☆☆☆エンドレスロールEX:創生の鍵・追想
エンドレスロール 宙核
「もはや悔いても仕方あるまい……さらばだ――」
透き通るような青と白の空間に、背景に溶けそうな灰色の蝶が現れる。
「……なんだ……?」
その場の全員が疑問符を浮かべると、蝶はラドゥエリアルの姿になる。
「否。この類稀なる戦いはここでは終わらない」
舞い降り、クロザキの首に腕を回し、抱き付く。
「お前の力をもっと見せてみろ。お前も、ここで終わるのは惜しいだろう……?」
「貴様は……?」
「私は夢見の粉。お前の理想を望む、同志だ」
ラドゥエリアルが消えると同時に、クロザキの下へ紅と蒼の蝶が螺旋を描いて注ぎ込まれる。
『我らが写し身よ。無明竜の戯れに狂わされた似非の鋼よ。夢見の果実を食んで、既に記された物語を反故にせよ』
クロザキが悶えつつ、全身から再び靄が溢れ出す。玉鋼とゼナ、竜化したホシヒメ、
「ぐお……ッ!なんだこれは……!力が漲る……!」
クロザキが一際勢いの強い靄を放出し、彼は完全に気勢を取り戻す。そして右手に、宇宙の淵源を垣間見るような蒼に染まった大剣を呼び起こし、握る。
「この感覚はなんだ――自我が薄れて、握り潰されていくようなこの感覚――これが、宇宙の淵源の力、か……?」
「……何が起きている」
玉鋼が困惑すると、ホシヒメが続く。
「なんかすごそうだよ!?」
「……見ればわかる」
「バロン君と同じ……いや、今のその姿と同じ力を感じるよ!」
「……僕とエリアルが融合したのと同質の力……?」
クロザキは一対の純白の翼を生やし、構える。
「まあいい。私の体に起こった変異がどうであれ、お前たちを滅する力が再び湧き出ずると言うのならば、存分に振るわせてもらおう!」
瞬間移動から肉薄すると、左手から紫光を解き放ち、重ねられた三つの光線を撃ち込む。玉鋼の右腕に容易に阻まれ、あちらの反撃を待つまでもなくホシヒメによる光の攻撃が直撃する。だがクロザキは怯まず、大剣の一閃を叩き込み、それに伴う強烈な光波によって玉鋼の防御を崩し、瞬時に翼を輝かせてそれを解放する。
「〈寂光浄土・阿頼耶識〉!」
ホシヒメが自らの輝きを解放して競り合い、玉鋼の防御力によって押し込む。威力の拮抗によって爆発してクロザキが吹き飛び、暴力が一瞬で距離を詰めて上腕を振り抜いて十字の紅蓮を産み出して切り裂き、下腕にて貫手を繰り出す。クロザキは受け身からの左腕で貫手を防ぎ、急降下しつつ竜化したゼナの副尾の一閃を受け、伴う鋭利な激流にて両肩口を斬られ、靄がクロザキの体内へ引っ込む。
「その手は食わねえぞ!」
下腕が甲側に開かれ、上腕が交差するように振り下ろされ、二重に交差した爆炎がクロザキへ直撃する。同時に噴出してきた靄は相殺されて、だがその最中を貫いて大剣を突き出し、突貫してくる。大技を繰り出した暴力は対処が間に合わずに腹を貫かれ、剣先から迸る光波によって吹き飛ばし、目にも止まらぬ追撃の剣閃を三つ重ね、刃状になった光波が飛んでいく。玉鋼の一打でそれらが割られ、竜化を解いたゼナの投槍にホシヒメの援護が乗り、クロザキは防御をせざるを得なくなる。そうして槍を弾き返し、再び驚異的な速度で肉薄してきた暴力と至近距離で相対する。先手を打って左翼にて刺突を繰り出し、右上下腕に挟んで受け止められ、左掌からの紫光は左下腕に阻まれ、左上腕による貫手を頭部からの光線で弾く。暴力は深追いせず翼を手放して飛び退き、そこに既に迫っていたゼナが槍による一閃を振り下ろす。剣戟によって弾かれ、伴う光波で彼女を押し返し、逃さず頭部からの光線で追撃する。ゼナが防御して吹き飛んだのに合わせ、クロザキは翼の羽根の一つ一つを振動させて共鳴させ、強烈な音波を起こす。大剣を構え、渾身の構えから振り抜き、莫大な音を内包した五つの竜巻が起きて突進する。ホシヒメと玉鋼が即座に対応して竜巻を打ち消し、クロザキは左手に巨大な光の刃を産み出し、共鳴を起こしたまま瞬間移動で暴力の前に現れ、振り下ろす。上腕に阻まれ、瞬間移動で位置を調整して大剣を振ると、それより早く両下腕が振り抜かれて十字の爆炎が起こり、大剣を押し返す。その瞬間に暴力は再び四腕をそれぞれ交差させて振り抜き、二重の交差した爆炎を直撃させて吹き飛ばす。そこにゼナの輝きを帯びた投槍が届き、クロザキの胸部を貫いて爆発し、槍を手元に戻して構え直す。
「ぬ、う……」
クロザキを覆う靄は再び消滅しており、その体表には紅と蒼それぞれの色の蝶がびっしりと留まっていた。
「……なんだあれは……」
『……』
玉鋼の言葉に、融合しているエリアルは沈黙で返す。そこに一際強く輝く白の蝶が舞い降り、やがて視界が蝶の嵐に覆い尽くされていく。
エンドレスロール ヴァニティ・キンドルフィーネ
黎明を告げるような清らかな青に包まれていた空間はやがて、虚無感に満ちた白砂の砂漠へと変わっていく。
「……」
地表に降り注ぐ冷ややかな陽光が景色を白く霞ませ、得も言われぬ肌寒さを引き起こす。
「うえあ!?どどど、どーなってるの!?」
わざとらしく激しく狼狽したホシヒメが、周囲を見回す。
「ここは……茫漠の墓場、かのう?」
着地したゼナが呟き、同じく着地した暴力が続く。
「どうなってやがる……もう次の世界が出来たってのか……?」
玉鋼が深く息をし、口を開く。
「……エリアル、どうなってるんだ」
『ここは王龍結界のようね……』
「……王龍結界だと……?だが、今干渉してくる王龍など……」
『ヴァナ・ファキナ』
白の蝶がクロザキに降り立ち、同時に彼は強烈な波動を放ち始める。そしてどこからともなく、ラドゥエリアルの声が響いてくる。
『偽られし鋼よ、嗚呼、我らはお前を愛しているとも。心と起源は違えど、その姿は我らの果実を食むに相応しいものだ』
クロザキはなおも悶え続け、そしてラドゥエリアルの言葉も続く。
『我ら
悶えるままに膝を折り、右手を地面について嘔吐する。先ほどまでの暴れが嘘のように落ち着き、彼は立ち上がる。そして己に集った蝶を焼き尽くしながら、バロンの竜骨化形態のごとくなり、全身から輝く炎を湧出させる。
「ぐあ……っ……!なんだ、これは……この、私の心を侵す、深く、淫らな愛情は……ッ!」
クロザキが耐えかねて右手を突き出すと、輝く熱波が前方に解放される。それと同時に、その場の全員を取り囲むように、灰色の蝶の群れが現れ、嵐のように螺旋を描いて天へ昇っていく。
「……奴の力だけじゃない」
「そのようじゃな……」
「ったくしぶてえな」
各々で熱波を往なして構え直し、クロザキはなおも変異する。全身をバルクアップしていき、尾を生やして四肢を強靭に変え、鋼の長槍を産み出して右手に握る。
「私は……お前の愛情なぞどうでもいい……!全てを、全てを滅ぼさねばこの身が朽ち果てることは許さんぞ!」
巨大な一対の銀の翼が生え、クロザキは瞬間移動から光速で一行の前を通り過ぎて地面を切り裂き、そこから熱波を起こす。更にその勢いで後退しつつ地面に輝く炎を扇状に飛ばし、離れた暴力目掛けて急接近して槍にて斬り払い、刺突を繰り出す。下腕が勢いよく合わせられたことで爆発し、斬り払いを輝く炎の爆発を相殺しつつ、刺突を左上腕で振り払って右上腕で狙う。槍を咄嗟に消し、全身を使って左翼を振り上げ、熱波に巻いて動作をキャンセルさせつつ暴力を押し込み、錐揉み回転しつつ上昇し、それに合わせて周囲に火球を撒き散らす。強烈なレンズフレアを発生させながら、地表から天に届くかのような巨大な輝く炎の柱を幾つも生み出す。
「……」
「おほほほお!すごい!切り札っぽい!」
「……切り札だ、恐らく……」
二人の会話に続くように、虚空の中天に浮かんでいた巨大な太陽が落ちてくる。炎の柱が次々と大爆発を起こし、地表に粘ついた熱波を放出して一行の反撃と妨害を防ぐ。
「バロン君!」
「……もちろんだ」
玉鋼は両腕を輝きを帯びた鋼で武装し、飛び立つ。竜化したゼナと暴力も続き、玉鋼の進路を妨害する炎を打ち消していく。
「来るか、我が鏡像……!」
クロザキも応えるように両腕に輝く炎を纏わせ、太陽が地表に近づく中で炎を帯びた左拳が放つ。同じく左手でそれを受け止め、即座に握り潰す。刃状にした右腕でクロザキの胴体を切り裂き、左腕も刃状にして胸部を刺し貫く。
「バロン……私は、私だ……!」
「……ああ、もちろんだ」
「私の魂を擦り潰そうとする、この羽虫を消し去ってくれ……!」
玉鋼は拳に戻した右腕の一撃でクロザキを粉砕し、同時に大量の蝶が内部から飛び去っていく。そして露出した体内に潜んでいた白い蝶を掴み、握り潰す。凄まじい閃光が迸り、周囲の視界をゼロに変える。
程なくして全ては無を越えた瞬間のものに戻る。
「……何があったんだ……」
玉鋼はバロンとエリアルに戻り、他の三人も人間の姿へ戻る。
「うーん、蝶々がたくさんいたけどねえ……」
「まあよかろ。決着はついた」
「色々もたついたけどよ、取り敢えず目的は果たせたってわけだ」
三人の言葉に、バロンは頷いた。
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