エクストラ

☆☆☆与太話EX:昇天の鱗粉

「ソムニウム」

灰色の蝶が、究王龍ファーストピース――ソムニウムの周囲を舞う。もはや何もない、全てを失った空間に、まるで胎児のように漂うソムニウムは、微睡の中で意志を返す。

【何】

「全ては無に還った。もはやどんな揺らぎをも、世界は生み出すことは出来ないだろう」

【うん。もう、私たちより高次の存在などいない。物質的な観点も、精神的な観点も、全てを超越しきった。ディードの抱いた退屈さ……理解はできるけど、同意は出来ない】

「そうか。それを聞いて安心したぞ」

【耳を澄ませてよ、ラドゥエリアル。体を巡る何の音も聞こえない。どんな空気の流れをも、私たちの言葉さえ……ふふ、楽しいね……】

心からの安堵を表すように、ソムニウムは優しく告げる。

「どういう事だ?」

【何もかも虚しいだけだった現実が終わって、私たちは永遠に夢を見る。夢を見ていることにすら気付かずに。楽しいことだけやっても、飽きが来る。苦しいことだけやっても、飽きが来る。安定を望んでも、苦難を望んでも、いずれは終わっていた。全てはこうして、何も生じぬ零に至ってこそ、心地よい静寂に全てを任せることが出来た】

「ある意味ではニヒロが望んでいた世界、か」

【あの人は君臨することに重きを置いていた。私たちは、これから消え去るでしょう。意識を消し去り、もしもこの世界に揺らぎが生まれる時、それを徹底的に叩き潰すシステムになる。私たちが望んだのは、究極の無。創世を望んだ人たちとは、誰とも分かり合えない】

「それもそうか」

【いつか杉原君が望んでいた、全ての滅亡……彼と見た地平は違うけど、同じ結末に到達したのは興味深いけど】

「奴は望み、現実を気に入らないと喚き立てるだけの凡愚に過ぎない。お前にとってこの結末は、所詮やったことの大きさに従ってついてきた付属品に過ぎん」

【ふふ……そうだね、今の私にとって、どんな存在でさえ私を見上げて吠えるだけの雑魚に過ぎない。無さえ捻じ伏せて、私の思い通りに到達した……】

「もう雑談で戯言を交わす必要も、無くなったか」

【うん。さようなら、物語を共に眺めた狂人たち。これより現実の滅びと共に、夢の世界をも終焉を迎え入れる……せいぜい、楽しい夢を見ていて】

 そして蝶はソムニウムへ吸収された。

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