エンドレスロール:リパーチェス・クレディット
エンドレスロール 超複合新界 セレスティアル・アーク庭園
黄昏が埋め尽くす、球状の世界。オオアマナの咲き誇る庭園にて、来須と明人が相対していた。来須は非常に消耗しており、適度な露出が見える可憐な衣服が、壊れかけの体とのコントラストを見せる。来須は、薄ら笑いを浮かべて立ち上がる。
「まあ、終わりなんていつもこんなものか……ああ、冷えてきた。あれだけの炎を扱うからこそ、より死が近づいた寒さを、人よりも切なく、恐ろしく感じるものさ……杉原、お前が羨ましいよ。死を望んで、死地を目指す、お前がね……」
「……」
と、そこへどこからともなく掌サイズのシリンジが飛んできて、正確無比に来須の首筋へ突き刺さる。命中と共に内容物が注入され、針が消失して落下する。明人がシリンジの飛んできた方を見ると、背後で機能停止していたはずのプロミネンス・イモータルがアルメールを鷲掴み握り潰しており、指先から現れた迅雷がアルメールより強奪したそれを、投げつけていたのがわかった。
「迅雷……私の意志に反して動くのかい……?」
「我は貴様がこの世から消えることを許さぬ。我は貴様に情が湧いた。空の器を討て」
「ふん……何を考えているのかよくわからないけどさ……」
来須の肌の色艶が瞬く間に元に戻り、両腕が再生しつつ変異する。右腕は盾のような機能を帯びた剛腕に、左腕は槍のごとき鋭利な鰭に変わる。そして迅雷もイモータルから抜け出て、来須の体に宿り直す。
「杉原!お前をここで……殺す!」
「おい嘘だろ……!」
明人は来須の想定外の快復に驚愕し、即座に大剣を右手に産み出す。
「ゼナッ!燐花を連れて逃げ――」
「遅いッ!」
来須が凄まじい速度で突進し、左腕で明人を貫く。そのまま迅雷由来の電撃が迸り、明人が軽々と持ち上がる。
「クソッ……!」
明人が咄嗟に大剣を振るが、右腕に阻まれ、大剣はそのまま握り潰される。そのタイミングでゼナの抛った槍が来須の脇腹に突き刺さり、爆発して怯ませ、ゼナが明人を引き抜き後退する。槍は即座にゼナの手元に戻る。
「私の積み重ねてきた報復心が、こうして私を突き動かす!」
後方で鎮座していたイモータルが崩壊し、溶け出したE-ウィルスが来須に吸収され、白い蔦と黒い苔の混じった装甲が素肌に被さり、頭部以外の全てが人間のものでなくなる。
「杉原、お前の死で……私たちの願いは更に堅実なものになる」
来須は電撃を残しつつ超光速で接近し、蹴りを繰り出す。ゼナは明人と燐花を引きずったまま飛び退いて躱し、明人はそこから離れて大剣を再生しつつ着地し、来須は急反転して明人へ突進し左腕を突き出す。大剣で弾いたところに切り上げを加えて防御を崩し、大きく翻って一閃し、体勢を崩させたところに右腕で頭を鷲掴む。そのまま振り回し、ゼナが燐花を手放して攻撃してきたところに合わせて明人を盾にし、投げ飛ばす。来須は両腕の変異を止めて戻し、隙を潰して突進し、白い蔦を生成しつつ右腕を突き出し、ゼナの首を掴んで、勢いよく投げ飛ばす。即座に両腕を変異させ、左腕を突き出してゼナへ追撃の突進を繰り出す。
「速い!?」
ゼナは空中で制御を取り戻し、ギリギリのタイミングで左腕の攻撃を往なし、反撃に繰り出した槍の刺突は右腕に凌がれ、だがそれでもテイクバックをかけて豪快に回し蹴りを繰り出して来須を吹き飛ばす。取り戻した槍を構え、穂先に炎を宿して突進し、直撃させて更に後退させる。だが蔦と苔の防具を貫通することすらできず、ゼナは一歩退いて片膝をつく。
「(主もわしも既に消耗しきっている……燐花はもはや戦える体ではない……ここまでか……)」
ゼナが今にも倒れそうになるのを必死に堪えていると、来須が笑みを溢す。
「くくっ、君も可愛そうなアイスヴァルバロイドだよね。こんな下らない男のために命を擲ち、全てを賭けてもここで無駄に死ぬ」
「主は……下らない男ではない……」
来須は瞬間移動で肉薄し、左腕をゼナの首筋に添える。
「狐の恋は悲恋じゃないとね……」
軽く振るい、それだけでゼナの首が落ちる。頭部を失った胴体を蹴り飛ばし、電撃を帯びた踏みつけで残った頭部も踏み砕く。
「さてと」
来須は倒れている明人を右腕で掴み上げる。彼の体は既に塩化が進行しており、まともな反応も出来ないようだ。
「お前の人生はここで終わる。下らない、無為なだけの、無力なクソ人生がね」
頭を握り潰し、明人の体が無気力に地面に落ち、その衝撃で全身が塩へと変わる。来須は全身の変異を解除し、一息つく。
「やれやれ、動力扱いにした九竜に助けられるとはね」
迅雷は来須に巻き付くように現れる。
「空の器と貴様、どちらが生きる価値がある存在なのか……考えるまでもないことだ」
「結構。力ある同志って言うのは有用だからね……この世界の命運は宙核たちがなんとかしてくれるよ、私たちはさっさと離脱しよう」
「ああ」
来須は雷霆となって、その場から消えた。
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