与太話:デートに誘ってみる

 エラン・ヴィタール 屋敷

「……」

 リビングにて、バロンとストラトスが向かい合うように席についていた。

「……君が一人でここに来るとは珍しい。何かあったのか?」

「いやー、えーっと、あはは……」

「……?」

 逡巡するストラトスを見ていると、そこにグラスを二個持ってシマエナガが現れる。

「マスター、お飲み物を」

「……ああ、ありがとう」

 グラスには麦茶が注がれ、バロンとストラトスにそれぞれ渡される。

「あ、ありがとうございますッス……」

 シマエナガは相変わらずの仏頂面で、そのままバロンの膝上に座る。

「……おい待て。お客さんの前でやるんじゃない」

 バロンは丁重に抱えあげて退かし、シマエナガは不服そうに真横で直立する。

「……それで、僕に会いにきたのは……」

「バロンさんに聞くようなことじゃないと思うんスけど……頼れる男性って括りで言うとバロンさんしか居なくて」

「……男にしかわからないことか?」

「いや……まあそうでもないっていうか……なるべくなら女性側の意見も聞いてたほうがいいかなー、とも思うことではあるんスよね……」

「……ああ、なんか大体わかったぞ……シエルをデートにでも誘いたいのか?」

「うっす……」

 ストラトスは赤面しつつ、呟きのように返事する。

「……確かに親に聞くことではないな……」

「でもこういう話、千早とかアルバに聞くわけにもいかないし、グラナディアさんは聞いてもからかってくるだけだし、親父とかおばさんに聞いても意味ないし……で、バロンさんしか居ないんス」

「……まあシエルはいい子だから、君が精一杯の気持ちを伝えようとすればきっと喜んでくれるが……そうだな、僕の経験からすると……サプライズでレジャー施設や観光施設に行くのはよくない、といったところか」

「え、そうなんスか?」

「……ああ、君もどうせなら、全力の自分を見せたいし、全力の彼女を見たいだろう?家デートや近所で済ますならともかく、遠出するなら不意打ちは厳禁だ」

 そこにエリアルとメイヴ、そしてアウルがやってくる。

「……おお、ちょうどいいところに。三人とも、ストラトス君にデートで気を付けるところをおしえてやってくれないか」

「急ね。一人で来るなんて珍しいし、せっかくならシエルを――ああ、なるほど」

 エリアルが納得して、余っている椅子に座る。二人もそれに従い、各々座る。

「(うわめっちゃいい匂いする……)」

 ストラトスがそんなことを思っていると、エリアルが言葉を発する。

「そりゃもう私はバロンと一緒ならどこでも楽しいから何も気にしたこと無いわ」

「……エリアル」

「本当に不満を感じたこと無いからわかんない。パス」

 エリアルが隣りに座っていたアウルの肩を叩く。

「私は……そうですね、一般人がたくさんいるところに行きたいですね。出来るだけ沢山の人達にバロンが彼氏だって自慢して回りたいので」

「ええ……」

 ストラトスが困惑し、バロンが短くため息をつく。

「……聞く相手を間違えたか。すまないストラトス君、余り力になれそうにない」

「いえ、割と参考になって――」

 テーブルに鞭の鋭い一撃が刻まれ、全員の視線が少々不機嫌な表情のメイヴに向けられる。

「なんでアタシを無視してんのよ」

「……いや、一番参考にならなそうだからな……」

「まず、ルートを予め設計しておいて、訪れる店の細かい注釈にまで目を通しておくこと。高い店に行くならドレスコードの把握はもちろん、金額や、彼女の好みも把握しておく必要があるし、予約は絶対ね。安い店に行くとしても、極端に下品なところは避けておくべきで、云々……」

 メイヴは今まで見たこと無いほど饒舌に長々と喋り続け、途中でエリアルが大欠伸をして居眠りを始め、アウルがスマホを触り始めた。

「――と言ったところよ。これは最低限必要ね」

「え……ええ?まあ、はい……」

 完全に頭がパンクしたという風なストラトスを見て、バロンはやれやれと首を振る。



 数日後

 リビングすぐ近くのキッチンで、シエルとエリアルが並んでケーキを作っていた。

「ねえシエル、最近彼氏とはどうなの?」

「ああ、ストラトスとは……うん、調子いいよ。この間はデートしてきたし」

「何してきたの?」

「あっちが色々計画立ててるところに遭遇しちゃったから、二人で一緒に行きたいところ決めて回って、結局バッティングセンターで三時間くらい遊んだあとにボウリングして、ご飯食べて帰った」

「まあ、同棲してるんだし今更サプライズも難しいわよね」

「考えすぎなんだよね。ストラトスと一緒なら別にどこでも楽しいのに」

「まあまあ。お互いに大切に思ってるって証じゃない」

「それはそう。よーし、出来た」

 ショートケーキが完成し、シエルが小さくガッツポーズする。

「そういやお母さんはさ、デートとかしないの?同じ家の中にあんだけ可愛い女の子がいたらお父さん危ないんじゃない?」

「ああ、バロンは全員抱いてるから」

「ええ……そうなんだ。お父さんってああ見えて結構ヤり手なんだね」

「そうよ。私と結婚してる時点で包容力のある不幸体質ってわかるでしょ?」

「うんまあ……そうかも」

 シエルがケーキの乗った皿を持ち上げ、エリアルとともにリビングへ向かう。

「お母さんもデートしてみなよ、お父さんと。泣いて喜ぶよ」

「何か世界の危機が来たらするからいいのよ、今しなくても」

「うわ、すっごいこと言ってる」

 その後、ケーキの分け方でオオミコトとアリシアが喧嘩したとか、なんとかかんとか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る