エンドレスロール:深淵の渦、冥府の王

 王龍結界 始源世界大海洋アイアンボトムサウンド

 ハチドリが鈍色の空から落下して、海に落ちる。そのまま延々と沈んでいき、真っ暗な深海に辿り着く。

「ここは……」

 ハチドリが周囲を確認すると、海の底から青黒い光が灯る。その後すぐに、極太の雷霆が放たれる。ハチドリが雷霆を躱すと、彼女と同じ高度で電撃が爆散する。ほぼ同時に海底から巨大な海竜が突進し、ハチドリと向かい合う。仄暗い蒼光を発する、黒龍だ。

「溟王龍ネロガズィーラ……」

「怨愛の修羅……こんなところに迷い込むとは、なんとも奇妙なことだな」

 ネロガズィーラはゆったりと首をもたげ、角を帯電させる。雰囲気は異常なほど落ち着いており、敵意も喜々とした闘志も見えない。ハチドリが脇差を抜き、刀身に怨愛の炎を宿す。海中であるが、燃焼には影響がない。

「ふむ……月の愛し子か……まあ、いい。ここで出会うということは……つまり、戦う以外に方法はないということだろう?」

「……」

 ネロガズィーラは全身に帯電させ、青黒い電撃を全方位に解放する。昏い雷球が迸り、凄まじい電撃が場を支配する。ハチドリは籠手を爆発させて右に飛び、脇差を振って炎の刃を二発飛ばす。ネロガズィーラが錐揉み回転しながら素早く回り込むことで硬い甲殻部分で刃を受け、その勢いで凄まじい勢いで旋回して渦を生み出し、それが五つに分裂して直進してくる。引き寄せる力とともに猛進する向こうから、更に口元に蓄えた莫大な電力を球形にして発射してくる。二発続けて撃ち込んだ瞬間に、重ねて口から光線状にした電撃を射出する。分身を放って渦の壁を貫いて肉薄してきたところに球状ブレスが届き、篭手の爆発によって打ち消し、分身を盾にして二発目を往なし、光線を脇差で受けて雷を返す。ネロガズィーラはとっさに身を捩って前脚の付け根で受け止め、その勢いで至近距離で止まったハチドリ目掛けて帯電した噛みつきを繰り出す。分身を盾に逃げられるが、噛みつきに合わせて口元に滾らせた青黒い電撃を噛み砕き、爆散した電撃が避けたハチドリまで届き、彼女が下へ潜る。そこに背から電撃を解放し、指向性を持った雷霆で弾幕を張る。

「……」

 海中にも関わらず雨のように雷が降り注ぎ、続けてネロガズィーラが力んで自身の周囲に電撃の輪を作り出し、解放して徐々に押し広げ、角度を変えて何度も輪を作る。最初の輪を避けながら分身を飛ばし、そこまで瞬間移動しつつ蒼い太刀で斬り上げ、即座に翻って斬り下ろす。直撃を受けつつもネロガズィーラは軽やかに距離を取り、その動作の最中でそのまま雷球を吐き出し、高速旋回して放電しながら自身の周囲に高速で周回する雷球を三つ生み出す。ハチドリが左手を振って籠手から小型の熱線を複数射出すると、全身に電撃を帯びたままのネロガズィーラが大きく距離を詰めつつ口元に帯電させて噛みついてくる。ハチドリは分身で盾を生み出し、噛みつきに伴う噛み砕かれた電撃を蒼い太刀で受け止め、即座に打ち返す。それがネロガズィーラの周囲を巡る雷球を粉砕し、脇差に持ち替えてから巨大な刀の像を被せ、全身を使って薙ぎ払い、ネロガズィーラの首と胴体の繋ぎ目に直撃させて吹き飛ばす。追撃の縦振りを繰り出そうとしたところで、立て直したネロガズィーラが咆哮し、衝撃でハチドリの攻撃行動をキャンセルさせながら自身も立て直す。

「なるほど、面白い……仮にも王龍たる私を、ここまで軽くあしらうとはな。人が全てを滅ぼすために生まれたというのも間違いではないらしい……」

「覚悟……!」

 ハチドリが刀の像を被せたままの脇差を振り、距離を詰めずに狙う。だがネロガズィーラは急浮上し、膨大な電力を背から生じさせる。

「私たちのあるべきを否定し、全てを滅ぼし尽くす……人、人間とは……自我と意志が成した、獣の形態の一つか」

 ネロガズィーラの全身に電撃が這い回り、そして黒い甲殻の狭間から蒼光が漏れ出す。ハチドリはそれに応え、脇差を元に戻して余燼へと竜化する。

「行くぞ!」

 僅かな溜めから光線を吐き出し、余燼が躱した瞬間に軌跡が爆発する。ネロガズィーラが咆哮し、高速旋回しつつ、更に雷球の弾幕を形成して撃ち出す。余燼も紅い蝶の弾幕を撃って応戦し、渦の壁が生み出されるより早く接近する。だがネロガズィーラは放電しながら行動を強行し、余燼を阻み切って巨大な渦を生み出す。巨大な渦がゆっくりと余燼に近づきながら、その向こう側でネロガズィーラが縦回転で高速旋回する。余燼は両翼を前方へ向けてから紅い蝶を爆発させて吹き飛び、魚雷の如くなって渦を貫いて突貫する。その瞬間に横向きの巨大な渦が解放され、両者の逃げ場を無くすようになる。そのまま余燼を真正面に捉えるように体勢を戻し、自身の前方に力を凝縮して雷球を形成し始める。高速で突っ込んでくる余燼へ向けて射出し、翼の先端と激突する。全身から電力を解放し、全ての力を注ぎ込んで雷球が巨大化しながら光線のごとくなる。

「……!」

 余燼は全身から怨愛の炎を噴出させながら、再び紅い蝶で加速し、雷球を粉砕し、ネロガズィーラを貫通し切る。彼の身体から爆散した雷霆が海底の暗闇を照らし尽くし、やがて沈黙する。

「宙核の役目……しかと果たすが良い、修羅よ……」

 竜化を解いたハチドリは、沈んでいくネロガズィーラの姿を眺めていた。

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