キャラ紹介:王龍マザーハーロット

 絶海都市エウレカ バロン邸

 モダニズム建築様式の邸宅、中庭のプールを望む大きな窓ガラスが嵌め込まれたリビングにて、これまたその広さに見合ったソファに、アウルが腰かけていた。アートブックを読みつつ、透明度の高いネグリジェに下着一枚という、いつもの部屋着で寛いでいる。

「……」

 アートブックを閉じ、眼前にあるガラスのテーブルへ置く。程なく背後から、腹を抱きかかえるように赤い竜の尾が現れる。

「空虚だな」

「離れてください」

 アウルは溜息と共に告げると、右手で尾を引き剥がし、立ち上がる。窓際まで歩いていくと、光の反射で背後が映る。そこには、二本の角が生えた赤い竜の頭部があった。

「いやはや、瀕死のヌシを拾ったまでは良かったが、まさか宙核のおらぬヌシの普段の生活が、ここまで詰まらぬとは想像しておらなんだ」

「人に勝手に憑りついておいて何を言うんですか」

「じゃが、ヌシはまた宙核に会いたいのじゃろう?ならば妾とヌシが一心同体となったのもまた、お互いに利益のあることだ」

「王龍マザーハーロット……あなたは一体、何がしたいんですか」

「妾のしたいこと……まあ、愛、その形を知ること……かのう?人は語り継ぐ歴史を選ぶが、妾は……清廉潔白な、おおよそ道徳に照らして純粋な愛ももちろん、憎悪の果てにあるものも、後悔の果てにあるものも、また愛とも呼べぬ蹂躙をも、全てを書き留めておきたい」

「そうですか……勝手にしてください。私と一緒に居る限り、純愛以外は知れませんよ」

「ま、それもよかろ。全ては愛のためよ、ヌシが己の愛のため妾の力を必要とする限り、妾はヌシを裏切らぬ」

「ふん……」

 アウルは竜の頭の横を通り過ぎ、異様に広いリビングを越えて廊下へ消えていった。

「くくっ、これほどの静寂もそうそう味わえぬか」

 竜の頭は彼女の後を追うのだった。

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