☆☆☆エンドレスロールEX:滅びの洪水
エンドレスロール 操核・決別の苑
白亜の鳥籠のような建物の中、中央に置かれたテーブルに手を乗せて、インベードアーマーに身を包んだ竜人――ウルヌ・オルデン――が、鉄糸を繋いで作られた椅子に座っている。
「ククク……全ては我の掌の上、成してしまえばどうということはなかったな」
ウルヌが笑みを溢しながら休んでいると、虚空の彼方から片耳のハチドリが現れる。
「ほう?まだこの世界に、我の糧になっていない者がいたとはな……?」
ウルヌが立ち上がり、右手に大鎌を呼び起こして握る。
「間もなく新たな世界が生まれる。我の手中に堕ちた宙核の力によって……全てが死の闇に覆い尽くされ、混沌が新たに生まれる何もかもを呪い尽くし、その赤子、ずっと先の赤子まで……真の意味で何もかもが爛れた忌み子で覆い尽くされるのだ!」
ハチドリは眼前まで歩み寄り、脇差を抜く。
「覚悟……」
「聞く耳を持たぬ、か……希望を持つこともない、故に絶望することもない……我の好みではないが、他者が作った人形を無惨に破壊するも一興よな」
ウルヌが大鎌を一閃し、虚空を裂き断つ。ハチドリは自身を正確に狙った一撃を分身を盾にして避け、脇差を突き出しながら一気に距離を詰める。ウルヌの鎧が鋭利に変化し、凄まじい速度で動いて躱し、そこに背後を取って大鎌を振り被る。しかしそれは分身に阻まれ、目にも止まらぬ速度で翻ったハチドリが一撃加えて大鎌を弾きながら舞うような連撃を叩き込み、最後の一撃で強烈に押し返す。だがウルヌも驚異的な反応速度で鎧を重厚なものに変化させ、猛攻を受け切り、即座に全力で大鎌を振り抜いてハチドリの後隙を狙う。ハチドリが構え直して防御しようとした瞬間、ウルヌは自身の主体時間を加速させ、振り下ろしていた大鎌を横薙ぎに変え、ハチドリの防御を掻い潜るように狙う。ハチドリは即座に構え方を変え、肩に添えて大鎌の刃を上向きに逃がしながら頭を下げて躱し、自分の股下に左腕を向け、籠手を爆発させて吹き飛び、勢いのまま脇差をウルヌに突き立て、そのまま左足で蹴り上げてウルヌの左肩まで切り裂き、飛び上がって空中に舞う脇差を掴み、ウルヌは即座に状況を把握し、フリーにした左手に力を溜め、頭上のハチドリ目掛けて解放する。彼女の周囲の客体時間を停止し、そのまま空間を縮小して拘束しようとするが、当然ハチドリはその程度では止まらず、回転しながら急降下して斬撃を与え、翻りながら連続で蹴りを叩き込む。続く左拳の打突で爆発させて吹き飛ばし、脇差を蒼い太刀へ持ち替え、刀身に怨愛の炎を宿してリーチを伸ばし、横縦と連続で薙ぎ払う。重厚な状態の鎧さえ貫通して激甚なダメージを受け、そしてハチドリは脇差を持ち直す。
「クッ……クックック……」
ウルヌは不敵な笑みを浮かべ、そのまま身体を震わせて天を仰ぎ、大笑いする。
「かつての我ならば、これほどの力を前にすれば狼狽していただろう。だが既に我は望みを果たした。もはや世界は我の玩具よ!」
大鎌を手元から消し、ハチドリを見やる。
「わかるか、この意味が」
「旦那様を……宙核を、既に喰らったということは。次の世界そのものが、あなたの中で蠢いている。胎動している……」
「そうだ、その通りだ!」
両腕を振り抜いて眼前で交差させ、両手を開いて力を解放する。
「世界よ!混沌で満ち満ちよ!生まれる全てを、在る何もかもを!死の闇で穢し、呪い尽くしてくれるわ!」
ウルヌの肉体が爆発的に膨れ上がっていき、これまでにないほどの巨体へと変貌する。下半身が大蛇へと成り、残っていた両足は巨大化し、足の指が巨爪へと成り、そして右手に双頭鎌を生み出して握る。
「……」
見上げてもまだ足りないほどの巨体を前に、ハチドリは多少怯む。
「世界丸ごと一つを自分の力に……」
「今こそ!終末の世界に、最後の手向けを!」
「世界を一つ叩き斬る……それも一興でしょうか……」
ウルヌは緩慢な挙動から双頭鎌を振り抜き、凄まじく巨大な斬撃が波濤のように突き進む。ハチドリがサイドステップで躱したところへ、左足で薙ぎ払う。動きこそ遅いが、常識外れの巨体によって驚異的な攻撃範囲となっている。ハチドリはその場で火薬となって空かし、赤黒い太刀を抜いて雷霆に変えて投げつける。ウルヌは右手を掲げ、双頭鎌を高速回転させながらハチドリへ向け、そこから赤黒い光線を放出する。逃げるハチドリへしばらく狙いを定め続けた後、両手で頭上へ引いて双頭鎌を構えつつ、二度に渡って力を解放して、超巨大な鎌の幻影を象る。思い切り一閃して虚空を斬り裂き、ハチドリが頭頂部に太刀を合わせてそれを凌ぐと、ウルヌは勢いのまま一回転して長大な尻尾で薙ぎ払う。分身を盾にして受け流すと、ウルヌは正面に戻って左手を振り抜き、前方の広範囲を一気に爆裂させる。ハチドリが軽く往なしてから分身を乗り継ぎ、高速で空中を飛び回ると、ウルヌは双頭鎌を投げつけ、左手にも生み出して投げ、両手に生み出して同時に擲つ。自発的な挙動を行うそれらに、ハチドリはそれぞれ分身を飛ばして砕き、ウルヌは再び右手に双頭鎌を生み出し、前方に向いた方の刃を立たせ、槍のようにして突き出す。目にも止まらぬ左手刀によってそれを粉砕し、既に籠手に収めていた脇差を抜刀し、一撃でウルヌの左足を切断する。
「やってくれる……!」
ウルヌは素早く左手に力を込め、赤黒い靄を纏わせて掴みかかる。ハチドリは不自然なほど空中を滑って躱し、逆に左腕の上に着地する。ウルヌは即座に手を握って力を込め、体表に高速で靄を駆け巡らせる。ハチドリは分身を盾にして構わず駆け上がり、左肩口に蒼い太刀を突き立て、左拳を爆発させて叩き込み、太刀を深く突き刺しながら反動で吹き飛び、間髪入れずに蒼い太刀を大爆発させて手元に戻し、衝撃でよろけたウルヌへ、分身たちが運んできた左足を、怨愛の炎で象った巨腕で抱えて叩きつける。強烈な衝撃で左腕がもげ、落下していく。ウルヌは負けじと瞬間移動で離し、ハチドリを正面に捉えながら左腕・左足を修復する。しかし、十分に速いと言えるそれも、巨体の故か指先まで治し切るには少々遅く、ハチドリは修復途中の腕へ赤黒い太刀を投げ込む。
「腕の一、二本、奪ったとて無駄なことよ。今の我を駆け巡るは次の世界、その寿命の全て。無数に枝分かれする、消費され続けるタイムラインの、全ての涯の可能性まで!」
「……」
「そうだ。最後の審判、それを齎す神さえ我の内にある。希望も、絶望も、全て我の思うがままよ!故に……この世界に、救いの方舟は訪れない……!」
ウルヌが双頭鎌を消し、力んでから吠える。虚空の奥底から、赤黒い沼が急速に迫り上がり、そして圧倒的な巨体を誇るウルヌさえ飲み込まんとするほどの大津波が生み出される。
「我もろとも、世界の全ての可能性を喰らい、繋ぎ止めた者共に絶望の祝福を!」
大津波が突如として形を崩し、激流となってハチドリへ特攻する。次いで力んだウルヌから大量の細い光線を撒き散らし、出鱈目ながらも統率を取って、激流を避けて飛び上がったハチドリを捕捉する。
「さあ!心のままに歌うが良い!」
両腕に赤黒い靄を被せ、渾身の力で振り抜き交差させる。遠隔に引き裂く巨大な爪撃が通り抜け、ハチドリに直撃させて硬直させる。
「希望を!」
赤黒い靄で象った、超巨大な鎌の幻影で薙ぎ払い、隙を潰して防御に移ったハチドリへ激突させて硬直を延長する。
「未来を!」
重ねて、体を崩壊させながらの光線の弾幕を撒き散らし、降り注がせて接近を拒否する。
「夢と愛を!」
「……」
ウルヌの翼を逆転させて立て、力を注ぎ込んで物理的に巨大化させ、即座に振り下ろす。
「生きとし生けるものが滅びを厭い、それらを望むなら……我は世界をも喰らい尽くし、お前たちの希望を摘もう!」
両手を胸の前で掲げ、その狭間に絶大な力が迸る。
「そうだろうネブラ!なあネブラァァッァァァァァ!」
喉を締め切った絶叫とともに、狂いきった意思を帯びた波動が突き進む。
「この世の涯は……」
ハチドリは左手を掲げ、内部を迸り滾らせながら拳を握る。
「ただ一つ!」
握り締めた瞬間に筆舌に尽くし難い威力の大爆発を起こして波動を相殺し、押し切ってウルヌを怯ませる。
「なっ……!?」
「私は希望にも、未来にも、夢にも興味はない。どう望もうと、望むまいと……誰もが希望に手を伸ばし、未来へ進み、夢にやがて還る」
ウルヌは迷わずに右手に双頭鎌を生み出し、一気に距離を詰めて振り被ろうとする。しかしその瞬間、ハチドリが右手を突き出す。ウルヌの左腕を紅雷が焼き貫いて粉砕し、即座にハチドリは右手で蒼い太刀を背から抜き、両手で構えて頭上に掲げる。
「私に絶望はない……旦那様の、思いを継いだが故に!」
凄まじい量の怨愛の炎を刀身に注ぎ込み、ハチドリが点に見えるほど、ウルヌの巨体を優に上回るほどの巨大な刃とし、迷いなく振り下ろす。僅かな抵抗でウルヌは両断を避け、右肩から胴体にかけてを叩き切られる。
「まだ……まだだ!」
「いいえ!」
既に攻撃を終えて肉薄したハチドリが、蒼い太刀をウルヌの脳天に突き立てる。
「ゲームオーバーです!」
続く左拳で押し込み、貫通して大爆発させ、間もなくウルヌは千々に弾け飛ぶ。ハチドリが着地し、三本の刀をそれぞれ手元に戻し、鞘に納める。
『く……くく……くひ……フヒャハハハハハ!』
虚空を漂う赤黒い靄が、朧にウルヌを形作る。
『我を斃そうが世界は救えない!貴様が我を斬り裂いた、それで新世界も同時に死に絶えた!ネブラ!貴様の求めた救いの世界は、我とともに潰えるのだ!』
もはやハチドリなど見えていないようだ。
『貴様の爪先から頭の上まで、人生も何もかも!始まりからずっと、我の掌の上!フヒャハハハハハハ!ハハハハハハ!』
狂ったように大笑いを撒き散らしながら、ウルヌは消滅していった。
「コンティニューは選べませんよ」
ハチドリはそう吐き捨てて、その場を去った。
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