究王龍ファーストピース Final Phase:「ニューワールド・エレクション」

「ッ……」

 余燼は呼吸を整える。ファーストピースは当然のことだとでも言うように立て直し、飛び上がって高度を合わせる。

【素晴らしい。全てが私に牙を剥いてるのなら、全てを否定するためにこうなった私には好都合】

【感情の熱を感じない……?】

 ファーストピースから漲る力に、レメディが反応する。

「どうやらそのようじゃな。ヤツの放つ力……完全に新たなものじゃ。前にも後にも決して無い、ヤツだけのエネルギーじゃ」

 オオミコトが答え、アプカルも続く。

「興味深いですわ。他の力と違って、振れ幅がない……常に、どんな状況でも最大限のパフォーマンスを発揮し続ける……」

「あんなの、滅ぼすための力にしかならないよねえ」

 ファーストピースは胸部の傷を修復させる。

【それで合ってる。私は全てを滅ぼす。もう二度と、どんなものさえ生まれないよう、全てを完全に、永遠に否定する】

 翼を畳み、身を丸くする。同時に猛烈な強風が吹き荒れ、深淵領域が吸収されていく。

【ハチドリさん!止めましょう!】

 レメディが叫び、メイヴを乗せたままのメルクバは飛び抜けて退場し、余燼がレメディと共にファーストピースへ突っ込む。ファーストピースは光に包まれ、巨大な繭へと変貌する。レメディの超大剣の縦振りがぶつけられ、生じた超巨大な光の刃が追撃する。だが繭には傷一つ付かず、余燼が大量の分身とともに一気に斬撃を与えながら、本体が口から強烈な熱線を撃ち込んで爆裂させてもなおダメージを受けない。

「ええい!王龍式!〈生命の海、絢爛なる大蓮華〉!」

 背後からオオミコトが巨大な光の柱を繭に幾つも突き立て、その一つ一つが極大の黄金の光を放ち、焼き払う。程なく大爆発し、更に余燼が巨大な闘気塊を叩きつけて爆発させ、レメディの超大剣の薙ぎ払いから黄金の激流を叩き込む。

「プライマル……」

 余燼は右腕に氷炎を纏い、不滅の太陽で刀身を形作る。

「アンティクトン!」

 渾身の一撃が叩きつけられ、強烈な波濤が繭の表面を駆け巡る。遂に繭の表面に穴を開け、そこに極限まで凝縮された小さな宝石のような純シフル塊を吐き出す。繭の穴を抜け、絶対に躱せない力を以て内部のファーストピースに着弾して、筆舌に尽くしがたい超絶的な大爆発を起こす。繭がひび割れ、光を放つと徐々に開き、巨大なオオアマナを象る。どこからともなく紅と蒼の蝶の群れが現れ、姿勢を元に戻したファーストピースは両翼を広げ、更に骨格を外して展開する。蝶たちが翼膜に集り、そしてひたすらに巨大な光の翼を形成する。

「にょわあああああ!?」

 ファーストピースから放たれる輝きによって、後方に控えていたオオミコトたちが排除される。

「何が……?」

 余燼が目を眩ませながら呟くと、同じく横で目を細めるレメディが答える。

【あの人のエネルギーが完成したみたいですね……それで、力が一定の基準に満たない存在を強制的に押し出したようです……!】

「なるほど……」

 ファーストピースは力み、両翼の先端を合わせてその狭間に巨大な光球を作り出し、掲げて無数の光線を多方向に放出して、高速回転させる。二人はそれぞれで動いて躱し、光球はほどけて大量の光線に変わり、今度は二人に狙いを付けて飛んでいく。高速で飛び回る余燼に狙いを定め、ファーストピースは全身を使って右翼を振り抜く。同時に翼の大きさに見合った巨大な光刃が飛んでいく。更にそこに大量の魔法陣からの光線を重ねて進路を潰していき、オーラを纏った強烈な尾の一撃を叩きつけて撃ち落とす。背後からレメディが接近して一太刀加えると、ファーストピースは両翼を畳んで彼を押しつぶそうとする。攻撃の手が若干緩んだタイミングで余燼が衝撃波を起こして周囲の魔法陣を破壊し、瞬間移動で肉薄して巨大な闘気の爪を纏いつつラッシュをぶつけ、強烈な右振り下ろしから飛び上がり、急降下して翼で斬りつけつつ連続で爆発を起こし、隙を潰して大量の分身とともに一瞬の内に強烈な一撃を連続で叩きつけ、最後に右拳を叩き込んで自身の体内に溜め込まれた闘気を自爆のように解放し、反動で吹き飛んで後退する。衝撃で巨体が僅かによろめき、両翼の力みが緩み、レメディが脱出する。ファーストピースが直上へ飛び上がり、翼を全開にして構える。開幕で繰り出したのと同じ衝撃波を、溜め無しで連打しつつ再び深淵領域が広がっていく。

「くっ……!」

 極彩色の輝きは際限なく広がっていく。涯のない無の無の全てを、隙間なく彼女の力が埋め尽くす。そして咆哮とともに、ファーストピースの前方に十三個の球体が現れる。

「まさか二つ目の王龍式を……!?」

【あの球体を!】

 二人は球体の破壊に飛ぶが、ファーストピースは力を溜めつつも魔法陣の展開と光線弾幕の展開を並行し、やがて球体は一つになって吸収される。

「……!」

【腹を括るしか無い……ッ!】

 ファーストピースから放出される力は極限まで高まり、口から視界が一瞬で潰れるほどの閃光が放たれる。

新王龍式ネオスクラックダウン!〈エンピリアル・カタルシス〉!】

 解放された力は極彩色の空間の全てを塗り潰し破壊し、余燼、レメディ共に凄まじい傷を負う。レメディは特に限界が近いように見える。ファーストピースは続けて十三個の球体を放出し、即座に二度目の射出を狙う。同じように衝撃波と魔法陣、そして弾幕での猛烈な妨害を行うが、彼方から飛んできた凄まじい勢いの無明の闇によって六つがすぐに粉砕される。竜の形態のアルヴァナと、その背に乗ったシェリアが登場する。

「なんでもありなら私たちがいてもいいわよね、アルヴァナ?」

【無論だ。征こう、シェリア!】

 アルヴァナがフルパワーで無明の闇を吐き散らして弾幕を消しつつ、シェリアが莫大な力を帯びた槍を投げつけて衝撃波を貫き、ファーストピースの胸に届いて、吹き出す無明の闇で貫かんと滾り続ける。余裕が出来たところでレメディが魔法陣を全て破壊し、先んじて突っ込んだ余燼に超大剣を投げつける。余燼はそれを闘気で自身に随伴させ、全ての力を注ぎ込んで突き進む。

「兄様、姉様、みんな!準備はいいッ!?」

 更に彼方から現れた、純白のヴァナ・ファキナが全身全霊の衝撃波で残りの球体を破壊する。

【王龍式――〈エヴォリューショナル・ワールプール〉!】

 三度目となる螺旋状の極大火力光線に余燼は真正面からぶつかり、全身から赫々たる怨愛の炎を、際限なく放出して力を増していく。既に全ての力を解放しているにも関わらず、それでも出力が上がり続ける。

【(シフルエネルギーを強めるのは感情……自らの全てとも言える人と融合しているのだから、無限を越えて感情が溢れ出るのも当然か)】

 ファーストピースは光線に力を注ぎ込み、だがそれでも貫き押し通る余燼が見える。余燼は超大剣を殴りつけて飛ばし、光線を遂に撃ち抜いて、シェリアの投げた槍に激突し、構え、握り締めた拳を再び超大剣に叩きつける。二本の武器とともに余燼がファーストピースを貫通し、砕けた甲殻が煌めきながら宙へ散っていく。

【……】

 黙して崩れ、眼下に広がる極彩色のオオアマナへ落下していく。

【これが……ソムニウムわたしの見ていた、ソムニウム……】

 両翼から輝きが失せ、絶命した蝶たちが雪のようにポロポロと剥がれ落ちる。右腕を伸ばし、指先から灰色の蝶が飛び去っていく。間もなく、ファーストピースの身体は霧散し、空間が全て元に戻る。


 エンドレスロール ???

「はあっ……はぁーっ……」

 余燼がハチドリとバロンに戻る。

「……いい、体験だったな……?」

「ほんと、ですね……」

 ハチドリは自身の傍に浮かぶ槍と超大剣を見て、後ろへ振り向く。アルヴァナたちとレメディ、そして純白のヴァナ・ファキナは消滅していき、同時に武器たちはハチドリへ吸収される。

「まるで夢のような戦いでした……」

 ハチドリの手元に、極彩色の蝶が一頭、ひらりと舞い降りる。

「……それが戦利品らしい。受け取っておいてくれないか。あれでも、僕とは兄弟のようなもので……」

「知っています。もしかすると、あなたよりも」

「……君は不思議な子だな。もし新たな世界があれば、君とまた出会いたいものだ」

 蝶を吸収し、ハチドリはバロンへ向き直る。

「はい。その時は……私を、思い切り抱き締めてください」

「……約束しよう」

 バロンははにかみながら消滅する。

「……」

 ハチドリは右手に怨愛の炎の種火を生み出して握り潰し、そしてどこかへと歩き去っていった。

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