☆☆☆エンドレスロールEX:9つの罪、9匹の竜
深淵領域 残灰の霊峰
黒煙が雲と交わり、焦げ付いた景色がいつまでも広がる空間。その中央に座す巨大な山の頂上に、片耳のハチドリが立っていた。
「……」
「ここは原初の空間。無明の闇から原初三龍が全てを押し広げ、最初に生まれた大地」
ハチドリの視線の先から声が響き、そして空中に九体の竜が顕現する。それぞれ、単一の事象で構成された独特の体躯をしている。声を発していたのはその内の一匹、闇が形を成したような竜だ。
「やがてこの大地は海の底となる。世を混ぜ溶かし、淵源となる」
闇の竜は両翼を開き、視線をハチドリへ向ける。
「我ら、世を成す理の具現、九竜なり」
「始源の三王龍と並ぶ、世界を構成するシステム……」
ハチドリの言葉に応えるように、彼は両腕に蓄えた闇を解放する。
「〈
凄まじい威力の闇の柱が形成されるが、ハチドリは容易に躱す。続いて雷の竜が山頂に降り立ち、更に外周を風の竜が激しく旋回して巨大な嵐で山を包む。同時に他の六体は姿を消す。
「我ら九匹の真竜、汝を試す。全てを喰らい、龍の涙を飲み干す修羅に相応しきか、否かを」
雷の竜が踏み込みつつ右翼腕を振り下ろし、自分の側に引き寄せるように削る。速度こそあれどハチドリにとっては緩慢で、その攻撃は軽く躱される。しかし、その退路に次々と風の塊が落ちてきて、着弾の度に暴風を吹き散らして視界を妨害する。ハチドリが構わず状況の把握のために回避を続けていると、構えた闇の竜から大量の細い闇が弾幕となって飛んでくる。ハチドリは左腕を爆発させて相殺しつつ雷の竜に急接近し、追尾してくる弾幕を押し付けようとし、雷の竜は咄嗟に翼腕を引き戻して防御状態になる。薄く膜のような防御壁が展開され、降り注ぐ弾幕をハチドリへ跳ね返す。怨愛の炎を宿した蒼い太刀で防御壁を砕くと、周囲に渦巻いていた嵐が停止する。
「〈
「〈
雷の竜と風の竜が同時に力を解放し、足場の中央に巨大な竜巻が起こる。竜巻の目の部分に巨大な雷霆が撃ち落とされ、竜巻は電撃を帯びながら爆発的に広がる。闇の竜が更に重ねて弾幕を繰り出すと、竜巻の内部から巨大な火柱が立ち上る。続いて竜巻を切り裂いてハチドリが現れて雷の竜へ異形の刀による刺突を放ち、雷の竜の左翼腕が阻む。左翼腕を切っ先が貫通したまま、持ち上げて振り抜いて放り投げ、紅い蝶の塊を複数射出して雷の竜に当てる。
「修羅よ、汝の心の臓を貫く!」
雷の竜は空中で立て直しつつ、自らを雷霆へと変えて突進する。それに合わせ、ハチドリは飛び上がって雷霆を刀で受ける。そのまま帯びた雷霆を、刀を振り抜いて闇の竜へ飛ばす。直撃を受けて凄絶な爆発が辺りを覆い尽くし、雷の竜と闇の竜が霧散する。同時に嵐が吹き止み掻き消え、彼方から細い光の糸が、まるで水の流れのように押し込まれてくる。
「待っておったぞ、修羅よ。我が愛しき女王を葬りし、怨愛の修羅よ」
そしてそれら光の糸が凝縮し、光の竜を形成する。
「まこと尊き、人の愛を体現せし者よ」
続いて氷塊が次々に降り注ぎ、上空に冷気が姿を成した氷の竜が現れる。
「人の罪を、全て焼き尽くせし者よ」
無限に続く大地を飲み込み、山の周囲を水で満たすと共に水の竜が揃う。
「我ら九真竜、世の潰えるを見たい。獣たちが終わりを願い、生み出した人間という希望。それが真に、望みを果たすのか否かを」
氷の竜が巨大な冷気の塊を吐き出して地表に叩きつけ、蓮華のような巨大な氷柱が生まれる。同時に周囲に次々と氷柱が突き立てられ、ハチドリは炎を発しながら瞬間移動で躱していく。そして外周から水の竜が特大の高水圧激流を撃ち放つ。カッターのように地表を切り裂き、軌道に凄まじい大きさの飛沫が上がる。しかし異形の刀の一閃によってハチドリの周囲だけ激流が切り裂かれており、水の竜は続いて咆哮で大津波を生み出し、山頂全体を飲むほどの威容で押し潰そうとする。津波が叩きつけられた瞬間、上空に待機していた氷の竜が津波を氷結させる。巨大な氷塊となったそれを貫いて巨大な火柱が上がり、余燼が氷塊の中から飛び立つ。勢いのまま構えて大量の熱線と紅い蝶の弾幕を水の竜に降り注がせる。が、それを光の竜が同じように光の線で弾幕を形成して迎え撃つ。それぞれの飛び道具が激突する度に猛烈な爆発が起こり、余燼は紅い蝶の塊を展開して、直線状の光線にして今度は氷の竜に叩き込む。更に間髪入れずに急接近して両翼を一閃し、よろけた氷の竜の上を取ってから両翼を叩きつけ、地表に墜落させる。追撃を防ぐように水の竜が激流を放出し、余燼は左翼で受け止める。動きを止めた好機を逃さず、光の竜が光の糸で絡め取らんと狙う。翼を振り抜いて激流を打ち消し、瞬時に力を溜めて闘気を爆散させて光の糸を粉砕する。だがその攻防の時間で立て直した氷の竜が強烈な冷気を全身から放ち、明らかな大技の準備に入っていた。
「〈
致命的な真白い冷気が吹き荒び、空間もろともが氷結していく。余燼から溢れる闘気と怨愛の炎、それらと冷気が争い、余燼は自ら全身に炎を纏って氷の竜へ降り注ぐ。拮抗するどころか余燼が押しているのを見て、水の竜が再び咆哮し、先程の嵐のように海が逆巻いて巨大な壁になる。
「〈
水の壁に閉じられたことで冷気が行き場を失い、効率よく余燼の威力との勢力争いに加わる。
「千代に八千代に紡がれる歴史、実に怠惰である」
壁の向こうから光の竜の声が響き、水の壁の頂点に眩い黄金の光が灯る。それを発する輝く塊から、大量の光の糸が伸びてくる。
「〈
解けた輝きは光の雨となって降り注ぎ、地上にいる氷の竜もろとも空間を焼き尽くす。余燼は受けた衝撃で高めた闘気を解放し、水の壁を一瞬で蒸発させ、両翼を正面に向けて光の竜を貫き、勢いのまま地表に激突して氷の竜を吹き飛ばす。
「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ」
妙に耳に残る笑い声を上げて光の竜が消え、それに従うように氷の竜と水の竜も消え去る。
「全砲門解放、我は怒りを具現す――」
海が引き、三竜の消滅とほぼ同時に声が響き、地平線の彼方から極太の熱線がいくつも放たれる。
「〈
縦横無尽にそれらが薙ぎ払った後に、炎の竜が地表に激突して大爆発を起こす。余燼は右翼を盾に爆風を防ぎ切り、地中から這い出てきた巌の竜、空中に現れた宇宙の竜と共に立つ、炎の竜と向かい合う。
「もう間もなく、力の頂に辿り着かんとする修羅よ。我がかつての依代の願いに従い、我が怒りの炎を以て汝を焼き尽くす」
巌の竜が屈強な右前足を叩きつけ、捲れた岩盤を口から吐き出した音波で破砕しつつ余燼へ向ける。余燼は闘気で自身を押して瞬間移動し、移動先に宇宙の竜がくるくると舞いながら黒い刃を自身から山なりに飛ばして粗く狙う。炎の竜が距離を取り、両腕に爆炎を宿して一体化させ、巨大な火球にして掲げ、なおも力を込め続ける。余燼は刃の雨を意に介さず、紅い蝶の塊を展開して太めの光線を炎の竜に撃ち込む。しかし巌の竜が地面を鋭く隆起させて光線を阻み、強烈に力んで引き寄せる力場を生じさせる。そのまま巌の竜は上体を持ち上げて、大きく息を吸い込んで咆哮する。
「〈
異常なほどの振動数を以て極悪な絶叫が解き放たれ、余燼は防御した上で吹き飛ばされる。重ねて宇宙の竜の全身から触腕が伸び、地面に突き刺さって光の柱を生み出して爆発させ、追撃する。吹き飛びつつも最低限の隙で受け身を取り、右翼で触腕を切り裂きつつ直線状に衝撃波を起こして巌の竜を撃ち抜き、即座に距離を詰めて右翼で貫き、薙ぎ払い、連続して左翼で貫き薙ぎ払い、瞬時に凝縮した闘気を叩き込んで吹き飛ばす。同時に炎の竜が溜め終わり、大火球を構える。それに合わせ、宇宙の竜が力を解放する。
「〈
空間が凝縮し、捩じ切れ、ひしゃげていく。余燼の動きを拘束し切るには弱すぎたが、それでも僅かながらの虚を衝き、肉薄した炎の竜が大火球を盾とされた余燼の右翼に直接押し当てる。威力の証明代わりに凄まじい煙に包まれ、人間態に戻ったハチドリの、赤黒い太刀の一撃で炎の竜は両断され、投げつけられた太刀が宇宙の竜に刺さり、そこに落ちた紅雷が彼を霧散させ、再び竜化した余燼のタックルからの闘気爆発で、巌の竜は足場から押し飛ばされる。余燼が再度ハチドリに戻ると、彼女の前に九竜が再び顕現する。
「元より我らは、武には優れぬもの。頂天を極めんとする汝にはいささか退屈であったか」
闇の竜が告げ、炎の竜が正面に構えてくる。
「なればこそ、我らが真の意志を汝に示そう」
炎の竜へと、他の八竜が融合していく。
「人の罪、神の罪、我らはそれら全て無き原初よりある身……」
透き通ったシフルエネルギーそのものとなった炎の竜は、筋骨隆々だった姿を細く、流麗な姿へと変え、六枚の右翼と三枚の左翼を持った竜となる。
「不滅の太陽……」
ハチドリの呟きに続き、竜は身体の緊張をほぐすように身震いする。
「これが我らの真の姿。〈大いなる淵源の祖〉王龍ネレイデスだ」
ネレイデスは高度を合わせ、上半身を見せるように外周に陣取る。
「九真竜の本当の姿……相手にとって不足はありません……!」
「それでよい。我らごとき、軽く捻り潰してもらわねばな」
右腕を掲げ、凝縮したエネルギーを散らして投げ飛ばす。ある程度飛翔したそれらが瞬時に爆発し、巨大な光の柱を次々に形成する。ハチドリは異形の刀を抜き、避けつつ斬閃を設置してネレイデスへダメージを与えていく。構わずネレイデスは右手を突き出し、今度は火球の雨が注いでくる。着弾とともに熱波を残しつつ、重ねるようにネレイデスから津波が起こる。回避から籠手を爆発させて両方の攻撃から逃れ、竜化して急接近しながら竜化を解き、肉薄したところに左手に力を溜め、天空から追尾する雷霆が複数降り注ぐ。ハチドリは異形の刀で雷霆を受け止めようとするが、着弾した瞬間に暴風を起こして目論見を外させ、全身で力んで真下から巨大な氷柱を生み出して貫く。直撃こそ出来なかったものの注意を引くことに成功し、ネレイデスは瞬間移動で真反対の場所へ逃げる。
「汝はこの三千世界に紡がれた全ての因果を、縁を断ち切り、獣の望みを果たす。現では宙核の遺志を継ぎ、あるべき争いを残し続けるだろう。だがこの、月の愛し子の中でならば」
両腕を重ね合わせ、徐々に開いた空間から闇で出来た巨槍を生み出して地面に叩きつける。極大の爆発が起こり、接近してきていたハチドリを妨害しつつ、身体から大量の光の糸を空間に伸ばす。光の糸を通じて空間から力を吸収し、自身を中心とした音波とシフルエネルギーの衝撃波を起こす。
「メギドアルマ!」
衝撃波の影で生み出していた真炎の大火球を投げつけ、衝撃波を逃れたハチドリが真正面から相対する。彼女は脇差を持って刀身に怨愛の炎を宿してリーチを増強し、火球を両断する。
「オリネンモ!」
続いて再び大津波を起こし、ハチドリは同じように籠手から解放した爆炎で迎撃する。
「ピシャペリ!」
大量の巨大氷柱を生み出し、降り注がせると、ハチドリは籠手を氷結させて刃を象り、それで一閃して砕く。
「ハリネル!」
巨大な雷霆を呼び起こして撃ち込むと、赤黒い太刀が投げつけられて相殺する。
「スレイマニエ!」
ハチドリが背から蒼い太刀を抜きながら猛進すると、暴風の塊が投げつけられ、構わず左拳で粉砕する。
「バスク!」
先ほどと同じように闇で象った巨槍が正面から放たれ、ハチドリは余燼となって右翼を突き出して砕き、なおも接近を続ける。
「シャンメルン!」
翼を広げ、その先端に圧縮した力を解放し、極太の光線を撃ち放つ。余燼は闘気を纏って威力を砕き、弾けた衝撃でネレイデスに攻撃を加える。
「ディソニア!」
両者の間にある空間が歪み、巨大な刃が荒れ狂う。余燼はハチドリに戻り、異形の刀を振るって空間をネレイデスごと切り裂く。
「アラランガ!」
目前に迫ったハチドリへ向けて、渾身の絶叫で迎え撃つ。ハチドリは左手に呼び起こした六連装をフルバーストし、銃弾を異形の刀で飛ばして音波の壁を突破する。
「王龍式!〈マルチバース・アルティメイタム〉!」
周囲の力と空間がネレイデスへ凝縮され、9つのシフルエネルギー塊が出鱈目に飛び交いながら壮絶極まる衝撃波が拡大していく。ハチドリは分身を盾に居座りつつ、空中で居合抜きのように異形の刀を振り抜く。彼女を中心とした円状の斬撃が波濤となり、徐々に大きな範囲を切り裂き、衝撃波の威力を加速度的に減衰させていく。蒼い太刀に持ち替え、ネレイデス目掛けて投げ飛ばす。漲る圧倒的な力も意に介さずに貫き、怨愛の炎でリーチを大幅に増強した脇差による横振りで切り裂きつつ上昇し、縦に両断する。弾けたシフルエネルギーによってハチドリは吹き飛び、軽く受け身を取りながら山頂に着地する。そして左手を差し出し、掌に雫が落ちる。
「汝……全てを、断ち切れ……この世に残った、全てを……燃やし、尽くせ……」
ネレイデスは程なく消滅し、ハチドリは雫を握り潰す。
「言われずとも、成してみせます。それが、私が旦那様のために出来る、唯一のこと」
脇差を収め、その場を後にした。
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