エンドレスロール【FINAL】:君の夢、潰滅の跡

美しい世界には 現実が蔓延っていた

希望だけでは物足りぬと

絶望だけでは物足りぬと


醜い世界には 夢が蔓延っていた

生だけでは物足りぬと

死だけでは物足りぬと


智慧を貪り 満ちぬ尽きせぬと

足りぬ足りぬと喰らい続け

頭蓋を破り まだ足りぬと


そう 見果てぬ啓蒙の辿り着くは

君の夢 潰滅の跡







王龍結界 ヴァニティ・キンドルフィーネ

虚無のような異常な静けさに包まれた白砂の砂漠に、アプカルと片耳のハチドリが相対していた。

「ふふ、お待ちしておりましたわ♪」

「奥、様……?」

「うふっ……まあ、正解、ですわね♪ええ、もはや説明すら必要ないでしょう……わたくしはアプカル。始まりの獣、アプカル・フィーネですわ」

 ハチドリは鯉口を切り、脇差を抜く。

「まあ、誰でも構いません。この世界で私の前に立つのなら……」

「ええ♪わたくしの旦那様の妻として相応しい、この上なく純粋無垢な愛ですわね♪」

 アプカルは灰色の鎧のような竜人形態となり、宇宙の淵源を垣間見るような蒼の刃を備えた鎌を生み出し、右手に握る。

「わたくしの知らないこと、教えてくださいましね?」

「斬る……!」

「うふふ……」

 構えたハチドリに対して不敵な笑みを見せると、突然の地鳴りに襲われる。

「何が……!」

 地平線の彼方から超巨大な津波が現れ、両者を一気に飲み込む。

「……」

 一瞬にして砂漠を海にしてしまうと、海中で底へ向けて凄まじく、巨大な渦が起こる。間もなく渦の壁を貫いて、頭足類のような触腕が靡き、異形の三つ割れ顎の竜が現れる。

「奥様……!」

 ハチドリを正面に捉えると顎が開き、そこから光線状になった巨大な激流を吐き出す。激流は吸引力を生じさせながら肥大化し、撃ち切る瞬間に極太になる。ハチドリは海中だが変わらず身軽に躱し、そこに竜が大口を開けて突進し噛みつく。なおも躱しながら口内に赤黒い太刀を投げつけ紅雷を落とし、蒼い太刀に怨愛の炎を宿して強烈な一閃をぶつけて一つの顎の先端を折り取る。竜は悶えて退き、渦から飛び出してその外から巨大な水球の弾幕を張って叩き込む。ハチドリは躱しながら赤黒い太刀を手元に戻そうとし、その勢いで太刀が刺さっている竜ごと引き寄せ、渦の中に引き戻す。勢いで赤黒い太刀が抜けて手元に戻り、立て直した竜が吠えてハチドリの周囲に大量の円形の激流を起こして収縮させる。異形の大剣を呼び出して爆発させることで相殺し、異形の刀に持ち替えて大量の斬閃を撒き散らし、再び極大の激流を発射しようとした竜を怯ませ、間髪入れずに巨大斬撃光線で両断する。竜が悶え、渦の底へ引き寄せる力が急激に強くなる。


深淵領域 ヴァニティ・キンドルフィーネ

「ハッ!?」

 ハチドリが意識を取り戻すと、そこは昏い深海の底だった。頭上から注ぐ淵源の月の蒼光が、淡く周囲を照らす。

「溟の闇は、夜の闇。闇を切り裂く光は、獣が夢見た、欺瞞の糸」

 アプカルは鎌の刃を撫で、いやらしく指でなぞり、弾いて金属の振動音を虚空へ散らす。

「淵源とは真如と無明の混じり合った混沌……アルヴァナ以前の虚無とは違う、智慧と啓蒙の狂乱こそが混沌、淵源そのものなのですわ」

 唐突に鎌を振り上げると、刃の通った道に冷気が撒かれ、海の中に氷塊を生み出し、ハチドリへ飛ぶ。分身を残してサイドステップを踏み、脇差を振り上げて地面に怨愛の炎を走らせる。海中ではあるようだが、お互いにそれで行動が変化しているような節はない。炎は鎌に打ち消され、アプカルは身体の内から微笑みを発する。

「胎生であれ卵生であれ、増殖でさえ……腸の中で見上げた夢見鳥……それが翅から零した鱗粉、光を、延々と刷り込まれ続けた。獣は皆、光に惑わされて歩いてきた」

 アプカルが左腕を振り抜き、送り込まれた冷気が一気に凝結して巨大な氷柱を形成する。爆発のように質量が巨大化し、弾幕のようにハチドリを牽制し、それに乗じて飛び上がり、極めて大振りに鎌を大上段から急降下しつつ振り下ろし、地表に冷気が解けて爆発する。ハチドリはその程度の挙動など相手にならないのか、氷柱の弾幕からして位置取りで回避し、振り下ろしに対しては軽いバックステップで完璧に避け、脇差に炎を宿して舞うような連撃を繰り出す。最後のハードヒットに合わせて飛び退き、左手から炎で象った苦無を三本叩きつける。

「ふふっ、わたくしの一部とは言え、エリアルのあの動きには感嘆いたしますわね……流石は、バロンと共に最後まで居ただけありますわ。わたくしなんて運動不足で……」

「ッ……!!」

 ハチドリは一気に勝負を決めんと、蒼い太刀を抜刀して刀身に怨愛の炎を宿し、渾身の力で横縦と切り裂く。アプカルは当然のように吹き飛び、地を滑る。ハチドリは飛び上がり、追撃のために右手を構える。右手に異形の大剣が握られ、そのままアプカルの胴体を貫いて地面に縫い付け、憎しみが滾る蒼炎で灼く。アプカルは粒子となって逃げ、多少距離を取ったところで再生する。

「不滅の太陽、月の落涙、濡れそぼつ大蓮華……真如の光、無明の闇……怨愛の炎、真炎、真雷、絶氷……人の六つの罪、神の三つの罪……」

 ハチドリは大剣を杖に変形させ、電撃の刃を形成して薙ぎ払い、槍に変形させて強烈な刺突を叩き込み、背から翼を一時的に生やして叩きつけ、水の爆発で追撃する。だがアプカルは意に介していない。

「この世界には本当にたくさんの物事がありましたわね。他のことにも使えたはずの便利な力は、突き詰めると暴力の役にしか立たない」

「……」

「ですが、それも詮無きこと。最終的な正解は、暴力にこそあるのは仕方ありませんわ。それが事実ですもの。言葉では精神に傷がつくだけ。智慧では認知が傷つくだけ。肉体がなければ、認知も精神も現世に形を表せませんわ。形を持たぬということは、干渉する手段もない」

 アプカルは人間の姿に戻り、両手を頬に添えて恍惚な表情を浮かべる。

「うぁあ……っん♡わたくしに蓄えられた智慧、吟遊、沈溺……その全てが渾然となってわたくしの身体を高速で巡り……嗚呼、旦那様……わたくし、終に至りましたわ……あなたを蕩かし、その瞳を奪ってまで欲しかった、究極の啓蒙に……くふ、ふふ、ふははははっ♪」

 膨大な冷気を全身から放ち、そして覆う。竜人形態の上半身が現れたかと思えば、巨大な頭足類の触腕のようなものが三本生え、白濁した粘液を体表に纏って威容を現す。

「アデロバシレウス、わたくしの旦那様。あなたの瞳を通して世界を見たのは狂人ではなく、わたくし。あなたの瞳も、あなたの記憶も、存在も、その全てにわたくしが居ますわ……」

「おく、さま……?」

「もちろん、あなたの中にいる旦那様にも、ねえ?」

 アプカルは巨大な大鎌を生み出し、大振りな動きから薙ぎ払う。巨大な蒼光の刃が飛んでいき、ハチドリは当然のように回避する。それに合わせてアプカルは溶け、ハチドリと高度を合わせて再生し、大鎌を全力で薙ぎ払い、そのまま高速で二回転する。分身を砕くに留まり、反撃に繰り出された赤黒い太刀の一閃を、足元で結晶を爆発させて後方に飛び、紅と蒼の光弾を大量に射出する。紅は直線的に、高速で狙い、蒼はゆっくりと追尾する。ハチドリが紅の光弾を打ち消しつつ一気に接近し、アプカルは大鎌から蒼光を一気に放出して光波を飛ばす。光波は爆発し、極彩色の波動を放ちながら分身を破壊し、頭上から大量の杖の幻影を生み出して降り注がせる。別の分身を生み出して加速して回避し、そこに口から放たれた光線が重ねられ、軌道上に巨大な結晶が乱造されて爆発する。続いて薙ぎ払いからの光波を放ちつつ、回転をかけながらブーメランのように放り投げ、ハチドリは異形の大剣に持ち替えて四連斬りを繰り出す。爆発を往なし、光波を打ち消し、鎌を弾き返し、四段目で触腕を一本切り落とし、追加でもう一撃加え、大鎌と競り合う。

「その淀んだ魂……本当に奥様なのですか……?」

「最初に言ったでしょう?まあ正解、だと。わたくしはアプカルであって、エリアル・フィーネではありませんわ」

 アプカルは切断された触腕を再生し、ハチドリを狙って二度薙ぐ。素早く感知して飛び退き、アプカルは大鎌を右から薙ぎ、一回転し、もう一度薙ぎ払う。鎌の刃自体を当てるのではなく、放たれた光波がハチドリのギリギリを削るように飛んで爆発する。

「奥様……いえ、アプカル殿。奥様のお役目を継ぎ、旦那様の全てを継いだ身として……あなたのその昏い妄想、天を突き破った智慧を、啓蒙を……断ち切ります!」

 爆発を逸らしながら、ハチドリは赤黒い太刀に持ち替えて分身を使って高速移動する。

「ふふ……わたくしは怨にも愛にも興味はありませんの。ただ智慧だけが欲しい……」

 アプカルは再び海中に溶け、赤黒い太刀の一閃は虚空を裂いてハチドリは着地し、納刀する。

「……」

 周囲に蝶の群れが現れ、雪のように鱗粉が降り注いでくる。ハチドリは周囲を見回しながら、緊張を緩めずに警戒し続ける。

「沈溺に彷徨った果実は、やがて炎を帯びて神へと堕ちた。吟遊に彷徨った果実は、やがて夢を抱えて理へ至った。智慧に彷徨った果実は、全てに死穢を与えて滅びた」

 紅い蝶、灰色の蝶、蒼い蝶……その群れが集い、螺旋を描く彼方から、ひときわ強く輝く一頭の白い蝶が舞い降りてくる。蝶たちは全て融合し、凄まじい閃光を放ち、再び視界が塗りつぶされる。


深淵領域 オニャンコポン・カタカリ・タタリ

 次に到達したのは完全に夜の闇に包まれたニルヴァーナだった。中天には煌々と蒼い月が輝いており、程なくして刃が赫々たる怨愛の炎を帯びた大鎌を携え、アプカルが現れる。

「智慧とはかくも昏いもの。欺瞞に満ちた真実の糸」

 大鎌を振るうと、光波と合わせて熱波が放出される。更に熱波の通り過ぎた後には結晶が牙のように競り立ち、爆発して粒子を撒き散らす。盾となった分身を猛烈な速度で侵食し、付着したハチドリの身体をも削り取っていく。ハチドリは傷口を鋼で塞ぎつつ、右半身を覆って脇差に歪な刀の像を被せる。

「ん……」

 大鎌を薄水に突き刺し、その水面に巨大な渦を起こしてアプカルはそこへ逃げる。脇差の一閃が足場を切り裂き、ハチドリは大量の火薬を纏わせた分身を渦の中へ飛び込ませる。爆発とともに間欠泉のように水が吹き上がり、現れたアプカルは大鎌の刃を破却し、多数の房に分かれた鞭を先端に生成する。一振りで無数の刃が行き交い、空間を引き裂きながら光波を飛ばす。ハチドリは爆発で相殺しつつ分身を上へ飛ばして注意を逸らしつつ、煙の向こうから異形の大剣を構えて突っ込む。瞬間移動を駆使した四連斬りから、直接アプカルの身体に大剣を突き立て、大爆発を起こして吹き飛び、着地する。アプカルの巨体はぐらつき、倒れ込む。

「嗚呼……智慧では、足りませんの……?」

 鞭を形成していた光は失せ、アプカルは完全に地に伏せる。

「……」

 そこに大量の蝶たちが舞い降り、そして白い蝶が降り立ち、蝶たちはアプカルに吸収される。彼女が息を吹き返し右手をつくと、それだけで地面に燐が溢れ、燃える。掴み直した取手の先端からは、赫々たる鎌の刃が形成され、体表を血管のように炎が循環しているのが見える。

「ふふ……この好奇心くされが……そうですわね、智慧の前には、あなたへの愛があった。それは間違いありませんわ。そう、あなたへの愛が満ち満ちていたからこそ、わたくしは愛などには興味がない……」

「アプカル殿……」

「愛とは三つですわ。裏切らないこと、記憶すること、優先されること。わたくしと盲目の王だんなさまは決してそれを反故にしなかったからこそ、わたくしは智慧をここまで蓄えられた……」

 頭足類のような巨大な下半身を分離し、元の竜人形態だけが抜け出て立ち上がる。彼女の身体は燃え上がり、総身を赫々たる炎が包み込む。

「ハチドリさん、好奇心の最大の敵が何かご存知?」

「……」

「満足、ですわ。飽くなき願いだったはずなのに、満たされてしまうことですわ。何事にも終りがあり、それが正しい選択だったとしても、わたくしは終わることを厭うたのです。なのに終わってしまうこと、そんなことを認めることは、自分自身を否定してしまうのと同義ですわ」

 アプカルは独特に低く構え、鎌を後方に添える。

「啓蒙への欲求は終わらない。わたくしから切り分けられた果実がどれだけ満たされようが、わたくしの好奇心が満たされたとはなりませんのよ……!」

 突然踏み込み、超低空を飛びながら鎌を振る。軌道上に火柱が連続で上がり、左腕で飛び上がって空中に逃げたハチドリへ縦斬りを合わせる。防御に使われた脇差を剥ぎ取り、高速で一回転分の勢いをつけてもう一度薙ぎ払うが、ハチドリに微上昇されて避けられ、脳天に籠手による高速の打突を受けて叩き落される。アプカルが受け身を取ると、ハチドリは着地とともに爆発させて煙に巻きつつ間髪入れずに蒼い太刀を突き出して突進し、アプカルは左前腕に真水鏡を生み出して弾き返す。

「……!」

 瞬間、アプカルは鎌の刃に全力を注ぎ込み、一閃してハチドリの首を断ち切る。頭部を失ったままの身体で追撃の切り返しを弾きつつ飛び上がり、宙を舞う自分の頭を掴んで繋げ直す。その隙を狙って鎌を振り、光波、熱波、結晶波の三つを複合して飛ばす。赤黒い太刀を波に投げて両断し、重ねられた杖の雨から爆発と瞬間移動で逃げ、更にその上に重ねられた二色の光弾の直撃を受ける。アプカルはそれとほぼ同時に頭上を取って振りかぶっており、脳天を捉えて刺し貫き、だがハチドリは顔面を切り裂かせて強引に離脱し、手元に戻した脇差の一閃で今度はアプカルの左腕を斬り飛ばす。そのままの勢いで脇差を脇腹に突き立て、左腕が再生するよりも先に離脱して着地する。遅れて着地したアプカルは力む。

「まだですわ……こんなところで終わってはダメですの……!」

 今度は全身から輝く炎、左手に炎と淵源の蒼光で象った鎌、背から蝶の翅を生み出す。アプカルは前方扇状に輝く熱波とともに音の塊を飛ばし、それが滞留してから爆発する。アプカル本人は目視が困難なほどの殺人的な挙動で回り込み、飛び込んで超低空を削るように鎌を振り、位置取りで避けられたところに飛び上がって捻り回転を加えながら鎌を振り下ろし、完璧なタイミングで弾かれるものの怯まずに振り上げ、一回転で二回斬りつける。もちろん全ての攻撃の軌跡に炎が付属し、中途半端な速度で追従するために防御を強制的に延長させる。そして鎌での攻撃が終わった瞬間に左の鎌を振り抜いて人魂のような熱波と強烈な音波を発生させ、再びの肉薄から鎌の連撃を繰り出そうとしてくる。ハチドリは篭手から火薬ではなく、紫色の粒子を撒き散らす。アプカルに付着した瞬間、彼女の表皮を激烈に蝕む。そして篭手から展開した鋼の盾の表面に火薬を付けて鎌を受け止め、爆発を含めて威力を大幅に減衰させる。強引に身体の制御を取り戻したアプカルは右鎌の外側の刃で薙ぎ払いつつ飛び退き、素早く光波を飛ばす。猛烈な速度で距離を詰めてくるハチドリに対して、アプカルは鎌を構えて舞うように回転し、炎を引き連れて高く飛び上がる。ハチドリの刺突を空かしつつ、両方の鎌を着地と同時に地面に叩きつけ、巨大な熱波を二つ前方へ飛ばす。ハチドリが咄嗟に分身を盾に翻りつつ一歩引いたところに、即座に全身を使って回転しつつ鎌を振るって仕留めにかかり、弾かれ、左鎌でなおも引こうとするハチドリを捉え、引き寄せる。右鎌による追撃を繰り出そうとした瞬間に籠手の爆発による反撃を受けて吹き飛び、左鎌を消して複合波と音波を同時に繰り出す。続けて左手を虚空に突っ込み、光波に対し分身を盾にしたフロントステップで距離を詰めようとするハチドリの真正面の時空を貫いて複数本の腕足を出現させて攻撃する。ハチドリは慌てずに像を被せた脇差で時空の歪みを両断し、右側に一気に突っ込んで飛び上がる。アプカルは周囲を炎上させつつ、両手から鎌を消して祈り、衝撃波を起こしつつ頭上から大量の光線を放つ。ハチドリは往なしつつ着地し、アプカルは鎌を両手に戻して、右鎌の切っ先を地面に擦らせながら凄まじい速度で駆け抜ける。軌跡に冰気が滞留して炸裂し、反転しつつ飛び上がって右鎌を振り上げ刀身に淵源の蒼光を宿し、ハチドリ目掛けて急降下して振り下ろす。冰気の波濤を広く起こして回避を拒否し、追従する炎と共に演舞のように鎌を振り回しながら飛び上がり、再び着地して同時に振り抜き極大威力の熱波を飛ばす。ハチドリは冰気の爆発を往なしながら異形の刀を右手に持ち、接近する。

「わたくしを導く光の糸――」

 左鎌を消しつつ右鎌に強烈な淵源の蒼光を宿し、ハチドリの一閃に合わせ、鎌を大きく薙ぎ払う。最大出力の光波が放出され、異形の刀の変異を解除し、脇差を弾き飛ばして相殺する。接近しつつ赤黒い太刀を抜き放ち、鎌と遂に激突する。そして柄を両断し、蒼い太刀を抜き放って首を断ち、赤黒い太刀を手放しつつ翻ってアプカルの胴体を貫く。引き抜きつつ身体を向き直して血振るいし、蒼い太刀を背に戻す。アプカルの胴体は後ろに倒れて消滅し、残ったのは頭部だけだった。

「わた……くしには……まだ……」

 ハチドリは歩み寄り、頭部を右足で踏みつける。

「嗚呼、駄目……わたくしから智慧を、啓蒙を奪わないで……」

 そしてより強く踏み、潰れてひしゃげ始める。

「駄目、だめ……わたくしのみた、しんかいの、ゆ」

「……」

 ハチドリは変わらぬ昏く淀んだ瞳で、砕け散ったアプカルだった液状の何かを見つめていた。

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