☆与太話:服は着ろ

 布団で簀巻きにされたオオミコトがバロンのベッドの上で口を塞がれていた。その前には、バロンたち屋敷に住まう全員が立っている。

「これが王龍オオミコト……」

 アリシアが呆れ気味にそう言うと、オオミコトは身動ぎして口の戒めを解きつつ言葉を返してくる。

「そうとも。朕は始源の王龍、オオミコトなり。そう言うヌシは王龍グノーシスじゃな?」

 アリシアは答えずに視線を外し、バロンへ向く。

「こんなものが生命の根源だと言うのか、主」

「……不服ながらな。お前も王龍なら感じ取っているだろうが、凄まじいシフルエネルギーの奔流を纏っている。人間の姿に自身を貶めることが出来る最低限ギリギリのパワーだ」

 アリシアが視線を戻すと、オオミコトはもぞもぞと動き、謎の液体が布団から染み出してくる。

「汚っ」

 フレスが思わず口にすると、オオミコトが即座に言葉を返す。

「汚いとは何事だ!朕の母乳じゃぞ!」

「その薄っぺらい断崖からそんなに出るわけ無いでしょ!」

「おごぁっ!?朕の気にしているところをよくも!」

 フレスを手で制し、メイヴが加わる。

「それで、バロンはアタシたちをここに呼んでどうしたいわけ?新しい側室の紹介?」

 バロンはそちらへ向くと、肩を竦める。

「……遠からずだな。彼女をこの家に住まわせていいか、それを聞きたい」

「特に否定する理由もないわよ。アタシはね。アンタは?」

「……常に全裸で母乳と愛液を垂れ流す龍は傍に居てほしくない」

 その言葉を聞いて、オオミコトは露骨にショックを受けた表情を見せて会話に割り込む。

「ちょっ、ちょっと待て!アデロバシレウス、ヌシは今なんと言った!?ば、馬鹿な……これで発情せぬ雄がいるのか!?」

「……お前が歩き回るたびカーペットが汚されては敵わん」

「うぐぐ……」

「……調整できるなら普段は出すな。それと服を着ろ」

「まあ仕方あるまい……」

「……シマエナガ」

 バロンが促すと、シマエナガが素早く前に出てオオミコトの拘束を解き、バロンのものと思しきシャツを着せる。

「……イーリスに用立ててもらうまではそれで過ごせ。わかっていると思うが……汚すなよ」

 そして呼び寄せた全員に向けて、バロンが告げる。

「……解散だ。無駄な時間を使わせて済まない」

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