☆☆☆エンドレスロールEX:夢見の粉の園

深き眠りに堕ちし者に この羽搏きは届こう

鱗粉を吸い 現に眩み 夢すら彷徨う者にこそ

嵐となりて全てを奪い 

有無の境界さえ朧に薄める


地に伏せた鱗粉が やがて炎の煤となる

空虚なる現実を歪め 焼き尽くす尖兵を従え

夢見の終を以て 三果実は再び成る







 エンドレスロール 茫漠の墓場

 どこまでも虚無に覆われたような、冷ややかな白砂の砂漠。その一区画となる、焼け焦げた地表に大量の墓石が突き立てられた墓地に、ラドゥエリアルとハチドリが相対していた。

「怨愛の修羅、か」

 ラドゥエリアルが〝明人之墓〟と彫られた墓石の上に座っている。膝に肘をつき、頬杖で柔らかな頬を潰しつつ呟く。

「お前が何を思ってここに来たかは知らないが……お前と私がこうして相対していること自体、本来ならば有り得ないことだ。と言うことは、ここはルナリスフィリアの中か。それならば、ヴァナ・ファキナが滅びたにも関わらずこの砂漠に居ることも納得できる」

「……」

「本来なら、我々は共に新世界に法を布く、相互不干渉の存在のはずだな?」

 ハチドリは頷く。

「だがルナリスフィリアの内部で出会うと言うことは……あの剣の意思は、私とお前が戦うことを望んでいる」

 その言葉に従うように、鯉口を切り、脇差を抜刀する。ラドゥエリアルはロッドを右手に呼び出しつつ、墓石を砕いて緩やかに着地する。ロッドの石突きで地面を強くつくと、鈴の音が鳴り響く。それと同時に紅と蒼の蝶が螺旋を描いて彼の下に集っていき、そして二人の周囲を灰色の蝶が嵐のようになって視界の果てを塞ぐ。

「修羅よ、蝶の羽搏きがもたらす破滅がすぐそこにある」

 ロッドが消滅し、ラドゥエリアルと融合を始める。そしてほどなく、輝きとともに竜化形態が顕現する。脚と一体化した翼は、紅と蒼の粒子が翼膜を象っており、遠目からは巨大な炎そのものを翼にしているように見える。

「行くぞ」

「……」

 右翼脚を薙ぎ払い、極彩色の波動が撒き散らされる。間髪入れずに左翼脚を振りかぶり、左右交互に高速かつ連続で叩きつけを繰り出す。回避することこそ容易であったが、まるでクロックアップしているかのような速さの挙動に加え、叩きつけられた場所から波動が弾け、更に爪の向いている直線上に光の柱が生成され、次々と爆発することで反撃を封じてくる。そして右翼脚を改めて叩きつけた瞬間、更に動作を高速化させて翼脚同士を叩きつけ合ってエネルギーを爆発させつつ後退し、口から極大の光線を吐き出す。反動で下がりつつも、吐き出したまま飛び上がり、避けて高速で動き回るハチドリを撃ち落とさんと光線を振り回す。そこへ光線の合間を縫って赤黒い太刀が飛んできて、咄嗟に蝶が群れて盾となる。紅雷が直撃して蝶は散り、その影から到達したハチドリが即座に肉薄して蒼い太刀を抜き、怨愛の炎でリーチを大幅強化して薙ぎ払い、光線の放出を強引に止めさせ、火薬を最大限注ぎ込んだ左拳を叩きつけて爆発し、ラドゥエリアルを地面に引きずり下ろし、自身も急降下する。落下したラドゥエリアルは受けた傷に応じた紅と蒼の蝶を撒き散らし、それらが鱗粉を放出する。着地したハチドリがそれに触れた瞬間、表皮を凄まじい速度で侵蝕されていく。

「これは……!」

 咄嗟に撒き散らした火薬が着火し、蝶を破壊する。脇差に持ち替えていたハチドリは瞬間移動で肉薄しつつ舞うような連撃を繰り出す。左翼脚で初段を防御しつつ、右翼脚に蓄えたエネルギーを爆発させて距離を取りつつ、それに合わせて巨大な音の塊を吐きつける。地表に辿り着いた瞬間、吸引を生じさせながら甚大な衝撃波を起こす。地面が捲れ上がり、無数の墓標を粉砕しながら巻き上げる。ハチドリは分身を盾にして逃げ切り、急接近しつつ赤黒い太刀の縦斬りと、蒼い太刀の横切りを重ね、落ちた紅雷が再びラドゥエリアルを撃ち落とす。だが彼は落下した瞬間に翼膜に集った蝶に一斉に鱗粉を放出させ、強引に吹き飛ぶような形で体勢を立て直しつつ両翼を勢いよく開いて、大量の蝶を飛翔させる。莫大な量の鱗粉が周囲を包み込みつつ、蝶自体の体とシフルエネルギーによって盾にして、ラドゥエリアルは直上へ飛び立つ。咆哮に合わせ、ハチドリを囲むように光の柱が次々と生み出され、更に一段階広く光の柱を生み出す。内側の柱が時計回りに、外側の柱が反時計回りに回転し始め、ハチドリへ収束していく。ハチドリは火薬を蒼い太刀に帯びさせ薙ぎ払って蝶を振り払い、柱の収束から脱出するが、次に来る衝撃に備えて追撃には行かず、やがて柱は一本になる。空間が震えるほどの力が迸り、次の瞬間には超大爆発を起こす。重ねてラドゥエリアルは翼を畳み、巨大な光球となって急降下し、着地と同時に翼を開いて凄まじい閃光を放ち、自身を中心に巨大な光の柱となって、周囲を極悪な熱量で焼き尽くしていく。

「……」

 光が収まるか否かというところでハチドリが現れ、怨愛の炎でリーチを増強した蒼い太刀にて横薙ぎを繰り出す。ラドゥエリアルは読み切っているとばかりに右翼脚にて迎え撃つ。競り合うハチドリへ左翼脚の爪をエネルギーで増強して振り抜き狙う。だが被弾の瞬間にハチドリは火薬へと変わり、上空に飛んだハチドリは赤黒い太刀を抜いて首筋へ急降下していくが、ラドゥエリアルは凄まじい音波を撒き散らしてハチドリを吹き飛ばす。後方へ激しく吹き飛ぶ彼女目掛け、細い光線のような音波で追撃する。ハチドリは慣性を自力で殺し、赤黒い太刀で音波を弾き返し、ラドゥエリアルが重ねて繰り出した咆哮による強烈な振動によって地面と空気が震え、空間が捻れる。無理に捻ったプラスチックが千切れるような嫌な音が響き、捻れの限界を超えた空間が破損する。しかし、蒼い太刀によって千切れた空間は即座に縫い留められ、瞬間移動を乱発して急接近を行うが、それに合わせてラドゥエリアルは蝶の鱗粉によって爆発的な挙動を見せて躱す。怨愛の炎に加え、撒いた火薬に紅雷を落として着火させて退路を塞ぎ、ハチドリは赤黒い太刀を構えつつ、その刀身にメギド・アークによる闘気を宿して一閃繰り出し、咄嗟に防御に使われた右翼脚を切断する。

「ッ……!?」

 体の破壊に動揺したか、ラドゥエリアルは動作が遅れ、そこに容赦なくレギア・ソリスを宿した蒼い太刀の刺突を胸部に受け、赤黒い太刀による更なる追撃で袈裟斬りにし、切断されたラドゥエリアルの頭部が宙を舞い、胴体が崩れ落ちるのと同時に地に落ちる。ハチドリは二本の太刀を背に戻し、頭部へ歩み寄る。

「まあ……こんなものだろう……」

「夢見鳥……」

「等と言うとでも思ったか」

 頭部は黒い塊となり、残っていた胴体を吸収し、そして真黒い騎士の姿となる。灰色の蝶の翅を生やし、右手にルナリスフィリアが握られている。

「蝶は芋虫から蛹となり、やがて翅を得た姿となる。だが我々にはそのようなシステムはない……我々は生まれながらにして蝶、死してなお蝶だ。この現実の中で、夢だけを見る狂人共を監視するためにここに居る」

 ゆっくりと降下し、着地する。ハチドリは脇差を抜き、一歩退いて構える。

「さあ来い。私と戦うことに価値はあるまい」

 ラドゥエリアルは瞬間移動から三連斬りを繰り出し、ハチドリは手緩いとばかりに全て弾き返す。そこから素早く舞うような連撃を繰り出し、コンボの途中で抜けてラドゥエリアルは後ろに下がり、剣先から大量の霊魂のようなものを放出する。そして姿を消し、接近するように見せて距離を取り、薙ぎ払って蝶たちの群れによる波動の壁を生み出して前進させる。分身を盾にした防御から、次の瞬間には眼前に現れて大きく一閃する。ルナリスフィリアによって脇差は弾かれつつ、カウンターに凄まじい量の残像を伴いながら縦斬りが繰り出される。それに合わせて篭手から鋼の小盾を生成して弾き、両者の距離が最接近したタイミングで篭手内の火薬を起爆し、強烈な爆発で怯ませつつ、蒼い太刀を抜いて怨愛の炎でリーチを増強し、縦斬りで押し込み、その勢いのまま横に一閃し、ラドゥエリアルは体勢を立て直すこともなく即座に後退して飛び上がり、両手に巨大な光の刃を生成し、右から振り下ろす。反響する音波で破砕を行いながら、単純な破壊力で圧壊せんとする。

「参ります」

 ハチドリは蒼い太刀を背に戻し、赤黒い太刀に持ち替える。紅雷によって右の光の刃を粉砕し、空中で左の光の刃と競り合う。

「ソムニウムを越え、もはやディードにも届かんとするお前に食い下がるのは不可能か」

「逃がしません」

 光の刃が砕けた瞬間、ハチドリは左手を伸ばしてラドゥエリアルの首を渾身の力で掴む。

「この世の涯はただ一つ」

 怨愛の炎で燃やし、火薬の爆発でトドメを刺す。幼女の姿に戻ったラドゥエリアルは煤けた翼をだらりと垂らす。

「がふっ……ルナリスフィリアからすれば……私は最強を求める思索には、不要だと言うことか……」

「さようなら、蝶々さん」

「嗚呼、これが沈溺の実が宿した、愛の力か……」

 ラドゥエリアルは灰色の蝶の姿に戻り、両の翅が千切れながら地面に落ちていく。胴体だけが焼き焦げた地面に落ち、程なくして灰へと変わり、吹き抜けた空虚な風によって散った。

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