☆☆☆エンドレスロールEX:真なる覇者の伝説

ここに顕現するは 大いなる力の化身

あらゆるイデオロギーにも属さない 真なる覇者の伝説


死なずの世界に座した覇王は 全てを喰らい引き継いだ

同胞の無念 宿敵の怨嗟 そして彼らの誇りも


果てには女王の燻りさえ飲み下し 彼は燃え盛る戦乱の時代を切り拓く

燃え尽きた地平から 新たな芽吹きがあると信じて








 エンドレスロール 超複合新界・神子の護所

 黄昏が埋め尽くす、球状の世界。前時代の瓦礫が突き刺さる大地の最中、巨大な城の残骸にハチドリは到達する。眼前には巨大な鉱石が祭壇のように祀られているが、肝心の鉱石そのものは中心で割れ、酷く欠損している。

「ここは……」

 ハチドリが足を踏み入れると、鉱石が完全に二つに割れ、そこからバロンを超えるほどの大きさの男が姿を現す。

うぬと再び出会おうとはな、バロン」

 大男はハチドリへ歩み寄る。

「私は……」

「バロンだ。汝は既に、その誇りを帯びた時点でバロンそのものに他ならぬ」

「あなたはバンギ……ですね」

 大男は立ち止まり、腕を組み、頷く。

「いかにも。我はバンギ……ヴァナ・ギラス・ヨーギナ。かつてムスペルヘイムを統べし覇王だ」

「相手にとって不足なし……」

 ハチドリは脇差を抜き、構える。

「征くぞバロン!今再び、汝に我が拳を叩き込んでくれるわ!」

 バンギは拳を構え、全身から闘気を沸き立たせる。それだけで大気が振るえるほど壮絶な気迫を生み出し、そして踏み込みから光そのものとなって突っ込んでくる。拳が届いてから実体化し、ハチドリはその剛拳を脇差で弾き返す。即座に重ねて振り下ろされた左拳を分身で往なし、隙に二連切りを差し込もうとするが、バンギは振りを潰すように光速で避け、もう一度その場に現れて渾身の右拳を直撃させてハチドリを吹き飛ばす。もはや諧謔や漫画のように思える出鱈目な回転をしながらハチドリは地面を転がり、辛うじて地面と身体の向きがあった瞬間に脇差を突き立てて堪える。

「なんという剛拳……!」

 ハチドリは立ち上がり、バンギは再び光速で迫る。脇差で拳先を弾き下ろし、次の拳打を分身で防御し、光速で隙を潰し――爆発で拳の勢いを潰しつつタックルを伴う踏み込みで押し飛ばし、両手で持った異形の大剣を振り上げ伴う蒼炎を起こす。バンギは素早く反応し、少々身を焼かれつつも闘気の鎧で軽減し一歩退き、瞬時に両腕に練り上げた莫大な闘気を撃ち込む。ハチドリは籠手を握り締めて爆発させ、威力を相殺しつつ炎の槍を形成し、空へ撃ち放つ。更にバンギが踏み込んで拳を振り下ろすとステップで逃げ、即座に脇差を突き出しつつ突進する。同時に頭上から大量の炎の槍が降り注ぎ、脇差がバンギの左胸に突き刺さって捻りつつ肩に飛び乗り、引き抜きながら首筋を切り裂いて飛び退き、炎の槍も全て直撃する。ハチドリは着地とともに逆手に持っていた脇差を順手に持ち直し、立ち上がる。

「負った誇りに相応しい力よ」

 身体に集っていた炎を打ち消し、バンギは無傷で振り返る。

「戦いに生きる者は、斃した敵の全てを受け継ぐ。無念も、執念も、誇りさえも」

「全てを……」

「そうだ。我らは、奪い取った人生の重みを、次に踏み降ろす一歩に感じるのだ。汝とて同じだろう、修羅よ」

「私は……旦那様のために、全てを。我が身を憎み、旦那様への愛だけを穢さずに前に進むのみ」

「愛か。我にはそれがわからぬ。わからぬのだ。女王と身を交え、子を次代に遺そうとも……我にはわからぬのだ」

 再び莫大な闘気を帯び、バンギは構える。

「だが汝の焔から感じるこの熱量……我が胸を焦がす大いなる燻り……バロン、そしてアグニからも激しく滾り……そして神子と、メイヴからは感じなかったもの……」

 両腕で円を描いて構え、絶大な闘気を練り上げる。

「受けよ、〈天覇烈葬〉!」

 腕を突き出して撃ち放つ。ハチドリは脇差に歪な刀の像を被せ、その闘気の奔流を真正面から両断する。

「既に人の身を凌駕した存在だということか」

 バンギは腕を下ろし、今度は全身から更に強力な闘気を発し始める。

「極みに至りし我が力、今こそ天地を砕き、星をも喰らい尽くさん!我が名、〈巌窟〉!」

 絶大な闘気の嵐を起こし、それを打ち砕いて剛腕を備えた、まるで鋭利な岩塊が動き出したかのような竜人が現れる。

「我にとって、愛とは決して見留ぬもの。汝の焔の熱こそが愛だというのなら、我は薪までをも消し飛ばすのみ」

 揺らめく闘気に喚起されたか、砂の中に埋もれていた瓦礫たちが自ら浮き上がっては、巌窟に引き寄せられて砕け散っていく。

「ならば私は、あなたに愛を伝えるのみ」

 ハチドリは全身に赫々たる怨愛の炎を帯び、右半身を鋼で覆う。巌窟は上体を反らして腕を交差し、そして開いて咆哮する。圧倒的な音響とともに周囲の砂を巻き上げ、空間を捻じ曲げ千切り割る。引き裂かれた空間は即座に塞がれ、構え直した巌窟の体表からは蒸気が上がる。

「行くぞ、バロン!」

 右拳を地面に突き立て、その衝撃で鋭利な岩が次々と隆起し、ハチドリがステップで躱しつつ、右腕を盾として巌窟は地面を捲り上げながら突進していき、肉薄したところで右腕を振り上げ、地面から螺旋状の闘気を打ち上げ、そのまま力を凝縮し、全身から闘気の激流を解放する。彼自身が巨大な光の柱となり、それをただひたすらに暴力的な出力だけで押し広げ、ハチドリに回避すら許さずに猛攻に晒し続ける。解放し終えるのと同時に瞬間移動し、防御していたハチドリに左腕のアッパーを振り、彼女は前進で腕と足の合間に滑り込み、左手から莫大な火薬を撒き散らす。

「この世の涯はただ一つ!」

 赤黒い太刀を抜刀して紅雷を落として着火して超絶的な大爆発を起こし、反撃にバックステップしつつ振られた左腕に翻りつつ太刀を突き刺して後退しつつ、蒼い太刀を抜刀し、刀身に淵源の光を宿して振り抜き、光波を撃ち出す。振り戻す左腕に刺さった太刀に光波が着弾し、紅雷を発しながら爆発して、赤黒い太刀は吹き飛んでハチドリの背に戻る。砕け散った岩の鎧は即座に修復し、両者は呼吸を整える。

「悪くないぞ。かつて、我と汝の力は全く同質だった。いつまでも拳を交え続け、決して決着などつかなかった」

「あなたは旦那様のお心の中に、最後まで居た」

「そうだ。我とバロンの剛拳は、等しい力だ。我は天を望み、奴は愛を望んだ」

「同じ力、同じ拳、同じ……戦い」

 瞬間移動から右腕を薙ぎ、分身を盾に逃げ、左拳を打ち込む。拳先から闘気が弾け、拳には当たらずとも闘気を太刀で弾き返し、紅蓮を滾らせた籠手を左腕に突き立て、岩塊を引き裂きつつ突っ切り、右半身に鋼を纏って両手で太刀を構える。

「「……」」

 両者の視線が交わり、振り下ろす一瞬が異常に長く感じられる。凄まじい勢いの怨愛の炎を帯びた蒼い太刀が巌窟の脳天を深く切り裂き、めり込む。巌窟は膝から崩れんとしたところで踏ん張り、闘気を発して太刀を弾きつつハチドリを吹き飛ばす。ハチドリは軽やかに受け身を取って着地し、蒼い太刀を背に戻して脇差に持ち替える。

「この、熱量……」

 巌窟は空を仰ぐ。ハチドリもそれに従って空を見ると、空の果てから強大な力が接近しているのを感じる。

「(これは……)」

 光の柱が二人の間に突き刺さり、それに従って、一人の人間が降下してくる。

「我が、娘……か……?」

 巌窟の言葉通り、現れたのはシャトレだった。光の柱が消え、彼女は巌窟の頭部の高さで止まり、右手を伸ばす。

『偉大なる我が父よ、もうわかっているはずじゃ。その心に抱いた熱の姿、意味を』

「おお……汝から、暖かい熱を感じる……よもや、汝は愛を帯びていると言うか……!」

『妾は、父と母が叶えられず追い求めた、愛の姿を手にしたのじゃ。偉大なる父よ、妾をいだくのだ。親が子に向ける呪縛もまた、愛なのじゃから』

 巌窟は誘われるように、右手を伸ばす。シャトレの小さな指先に、彼女の身長の半分を占めるような大きさの指が触れる。するとシャトレは火の粉となり、巌窟に吸収される。

「そうか……好敵手ともを弔うこと、子を成すこと、全てが愛であったと……そうか……」

 巌窟の傷が言え、そして赫い炎を体内から発し、纏う。

「感謝するぞ、我が娘よ。汝が我に伝えた愛の姿が、我が身に燻る……炎を呼び起こし、遂に燃やし尽くせることを!」

「っ……!」

「全ては既に我が内にあったということか」

 巌窟は助走をつけつつ右腕を振り上げる。五本の爪痕が空間に残り、振り上げた勢いでそのまま飛び上がって反転しつつ両手を地面に叩きつける。分身を盾にしてからの即座の反撃を潰すようなその動作でハチドリに防御を選択させ、前方に溶岩を伴う爆発を連鎖させて押し込み、口許に滾らせた熱を解放し、熱線を放つ。硬直が充分でなかったかハチドリに容易に逃げ、火薬を投げつけて刀の像を飛ばして起爆し、巌窟は怯まずに巨大な火球を空に撃ち出す。それから小さな火球が次々とハチドリ目掛けて放出され、彼女は分身を使った加速を使って高速移動しつつ、巌窟は飛び込んで右腕を振り下ろし、爪痕が空間に残りつつ溶岩が直線に突き進み、踏み込みながら左腕を振り上げ、逃げるハチドリへもう一歩踏み込みつつ渾身の右拳を地面に叩きつけ、もう一段力を込めて殴り砕き、大爆発を起こす。ハチドリは分身を使った加速で更に深くバックステップして避け、その瞬間に踏み込んで刀の像を被せた脇差で二度振り大量の斬撃を叩き込みつつ、そのまま刀身に怨愛の炎を宿して舞うような連撃を繰り出す。巌窟は右拳を引き抜いた時に生じる火炎で威力を弱めつつ、全身から闘気を放って連撃を強制終了させ、重ねて短く熱線を交差させて吐き出し、軌道上で連続的に爆発を起こす。当たらずとも視界を妨害し、両手で挟み潰すようにしつつ、後退で避けられた瞬間に一歩踏み込み突き出し、指突を直撃させて吹き飛ばす。

「うぐ……ぉぁっ!」

 異常なほどの引きつけで吹っ飛び、背後の瓦礫に激突する。好機として頭上の火球が落下を開始し、右腕を振るって闘気の流れで体勢を立て直す前のハチドリを引き寄せ、肉薄から振り上げを直撃させて打ち上げ、火球に激突させ、練り上げた膨大な闘気を正面に構え、撃ち放つ。闘気がハチドリごと火球を砕き、壮絶な大爆発を起こす。

「あなたの炎、愛、誇り……しかとこの身に受け止めました」

 黒煙が晴れるとハチドリの姿はなく、彼女の竜化体〝余燼〟が顕現していた。ゆるりと着地し、翼を大きく開く。

「力と、その意味を知ったのなら後は……暴力を以て、全てを焼き尽くすのみ!」

「フハハハハハハ!そうでなくてはな、好敵手よ!我が拳を曇らせた燻りは消え、大いなる闘志となって現れた!ならばこれは児戯よ!」

「何の憂いなく、ひたすらに高みを目指す……!」

 右翼で刺突を繰り出し、左腕で往なしつつ右拳を繰り出す。左翼が盾となり、瞬間移動で姿勢を整えてから尾を突き出して先端に炎の刃を生み出し、胴体を焼かれつつも左アッパーによって余燼は仰け反る。

「アハハハハ!」

 だがあくまでも退かず、殴打を続けて受けつつも姿勢を戻して翼で応戦する。数発の拳の後に握られた左拳を右翼で弾き、肩口に届かせて突き飛ばし、即座に螺旋を描いて旋回上昇し、両翼を合わせて急降下し――

「生温いわァッ!」

 凄まじい威迫の右薙ぎ払いによって相殺され、重ねられた左拳が鼻面にめり込む。しかし予め蓄えていた炎を噛み砕いて爆発し、拳の威力を緩めつつ身を屈めて右翼で彼の足の付根付近を薙ぎ、振り上げ、そして翼爪を当てるように渾身の力で振り下ろす。再び左肩口を切り裂き、開いた傷口からは炎がバックドラフトのように急激に噴出し、即座に傷が癒え、次は右拳と左翼が激突して激しい火花を散らす。

「心地よい痛みだ……我の中の全てが燃え上がり、際限のない昂ぶりが五臓六腑を駆け巡っている!」

「旦那様……こんな熱りをこの方と感じていたなんて!アハ、アハハハハ!」

 左翼が振り払われて右拳も引き、瞬時に重ねられた左拳が顔面を強打し、その反撃に打ち込む右翼の先端が鋭く胴を突き刺し離れる。

「まるで性交のごときこの昂ぶり!安らぎすらあったアグニ殿とはまた違う、焔の輝き!あなたは真の意味で覇王、鋼すら焼き溶かす覇者なのですね!」

「汝にも最大の賛辞を送ってくれよう!汝の滾りはバロンをも越えた!これほどの猛者に、再び巡り会えようとはな!」

 両者は構え直す。壮絶な力のぶつかり合い故か、周囲の瓦礫は燃え尽きており、次第に黄昏の世界そのものも収縮を始める。

「えやあああああッ!」

「ぶありゃあッ!」

 右翼と左拳が激突し、競り勝った巌窟の拳が叩きつけられ、余燼が地面に倒れる。

「アハ……アハハ……!」

 笑いを隠しきれず吹き出しながら、余燼が立ち上がる。

「ああ、デジャヴとはこのことですね……」

 余燼がよろけながら二歩下がり、巌窟は彼女の呟きに笑みを見せる。

「よかろう。どちらが誇りを継ぐに相応しいか……」

「そうこなくては……!」

 余燼は左半身を引いて構え、右翼から凄まじい勢いで紅い闘気を放ちながら左翼に全ての力を結集する。巌窟もまた、両腕を交差させた構えで力を蓄えていく。力の溜め終わった瞬間、そのほんの僅かな一瞬に完全な静寂が訪れる。

「滅びよォッ!!!!!!」

 解放した右拳と左翼が激突し、視界を塗り潰すほどの閃光が放たれる。拮抗の涯にやがて拳が砕け、雪崩込むように巌窟の胸を貫いて背まで貫通する。

「見事だ……」

 翼を引き抜くと同時に、両者竜化を解く。ハチドリは酷く消耗しており、バンギに至っては身体の各部が塩へと変わり始めていた。

「愛を帯びるとは……決して恥でも、まして弱さでも無いのだな……」

 歩み寄り、ハチドリの顔に両手を添える。

「見せよ、我を破った者の顔を……」

 ハチドリは倍ほどの背丈を見上げ、視線を交わす。

「見事だ、好敵手よ」

 バンギはそして離れ、穏やかな笑みを見せる。

「バロン、その名を継ぐ者よ。我が力、そして誇り、全てを引き継ぐのだ」

 彼は右拳を突き上げ、残った全ての闘気を放出し、瓦解する。

「……」

 影法師のように地に伏せ象られた塩の山を見て、ハチドリは荒く呼吸していた。

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