☆与太話:わかりやすいせつめい
エラン・ヴィタール 屋敷
リビングから続くテラスにて、備え付けられたロッキングチェアに、エリアルが座していた。
「ふあぁ〜っ」
エリアルが欠伸をすると、太陽の光を遮るようにハチドリが覗き込んできた。
「あら、ハチドリ。私に何か用?」
起き上がり、それに合わせてハチドリも姿勢を正して一歩退く。そして彼女にしては珍しく少々真面目な表情を見せる。
「奥様、奥様の知識を信じて聞きたいことがあるのです」
「んー?もちろんいいわよ、何でも聞きなさい」
エリアルは指を鳴らし、ハチドリが座る用の椅子を生成し、ハチドリはそれに従って腰を下ろす。
「ディード殿と決着を付けたいのですが、実際に一度相対しても何もわからなかったので、奥様なら知っているかと!」
「なるほどディードねえ……ハチドリ、あなた、寝惚けている状態で、指一本でどれくらいまでなら滅ぼせる?」
「はい……?えっと、刀無しで、闘気もシフルも無しで、ですか?」
「そうよ。しかも体には力を入れずに、ふっと適当に空間をなぞるくらいで」
「試したことは無いですけど……健全な世界軸を、何億か……ですかね?」
「世界軸……要は、分岐する無限の世界を内包した大きな世界を、それだけぶっ壊せるってことね?」
「はい!」
「ディードは恐らく、視線を動かす眼球の動き、それだけで世界軸が無限に破壊され続けるでしょうね」
「む、無限に……?」
「もちろん、無限には限界があるわ」
「???」
「一つの無限は、自身よりも大きな無限より小さいということよ。簡単に言えば、ある無限より在る無限+1の方が大きい」
「?????」
「ディードのそれは、全ての無限よりも無限に大きい無限。無と無の狭間、零と零の隙間にある、自身より前にあるものも、自身より後にあるものも、あらゆる全てを、全ての万物を超越した力」
「聞いても全然わかりません……規格外にも程がありませんか?」
「こういう時、チート性能って言うけど、シフルエネルギーが根源的に持っている性質の都合上、どんなチート能力も効かないしね。いや、それは私達が戦った全員に言えることか……」
「そうですね……常識を書き換えて攻撃を効かなくするとか、外部から肉体を強化するとか、敵と味方の区別をつかなくして手駒にするとか、相手を強制的に消滅させるとか、知識を持っている存在ならどんなモノでも問答無用で吸収するとか……そんなものに頼っている人はそもそも、奥様や旦那様にすら触れることも許されないですよね……」
「言葉はアレだけど、ウチで一番弱いドラセナでさえ、出力的には全力なら太陽真っ二つよ。手加減しすぎて力をほぼ失っていた異史の千早も、宇宙まるごと消し去ることだって出来たんだから」
「アリシアさんの王龍結界であるこの空間も、空と太陽はアリシアさんが作ってるんですよね!」
「ええ、そうよ。シフルの根源的性質は言うなれば雑魚が追いすがることを無効化するシステムだけど、限界を超えた出力を持つディードには、ありとあらゆる掠め手が無意味ね。空間を固める主体時間停止なんてしたら、こっちが耐えられなくて爆発四散よ」
「対等な実力ならば、ほんの僅かな時間を稼ぐことにも意味はありますが……」
「あのソムニウムと協力してボコボコにされたんでしょ?」
「うっ……油断していたわけではないんですが、自分の想像よりも実力に差がありすぎて……なんというか……すごいインフレですよね……」
「まあ、ね。私の目の前に寝起きで多次元宇宙を纏めて数億滅ぼす女の子も居るし、旦那の宿敵は適当にやっても全部滅ぼせるし、来るとこまで来た感じあるわよねー」
「もっと強くならないと……」
「ま、世界始まった時から原初三龍とか始源の三王龍とか始まりの獣とか、強さの限界ギリギリのヤツそれなりに居るけどね」
「あれ、そう考えたらソムニウムさんってとんでもなく強い……?その本当の姿のアデロバシレウスさんも……?」
「楽しみね」
エリアルが冗談半分で告げると、少し不安そうな表情だったハチドリはすぐに破顔する。
「はい!強い人と闘うのはいつだって楽しみです!旦那様のためにもなりますし!」
「いやあ、私の知らない強さを知れてラッキーね」
エリアルは体を凭れ、ロッキングチェアの揺れに任せる。
「えと……」
「講義は以上よ」
「それって」
「ディードについて知ってることは以上。だってあいつの限界を調べる手段なんて無いし、私じゃ戦闘始まる前にワンパンなんだから」
「い、いえ!文句を言いたいわけではなく!貴重な情報をありがとうございます!」
「はーい、どうもね」
ハチドリは満足してその場を立ち去った。
「私も寝起き世界軸破壊チャレンジやってみようかな?」
エリアルは空に浮かぶアリシア手製の太陽を見上げて呟いた。
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