エンドレスロール【FINAL】:或る物語の終焉
※正真正銘のパワーインフレ終着点となっております。本編・前日譚・後日談はもちろん、エンドレスロール、エクストラ、ファイナルまで読了してからご覧ください。
始まりの地 始まりの火
一切を掌に浮かべ 合切を握り潰し
器に湛えられし煤を飲み 理外を下す
月から堕ちた涙 王から抉られた瞳
消滅への礼賛 虚無への迎合
来たれる終局の崩壊を 誠実に果たす
諦観と剛力に満ち足りた 覇王の力
盲目と愛情に満ち足りた 修羅の力
極まる力を以て 亡者たちは終に至る
まだ、この物語を見ているのか?
呆れたものだな、狂人よ。
始まりの欠片、最初の作品……ファーストピースの齎す結末を見てなお、まだこの物語に展望があると思っているようだな。
いや……期待するのも無理はないか。お前たちは、夢を見ることに飽きてこの現実を覗いている。ならば、それが終わることを厭うのは必然とも言える。
そうだろう、狂人よ。夢から醒め、わざわざこの景色を眺めているということは、極まった力同士の激突、それがお望みなのだろう?
幸いたったひとつだけ、まだ再生されていないルナリスフィリアの記憶がある。
さあ、そろそろ席につけ。
最後の戦いの、始まりだ。
深淵領域 アギア・デストポク
足元には薄水が満ち、満天の星を照らすように眩い暁光が満ちる、虚空に用意された足場。灰が雪のように降り、所々で炎が燻り、星星が注ぐ。そこに佇むのは、ディードと片耳のハチドリだった。
「ここが」
「そう、ここが涯。三千世界の物語の、極」
「ならば――」
ハチドリは背から蒼い太刀を抜き、刀身に怨愛の炎を宿す。
「成すべきは唯一つ」
「全力を叩きつけて、私たちが、そのどちらかが!」
「「最強となる!」」
ディードが右手を強く握り締め、凄まじい闘気と真炎が全身から迸る。余りにも強力な力が大きな像を象り、ディードの背後に陣取る。
「は、ははは……!」
ディードは堪えきれずに笑い出し、真炎が全てを焼き尽くしていく。
「指一本一本から、どんどん、どんどん、どんどん……!」
ハチドリも応えるように、総身からあらゆる闘気の混じり合った凄まじい力が溢れ出る。
「はい……!もう加減も要らない、全ての技を駆使し、あなたを討ち倒す!」
淵源の蒼光と不滅の太陽、そして極彩色の輝きが刀の像を生み、蒼い太刀に更に被さる。
「さあ三千世界、今ここに!」
「いざ参る!」
ハチドリが目にも止まらぬ速度で刺突を繰り出す。姿が現れるよりも先に切っ先が届き、ディードですら反応が僅かに遅れるほどの高速の攻撃となる。もちろんディードは左手で切っ先を往なし、右手を突き出して腹を叩き、ハチドリを激しく吹き飛ばす。刀を地面に突き立てて堪えるが、大きく足を上げて構えたディードが豪快なストンプを繰り出し、真炎で象られた巨大な足が虚空からハチドリを踏み潰さんと落下する。空間を歪ませつつ姿を消して瞬間移動すると、太刀を鞘に戻し、居合抜きの要領で抜き放つ。その瞬間に再び刀身に像が被り、巨大な斬撃が極太の光線状になって突き進む。真炎の左巨腕がそれを阻み、右巨腕が直接拳を繰り出す。ハチドリは再び空間を歪ませて逃げ、拳が地面を叩き、地表を引き裂いて真炎が吹き出す。ハチドリは後隙を狙い、刀の像を超巨大化させ、全身を使って振り下ろす。ハチドリの比類なき筋力によって、大きさに見合わぬ高速の縦振りはディードの両巨腕で阻まれ、拮抗する。
「あはっ、はははっ!アンタと戦うまで、傷を受けることすら無かったのに……私の闘気をこんなに簡単に貫いて、刃を届かせるなんてねえ!」
「不思議な感覚です……最初に戦った時は、あなたの覇気に怯むばかりだったのに……!」
巨腕の防御を破壊して、ディードを直接叩き切る。なんと彼女はその一撃で怯み、ハチドリは逃さず横振りを叩き込む。だが刀は右手で直接受け止められ、刀の像を握り潰される。続いて右拳で地面を叩き、前方を真炎で爆発させ、ハチドリが分身を踏んで瞬間移動し、その逃げ先を狙った大火球による偏差射撃が飛んでくる。
「……!」
反射的に左手の籠手から爆炎を解放して大火球の衝撃を受け止め、爆風が過ぎ去るとディードが超高速で接近して左蹴りを繰り出して籠手を捉え、地面に足をめり込ませる。身体の向きを戻しつつ、右掌に溜めた火球を顔面に叩き込んで大爆発させる。流石の凄まじい威力だが、ハチドリは蒼い太刀を下から切り上げ、左手で赤黒い太刀を抜きつつ、蒼い太刀と同時に振り抜き、十字の斬撃を叩き込む。斬撃が爆発し、紅雷が落ちてきて追撃する。そのまま両手から太刀を消し、右腕に鋼を纏わせて飛び上がり、渾身の右拳を頬に叩き込み、遂にディードを吹き飛ばす。だが姿勢が崩れることもなく、踵でブレーキをかけて踏みとどまる。
「凄い、凄いわ!最高ね!最初からこういうのを殺りたかった!なんて遠い、回り道だったのか……!」
ディードは狂喜を外へ放出するように、真炎が更に激しく燃え滾る。
「本当の暴力の極み、最強を決める戦い……!」
「ええ、そうね!アンタというこの物語の極みを、もっと私に見せて!」
ディードが右腕を振り抜くと、ハチドリの周囲を真炎の大火球が五つ生み出され、巨大な火柱を生み出して収縮し、一つとなって超絶規模の大爆発を引き起こす。ハチドリは右方向への超高速移動で逃げ、地面を強く踏み込んで一気に距離を詰め、ディードは闘気を圧縮し、一気に解放する。籠手から爆炎を解放し、闘気の嵐を突っ切ってなお肉薄し、脇差を抜いて構える。ディードは歯を見せて笑みながら向きを合わせ、右拳を繰り出す。拳先と切っ先が触れ合い、刀を押しのけて拳が右腕を吹き飛ばす。それでもハチドリは構わずに左拳をディードの腹に極め、籠手から一気に爆炎を解放して拳突を撃ち込み、吹き飛んだディードは着地した。ハチドリは右腕を再生しつつ脇差を手に戻し、再び一気に踏み込んで脇差を振り下ろす。ディードのツインテールの右の房を切り落とし、足元から巨大な真炎の拳がハチドリを突き上げて吹き飛ばし、ディードは再び真炎の巨腕を帯びて飛び立つ。ハチドリは空中で立て直し、脇差に刀の像を被せて右巨腕の一撃を往なし、素早く切り返す。左巨腕に阻まれて弾き返されるが、すぐさま向き直って空中を流れるように移動し、再び一太刀加えて右巨腕と激突する。互いに弾かれ、ハチドリは脇差を消して太刀を二本引き抜いて像を被せ、太刀と巨腕が出鱈目な乱打でぶつかり合って拮抗する。真炎とともに紅雷が迸り、何度も何度も猛烈な衝撃波が地面まで、空の涯まで響き渡り、みるみる速度が上昇していく。赤黒い太刀と右巨腕が相殺して吹き飛び、ハチドリが即座に脇差を左逆手で抜き放って左巨腕を貫き消滅させ、翻って肉薄し、胴体に叩き込んで大きな切創を生み出し、すぐに塞がる。咄嗟に振るった左腕が虚空を切り裂き、伴って再び生まれた左巨腕が安易な回避を許さない。だがハチドリは肉薄して飛び上がって避け、蒼い太刀を肩口から捩じ込む。ディードは右手でハチドリの顎を掴み、そのまま反転して地面に両者激突し、大爆発が起こって離れる。
「ディード殿、私はまだまだもっと力を叩きつけたく思います」
「うーん、素晴らしい挑発ねえ!ならば望み通りに!」
ディードは竜化し、眩い溶岩のような体表の、竜人が顕現する。
「この程度の力じゃ、アンタに失礼だろうけどね」
「ふふ……はい!その通りですよ!」
ハチドリは破顔し、セミラミスの竜骨化と同じ、黒金のフルプレートアーマーに身を包む。そのまま蒼い太刀を変形させ、淵源の蒼光で刀身を形作る異形の刀を手にする。
「行きます!」
刀を一閃すると、空間を広く使って大量の斬閃が現れる。ディードは右手に火球を生み出し、握り潰しながら地面を殴りつけ、前方を極めて広い空間に螺旋状の闘気が迸って覆い尽くす。挙動の途中で斬閃が一斉に起動してディードを斬りつけ、ハチドリは空間を歪めて威力を耐えられるギリギリまで弱めて瞬間移動で逃げて背後を取り、居合で巨大斬撃を繰り出し、重ねて斬閃を大量に設置し、左手に呼び出したロッドに蝶が集り、極彩色の槍となって投げつけられる。ディードは豪快に右拳を振り抜きながら振り返り、絶大な熱波で斬撃と斬閃を消し飛ばし、だが槍はそれを貫いて表皮まで届く。弾かれはするものの纏う闘気の鎧は貫かれており、爆発とともに飛び散った蝶たちが更に爆発して追撃する。構わずディードは口から大火球を撃ち出し、体内で沸騰した闘気が大爆発して衝撃波を響き渡らせる。瞬間移動で火球を避け、衝撃波を刀で断ち切る。恐るべき力が漲り、夜のようだった空が緋色に染まり、無数の隕石が降り注いでくるようになる。
「この空間でさえ……」
ディードは高く飛び上がり、ハチドリ目掛けて急降下する。着地とともに爆発し、両腕を地面に突き刺して突進、そして巨大な炎の壁を伴って振り上げを繰り出す。ハチドリは空間を歪ませながら見事なタイミングで避け、居合から複数の斬撃を迸らせて攻撃する。ディードは裏拳を放って牽制しつつ向きを整え、地面を連続で殴りつけて直線上に熱波を走らせ、それは異形の刀に阻まれて切断され、だが続く隕石によって場所を動かすことに成功し、短い溜めから右手に作り出した闘気塊を撃ち出す。狙い澄ました縦斬りによって闘気塊は両断されて暴発し、両腕に真炎を纏わせて飛びかかり、右振り下ろし、左薙ぎ払いを弾き、そして最後の右振り上げを躱される。
「私とアンタなら、もっと上に……!」
ディードは両手を合わせ、その狭間に極大威力のな真炎を凝縮し始める。ハチドリが好機とばかりに斬閃と斬撃による猛攻を仕掛けるが、構わず凝縮を続け、そして完全に両手を重ねて極小の火球を生み出し、頭上へ掲げる。凄まじい速度で火球は巨大化し、地面に叩きつけられる。超絶的な大爆発で周囲を真炎で包み込み、回避ではなく防御を選んだハチドリへ襲いかかる。
「ええ、もっと、もっと……!」
短く力み、地面から真炎の棘が大量に呼び起こされる。ハチドリは刀に闘気を一気に集中させ、縦振りから横振りを繰り出し、巨大な斬撃を飛ばして棘と隕石を破砕しつつディードに届かせ、同時に強烈な闘気を発して空間を包む。
「フッ……」
体が震えるような気魄に、ディードは思わず笑む。ハチドリは居合で巨大斬撃を飛ばし、ひたすらに斬閃を設置しては即起動する。ディードは飛び上がり、両拳を合わせて地面に叩きつけて大爆発させ、瞬間移動による防御と高速移動を繰り返すハチドリに対し、空間を捉える凄まじい威力を持った腕の振り上げを連続させ、爪の形に沿った五本の斬撃が涯まで突き進む。踏み込みつつ薙ぎ払いも交互に繰り出し、圧縮闘気を解放しながら熱線を吐き出し、全身を使って振り回す。ハチドリは再びの巨大斬撃で熱線を断ち切り、力の満ちた異形の刀を左半身を引いて構える。
「我が刃を……防ぐものなし!」
超巨大な斬撃が大量に荒れ狂い、トドメに真一文字に一閃する。ディードは防ぐものの大きく押し込まれ、防御に使われた両腕には巨大な切創が複数刻まれる。
「さあディード殿。勝負をもっと盛り上げましょうぞ」
「もちろんよ!」
力を解放し、竜化体を砕いて巨大化していく。そして広い円形の足場を残し、それ以外の全ての地表が消し飛ぶ。金属質な表皮を持った超巨大な長蛇が現れ、屈強な前腕で足場によりかかる。
「来たれ!」
空から注ぐ隕石は真炎の塊となり、着弾した端から極太の火柱を上げる。ハチドリに着弾した瞬間、真炎を塗り潰すように赫々たる怨愛の炎が火柱を成し、余燼が姿を現す。
「赫焉燦々……アンタと私の力で、全部炎で塗り潰してやろう!」
「ふふ……!」
ディードが右前腕を足場に叩きつけ、地面を削りながら薙ぎ払う。余燼は飛び上がって躱し、更にディードは口から極大の火球を吐き出し、着弾と同時に光の柱となり、三段の衝撃波を起こして大きく揺さぶる。余燼は翼を畳んでミサイルのように突っ込み、肉薄して翼を開き、閃光を放ちながら明滅するディードの胸部に渾身の力で突き立て、凄まじい抵抗を受けながらも強引に進み、大きく割り開く。傷口から凄まじいエネルギーが漏れ出して余燼を吹き飛ばし、同時に塞がる。ディードは巨体にも関わらず素早い挙動で口を大きく開き、そのまま余燼へ突進する。余燼は回避し、そして両者が空中で並走しながら突き進む。
「この姿ですらアンタには物足りないなんて、本ッ当に最ッ高ねェッ!」
ディードは並行しつつ、右腕に力を込めて闘気の刃を飛ばしてくる。余燼が素早い挙動で避けると、そこに狙い澄ましたかのように大口を開けて突進してくる。余燼は両翼を器用に使って飲まれずに堪え、噛み砕かんと力を強めた瞬間に逃げる。更に翼を畳んで錐揉み回転しながら高速で飛び去り、大量の紅い蝶を射出して弾丸のようにディードに降り注ぎ、着弾とともに爆発する。翼を開いて一気に距離を離し、通り過ぎて向き直ったディードは口元に光球を生み出してから噛み砕き、大量の光線を放出する。余燼は並行しながら右翼から紅い蝶の弾幕を放って迎撃し、更に口から熱線を放って狙い撃つ。撃ち切った瞬間の爆発で視界が煙り、だが程なく両者が現れ、なおも高速で飛び続ける。
「アハハッ!」
ディードが笑いながら、大口を開けて螺旋状の巨大熱線を撃ち出し、余燼が翼を一気に開いて紅い蝶たちを解放して飛ばし、位置を大きく上に動いて熱線を潜り抜け、蝶たちがディードの表面に着弾すると紅い粒子を撒き散らしながら急速に侵食する。右腕を振り抜いて五本の斬撃を飛ばし、掬い上げるように左腕を振って更に五本の斬撃を飛ばし、咆哮を重ねて、回避した余燼から飛んでくる蝶の光線を相殺し、それに伴って、ピンポイントで隕石が注いでくる。余燼の傍をすり抜けた瞬間に爆発し、衝撃で煽ってよろけさせ、姿勢を正したディードが鋭く尾を突き出して弾き飛ばす。
「もっと、もっと私たちの力を……!」
ディードは口元に閃光を迸らせ、極大の光線を吐き出す。同時に真炎塊が集中して降り注ぐ。余燼は翼を畳んで高速回転して真炎塊を弾き返しながら光線を凌ぎ、翼を開いて紅い蝶の群れを五つ生み出し、光線を撃ち出す。ディードは右腕で防ぎながら、急降下して接近しつつ急上昇して体当たりを繰り出し、上空で翻りつつ大量の光弾を吐き出す。余燼は回避しつつ、弾幕を打ち消すように翼から巨大な紅い斬撃を二連射し、実際に弾幕を打ち消しながら届かせる。斬撃の着弾にも関係なく光線を撃ち返し、両腕を振り抜いて巨大な斬撃を繰り出す。余燼は正面から熱線を放って斬撃を迎え撃ちながら、紅い蝶を小さな光線が成す弾幕のように撒き散らす。それらの着弾と同時に熱線がディードの表皮を焼き、傷つける。
「もっと滾れ!私たちの全て!」
ディードが首をもたげると、鋼のような質感の表皮が一斉に赤熱し、禍々しくも神々しい輝きを放ち始める。
「ふふ……!」
更に漲る力を前に余燼は笑み、応えるようにディードが咆哮とともに大量の真炎塊を生成して撃ち出し、重ねて余燼の周囲に大量の光輪を生み出す。真炎塊が光輪の内部を通るように飛んでくると同時に光輪が縮小を始め、余燼は体表から怨愛の炎を噴出させて防護しながら光輪から逃れつつ、ディードは余燼目掛けて大口を開けて突進する。纏った怨愛の炎を放出して自身を加速させて突進から逃れると、通り過ぎてすぐ向き直ったディードが極大の光線で大きく薙ぎ払う。光輪と真炎塊で範囲外をカバーしつつ、逃げる余燼の周囲に人間態で使用していた真炎の巨腕を撃ち込む。光線を大きく避けながら、紅い蝶の弾幕で光輪を破り、残る真炎塊も巨腕も相殺しつつ両翼から斬撃を飛ばす。ディードは右腕を振り下ろしてこちらも斬撃を飛ばして相殺しながらもなお残る斬撃が余燼へ突き進み、それらが紅い蝶の群れに弾かれる。そのまま余燼の放った紅い蝶の弾幕が直撃するが、ディードは首をもたげて咆哮し、頭上の空間に赫々たる渦が生まれ、そこから驟雨のごとく真炎塊が降り注いでくる。余燼は右へ飛び出し、大量の紅い蝶の群れを残して光線を射出していき、ディードはそれを受けつつも右、左の順番で腕を振り抜いて巨大な斬撃を飛ばす。余燼は真正面から左翼を盾にして突っ込み、光線を凌ぎきって両翼を突き出し、高速回転しながらミサイルのように突進し、斬撃を打ち消して左手に阻まれる。凄まじい火花を散らして押し切り、再び胸部に届いてそのまま押し込み、ディードの巨体を足場に叩きつける。即座に離れ、天高く飛び上がり、翼の間で力を溜めていく。
「いい……!」
恍惚としたディードの声は、天空から解き放たれた余燼の大熱線に掻き消され、そのまま胸部を足場ごと貫かれる。
「そうこなくちゃ……!」
足場が崩壊し、それと同じようにディードの身体も霧散する。胸部から元々の人間体が現れ、残っていたツインテールのもう片方の房がほどける。余燼が急降下して右翼で切りつけようとすると、心臓の鼓動のような音とともに強烈な衝撃波を受けて押し返される。
「最強を極める戦いっていうのは……こうでなくちゃねえ!」
輝きに包まれたディードは幼蛇のような姿に一瞬変化した後、急速に巨大化しつつ四肢や両翼が生えていく。絶大な熱波とともに、眩く緋色に輝く龍が顕現する。体表が溶け切ったマグマのように熱と光を放つ以外は、アルヴァナの竜の姿に瓜二つであった。
「アハハハハハハ!」
笑い声に従った咆哮が撒き散らされ、どこからともなく溶岩が吹き出て両者が降り立つ足場となる。
「これが!三千世界の夜明け!」
更なる咆哮によって溶岩が喚起され、高く火柱のように吹き上がる。
「塵も残さず……私たちの全部を燃やし尽くすわよッ!」
「ええ!旦那様のために……そして、私たちのためにも!」
余燼が両翼を開き、紅い蝶の塊を左右に大量に並べ、光線を撃ち放つ。ディードは両翼を畳んで力み、光線の直撃を受けながらも両翼を開き、そして生じた猛烈な熱気を、両翼を前方に振り抜くことで猛進させる。余燼は右翼を盾にしながら熱波の中を突っ切り、振り払いを当てようとする。だがディードは即座に力を溜め直し、胸部を輝かせて総身に紅い粒子を帯びつつ闘気を解放し、振り抜く寸前で至近距離で直撃を受ける。余燼は衝撃を逃がしつつ直上に飛び上がり、両翼を正面に向けて急降下する。ディードはその瞬間に咆哮し、天から大量の隕石が降り注ぐ。速度は先程までの比ではなく、衝撃も爆炎も凄まじく、自らを巻き込んで余燼を叩き落とす。両翼を振り抜いて熱波と斬撃を起こして余燼を吹き飛ばしつつ後方へ飛び上がり、莫大なエネルギーを口許に凝縮させ、一瞬首をもたげて力み、首を突き出して口から極限の火炎を吐き出す。余燼は受け身を取ってから再び右翼を盾に堪える。
「(この底の見えない力……!)」
ディードは短く吐きつけた後、ほんの一瞬力んでから超絶的な威力の真炎を解放する。余燼は自身を中心に巨大な火柱を作り出し、極悪な火炎放射の中を貫いて飛び上がり、ディードよりも高い位置から力んで大量の紅い蝶を降り注がせる。ほぼ全弾が直撃し大爆発を起こす。しかし余燼もまた隕石に撃ち抜かれて叩き落され、両者は溶岩上で立て直す。
「へっ……へへへ……!」
ディードは嘲笑のように声を漏らし、天を仰いで咆哮する。凄まじい勢いで流星群が降り注ぐが、敢えてか余燼に当たらぬように溶岩に叩きつけられる。当然、質量と衝撃から極悪な破壊力が乱立するが、両者ともに視線を逸らさない。
「今この瞬間が……最高に楽しいわ!全てを賭けて、自分の“最強”って最高の看板を守り抜くのは!」
「……!」
「そうでしょうね!アンタも、本当の意味でテッペン獲ろうってんだから、楽しくないわけがないわよねェッ!」
余燼が僅かな溜めから熱線を吐き出すと、ディードは狂乱の笑い声とともに火球を撃ち返す。そのまま激突して爆発すると、瞬間的に力んで両翼を振り抜き、熱波を前方に解放する。余燼は紅い蝶を爆発させて自身を前方に吹き飛ばし、熱波の最中を貫通して突撃する。肉薄した瞬間に両翼を振り抜いて斬撃を起こし、ディードの胸部に深い切創を刻みつける。間近に迫った余燼の首を右前足で鷲掴み、そのまま口から極大の火球を撃ち込む。余りの衝撃に右前足は吹き飛び、余燼も左翼と頭部を失いながら後方に吹き飛ぶ。
「あー、ハハッ。世界ってこんなにも、生きるってこんなにも……死に一直線に突っ込むことがこんなにも楽しいなんてねえ!」
平然と右前足を再生し、余燼も立て直して一瞬で完治させる。ディードは余燼を見つめ、笑みを抑えるように舌舐りを見せる。
「人生は花火でなければね。火薬を詰めて、その全てを燃やし尽くして一瞬で終わる……」
「……」
「私もアンタもまだ、弾ける高さまで辿り着いてないってことよ。まだ、全てを燃やし尽くしてないでしょ」
「ええ……」
「三千世界を焼き尽くす派手な華を咲かせてこそ!人生の終わりに相応しいッ!」
首をもたげ張り裂けるような咆哮を撒き散らしながら、両翼を押しやるように体内から猛々しい腕が突き出る。全身から壮絶極まる熱気と闘気と真炎とを放出しつつ身体を出鱈目に振り回し、余燼をその度に押し出しながら大きく上体を反らして大爆発を起こして周囲の溶岩を励起させる。
「くっ……ふふ……!」
右翼で衝撃を逃がしていた余燼が構え直し、思わず笑みを溢す。
「こんな力……どの時代のどんな瞬間でさえ、世界の方が耐えられないのに……!」
「だからこそ!アンタとここで戦うんでしょ!?」
「全くその通りですぞ……!」
両腕を掲げ、その掌の狭間で巨大な火球を生み出し、弾けて弾幕が降り注ぐ。闘気の放出を抑える素振りすら見せずに踏み込みながら右腕を豪快に振り下ろし、余燼は躱しながら軽く飛び、流れるように横に回り込む。左腕に全体重をかけて無理やり軸合わせしながら薙ぎ払い、右翼で凌がれたところに最上段から右腕を振り下ろす。余燼は後退して躱しつつ、紅い蝶の群れを左右に並べて光線を撃ち込む。ディードは特段対応を見せず、右腕をそのまま力強く溶岩に撃ち込んで熱波を起こしながら次々と火柱を立てる。余燼の視界を妨害しながら、掌から噴出させた真炎で飛び上がり、空中で左腕から真炎を噴出させて飛びながら軸を合わせ、両腕を後方へ向けて真炎を噴出し、超高速で突貫する。左翼で防御した余燼に直撃し、防御の上から甚だしく吹き飛ばす。間髪入れず、ディードは余燼がそうしたように火球を自身の左右に並べ、それを解放して極太の熱線を繰り出す。立て直した余燼は応えるように紅い蝶の群れを同じだけ並べ、光線にして迎え撃ち、ディードは右腕を足元で突き立てて真上に振り上げ、五方向に斬撃を飛ばし、左腕を自身に水平に伸ばして真炎を噴出し、余燼の周囲を高速で旋回しながら再び超絶的な威力の真炎を解放する。余燼は斬撃を弾きながら錐揉み回転して上昇することで火炎放射から逃れ、頭上から大量の紅い蝶の群れを叩き込む。ディードは避けられた瞬間に放射を止め、両腕を足元に突き刺す。そして凄まじい勢いで力を注ぎ込み、自身を中心として波濤のように大量かつ極大の火柱を噴出させ、余燼を叩き落とす。追撃として両腕を振り上げて熱線を放ち、余燼は即座に立て直して体表に怨愛の炎を纏い、熱線を弾き、そのまま自身を蝶たちに吹き飛ばさせて一気に接近し、ディードは両腕を足元に、杭のように突き立てて固定し、胸元から喉までが青く輝き透けるほどの出力で真炎を滾らせ、三度超絶的な威力の真炎放射を解き放つ。余燼は右翼を盾に突進を継続し、火炎放射の威力と余燼の推進力が拮抗する。余燼が徐々に距離を詰め、間近に迫った瞬間に互いの威力が爆発し、両者を後方に吹き飛ばす。
「そろそろ身体も温まってきたんじゃない?」
「……!」
余燼が覚悟を極めた視線を遣ると、閃光と共にディードが大爆発し、溶岩が消し飛んで両者は虚空に投げ出される。
「
再び竜化した彼女の身体は、竜人形態に酷似していつつも、より鋭利な甲殻と爪によって装飾され真炎で象られた一対の翼を携えている。
「ハチドリ、アンタも全力で応えなさい!」
「……!」
余燼は翼で自身を覆う。
「旦那様、私に力を……!」
爆炎とともに変身し、黒鋼との融合竜化形態となる。
「私の生は今日この瞬間のためにあった!愛とか暴力とか、強ければそんなもんはどうでもいいわ!ただ純粋に、全てを極めた力の激突……それこそが、求めていたものだから!」
ディードは縦回転して突っ込み、余燼は回避からの分身たちとともに高速で体当たりをぶつけ、両翼を振り抜いて連続で大爆発させる。攻撃を受けつつも怯まず、ディードは右腕を振り上げ、真炎の爪を伴って切り裂き、左腕を振り抜いて爪をぶつけつつ尾も叩きつけて攻撃を重ねる。更にその瞬間に闘気を爆散させて追撃し、同じように闘気を爆散させて相殺し、その後隙に強烈な手刀を受けて怯まされ、掲げた左人差し指から生じる絶大な闘気が急速に拡大し、容赦なく直撃させて押し込み吹き飛ばす。僅かな力みから追って突進が放たれ、迎え撃つように突進すると激突した瞬間に粉砕され、突き飛ばしからの全方向に極大火球を出鱈目に撃ち放つ。
「(これほどの力をあの時は隠し、片手間に私とソムニウム殿を打ち破った……でも、今は違う!)」
余燼は受け身を取り、大量に放った細身の光線によって火球を破砕し、右手に宿した自らの火球を握り潰して炎を纏い、ドリル状の闘気を生じさせながら突進する。
「〈ギガマキシマムドライバー〉!」
「アハッ!いいわね!それじゃこれからは技名を叫んでもっと激しく楽しく、ねえ!」
ディードは再び短く力み、突進する。
「〈ドラゴニックペネトレイト〉!」
両者の力が激しく衝突し、短く競り合って相殺する。先に余燼が動き出し、右手による斬りつけから両腕で連打し、もう一度右手で激しく斬りつけ、両手の合間で一瞬で凝縮した闘気を解き放つ。
「〈天覇烈葬〉!」
「〈アイアンニューオーダー〉!」
怯んだ瞬間でも構わず、ディードは強引に姿勢を戻して、同じく手に闘気を凝縮させて迎え撃ち、大爆発を引き起こしてお互いに吹き飛ぶ。余燼は右手に巨大な異形の刀を呼び出し、両手で握って突っ込む。
「〈プライマル・アンティクトン〉!」
「そうそう!最終決戦はこうでなくちゃ!」
ディードは自身の右手を巨大な刃とし、応じて突進する。
「〈オリジナル・クライシス〉!」
両者の得物が激突し、炎の刃を砕いて異形の刀が切り返し、ディードを吹き飛ばす。余燼は刀を消し、自身の周囲に巨大な光の柱を幾つも生み出す。
「王龍式!」
「これでこそ風情があるというものよ!真剣極まる激戦であろうと、武を極める死闘であろうと……最後に残るのは!ただこうやって……純粋に勝負に興じる気概よッ!」
「〈
「〈メビウス・リベレーション〉!」
超特大の火球が放たれ、そこに光の柱が刺さり、閃光を解放して拮抗する。ディードは大量の熱線を繰り出して翻り、大火球を撃ち込んでくる。余燼は高速で空中を滑りながら双方を避け、その端で二人の先ほどの攻撃が大爆発を起こす。再びディードが縦回転で突っ込んできて、躱したところに闘気を爆散させて追撃し、さらなる回避からの大量の分身とともに体当たりで反撃し、両翼を振り抜いて大爆発を連続させつつ飛び退く。
「〈
口元から宝石のような雫を吐き出す。
「いいわねそれ!その技、貰うわ!」
ディードも全身から闘気を発し、それを一気に凝縮して雫にし、投げつける。
「〈ゼロフレア〉!」
二つの雫は激突ではなく静かに混じり合い、そして凄絶極まる超大爆発を起こして周囲の景色を極彩色に変えていく。余燼は間髪入れずに巨大なブラックホールを上空に作り出し、そこから巨大な紅雷を落とす。
「王龍式!〈アンセストラル・インソムニア〉!」
「〈アルテマブレイド〉!」
ディードが右手を掲げ、掌から極大の光線を撃ち放って迎撃し、即座に両手を合わせて水平に突き出し、掌からより威力を増して極太の光線を放つ。余燼の軽い回避からの急接近によって行動を中止し、そして両者は両手を掴み合って競り合う。
「いいですね、これ……!」
「そうでしょ?何の横槍もない、最強に最も近づいた私たちだけの特権……最ッ高でしょ!?」
「ええ、ええ、はい!」
右手の戒めを解いて拳を鼻面に叩き込み、あちらの右手で放られて瞬間移動から右腕の一閃をぶつけられ、左、右と交互に受けた後、同時の振り下ろしを受けて更に傷を負う。
「まだまだ……!」
余燼は一気に距離を引き離し、大量の魔法陣を重ねて呼び起こす。
「王龍式!〈エヴォリューショナル・ワールプール〉!」
口から極彩色の螺旋光線を撃ち出し、ディードも同様に最大火力の熱線を撃ち返してくる。
「〈ミストルテイン・ソムヌス〉!」
着弾の爆風の影から同時に突っ込み、先にディードが右腕を振るう。左脛で往なし、翻って尻尾を脳天に打ち付け、だが左腕の一撃を受けてよろけさせられ、今度はあちらが翻っての裏拳を叩き込み、大きく振り被って右腕を振り下ろす。真炎の斬撃を受け、その進むままに押し込められる。
「〈ディクタトル・フランベ〉!」
ディードの威勢の良い掛け声とともに、どす黒い怨愛の炎が滝のように連続で余燼へ降り注ぐ。
「王龍式!〈
紫光を帯びた強靭な冷気を迸らせて怨愛の炎を凍てつかせ、重ねて放った闘気の衝撃波で破砕し、紫光をディードへ届かせる。表皮に触れた瞬間に猛烈に侵食し、だが彼女から迸る闘気によって瞬時に焼き尽くされる。
「本当に最後のお楽しみの前に、やりたいことは全部やらせてもらうわ!」
ディードは自身を真炎の盾で覆い尽くし、加速度的に力を高めていく。
「楽しいわね、本当に……鍛え上げた自分の実力を、等しいか、越えてくるような相手に全て曝け出す……自分がもっと弱かったら、なんて何度も考えたわ、何度も、何度もね……」
「ディード殿……」
「だってそうは思わない?周りが誰が強い、誰が弱いなんて話をしているのに、私は話をする前から蚊帳の外。冷やかしで挑みに来る暇な奴すら居なかったのよ。特にバロン、あいつには心底失望したわ」
「……」
「でもこうして、置き土産のアンタが私に人生最高の時間をくれてるんだから感謝しないとね?」
「その通りです……全ては、旦那様のために!あなたを討ち、私が最強になる!」
真炎の盾から巨大な斬撃が輪を描いて飛び、余燼は瞬間移動で躱しながら接近していく。大量の熱線で牽制しつつ、偏差射撃のように大火球を連射し、余燼は無数の分身に分かれて消え、分身とともに真炎の盾に一気に突撃して攻撃し、本体が目前に現れて両翼を一閃して大爆発させ、急上昇からの急降下で一気に爆裂させて追撃し、右腕の一閃から凝縮した闘気を弾けさせて猛攻を仕掛け、真炎の盾が反撃を繰り出してくる。それを潰すように闘気を爆裂させて後退し、そこから全身全霊の熱線を解放し、真炎の盾を捻じ曲げて貫通せんと燃え滾る。撃ち切った瞬間の大爆発で盾を粉砕すると、ディードは溜めきった真炎を解き放つ。極太の熱線が血管のように空間に伸び切り、絶類な力が全てを焼き尽くす。余燼は同じように怨愛の炎で盾を作って防ぎつつ、両腕を怨愛の炎で包みこんで灼熱の大火球を生成する。左の大火球を投げつけ爆発させ、そこに右の大火球を接近からの直接押し当てて追加で大爆発させ、両者が同時に動作を中断して吹き飛び、落下していく。
「さあて、いよいよかしらね……?」
「(旦那様、奥様……私は、あなたたちのために……何より、私自身のために……!)」
涯なく落下していき、やがて翻って虚空に着地する。
淵源領域 エンドレスロール
両者は竜化を解き、元の人間の姿に戻る。ディードは切り落とされた髪が元に戻っており、互いに目立った傷もない。
「行くわよ!」
ディードは再び自身に真炎の巨腕を侍らせ構える。
「あなたの全力!引き摺り出して見せる!」
ハチドリが抜刀するや否やディードが空間を捩じ切る高速の蹴りを繰り出し、弾いたところに後方へ回転しながらステップを踏んで動き、右拳を地面に叩きつけて熱波を起こしてハチドリのサイドステップを誘い、両腕で岩盤を捲り返すように真炎の塊を投げ飛ばし、巨大な隕石のようになって降り注ぐ。ハチドリが高速移動で真炎から逃れつつ脇差を異形の刀に変え、斬閃を設置しながら瞬間移動で背後へ回ろうとし、ディードが左拳を振りながらそちらへ向き直り、真炎の右巨腕を弾丸のように射出する。威力からして分身での防御は不可能と悟り、ハチドリは構えから射出から巨腕の速度まで、動作が一瞬で済まされたそれをギリギリで瞬間移動して躱し、更に左巨腕が偏差射撃で放たれ、瞬間移動先に見事にヒットする。異形の刀を全力で振るって、往なすというよりは無理矢理に相殺して防ぎ切り、そこにディードがその場でストンプして起こした巨大な熱波が届き、瞬間移動中の身体を捉えて怯ませる。
「焼き尽くす!」
ディードは力を溜めつつ竜化し、ハチドリの怯みが続く一瞬に闘気を爆裂させる。衝撃波に続いて凄烈な熱波が轟き、衝撃波を耐えてから熱波を切り裂き、ディードは竜化を解きながら真炎の巨腕を復活させ、斬閃を破壊しながら突進してくる。籠手から火薬を撒き、ディードの両腕による交差攻撃を火薬へと転じて躱し、爆発させて後退し、異形の刀に怨愛の炎を宿してリーチを増強して薙ぎ払う。しかし平然と右巨腕に受け止められ、素早い反撃の左巨腕を振り返し、爆発して飛び上がって躱し、そこに頭部だけを長虫へと竜化させ、巨大な口で噛み付く。ハチドリは咄嗟に余燼へと竜化し、同時に両翼を振り抜いて衝撃波を起こして噛み付きを弾き、ディードは頭部を戻して竜化し、飛び上がって両腕で余燼を挟み込もうとするが、余燼は竜化を解いて躱し、懐に落ちてから再び竜化して、融合竜化の巨体で押し返し、両者同時竜化を解いてハチドリは鋼を帯びた右拳を放ち、ディードがそれを左拳で迎え撃つ。
「私の拳を受け止めるヤツが居る……それだけで、どれだけ満たされることかッ!」
「でもまだ……あなたの拳を砕くには足りない……!」
お互いの拳が弾かれ、瞬間に次の拳を繰り出す。それを繰り返して、猛烈な拳突の連打の応酬が繰り広げられる。
「あはははっ!見える、見えるわ!最後の力が、私とアンタの最奥に眠る、極限の闘争本能が!」
「ふふ……!もうこれ以上の戦いなんてない……ならば!ここでありったけをぶち込む、だけです!」
ハチドリの左拳とディードの右拳が激突し合い、強く弾かれる。そしてハチドリが左拳を握り締めて火薬を爆発させ、続くディードの左拳を右肩に掠らせながらこちらの左拳で腹を強打し、打面を爆発させて吹き飛ばす。両者は降り立ち、ディードは腹から煙を上げながらも構え直す。ディードは真炎の巨腕を召喚し、超高速のスライド移動から右巨腕を薙ぎ払う。分身を盾とした瞬間移動で下がりつつ躱すと、ディードは迷いなく踏み込んで左巨腕で薙ぎ払う。それも同じように躱された瞬間、両巨腕を自身の頭上で合わせ、ドリルのように高速で回転しながらハチドリへ突っ込む。異形の刀で往なしつつ向き直って構えると、回転を止めて着地したディードが巨腕を高速回転させながら射出し、それを二回連続でスライドして躱したハチドリの間近に瞬間移動し、竜化して瞬間的に闘気を爆散させる。籠手から大爆発を解放して相殺しつつ、竜化を解いたディードが飛び退く。
「まだまだ行くわよ!」
真炎の巨腕を再び召喚し、ハチドリも応じるように怨愛の炎で同じような巨腕を生み出す。同時に踏み込み巨腕それぞれが組み合い、壮絶な膂力を込めて押し合う。完全に拮抗したそれらが爆発し、後退した瞬間にディードが再び巨腕を召喚して合わせ、高速回転させながら射出する。ハチドリは右手を左手に添え、籠手の内部を燃焼させて大爆発を起こして熱線を放って迎え撃つ。爆風の影から巨腕が大量に降り注ぎ、ハチドリは赤黒い太刀を抜いて帯電させてから投げつけ、巨大な紅雷が降り注いで巨腕を破壊する。ハチドリは即座に飛び出して蒼い太刀を抜きつつ、刀身に怨愛の炎を宿してディードまで急接近し、左手から火薬を撒き散らしながら舞うような連撃を繰り出す。強力なリーチと弾ける爆炎によって微小なダメージを与えるも、ディードはその猛攻すら平然と受けて構え、右腕を振り抜いてハチドリの動作を強制的に中断させ、更に猛烈な真炎で煽って空中に飛ばす。だがハチドリは空中で赤黒い太刀へ持ち替え、帯電したままのそれで一閃しつつ着地し、防御したディードの左巨腕を貫通しつつ本人へ電撃を叩き込み、太刀を脇差に持ち替えてから異形の刀へ変身させ、大きく翻って振り抜く。自由に振れる右腕で防御し、まるで鍔迫り合いのように鎬を削る。渾身の力で右腕を押し上げ、即座に腹を切り裂きながら擦り抜け、振り返る。
「ふふふ……あははははっ!」
強烈な斬撃の直撃を受けたディードは、笑いながら腹の傷を修復し、向き直る。
「ようやく、私の命全部を燃やし尽くせる……!」
爆炎とともに竜化体のシルエットが一瞬浮かび、それが縮んで竜骨化体が現れる。
「
刺々しくシャープな鎧となったディードが、その堂々たる威容を見せる。
「見せなさい、アンタの全てを」
ハチドリは右半身を鋼で覆いながら、蒼い太刀を右手で抜く。
「旦那様……」
静かに呟くと、刀身に赫々たる怨愛の炎が宿る。太刀を自身の前に突き刺し、杖のように両手を
「あなたへの愛を、我が身全てを薪として、今ここに大火へと育て上げてみせます」
左手の籠手が崩れ落ち、炭化した素肌が顕になる。
「今こそ、あなたという薪を、全てを焼き尽くす時!」
右手で太刀を持ち、振り抜くとともに竜骨化する。幼女と言えた身長のハチドリが、バロンと変わらぬ背丈まで伸び、当世具足のようなデザインの竜人となる。
「いざ……」
ハチドリは全身から怨愛の炎を噴き出しながら構える。
「こんな力……立ってるだけで全部滅ぼせるわね」
「最強を決めるために許された私たちの逢瀬……最後まで楽しみましょう」
ハチドリが太刀を振り抜く。それだけで今まで渾身の力で繰り出していた十字斬りと同じかそれ以上のリーチを持って薙ぎ払われる。肉厚な斬撃が通り過ぎ、その周囲に大量の斬閃が設置される。ディードは飛び上がって躱し、一瞬の溜めから左足を突き出して突進する。姿が見えないほどの速さだが、一周回って速度が限界を超えているために時空が捻れて目視が可能になっている。ハチドリが無意識に発する力場を捩じ切り、蹴りで突っ込んでくる。ハチドリは分身を爆発させて飛び上がって躱し、頭上から降下しつつ太刀を振る。蹴りの着弾も、分身の爆発も、そのどちらも全てを凌駕する驚異的な破壊力であり、着地とともに太刀が振り切られる。ディードは瞬間的に力んで体表のエネルギーを爆増させて太刀を弾き返し、反撃に闘気を炸裂させる。ハチドリは左腕を地面に振り下ろして巨大な炎の壁を生み出し闘気を相殺して、一気に後退して距離を離す。ディードはそれを読んでいたか、右拳に力をこめ、愚直な突進からラリアットを繰り出す。ハチドリの頬を極限の破壊力が叩き、太刀を取り落としながら吹き飛ばされる。踏み込みつつの左拳に対し、ハチドリは即座に立て直して左拳で迎え撃つ。両者の腕が交差し、その合間で圧縮された空間が汚く喚く。そしてハチドリの左腕が押し切り、両者が同時に、反射的に繰り出した右拳が交差し、今度はハチドリの拳がディードの頬をひしゃげさせて吹き飛ばす。更に刀を右手に戻し、返す刀で斬撃を繰り出す。周囲の斬閃が一気に起動し、ディードは受け身を取りつつ自身の周囲に真炎の盾を生み出し、衝撃を受けてから単純な衝撃波として解放する。ハチドリは分身を盾にしつつ堪えるが、そこにもう一発闘気の衝撃波が撃ち込まれてよろけ、両腕に竜化形態の腕部を模した真炎を纏わせて一瞬で肉薄し、右薙ぎ払いから左叩きつけでバウンドさせ、右振り上げから両振り下ろし、そして真炎を凝縮して至近距離で爆発させて追撃する。しかし最後の爆発の直前、凝縮の段階で生じた僅かな隙に分身を盾として威力を弱め、逃れたハチドリが爆風の向こうから居合抜きを繰り出し、光線状の巨大斬撃を撃ち出してコンボ終了直後のディードに直撃させる。流石の彼女と言えど、完全に同格の存在の大技の直撃は堪えるのか、怯んで押し込まれる。
「ふふ……」
ディードは微笑む。ハチドリから立ち上り揺らめく、赫々たる炎を。もはや
「新たな力、ねえ……」
「私は変わりません。最初から、ここまで」
「戻らずの火……」
「あなたを焼き尽くし……決着をつける」
ディードは身を屈め、再び力を解き放つ。両腕が竜化形態を彷彿とさせる、鋭利で凶悪な剛腕へと進化する。突進から両腕を使ったラリアットを繰り出しつつ上昇し、右拳を急降下しつつ叩きつける。ハチドリは完璧なタイミングで躱し、急降下の衝撃を太刀で弾き返す。だが追撃に足元から巨大な真炎の嵐が巻き起こり、姿勢を戻したディードが右半身を引いて構え、全身を使って右腕を振り上げる。巨大な真炎の爪がハチドリを襲い、盾にした分身ごとハチドリを切り裂く。更に溜めからのサマーソルトで闘気の壁を撃ち出しつつ前方五方向に真炎の斬撃を飛ばす。そちらは太刀による一閃で断ち切り、左腕を燃焼させつつ突き出して突っ込む。だが完璧なタイミングでディードが滑るように移動して躱し、自身の代わりにその場に種火を残す。ハチドリが自身の周囲の空間を歪めて急停止と急反転を両立し、瞬間移動で肉薄する。残された種火は大爆発し、ハチドリは刀を振る。ディードが防御に迎え撃った瞬間に手元から太刀を消して空振らせ、即座に呼び戻して舞うような連撃に突入する。大量の斬撃と共に凄まじい勢いでディードの体表を削り、乱脈する斬閃が即座に起動しては追撃する。先程の巨大斬撃にも勝るとも劣らぬほどの凄まじい破壊力に晒されてはいるが、戦闘の進行につれてディードも更に力を引き出しているのか全く怯まずに、右腕で太刀を弾き返し、即座に構えた左拳を叩きつける。ハチドリも左拳で咄嗟に迎え撃ち、拳先が激突し、ディードの拳が一瞬で撃ち破る。そうしてハチドリの左前腕を吹き飛ばし、本命たる右拳で再び頬を撃ち抜く。これまでにないような速度でハチドリが後方に吹き飛び、ディードは自身の胸部から真炎で象った槍を生み出す。
「人には何の謂れも……必要ない!」
抗うように炎を滾らせる槍を無理やり掴み、ハチドリへ投げつける。ハチドリが受け身を取ったところにちょうど届き、完璧なタイミングで太刀にて弾き返し――てはおらず、太刀を両断してハチドリを貫通する。
「ッ……!」
「さあッ!これで……ッ!」
真炎を噴き出しながらディードが飛び上がり、再びの左飛び蹴りで決着をつけようとする。
「まだです……!」
太刀は刀身を修復しながら、赤黒い太刀や、
「……!」
「そうです……刀は既に、私の身体の一部……ならば私が強くなればなるほど、共に強くなる!」
「なんて単純な理屈……でも嫌いじゃないわ!」
完全に相殺してお互いに飛び退き、態勢を整える。ハチドリは左腕と胸部中央に空いた大穴を修復し、互いに総身から噴き出る炎の勢いを増加させる。
「無限の力と無限の命があっても、この戦いには終わりがある」
「終わりがあってこそ、この時を楽しめるのでしょう、ディード殿」
「その言葉、アンタをここまで導いたヤツに教えて上げなさいな」
「あなたを討つこと、それこそが旦那様への最大限の奉仕です」
ディードは鼻で笑う。
「極限まで自分のために生きた私と……」
「旦那様のために全てを捧げた私」
「全ては私のために」
「私の全ては旦那様のために」
ディードが右手の指を鳴らし、真炎が更に明るく滾る。
「ああ……これで本当に決まるのね、最強が!」
「……」
ハチドリが深く頷き、互いに構える。先にハチドリが踏み込んで太刀を突き出し、ディードはスライドで躱してから右拳を繰り出し、それに真炎で象った巨大な拳が追従する。左裏拳で右拳を往なし、太刀で巨拳を弾き返す。そこに当然のように左拳と巨拳が重ねられ、太刀を切り返して弾き返し、反動を使ってディードは身体を捻り、右足で一閃する。紅い閃光が迸り、横方向の斬撃だけではなく縦方向にも生じる。斬撃の軌道が爆発し、ディードは飛び上がって回転しつつ左足で蹴り下ろして追撃し、ハチドリは分身を盾にして翻ってから二連斬りを繰り出しつつ刀身に宿る炎を一気に増幅させて斬り上げ、そのまま薙ぎ払って熱波で追撃する。ディードは左太腿で防ぎつつ後退し、右足を振り抜いて真炎の槍の弾幕を繰り出しつつ巨大な真炎の斬撃を撃ち出す。両手を使った大上段からの振り下ろしで斬撃を打ち砕きつつ、炎の壁を纏いながら翻って弾幕を打ち消して炎の刃を四つ飛ばす。ディードは踏み込まずその場で力み、前方に無数の槍を撃ち出す。ハチドリが左手に呼び出した六連装をフルオートで発射し続けて槍の弾幕を撃ち落としていると、ディードは続けて周囲にも伝わるほどに凄まじい力を溜め始める。
「ならば!」
ハチドリは六連装を消して左半身を引いて構え、太刀のリーチを極限まで伸ばし、渾身の力にて横、縦と振り抜く。だがディードは耐えて動作を中断せず、天を仰いで総力を解き放つ。真炎が涯まで焼き尽くし、何もかもを破壊する衝撃波が生じる。
「この世の涯は……」
威力に飲まれる瞬間、ハチドリは左手を握りしめる。
「ただ一つ!」
彼女の全身からも総力を懸けた力が解放され、二人の全力が競り合う。
「アハハハ!」
「……!」
二人は力を解放しながらも、その力が混じり合って空間を生み出す。ディードが巨大火球を二発放ち、そこからスライド移動しながら槍の弾幕を飛ばしてくる。更に豪快に身体を回転させて足を振り抜き、巨大な斬撃をも連射してくる。ハチドリは太刀に巨大な刀の像を被せて薙ぎ払い、火球を両断しつつ弾幕を弾き、横振りの斬撃を弾いてから縦振りの斬撃を躱し、そこに刺すようにディードの左飛び蹴りが飛んでくる。爪先が先程投擲された槍と同じ形状に変形し、受け止めた太刀の腹と火花を散らす。
「終わりがあるからこそ楽しんでいられる……でもね!こんな楽しい戦いが、こんなすぐ終わっていいと思う!?」
「ふふっ……私にはわかりません……でも勝つのは私!」
足を弾き返してディードをよろけさせ、縦に翻って兜割りを放つ。だがディードは脛で往なし、真炎の両巨腕を生み出して反撃に振り下ろす。極限まで引き付けてから完璧に躱し、太刀を鞘に収めずに居合のように構え、一閃する。超巨大な斬撃が大量に荒れ狂い、トドメに真一文字に斬撃が重なる。ディードは構わずに構え直し、再び左飛び蹴りを繰り出す。一瞬で力を解き放ち、彼女の身体の端から灰が零れる。爪先がハチドリの胴体を捉え、圧倒的な貫通力を持って貫き通し、ディードは右手でブレーキをかけて振り向き、二人を包む空間がディードの優勢に傾く。
「まだですよ……!」
向き直りつつ胴体の大穴を修復し、ディードは勢いのまま右腕を振り抜き、巨腕が続いて薙ぎ払う。ハチドリは巨腕を左腕で弾いて打ち消しつつ、自らから紅い蝶たちを呼び起こす。彼らが生み出す爆発的なエネルギーで自らを吹き飛ばして距離を詰め、刺突を繰り出す。ディードがスライドで躱すと、ハチドリは後隙をまた吹き飛ばしてもらうことで強引に打ち消し、肉薄して薙ぎ払う。左腕に弾かれ、最速でのカウンターを読んだ瞬間移動を行う。しかしディードはわざと反撃を遅らせ、右手刀を振り下ろす。太刀で手刀を受け止め、更に左腕で支える。そこにディードが左貫手を放ち、ハチドリはわざと防御を崩して右手刀を届かせる。激烈な威力が肩口から伝わり、身が引き裂かれるのを感じながらも刃を返し、ディードの左前腕を切り飛ばす。
「うはぁ……!」
ディードが恍惚としながら、ハチドリは引いて手刀から逃れ、大上段から渾身の一閃を叩き込んで吹き飛ばし、拮抗が緩んだ空間の支配権を勝ち取って押し切ろうとする。
「ディード殿!」
「くくっ……!そう簡単に……!」
広がっていた力を左爪先に結集させ、威力が爆発的に増加した左飛び蹴りを繰り出す。ハチドリもそれに応じ、太刀の切っ先に己の力を集中させて迎え撃つ。互いの力が再び完全に拮抗し、だが全てを懸けた一撃によって相殺し、何なのかわからぬほどの威力を以て両者を吹き飛ばす。
ハチドリが太刀を支えに立ち上がり、片膝をついていたディードも全ての傷を癒やして立ち上がる。
「まだまだッ!」
ディードが空中に飛び上がり、右手を掲げて巨大な真炎の火球を生み出す。立て直したハチドリへそれを放り投げ、すぐに着地する。ハチドリが躱し、火球が着弾すると壮絶な大爆発が発生し、周囲を真炎で染め上げる。ディードは短く力み、全身を使って右足を横、縦と振り抜いて巨大な真炎の刃を飛ばし、ハチドリが空間を歪めて瞬間移動して躱し、移動先に高く飛び上がったディードが急降下してくる。咄嗟に太刀を構えて受け止め、ふらつきながらも弾いて吹き飛ばす。ディードは素早く受け身を取って着地し、全身から闘気を放って周囲の真炎をかき消す。
「私が!」
ディードが両手を胸の前に掲げ、掌の狭間で火球を生成し始める。それを右手に移し、超巨大な火球に変えて射出する。
「勝つ!」
「旦那様……!」
ハチドリも再び全力を懸けて太刀を投げつけ、両者の投擲物が激突する。
「ぬあああああああッ!」
「はあああああああッ!」
そして何を思ったのか両者ともに素手のまま雄叫びを上げて駆け寄り、同時に自身の投擲物を殴りつけ火球が大爆発する。太刀が砕け散り、両者は手を掴み合って力み合う。そして同時に頭突いてディードを押し切り、太刀から分離した脇差を右手に呼び戻して右腕の腱を切り裂きつつ背後に回って肩を切り裂き、左胸を背後から刺し貫く。
「御免!」
「まだ!」
だがディードは闘気を放って引き抜かせ、振り向きざまの左拳で脇差をも弾き飛ばす。
「終わらせないッ!」
「そう来なくては……ッ!」
ハチドリの左拳とディードの右拳が激突し、拳先に生じた威力によって両者が弾かれ後退する。
「ぐおおおあああああああッ!」
ディードが絶叫にも近い雄叫びを上げ、真炎の巨腕を生み出し、突進する。
「死ねェッ!」
ハチドリは右手に脇差を呼び戻し、斬り上げで左胸を裂いてから腹に突き刺して突進を中断させ、ディードは衝撃で後退する。
「ディード殿!」
「!」
壊れんばかりに右拳を握り締め、ハチドリは前進する。ディードはその一撃を待ち侘びていたように、屈託のない、満面の笑みで迎え入れる。
「これで!」
右拳がディードの頬を殴りつけ、そのまま笑みを崩して殴り抜き、吹き飛ばす。
「終わりだァァァァァァァッ!」
ディードは竜骨化が解け、力を使い果たし、斃れ、ハチドリが歩み寄る。
「負けたわ……清々しいほどね……」
「ディード殿……」
「これで最強は決まって……闘いが、消える……」
ハチドリもまた竜骨化が解け、肩で息をする。
「この世に、永遠の争いを、もたらす……それが、旦那様に頂いた、私の、存在理由……」
「くっ、くはははっ!いいわね、アンタ……」
「……」
ディードは虚空を見つめる。
「いい、ハチドリ……戦いってのは、誰かに強制されるものでも、管理されるものでも、ない……アンタが、愛と、自分で言うように……自分の意志に、ただ従う……法の庇護も、世界の理も……捻じ伏せて……自由に、自分を表現する……ただ、純粋に……敵を討ち倒し、勝利を誇る……ただ、それだけでいい……アンタはこれからも……その、
ディードは満足気に破顔し、灰となって崩れる。
「間違いなく……人生最高の戦いだった……これでこそ……生きてる意味が、あったってもんよ……」
最期の言葉が虚空に溶け、灰すらもハチドリから滾る炎によって消えて失くなる。
「旦那様……」
ハチドリは膝から崩れ落ちる。
「私は……旦那様が望んだ三千世界を……お見せ出来たのでしょうか……」
全てが過ぎ去った虚空を見つめていると、自身の胸から極彩色の僅かな光が発される。ハチドリは重力に任せるように頭を下げ、胸の中央から一頭の夢見鳥が飛び立つ。それに誘われるように頭を上げていき、残る力を振り絞って両手で迎え、叩き潰すように挟み込む。
「……」
徐ろに手を開くと、夢見鳥は加えられた力の通りに圧殺されていた。ゆっくりとした呼吸に合わせた瞬き、その度に徐々に瞼が重くなっていく。やがて夢見鳥の残骸は液状の金属になって、手から滑り落ちていく。
「あなたの温もりが……恋しい……」
後に残ったものは、何もなかった。
そうだ。
物語はここで終わる。
結局、人間は温もりが欲しいだけだ。
愛情こそが、最大の暴力なのだから。
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