与太話:非戦闘キャラ

エラン・ヴィタール 屋敷

「ハァ……」

 リビングのテーブルでスマホを弄っていたイーリスが溜息をつく。

「……どうした、そんな重い息をして」

 対面に座っていたバロンが問うと、彼女はすぐに視線を上げて言葉を返す。

「私、戦う力が無いじゃない。それが少し嫌になって……ね」

「……ふむ」

 そこでバロンの横に座っていたドラセナが続く。

「わかりますよぉ、その気持ち。私も正直、お兄さんに助けてもらわなかったらそのままお陀仏でしたから」

「……そうだな、そう言えばドラセナも戦う力を持ってなかったか」

 イーリスも頷きで応える。

「そうよ。緊急事態になった時に、足手まといにならないことが最大の貢献になるって立場は、中々に辛いものだわ」

「……確かにな。守る立場に回ることが多いから気が付かなかったな」

「ねえバロン、私たちのような非力な人間でも、ある程度戦えるようになる手段って無いかしら?」

「……あるにはあるな。ハチドリたちのように、王龍や僕の力を分け与えてもらうか、僕の知り合いにも居たように科学的な装備で固めるかだ」

「うーん」

 イーリスが微妙な反応をすると、バロンは微笑みを向けつつ言葉を続ける。

「……そもそも、戦う意志が低かったり自分の体の動かし方を知らないと厳しいとは思うが……」

「剣を持ってブンブン振り回すのは疲れそうだし、まず体がついていかなそうね……」

「……まあ必ずしも道具を持つ必要はないんだ。拳やタックル、蹴りだって強力な武器になる」

「私、軽くジョギングしたりはするけど」

「……ドラセナは……」

 視線を向けると、ドラセナが肩を竦める。

「私はセックス以外の運動ってしませんよ。強いて言えば股関節を緩めないためにその辺をちょっと鍛えてるくらいですんで」

「……そうだな……銃か、魔法とかか?魔力は闘気よりも低次のエネルギー体だから、闘気より補充も楽だし疲れも感じにくいだろう。銃もよほど異次元的な改造や構想じゃない限りは極めて低反動な物も多いしな……」

 イーリスはバロンの語りを遮るように指を鳴らす。

「銃!いいわね、扱い方だけ知れれば戦えるし!あなたの好きな銃とか無いのかしら?」

「……好きな銃、か……これなんてどうだろう」

 バロンが手元に生み出し、そしてテーブルに置いたのは、怪しげな紫光を放つショットガンだった。

「うげ、なんすかこれ。いかにも禍々しいっすけど」

 ドラセナが思わず素の口調で呟く。

「……わかるか?これは昔、始源世界で鹵獲したものを見た目だけ復元したんだが……パライゾスという一点もののアサルトショットガンでな、ワントリガーで弾倉が空になるまでフルオートで連射するんだ。持ち主の根源的生命エネルギーを弾に替えて、反動もそれで打ち消すんだ」

「待って。それって……」

「……そう、生半可なタフネスでこんなものを使えばすぐにシワシワになって死ぬ。だが……そういう極端なところが堪らなくロマンだろう」

「ロマンだけど私たちは使えないわよね?」

「……ああ、そうだ。君が僕の好きな銃というからな、はは」

 バロンの見せてきた少々の悪戯心にイーリスは若干だけ頬を膨らませるも、すぐに気勢を取り戻して言葉を返す。

「私たちでも使えそうな、おすすめの銃は?」

「……やはりハンドガン、拳銃と言われる類のものだな。他のは色々と気にしないといけないことが多すぎる。護身やいざというときの戦闘に役立てるならハンドガンだろう。ハチドリが使っている六連装も一応ハンドガンだぞ」

「一気に参考にならなくなった気がするわね……」

「……あれは特殊な使い方だ。普通は六連装を、自分の分身を使ってワントリガーで六連射したりしない」

「うーん、やっぱり格闘術をあなたから教わったりしたほうがいいのかしら?」

「……僕は構わないぞ。使わないだけで剣も槍も銃も魔法も、他人に基本を教えるくらいなら出来る。ドラセナ、お前もどうだ?」

 話題を振るために顔を向けると、既にドラセナは期待の眼差しを向けてきていた。

「……どうした……?」

「つまり、お兄さんが手取り足取り体の動かし方を教えてくれる……というわけっすよね?」

「……そうだな、ということは僕がお前を徹底的にしごいてもいいわけだ」

「うほっ、それは堪んないっすね!イーリスさん、早速やりましょうよ!」

 ドラセナは妙にやる気でそう言うと、イーリスも朗らかに返す。

「そうね。バロンなら色んな意味で信頼できるし、銃の扱い方だけじゃなくて、ちゃんと自分の体の動かし方も教えてもらったほうが良さそう。お願いしてもいいかしら、バロン?」

「……もちろんだ。僕の本業だからな、責任を持って、君たちをムキムキのバキバキ……無理のない程度に鍛えて見せよう」

 その後、二人揃って凄まじい筋肉痛に苛まれたのは言うまでもない。

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