☆☆☆エンドレスロールEX:王来、逢着、淵源の胎
開かれた大地に 生命は巡る
輪廻より外れた楽園に 生命は飽和する
終局を迎えた世界に 怨愛が猛る
救いのない終点に 憎悪が滾る
平和だけでは満たされない
闘争だけでは満たされない
ただひとつ 憧れを濯ぐため
新たなる焔の灰を継ぎ 灯された憎しみよ
母の大地に降り積もり 種火さえも消え失せる
エンドレスロール 枢機卿機アウラム・パンテオン
蒼炎を帯びた長剣の一閃が、ルナリスフィリアごとソムニウムの身体を両断する。
「っ……」
衝撃に後退させられ、ソムニウムの身体から一気にシフルエネルギーが逃げていく。ルナリスフィリアの破片が床に突き刺さり、繋ぎ止めた切断面から粒子が上がり続ける。
「いい、じゃん……」
無謬は間髪入れずに刺突を繰り出し、左胸を過たずに貫き、猛烈な蒼炎に包み込む。
「苦しめ、苦しめ、苦しめ……!」
「いいよ。杉原君のことも、相応に苦しめてあげるけどね」
ソムニウムの身体が完全に崩壊し、液状になって床に溶ける。
『君がここまで強くなってるなんて予想外だったよ。お陰で……最後の切り札を使わないといけなくなったよ』
極楽浄土は次元門へと消えていき、無謬の視界も塗り替わる。
王龍結界 騒乱たる新世界
続いて現れたのは草原と屋敷、そして一本の大きな木だった。
『行き場を失ったその憎しみ、私が癒やしてあげるのです』
先程まで響いていたソムニウムの声から変わり、聞き覚えのある優しげな女の子の声が響き渡る。
「クッ……!?」
無謬がよろける。凄まじい地鳴りが起こり、程なくして地面を裂き割って超巨大な全裸のアリアが現れる。
「ふふっ、久しぶりなのです、明人くん」
騎士然とした姿の無謬よりも大きな瞳が見つめてくる。
「あ……りあ……ちゃん……」
「うふふ、なぁに、なのです?」
アリアは両手で削り掬い上げ、無謬を地面ごと自身の鼻先へ近づける。無謬は左腕を突き出し、掌から蒼炎を一気に噴出させる。
「わぁ、あったかいのです!それじゃあ、ふーっ」
もったいぶってから口を窄めて息を吹きかけ、蒼炎を打ち消しつつ無謬を吹き飛ばす。
「君が手に入らなかったら、私達の計画はただ無意味な戯れなのです。どうあっても君だけは手に入れる必要が、あったのです」
空中を吹き飛んでいく無謬を右平手で叩き落とし、右人差し指で地面に押し付ける。
「だから、私達は本気も本気、運に恵まれればバロンさんすら打ち負かせる準備をしてきたのです!」
無謬が渾身の力で指を押し上げ、蒼炎を全身から放って逃れる。
「君の尊厳を破壊して、私達なしで生きることなんて絶対に、二度とできなくなるように。誰に邪魔されることもなく、永久の楽土で暮らすために」
右張手で地面を強打し、逃れる無謬へ衝撃と時間の波で追撃する。その直撃を受けた無謬は一瞬完全に停止し、その隙に左手で握り締められ、胸の谷間に捩じ込まれて圧迫される。
「心配しなくても大丈夫なのですよ〜」
アリアはなおも優しい笑みと言葉を向け続けるが、無謬は即座に蒼炎の勢いを爆発的に増加させて胸から逃げ出し、出力を極限まで増加させてリーチを爆増させた大剣を顔面に縦斬りで叩きつける。横切りを重ねて更に強烈な大爆発を引き起こすが、アリアは怯みもせず、傷一つもつかずに顔を近づけ、無謬を食んで甘噛する。
「むふふ、ほいふぃのれす」
口内に入った上半身を出鱈目に舐め回され、完全に全身を飲み込まれてから舌で転がされ、唾液塗れにされる。無謬は大剣を舌に突き刺し、引き裂きながら口から爆発とともに脱出し、全身に付着した唾液を蒼炎で焼き尽くす。
「ふふ、急いでもだーめ、なのです」
アリアは右拳を握り、大きくテイクバックを取ってから無駄に腰の入った正拳突きを激突させる。
「明人くん。君は憎しみの炎を以て、新たなる火の王になった。積もり積もった焔の灰を、ただ白金さんに叩きつけるためだけに」
「ガアアアアアッ!」
無謬は騎士の姿から腕刃を備えた竜人形態となり、蒼炎をジェット噴射のごとくしてアリアの攻撃を躱しつつ距離を詰めていく。
「君の本体、空の器は既にラドゥエリアルさんの中にある。それだけでも、最低限君を産み直すことは出来る。でも、完全な君を手に入れるには……君の、憎しみに覆われた向こうの心が要る」
最接近した無謬が全身全霊を注ぎ込んで右腕刃の一閃を叩き込む。
「わぶっ」
アリアが初めて怯み、そこに重ねて左腕刃の振り下ろしを直撃させて、更に蒼炎で加速して眼球目掛けてタックルを繰り出す。
「えいっ」
アリアは頭を振って迎え撃ち、額とタックルが衝突して強烈な衝撃波が起こる。
「ったあ!?」
思ったよりも無謬の装甲が硬かったのかアリアは悲鳴を上げ、無謬は好機と見て最大出力の交差した斬撃をぶつける。
「ダメ!なのです!ちゃんといい子にしてないと、怒るのですよ!」
総身から放たれた絶大な闘気に阻まれ、アリアは大きく息を吸い込む。
「わーっ!!!!!!!!!」
全力の絶叫を至近距離で放たれ、元々の高くて甘い声から来る凄まじい音の震えによって体表を瞬く間に破砕され、襤褸のように吹き飛び地面に叩きつけられる。
「君には無力を知ってほしいのです。君は私や、燐花ちゃん、ゼナちゃんにマレちゃん、君のことを好きで居てくれる全ての人たち……みんなが居ないと君は何も出来ない、息を吸うことだって、瞬きをすることだって……心臓を鼓動させることだって、出来やしないのです」
地面を引き裂いて、アリアの現在のサイズに見合った超巨大な
「おやすみなさい」
触手たちは高々と頭を上げ、次々と無謬に襲いかかって押し潰す。
「まだだ!」
無謬は巨大な蒼炎の柱を噴き上げ、触手を焼き尽くしながら立ち上がる。
「まだ苦しみ足りない……まだ憎み足りない!俺が満足していないのに……零さんだけ先に死ぬなんてことは絶対に許さねえ!」
その言葉に、アリアは酷く悲しそうな表情を見せる。
「そんなに……そんなに、幸せになるのが嫌なのです?生きてるだけですごいって、ちゃんと意味があるって、肯定してくれる世界が君を待ってるのに……」
「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!この恨みが憎しみが苦しみが……憧れが!誰かに消されて無くなるなんて……認められるかァッ!この想いは俺だけのものだ!誰にも消させない……誰にも渡さない!幸せなんてなァ……平和なんてなァ……どうでもいいんだよ!」
無謬は迸る蒼炎を圧縮し、再び騎士の姿に戻る。即座に力を溜め、左腕から蒼炎で象った銛を天へ投げる。巨大な四つの矛となって、アリア目掛けて降下する。
「明人くん、君は……」
アリアは右腕を振り上げて時間を解放し、矛を闘気で破砕する。
「わかったのです。君の憎しみを打ち砕くのは、限りのない母性でも、自由に使い捨てられる肉欲でも、無償の愛でもない……ただ一つ、憎しみを真正面から粉砕する、暴力だけなのですね」
両手を胸の前で合わせ、祈る。彼女の超絶的な巨体は縮まり、元々のサイズに戻り、着地する。先程までの裸体とは異なり、ソムニウムをモチーフとした、ミニドレス風の騎士鎧に身を包む。胸を強調するようなデザインと、グリーブとスカートによる肉感溢れる絶対領域が、あからさまに萌えを演出している。
「ならば、君に剣を突き立てるだけなのです。君が白金さんへの全てを、捨てられるように」
アリアが右手で腰に佩いていた剣を鞘から抜く。その剣は、宇宙の淵源を垣間見るような蒼光に満ちた刀身を持つ――そう、ルナリスフィリアそのものだった。それを見た瞬間、無謬の鎧は変質し、焼き裂けたような紋様が増加しつつ、蒼炎が内部から噴出する。
「零……!」
眩く感じるほどの昏い闘気が迸り、右手に持っていた長剣が大剣へと変わる。
「これって……
アリアの驚きをよそに、無謬は闘気で加速しながら刀身に蒼炎を乗せ、刺突を繰り出してくる。
「真水鏡!」
その叫びに応えて左前腕にたおやかな水の渦が生まれ、それで刺突を受け止める。解放された蒼炎が背中を抜け、背後を焼き尽くしていく。瞬間的に力を込めて大剣を押し返し、回転をかけてルナリスフィリアを叩きつける。続いて切り返しながら飛び退き、それを読んだ無謬が大剣を槍に変形させて踏み込み刺突を繰り出す。アリアは時間を足場に飛び上がって躱し、上下を反転してルナリスフィリアを振り払って無謬の兜に一撃与え、また時間を踏んで加速して着地し、自身の周囲の時間を圧縮して空間を歪め、大剣に戻した無謬の反撃をギリギリで往なしつつ力を溜め、ルナリスフィリアを突き出して刃先から光線を撃ち出す。凄まじいまでの衝撃が無謬へ叩きつけられるが、彼も総身から蒼炎を噴き出し続けて相殺し、長剣へ替えて総力を込めた攻撃を繰り出す。アリアは時間を放出して光線を空間に縫い止め、姿勢を戻して長剣の一撃を往なす。無謬はそれを呼び水に全体重をかけて三連斬りを重ね、最後に長剣を地面に突き刺して蒼炎と青黒い闘気を混ぜた熱波を引き起こす。アリアが左腕を振るって真水鏡を散らし、壁を生み出して熱波を受け止め、縫い留められた光線が高圧縮されて大爆発して無謬に追撃を仕掛ける。しかし無謬はそれを受けても怯まずに左手に銛を生み出し、投げつけた瞬間から十数本に分裂して飛翔する。アリアは高速後退して左腕を突き出して真水鏡の飛沫を再び飛ばし、それらが次元門となってゼナの機械槍が射出されて銛を迎撃する。
「行くのですよ、明人くん……!」
ルナリスフィリアを両手で握り、剣の力を一気に解放する。
「白金さん、あなたの力を借りるのです!」
それを真水鏡に融合させ、宇宙の淵源を垣間見る蒼いレールガンを生み出す。
「ニューワールド!」
無謬が突っ込んでくるのを時間障壁と紅い闘気で阻み、数瞬を稼ぐ。
「王龍式!
想像を絶する光線が解き放たれ、障壁を突破した無謬を一撃で貫通する。撃ち切った反動で銃身を上げながらレールガンをチェーンソーに変身させる。
「君の執念をぶった斬るのです!」
主体時間を加速させて一気に肉薄し、チェーンソーを振り下ろすと立て直した無謬が長剣でそれを受け止め、競り合う。
「れい……!れい!れえええぇぇぇいぃぃぃぃいいいっッッ!!!!!!」
蒼炎を止めどなく溢れさせて強引に押し切ろうとする。
「君を!手に入れるまで!絶っっっ対に諦めないのです!」
だがチェーンソーが、まるで意趣返しのごとく長剣を両断し、間髪入れずに無謬の腹に空いた傷口に突き立てられる。
「れえええええええいいいいいいいいいいいいッッッッッッ!!!!!!」
「ハアアアアアアアアアッ!」
チェーンソーを振り上げて肩口まで切り裂き、逆流した蒼炎で吹き飛ばされる。思わず手放したチェーンソーがルナリスフィリアに戻り、地面に突き刺さる。アリアがゆっくりと立ち上がり、視線を上げて確認すると、無謬は全身が灰へと変わりながら膝から崩れ落ちる。
「大丈夫……大丈夫、なのですよ……」
アリアは歩み寄り、無謬の頭を優しく抱き寄せる。
「あ……アリア……ちゃん……」
「君はもう、何も考えなくていいのです……」
無謬は灰となって崩れ、アリアに吸収される。だがこちらも力尽きたのかその場にへたり込み、そこにラドゥエリアルが現れる。
「偉大なる母よ、よくぞやってくれた」
ラドゥエリアルの抑揚のない声に、アリアは笑みを溢しながら顔を上げる。
「えへへ……白金さんとか、燐花ちゃんみたいに、上手く戦えたらよかったのですけど……」
「ボーラスに協力を取り付けて置いて正解だったな」
「ああ……えへへ、本当、そうなのです……」
アリアは右手を伸ばし、ラドゥエリアルはその手を掴む。
「さあ……私と、みんなを、楽園に……」
「無論だ」
粒子へと変わり、アリアは吸収される。空間の主がいなくなった影響で、王龍結界は急速に瓦解していく。
「心は面白いな、ソムニウム」
ラドゥエリアルはルナリスフィリアを手元に呼び戻し、灰色の蝶となって飛び去る。崩壊して次元門に飲まれたその場所に、永遠に蒼炎が燻り続けるのだった。
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