エンドレスロール:煮え滾る滅びのプルガトリオ

 エンドレスロール 煉獄焦土

 溶解して地に沈んでいく高層建造物群の真ん中に、一人の少女が立っていた。炎を旗代わりに靡かせる旗槍を構え、黒い鎧に身を包んだ少女が。

「ようこそ、怨愛の修羅」

 彼女の正面に降り立ったハチドリへ、少女は言葉を向ける。

「月城燐花……殿」

「あなたのことは聞き及んでいます。あのバロンの遺志を継ぎ、世に戦いを撒き散らし続けていると」

「……」

「あなたも私と同じように、運命の人に人生の捻れを正してもらったんですね」

 燐花が旗槍を構えると、靡く炎の旗が蒼に染まる。

「それはとても尊いことだと思います。誰かのために、己の全てを懸けられること……その人への、愛だけを原動力にして」

 ハチドリは黙したまま、脇差を抜く。

「でも私とあなたが、明確に違うこと……あなたは、大切な人の遺志を継ぐことに納得している。私は……明人くんが居なくなることを、決して許容しない」

 燐花は左腕を振り抜いて熱波を起こし、飛び込んで旗槍を振り下ろす。ハチドリは熱波を流しつつ軽くステップを踏んで旗槍を避け、脇差を振る。そのタイミングで鎧の左側から火炎が吹き出して攻撃を阻みつつ距離を取り、躱した瞬間に右側から火炎を吹き出して向き直りつつ接近し、振り上げる。即座に返す刃で阻まれ、右腕で旗槍を返して得物が激突し、燐花は左手を突き出して怨愛の炎を解放する。分身を盾に飛び上がり、燐花は正面に火炎を放って自ら吹き飛び、爆発を帯びた振り下ろしを回避し、旗を槍に纏わせながら投げつける。ハチドリが回避したところで腰に佩いていた聖剣を抜刀し、頭上に掲げて力を溜めつつ、振り下ろして極大の熱線を放つ。脇差を異形の刀へ変えて瞬時に振り抜き、空間ごと熱線を切断して往なし、同時に飛び出して手元に戻された旗槍と異形の刀が激突する。

「あなたはどうやって、自分の全てとも言える大切な人が、自分に全てを押し付けて去るのを……飲み干せたんですか?」

「旦那様はいつまでも私の中に居ます。私は……文字通りに全部、この身で受け止めた」

「なるほど……!」

 左手に持ったままの聖剣に力を溜め、腕力で脇差を押し切って聖剣を振り上げ、至近距離で熱線を解き放つ。ハチドリは爆発して躱し、蒼い太刀に持ち替えてから背後を取って舞うような連撃を振りかぶる。そこで燐花は背後から火炎を放って離しつつ向き直るが、ハチドリはそれを読んで刀身に怨愛の炎を宿してリーチを増強し、横縦と薙ぎ払う。読み負けによって両方の直撃を受けて怯む。

「ぐっ……」

 ハチドリは振り終わりつつ篭手の鞘に納めた脇差を上段から振り下ろし、的確に真空刃で切り裂きつつ、遅れて直線上に衝撃が起こって追撃する。急接近からの更なる追撃を往なすために、燐花は即座に竜化する。生じた火柱とともに、王龍サロモニスの大きな翼を開いてハチドリを迎撃する。ハチドリは右半身に鋼を纏いながら空中で受け身を取り、着地する。

「王龍サロモニス……数少ない、人間から完全な王龍へ進化を果たした個体……」

「私もあなたと同じ、ただの人間だった。特別な因果も、因縁も、なにもない。本当なら、バロンや明人くんが起こす世界の大きな渦に飲まれて叩き潰されるだけの存在だった」

 サロモニスは右翼爪を地面に擦り付け、一閃して直線上に熱線を走らせる。続けて左翼でも熱線を繰り出すが、範囲の狭さからハチドリに掠りもしない。続いて口からの熱線を地面に打ち込んで扇状に爆発を広げ、空中を高速で移動してくるハチドリ目掛けて飛び上がり、真炎の塊を連射する。左手の籠手を爆発させて塊を迎撃し、赤黒い太刀を投げつけて貫き、紅雷を打ち込んで撃墜する。

「覚悟……!」

 異形の刀へ持ち替え、巨大な刀の像を被せて渾身の一振りを着地しながら叩きつけ、強烈な怨愛の炎を迸らせて大いに削り、押し込む。打ち切ると同時に脇差に戻し、赤黒い太刀が背に戻る。

「私は……」

 黒煙の向こうから凄まじい熱波が突き進み、ハチドリを囲むように煮え滾る。そして旗槍と同じデザインの火柱が次々と起こり、下からハチドリを貫かんと襲いかかる。火柱から逃げるハチドリの頭上から、竜骨化した燐花が旗槍を構えて急降下し、着地とともに大爆発が起こる。燐花の姿は、サロモニスを小さく纏めたようなフルアーマーとなっていた。滾る紅蓮の中で、両者が相対する。

「私は、誰かに依存して生きていたいだけなんでしょう。きっと、腐った両親の代わりに、温かい何かに抱かれていたかった」

「……」

 燐花は全身から真炎と赫々たる怨愛の炎を発しながら飛び上がり、急降下から旗槍を叩きつけ、重ねて聖剣を振り上げて前方に熱波を起こし、指差すように正面に向けて、前方に炎の旗槍を大量に起こす。ハチドリは分身を盾にしながら六連装をフルバーストし、右へステップを踏んで異形の刀を構え、居合抜きで巨大な斬撃光線を放つ。構え直した燐花が聖剣を振って熱線を撃ち、迎撃する。相殺した瞬間に先手を打ってハチドリが大量の斬閃を設置し、燐花は数瞬遅れて捻りを加えながら飛び上がり、脳天を割るように旗槍を振り下ろす。周囲の空間を歪ませて隙を潰すことで逃れ、燐花は着地とともに全身を使って旗槍で薙ぎ払う。そこで弾き返し、擦り抜けつつ一閃し、大量の斬撃で燐花を削る。同時に振り向いた瞬間に旗槍が振られ、左拳で迎え撃つ。打突の瞬間の爆発で威力を強めて弾き返し、斬り上げと斬り返しを叩き込み、左手を握り締めて大爆発を起こし、燐花を吹き飛ばす。彼女は受け身を取るが、鎧が砕け、元の姿が露出していた。

「さらば」

 歩み寄ったハチドリが構え、一太刀で燐花に止めを刺す。砕け散った身体が堆く灰となり、燃え盛る炎に煽られて消えていった。

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