夢見草子:ゼフィルス・フロントライン−フードチェイン

 チヨガサキ

 ミサイルとはまた違う重量の何かが落下してきた衝撃で大きく揺れる。急降下してきたイモータルは上体を反らし、恐竜の咆哮のような金属音を撒き散らし、周囲の建造物や逃げ惑う市民へ片っ端から猛攻を仕掛ける。だが今度は逆方向から轟音が響き、そこには重心を低く、足を横に投げ出したような姿勢の二足歩行兵器、プロミネンス・エングレイブがいた。エングレイブも同じように金属音を咆哮代わりにし、イモータルへ突進する。相当ヘビーな一撃だったろうが、イモータルは構わず腹から剣を引き抜いてエングレイブに突き立てる。だがエングレイブは頭部でイモータルを掬い上げ、後方に投げる。素早く反転し、全体重をかけて両足でストンピングし、股間部に備えられたレーザーで攻撃する。イモータルが腹部の剣を抜いて振り、被弾を嫌ったエングレイブが飛び退く。その隙に立ち上がり、両者は構え直す。

「黙って死ねよ、便女どもが!」

 イモータルの内部から幼女となったバーンスタインの声が響き、脚部の付け根に備えられたグレネードが射出され、クラスター爆弾のように内容物の小型爆弾を撒き散らす。だが軽装甲のイモータルならばまだしも、同型機でありながら重厚な装甲による防御に優れたエングレイブには届かず、逆に余裕を持って構えたレールガンに真正面を捉えられ、その奥底から迸る凄まじい電界が、安易な行動の戒めとなる。

「ちっ……!」

「私はここでは死なない!獣耳人類の未来のために……何よりも、私がお母様とお祖父様を超えるために!」

 エングレイブから響いたナルドアの声とともに、レールガンからアサイラムIRBMが射出される。……起動せず、核分裂も起こさず、ただ純粋な大砲の弾として。反動で後ずさり、足元に居た幾人かの吸血人類と獣耳人類を轢き潰す。アサイラムはイモータルの胴体に直撃し、30mはある巨体を後方へ吹き飛ばす。エングレイブは逃さず背部ユニットを展開し、そこから小型ミサイルを全弾発射する。着弾とともに生じた黒煙を突き破り、イモータルが空高く飛び上がってエングレイブの真上から急降下する。

「俺様もごめんだね!女の体のまま死ぬなんてよ!どうにかして元に戻らねえと……!」

 重量でエングレイブの姿勢を崩し、そのまま地面に押し付ける。残ったもう一本の剣を形成して口吻部分を貫いて地面に縫い付け、力尽くでレールガンを引き千切る。

「吸血人類に……未来など渡さないッ!」

 不快かつ大きく金属音を響かせながら、口を開いて強引に剣の戒めを抜け、足を一回転させて爪先のスパイクを叩き込んでイモータルを吹き飛ばし、飛び上がって両足で立つ。

「ここがあなたの墓場!あなたのような下卑た人間の、終わりよ!」

 コックピットを大きく開いたエングレイブが、どこからか獣の咆哮のごとく金属音を鳴らす。新鮮な黒煙と硝煙がナルドアの鼻に入り、不快な表情を見せる。

「言うじゃねえか劣等種族風情が!だがてめえに何が出来るってんだよォ!」

 再びイモータルが飛び上がり、急降下で攻撃しようとする。が、ナルドアは開いたコックピットを利用して足に噛み付き、姿勢を崩して地面に叩きつける。

「このッ!」

 咄嗟に上体を起こして掴もうとするが、エングレイブのしゃくり上げで地面に叩き伏せられ、ナルドアがコックピットから飛び出す。そのままイモータルの口吻部分に飛びつき、素手で割り開く。

「馬鹿力が……ッ!」

「死ね!」

「そうは行くかッ!」

 ナルドアが即座に長巻を抜いてバーンスタインの首を断ち切る。だがその瞬間、彼が最後の力で動作させたイモータルに噛み潰され、ナルドアは絶命する。

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