅砕!消し飛べやァ!」
急降下しながら両翼を一閃し、V字に真雷の斬撃を起こして余燼の防御を突破し、間髪入れずに左翼を振り抜く。しかしあちらの左翼と剣戟を起こして差し込み損ね、返す刃を右翼で凌いで飛び退く。
「今のを凌ぐたぁな……!」
「断つ……!」
シュンゲキは真雷と化して飛び出し、余燼も蝶たちに自身を吹き飛ばしてもらって飛び出す。擦れ違いながら左翼同士で削り合い、即座に向き直って突進し、幾度も翼の斬撃を当て合いながら徐々に上昇していく。完全に空中と言える高度まで上昇した瞬間、シュンゲキが大量の雷霆を放出し、余燼が即座に蝶の塊をいくつも生み出して極太の熱線でそれらを撃ち落とす。鶏冠を電撃の刃として振り下ろすと、ハチドリは両翼をそちらへ向けて合わせ、身体ごと一閃することで巨大な斬撃を飛ばして相殺する。相殺に合わせて両者再び飛び出し、翼を激突させる。余燼が押し切り、回転をかけて一閃し、シュンゲキを仰け反らせ、体内に溜めに溜め込まれた闘気を解放し、壮絶な規模の大爆発を起こして叩き落とす。落下していく直上から両翼を揃え、ミサイルのように突貫して刺し貫き、そのまま地面に激突し、ハチドリは竜化を解きながら地面を転がる。
「負けたか……」
シュンゲキは仰向けのまま、頭だけをハチドリへ向ける。
「まあ……納得はしてねえが……事実は、てめえの方が強いってこったな……」
ハチドリは歩み寄りながら、背から蒼い太刀を抜く。
「けっ……まさかとは思うが……俺も、てめえの旅に連れていくつもりか……?」
言葉では答えず、ただ頷く。
「はっ、下らねえ……バロンの、真似事か……?」
「私の言葉、意志が……旦那様のものですから」
「勝手にしやがれ……」
ハチドリは躊躇なくシュンゲキの目を貫き、彼の力を吸収する。程なく、その巨体が消滅する。
「私が、旦那様の意志の全てを守り抜く」
蒼い太刀を背に戻し、何処かへと去っていくのだった。
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