与太話:なまあし部
エラン・ヴィタール 屋敷
「ん……」
ミリアが何かしらの布切れを両手で持ち上げ、目を細めて眺めている。
「何をなさっているんですか、ミリア殿?」
そこへハチドリが現れ、問う。するとミリアは手を下ろし、体ごと向き直って笑みを見せる。
「いえ、その……この、パンツ、というものを穿いてみようかと……」
「ああ、可愛いですね、それ!イーリスさんがデザインしたやつですよ……って、ん?」
ハチドリが硬直すると、ミリアが顔を傾げて尋ねる。
「何か?」
「え、え、ミリアさんってパンツ穿いてない……」
困惑するハチドリとは裏腹に、ミリアは優しい笑みと共に答える。
「ええ、そうですよ。ラファーガの一族は皆下着を付けたりしないんです。シマエナガも穿いてないと思いますが……ハチドリさんは穿いてるんですか?」
「そりゃもちろんです!ワンピースなのに穿いてなかったら風吹いた時に全部見えちゃうじゃないですか!」
「そんなこと言ったら、シマエナガはミニスカートですけれど……ところで、ハチドリさんはお兄様のお嫁様ですよね。お兄様の好みなどは知りませんか?」
「旦那様の好み……前にお聞きしたことはありますが、服装についてはお話になられてない気が……」
「そうですか……ハチドリさんやエリアルさんを見ている限り、お兄様は綺麗な素足を強調した衣装の方が興奮してくださるんでしょうか」
「あっ、それはそうですよ、はい!旦那様はお尻と足が好きって言ってました!」
大声で二人が喋っているところにバロンが足を踏み入れ、声を掛けようとしたところで立ち止まる。
「……(なぜそんな大声で僕の性的嗜好を暴露しているんだ……?それに僕は例えエリアルやハチドリが意志を持ったドロドロの液体とか自分で立てないほど病的な肥満だったりしても愛するのに)」
と内心思ったが、黙って見ていた方が面白いと思ったのか、本気で気配を消して二人の会話を盗み聞き始めた。
「うん……」
ミリアはハチドリの言葉に頷き、自分の衣装を見る。肩を露出し、胸部から足首までを覆う外套のようになっている。
「私のこの服では足を露出できませんね。ハチドリさん、何かいい案はありませんか?」
「そうですね……うーん、メイヴさんみたいにめちゃくちゃ短いミニスカート穿いて見たり!?」
「女王メイヴと同じくらい、ですか……」
二人の頭に浮かんだのは、凄まじく薄手のTバックのような下着が半分ほど露出するほど短いメイヴのスカートだった。
「いや、忘れてくださいミリア殿。あれはメイヴさんにしか着れませんね」
「そ、そうですね……いくらお兄様のためと言えど、私にはハードルが高いかと……」
「あっ、すごくいい手を思いつきました!これはエリアルさんとアウルさんがやってたんですけど、裸の上に旦那様のシャツだけ着るんです!」
「裸に、男性用のシャツ、ですか?面妖な組み合わせですね」
「違いますよ!〝旦那様の〟シャツを着るんです!間違いなくぶかぶかですし、でも足は見せつけられるんですよ!」
「ぶかぶかであることに何か利点が……?」
「メイヴさんが言ってましたよ。旦那様には、庇護欲を掻き立てた方がベッドに誘い込めるわよって!」
「えっあっ、よ、夜伽まで直行ですか……」
「……?どうかしましたか、ミリアさん。えっと……あっ、デリカシーが足りなかったですな、申し訳ありません!」
「いえ、いいんですが……お兄様は結局、パンツを穿いていた方がいいんでしょうか、どうなんでしょうか」
「うーん、それは……旦那様に直接聞くしか……あ、旦那様の性癖ってたぶん奥様が全部知ってますよ!」
「奥様……ハチドリさんも奥さん、お嫁さんですよね」
「エリアルさんのことです!あの人なら全部知ってますよ!それに、旦那様は意外と恥ずかしがりなので直談判してもいい情報は貰えないんですよ!」
「なるほど……参考になります。では、二人でエリアルさんの下へ行きましょう」
「はい!」
二人はその場を離れる。気配を消していたバロンは、少々ダメージを負ったように胸を押さえる。
「……僕は……ノーパン派なんだ……だが君たちが試行錯誤しているのが可愛いから正直なんでもいい……!」
それを更に後方で見ていたシマエナガが、バロンを杖で殴り倒したのはまた別の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます