夢見草子:アウラム・フロントライン−デスパレート
枢機卿機アウラム・パンテオン 評議会
「マレ様、手筈通り我らの軍勢がチヨガサキへ侵攻開始しました」
ローリエがそう言うと、マレは頷く。
「了解したわ。ローリエ、アンタはアタシの部屋に戻っておいて」
「え?それはどういう……」
「理由を聞く必要はないわ」
「しょ、承知しました」
ローリエは言われたままに席から離れ、奥の通路へ消えていった。
「すぴー……すぴー……」
その状況でビュルガーが突っ伏して爆睡していると、彼女の通信機が爆音で鳴る。ビュルガーは即座に起き上がり、平時のだらけた態度ではなく極めて真剣な表情で通信機を取る。
「シナバリ、何があったの」
『ビュルガー様、市街地に黄金の怪物が複数出現しました。出陣と指揮を至急お願いします』
「わかったわ」
ビュルガーは手品のように一瞬で戦闘用の装束に着替えながら、前方から飛び降りて評議会の広間を後にする。
トランス・イル・ヴァーニア
黄金と融合したプレタモリオンの群れが、吸血人類たちを虐殺しながらアウラム・パンテオンを目指している。
「こいつらどっから湧いたの!」
アウラム・パンテオンへと続く、最も大きな道路にてアサルトショットガンでプレタモリオンを粉砕しながら、マルギナタが喚く。
「さあ、私には何もわかりません。さっきまでオナニーしていたので……」
シナバリがアサルトライフルで援護しながら答え、他の兵士たちもバリケードを作ってそこからプレタモリオンを迎え撃っている。と、そこにスナイパーライフルを携えたビュルガーが合流する。
「状況は?」
即座に構えつつプレタモリオンの頭部を正確に撃ち抜き、シナバリに問う。
「最悪です。彼らは火山地帯の方から大群で現れ、重火力で猛攻を仕掛けて一匹仕留めるのが限界で……市民の救助は絶望的です」
シナバリの言葉を裏付けるように、頭部を損壊したプレタモリオンは一度倒れはしても、平然と起き上がって前進してくる。
「……」
「ビュルガー様」
「ええ、大丈夫」
ビュルガーは無線を起動する。
「バリケードの増設急げ。怪物への攻撃は足を優先し、撃破よりも時間を稼ぐことを重視せよ」
無線を切り、ビュルガーはシナバリへ向く。両者は頷き、カバーのために屈んでいたところから立ち上がる。
「マルギナタ!」
「わぁーてるよー!」
シナバリの声に従って、ショットガンを撃ちつつもマルギナタが後退する。他の兵士たちも先の命令通りに引きつつプレタモリオンを足を撃ち抜き、バリケードを増やしていく。と、そこで後方から爆発音が響き渡る。
「ッ!?」
ビュルガーが振り向くと、アウラム・パンテオンから黒煙が上がっているのが見えた。だがすぐに正面に向き直る。
「あちらにはアキシアルにマレ様もいる……私たちは戦線の維持に集中して!」
その言葉に従い、兵士たちはプレタモリオンの足を撃ち抜いて破壊していく。倒れて這っていくプレタモリオンが次第にバリケードに集い、堆く積もり、物量で押し潰そうとする。その様を近くの家屋の屋上から、ニコルが眺めていた。
「家畜にも満たないミンチどもが良く足掻くわね……滑稽を通り越して惨めで見てられないわ」
腕を組んだまま歩を進めて飛び降り、空中で黄金を纏って着地する。黄金の鎧そのもののような大柄な魔人へと転じ、バリケードを目指して突き進む。
「ビュルガー様!前方より正体不明の敵性生物!」
シナバリの言葉を遮るように、重い足音が遠くから地面を震わせてくる。
「何が来るの……!?」
ニコルがその威容を半分ほど見せた瞬間に飛び上がり、バリケードの前に着地しながら右拳を地面に撃ち込む。同時に地面から大量の金の棘が這い出てバリケードを粉砕し、多くの兵士を巻き込んで守りを突破する。打ち上げられ絶命した兵士たちが瓦礫とともに羽虫のように落ちてきて、ビュルガー、シナバリ、マルギナタとニコルが相対する。
「こんな大物まで……!」
「どう見てもつよつよ……」
ニコルが拳を戻し、上体を反らして咆哮する。ささくれた牙のように黄金が地面を貫いて現れ、両者を囲む闘技場のようになる。
「血を吸わねば生きられないマンカス以下の劣等種族ども!この私、ニコル=フォン・ブリュンヒルドの手によって死ぬことを光栄に思うがいい!」
威勢よく啖呵を切り、右腕を巨大な黄金の刃へと変えて、踏み込みつつマルギナタを狙う。
「まずはお前から!」
マルギナタは飛び込むように躱しながら反転し、すぐさまショットガンを撃ち込む。しかし、銃弾ごときでは傷一つつかず、散弾の全てが弾かれる。右手を元に戻しつつ、反応の遅れたマルギナタを手の甲ではたいて甚だしく吹き飛ばす。手加減しているのだろうが、余りにも歴然とした出力の差によって抵抗できずに転がり、それだけで気絶する。そこへ頭部を的確に狙ったスナイパーライフルの弾が着弾し、マルギナタへ止めを刺そうとしたニコルの注意を引く。
「まだ本番まで時間があるわ……ミンチども、お前たちのような生き物の姿を取るのもおこがましいような連中に相応しい最期を上げる」
「効いてない……!」
「アッハハハ!効くわけ無いじゃない!例え無防備で脳天を狙われてもその程度の威力じゃ皮膚も貫けないでしょうねえ!」
ニコルが隙だらけに右腕を振り、ビュルガーを掴もうとする。しかし、流石に大振りすぎたか軽く躱され、腰に佩いていたマガジンタイプのグレネードランチャーに持ち替えて即座に撃ち込む。顔面に直撃し、無傷のニコルが現れる。
「くっ……!」
ビュルガーがグレネードを乱射し、全弾を撃ち切る。それでもニコルには掠り傷すら付かず、煙の向こうから右手が伸びてきて掴まれる。
「あはは!捕まえたわ!」
「ぐっ!」
ビュルガーが必死に藻掻いて抵抗するが、右手はびくともしない。そこにシナバリの放った閃光手榴弾が炸裂するが、ニコルには効きもせずに、閃光から目を逸らした瞬間に接近してきたニコルの左張り手で地面に叩きつけられる。
「シナ……バリ……!」
「雑魚は死に方も選べない。なんて惨めなのかしらね!」
右手に徐々に力を込め、ビュルガーの全身が悲鳴を上げる。
「あ……が……ぶっ……」
歪んだ骨に内臓が圧迫され、吐血する。
「お前の部下はもっと楽しく殺してやるわ、そこで見てなさい」
殺さない程度に握り締め、手放して地面に叩きつける。ニコルは変身を解きつつ黄金の鎖を召喚してシナバリの両手足を縛り、吊り上げる。
「さてと」
ニコルはシナバリの顎を右手で掴み、乱暴に上へ向かせる。
「お前たちは見た目だけはいいわね。流石、空の器のオナホになるためだけに生まれただけのことはある。でも……知ってる?美しいものほど、壊れたときが楽しいのよ?」
頭を動かすことも出来ない膂力で固定され、左手で口を塞がれる。そのまま、掌から黄金が口内に流れ込んでくる。
「……!」
シナバリは必死に藻掻くが、四肢を、頭すら固定された状態では虚しいだけで、やがて彼女は絶命する。戒めが解かれ、だらしなく地面に倒れた死体の口端から黄金を溢す。
「ふぅん、悲鳴も上げられないのね」
ニコルは呆れたようにそう言うと、左手で促して黄金の鎖でマルギナタを手元まで引き摺る。
「にしても……」
気絶したままのマルギナタの頭を掴み、持ち上げる。
「下品な乳ねえ。ほら、起きなさい。自分の最期くらいちゃんと見るのよ」
空いている方の手ではたき、マルギナタの意識を呼び戻す。
「あ……う……?」
ニコルが力を発すると、マルギナタは首から下が黄金の柱になる。手放されると同時に地面に立ち、マルギナタは何が起きているか理解できないと首を振って周囲を確認する。ほどなくして――
「あつっ……!?」
急激に熱を帯びた黄金が、彼女の全身を隈無く苦しめる。
「熱い!あつい!へぇ!?いたいたいいたいたい!」
絶叫を止めどなく吐き散らしながら、間もなくマルギナタは熱によって首が溶断されて息絶える。転がった生首が、ビュルガーの眼前まで到達する。
「うーん、やっぱ雑魚の悲鳴は格別ねえ」
ニコルが周囲に壁を作っていた黄金を消し、ビュルガーを踏み潰しながらその場を去っていった。
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