エンドレスロール:兎と狐のラプソディー
エンドレスロール 王城セミラム・グラナディア
「始祖様、ってヤツを知ってるかい?」
星の海を模したような内装に、賭博用の回転円盤が床に嵌め込まれた、奇怪な部屋。その最奥に配された玉座に、来須がふてぶてしく片肘をついて座していた。
「ヴァル=ヴルドル・セミラミス……?」
ちょうど現れた片耳のハチドリが珍しく少々困惑気味に返すと、来須は笑んで続ける。
「ああ、そうだよ。いやまあ、私は来須月香なんだから、グラナディアの遠い祖先であるセミラミスのことなんてどうでもいいんだけどね」
「……」
「尤も……完全同位体のことを100%無視できるほど、私は無力じゃないけどさ」
来須が立ち上がり、首を鳴らす。
「さてと……君は今噂の怨愛の修羅ってヤツ……だよねえ?不貞純愛の果てに生誕した、地獄からの使者」
「天国の外側……」
「ああ、ごめんごめん。あくまでも地獄じゃなくて天国の外側ってことだっけか。正直戦闘狂の考えることはよくわかんないなぁ……」
来須は腰に佩いていた赤黒い直剣を抜き、刀身がスパークする。
「ま、この世界で他の誰かに会っちゃったってことは……要するに戦え、ってことだよね?」
「その通り……」
ハチドリは鯉口を切り、ゆっくりと脇差を抜く。
「この世の涯はただ一つ。戦いに尽きる、死の淵のみ。天寿を全うするなど許されない。生き尽くし、戦いに果てることのみが、許された末路」
「ハッ、大層な説法だよ」
来須はどす黒い怨愛の炎を飛ばしつつ、瞬間移動からの刺突でハチドリの胸部を正確に狙う。だが平然と脇差に遮られ、炎は赫赫たる怨愛の炎に阻まれ、直剣を弾き返されてからの爆発で加速した左拳を腹に極められて吹き飛ばされる。
「ッゥ……!?」
強烈で鈍い衝撃を受け、来須は大きく後方に下がりつつも倒れず、不敵な笑みを浮かべ続ける。
「結構効いたよ、今のは……私の……いや、私〝たち〟〝僕たち〟かな?」
来須は両腕を広げ、力む。すると彼女の華奢で白い腕がもりもりと膨張していき、黒い苔と白い蔦に覆われた姿へ変異する。右腕は盾のような機能を帯びた剛腕に、左腕は槍のごとき鋭利な鰭に変わっているようだ。
「僕たちの力、その集大成を君に見せてあげるよ」
「この恨み……空の器にも勝るとも劣らないほどの憎悪……」
「あんな奴に負けてるつもりはない!」
来須は先ほどよりも速く、更に凄まじい気迫を伴って突進し、左腕を突き出す。分身を盾に躱され、炎を纏って降下したハチドリが爆発し、そこから舞うような連撃を繰り出す。盾のごとき右腕に防御され、来須は連撃の最中でも被弾も厭わず怯まずに左腕で脇差を弾き返し、もう一閃を当てて硬直させ、隙を見て右腕でハチドリの頭部を鷲掴みにする。が、掴んだのは分身で、逃れたハチドリは一歩退いて蒼い太刀を抜き、炎でリーチを伸ばして十字に切り裂く。来須はさすがに堪えきれずに後退するが、即座にサイドステップから右腕を蔦に変え、突進から掴もうとする。宙返りつつの脇差の一手で蔦は切り裂かれ、納刀と共に着地し、左手での撃掌からの火薬で脇差を射出し、大型の六連装を抜いてフルバーストを叩き込む。
「強さの次元が違う感じ、するね」
来須は右腕を元に戻しつつ、少々の苛立ち混じりに呟く。
「……」
「全力で動いてないんだろう?それとも修羅様は、殺気を消すのが上手いのかな」
「お察しの通り……戦いでこそあれ、死を
「脅威だな……私の生きてる時代に生まれて来なくて、本当に助かったよ。だって君、あの白金さんとまともに打ち合えるんだろう?強いとか、強くないとか、そういう次元の話じゃなさそうだね……」
「ソムニウム……」
「まあいいさ」
来須は全身を黒い苔の鎧で覆う。
「ここでの戦いは何者の記憶に残らない。今いるこの私に対する損害も無い。どんな風に戦おうが自由ってこと」
「……」
来須が飛び上がり、右腕を床に叩きつける。扇状に蔦が床を割りつつ進み、黒い苔の塊が鋭利に隆起して続き、そして爆発する。瞬間移動からの舞うような連撃を繰り出すと、来須も合わせてバックステップで避け、左腕を突き出して突貫する。ハチドリは連撃を即座に中止して強く弾き、今度はハチドリが脇差を突き出しつつ突進する。挙動によって変異の緩んだ左肩口に脇差を捻じ込み、爆発して上昇しつつ脇差で薙ぎ払い、二連蹴りを叩き込み、左腕を突き出して爆発させる。来須は爆風の中から超高速で現れ、左腕の刺突から薙ぎ払い、大きく振りかぶって右腕を振り抜き、強烈な裏拳によってハチドリを吹き飛ばす。
「これは……」
ハチドリは難なく立て直し、正面へ注意を向ける。来須は真雷を全身に迸らせ、更に両腕にどす黒い怨愛の炎を宿す。
「そんなに純粋に誰かを愛していられるなんて、とても不幸なことだよ。ああ、可哀想だ、とっても、とってもね……」
「……」
来須の言葉は明らかに罵倒ではあるが、ハチドリは特に反応を示すでもなく、炎の勢いを安定させる。
「誰かに裏切られることが無かったんだね、君は!」
電撃を残しながら超光速で瞬間移動を二回繰り出し、左腕の突き出しを放つ。ハチドリも分身を残して躱し、現れて二連斬りを繰り出すと、来須は再び電撃で自分の体を押して瞬間移動で前後移動し、左腕にて切り上げ、電撃を放出して急加速して翻って一閃し、飛び上がってから右腕を床に叩きつけ、真雷を爆散させつつ苔を隆起させ、爆発を大きく押し広げていく。ハチドリは脇差にて真雷を受け止め、着地しつつの薙ぎ払いで苔を破壊し、両者が同時に前へ出る。赤黒い太刀と左腕が火花を散らし、ハチドリが先んじて二連斬りを繰り出しつつ上昇し、頂点にてもう一閃重ねたところを右腕で凌がれ、着地を伴う瞬間移動に合わせ来須は後方に瞬間移動し、追って瞬間移動からの赤黒い太刀にて苔の鎧を断ち切り、その傷口に突き刺す。そのまま紅雷を落として来須の左腕を千切り飛ばす。だが素早い反応にてテイクバックを取りつつの豪快な蹴り下ろしを振るい、ハチドリに防御を選択させて若干後ろに下がらせつつ、竜化する。同時に爆炎が迸り、兎を模したような長い垂れ耳を持った竜人形態、月詠が顕現する。
「ッ……!」
変身に伴う爆炎の範囲にハチドリを巻き込むことで変身の隙を潰しつつ、先手を取って両腕を同時に振り抜いて直線状の熱波を飛ばす。分身で避けて接近しつつ、頭上を取る。
「この世の涯はただ一つ……!」
左腕を振って大量の火薬を撒き散らす。
「同じ炎を使っている同士、もっと燃えようじゃないか!」
月詠は先んじて自身から沸き立つ紅蓮にて火薬を着火させ、壮絶極まる大爆発を起こす。同時に真雷で自分を後方に吹き飛ばし、その範囲から可能な限り逃れつつ、両腕を突き出して真雷と怨愛の炎を融合させた極太の光線を撃ち出す。軌道上だけではなく、ブレて飛び散った炎がより広範囲を破壊し、更にその光線のエネルギーを拳に蓄えたまま飛び上がって床に叩きつけ、強烈な爆発を起こす。最後に立ち上がって咆哮し、体内に残る力を一瞬で圧縮しつつ全開放して周囲を粉砕していく。その最中をほぼ無傷でハチドリは抜けてくるが、月詠は油断することなく口許に爆炎を滾らせ、超特大の火球を彼女へ撃ち込む。だがそれを上回る爆発によってまたも切り抜けられ、月詠は蒼い太刀の一撃にて両断される。
「己の無力を痛感するっていうのは……いやはや、いつでも腹立たしいね……」
月詠は来須に戻りつつ、両半身が床に激突して砕け散る。着地したハチドリは武器を収め、一息つく。
「狐の
その場に落ちていた掌サイズのシリンジを拾い上げ、立ち去った。
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