究王龍ファーストピース Phase6:「崇高なる月の膿」
エンドレスロール 深淵領域ニュージェネシス・カタルシス
極彩色の波動が視界一切を掻き消し、無の無を埋め尽くしていた虚空が塗り潰される。
「……これは……!」
バロンが怯み、ハチドリが目を細める。ディードは余裕そうに、寧ろこれから起こることに対する期待に満ちた笑みで前を向く。
【全ての意思は私の下にある。けれど、あなたたちとの戦いのために全て解放した。今ここは、私が生み出した
「へえ、なるほどね」
ディードが紅い闘気を放ち、真炎を帯びる。続いてハチドリも全身に怨愛の炎を纏い、右半身を鋼で覆う。
「さあバロン殿。正真正銘の全身全霊、全てを賭して逝きましょう」
「……ああ。強敵に挑む、これ以上の誉れなど有りはしまい……!」
バロンも一切の余力も残さずに全ての力を解放し、そのまま竜骨化する。
【全てを消し去り、揺らぎも失せた未来へ】
ファーストピースは翼を畳んで力を溜め、即座に解放する。極めて単純な攻撃ではあるが、バロンとハチドリでも防御せねばならないほどの、筆舌に尽くしがたい圧倒的な暴力が響き渡り、大量の魔法陣が続いて生成され、そこから極大の光線が吐き出される。甚だしい威力の暴威の中でも怯まずディードが巨大な火球を生み出して投げつけるが、着弾する寸前でファーストピースから漲るエネルギーに阻まれ爆発する。これまた凄絶な力を帯びて強烈な飛び蹴りを叩きつけると、漲るエネルギーが球形のバリアのように生じているのがわかる。光線を潜り抜けたハチドリも脇差に刀の像と怨愛の炎を被せ、糸目をつけずに力を注ぎ込んで攻撃を叩きつけ、バロンも愚直に、真正面に全ての力を集中してバリアを粉砕しようと力み続ける。だがファーストピースは意に介さず、全身から光の線のような弾幕を放出する。バロンがいち早く離脱し、全力でディードとハチドリを守るように鋼の壁を生み出す。光弾は壁に弾かれ遠く彼方へ飛んでいき、ディードは姿勢を変えて力を込めて踵落としを繰り出す。バリアを引き裂き、生じた亀裂に手を突っ込み、強引に抉じ開ける。ファーストピースは左半身を引き、翼で一閃する。バロンを狙ったその攻撃を躱すと、既に用意されていた大量の魔法陣から極大の光線が次々と発射され、バロンが回避に専念してさえギリギリなほどの密度と速度、読みを両立した凶悪な弾幕を形成する。それで彼の援護を封じつつ、再び全身から光弾を放出する。ディードがバリアを完全に破壊し、ハチドリがその影から分身を乗り継ぎつつ超高速で接近していく。しかしファーストピースは極彩色の波動を風圧代わりに繰り出しながら退き、周囲の時空が歪むほど凄まじい力を練り上げる。
「おっと……」
ディードが躊躇するほど凄まじい覇気がファーストピースから放出され、そこに魔法陣の弾幕から逃れたバロンが合流する。
「……あれはまさか……!?」
「どうやらファーストピースの王龍式……っぽいわね」
「……巫山戯た威力だ……!」
バロンは直進し、突き進み続けるハチドリの援護へ向かう。
「こんな気持ち初めてよ、ファーストピース……」
ディードが竜化し、更にもう一段竜化し、超巨大な長蛇へと転じる。そしてこちらも負けじと、あらゆる言葉が陳腐に感じられるほどの壮絶な力を蓄える。
【王龍式!】
幾重もの超巨大な魔法陣が何層にも形成され、接近するどころかもはやまともに動くことすらままならないほどの力の嵐が吹き荒れ、ハチドリも接近を強制的に中断させられて吹き飛ばされ、バロンに受け止められる。
「バロン殿……!」
「……今は身を守ることに全力を尽くせ――」
言葉を遮るように、力の解放が訪れる。
【〈エヴォリューショナル・ワールプール〉!】
ファーストピースの口から解き放たれた輝きは、一瞬にして深淵領域を越え、無の無全てを照らし尽くし、唯一無二たる破壊力を以て突き進む。バロンとハチドリはその余波で吹き飛び、荒れ狂う純粋な力の波濤に飲み込まれる。輝きが魔法陣を超える度に力を文字通り無尽蔵に増幅させて猛進し、そしてディードが力を込めて螺旋状の闘気を吐き出して迎撃する。二つの恐るべき力の激突が、もはや語彙も思考をも放棄せざるを得ないような、冗談のような衝撃を生み出し、やがて耐え切れずに超絶的な大爆発を起こす。
「確信したわ、ファーストピース。アンタじゃ私は倒せない」
ディードは形態を人間に戻し、何とか耐えきったバロンとハチドリを見やる。
「じゃ、最後の竜狩り、その栄誉は譲るわ。怨愛の修羅」
そして彼女は、炎となって消える。
「……くっ、大丈夫かハチドリ」
「ええ、もちろんです……!」
ハチドリはバロンから離れるとすぐに余燼へと竜化し、二人とファーストピースが向かい合う。
【ディードは立ち去った。あなたたちに託したらしい】
「……あいつめ……」
【もっと見せて欲しい、全力を。真に否定されるのはどちらなのか……極まった力と力の激突は、まさに滅びと同義なのかを】
「……だがディード抜きで……」
バロンの言葉を遮り、余燼は翼で彼を制する。
「……ハチドリ……君は何者なんだ……?」
「バロン殿、私と合体しましょう」
「……つまり……融合竜化をするということか」
余燼が頷く。
「玉鋼すら超えた境地へ」
「……わかった」
バロンがシフル粒子となって余燼に吸収され、黒鋼の身体に余燼の翼と尾が生え、あらゆる種類の闘気が迸る姿となる。
【(竜骨化ではない……)】
ファーストピースが軽く力むと、前方に大量かつ大小様々な魔法陣が形成され、一気に光線を撃ち放つ。重ねるように魔法陣がカバーするよりも広い範囲に光弾を放出し、融合竜化状態となった余燼が右腕を突き出しながら、光線を真正面から破壊して突き進む。そうして魔法陣を突き破って肉薄すると、ファーストピースが両翼を振り抜きながら後退し、その軌跡に極彩色の大爆発が連続して発生し、口から極大の光線を吐き出す。余燼がバレルロールで回避し、光線をそのまま振り上げて撃ち切る。頭上に巨大な力の渦が生まれ、巨大なエネルギー塊が隕石のように降り注ぎ、当たるより先に余燼が最接近し、巨大な闘気の爪を伴いながら右腕を振り抜き、重ねて左腕で薙ぎ、両腕を交差して切り裂き、続けて前方に強烈な闘気を大爆発させて反動で後退する。今度は逃げずに攻撃を喰らいつつも、ファーストピースは力を溜めて再び筆舌に尽くしがたい衝撃波を起こし、余燼は鋼の盾を発生させて受けきり、受けたダメージと鋼の盾を球体に変え、右腕を掲げてその掌で巨大化させていく。明らかな大技の動作に応じるように、ファーストピースは再び幾重もの超巨大な魔法陣を生み出し、圧倒的な力を放出し始める。
【王龍式!〈エヴォリューショナル・ワールプール〉!】
壮絶極まる螺旋状の光線が吐き出され、全てを蹴散らしながら突き進む。余燼が巨大な鉄球を投げつけて光線の先端に当て、直後に自身の手で球体にぶつかり、ひたすらにシンプルに力を注ぎ込んで光線を押し込んでいく。しかしファーストピースも一気に力を注ぎ込み、余燼を押し返す。
【まだです!】
余燼が押し切られそうになったところに、黄金の輝きに満ちた超大剣が飛来し、余燼の真横で鉄球に突き刺さり、遅れて最終形態のレメディが現れ、超大剣を掴んで共に光線と押し合う。
「そうじゃ!」
「わたくしたちもいますわ!」
「サポートはばっちし!」
本来の姿のオオミコト、アプカル、ローカパーラが現れ、彼女らの力を受けたメルクバがまさに彗星のように現れる。
「撃ち抜く……!」
「女王がやったことないことと言えばー?」
その背に乗るメイヴが呼びかけると、オオミコトたちが律儀に返す。
「「「げこくじょー!」」」
メイヴが右手に鋼の大剣を生み出し、淵源の光を纏わせて突き出し、メルクバの突貫の威力を高める。そのままの勢いで余燼たちに合流し、光線を押し返す力に加わる。
【ぬおおおおおおおッ!】
「……!」
「ハアアアアアアアッ!」
三者が示し合わせたかのように同じタイミングで力を込め、光線を押し切って、各々の一撃がファーストピースの胸部に届く。ファーストピースの巨体が吹き飛ばされ、黒煙を上げながら落下していく。
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