エンドレスロール:御狐婚姻譚
エンドレスロール トランス・イル・ヴァーニア
焔に包まれた石畳の上で、来須とアルメールが相対していた。
「調子はどう、愛しの我が君よ」
来須が皮肉たっぷりにそう言うと、アルメールは身を震わせて笑う。
「クフフフ……クハハハハッ!最高だよ、月香。俺が求めていた通りの結末だった……古代世界でのただの暇潰しが、こうして俺の首を締め上げて、息絶えない絶妙な加減で縊り続けてくるなんてな……!」
アルメールは内側に溜まった興奮を解放するように、獣の威嚇のごとく上体を突き出して咆哮し、爆炎が噴き出る。
「俺はもう君から永遠に逃げられない。君の望み通り、俺はどこで何をしてようが君を意識せざるを得なくなった。余りにも……素晴らしいが過ぎるな、クハハハハッ!」
「ふふっ、そうだろ?でも一つ、納得行ってないことがあるんだよねえ……」
来須は腰に佩いていた赤黒い直剣を右手で抜き、反対側のホルスターに提げていたレバーアクションライフルを左手で抜く。
「直接君を殴り倒すっての、やってなかったんだよね」
両腕を大きく伸ばし、同時にどす黒い怨愛の炎を周囲に撒き散らす。粘度を帯びた炎は石畳にこびりつき、延々と燃え続ける。
「今の君を殺したら、この炎は赤に戻ると思う?」
「あぁ、そんなこと……最高じゃないか!」
アルメールは炎の四翼を産み出しつつ、冰気の塊を取り込んで氷の二翼をも背負う。
「ちゃんと別れようか、俺たち」
「正式にね……どうしようか、カップルには離婚届なんてないし……」
ライフルのトリガーを引く。怨愛の炎を帯びた銃弾が体表の冰気に阻まれて凍り、落下する。来須は瞬間移動しつつ直剣を振り下ろし、アルメールは読んで直上へ飛び上がり、直下に現れた彼女へ踏みつけを繰り出す。来須は素早く身を翻しつつスピンコックで排莢し、アルメールが着地するまでのコンマ数秒に二発撃ち込む。今度の弾丸は推進力を失った瞬間に爆発することで、冰気による防御を対策する。アルメールは着地した瞬間に右腕を振るい、地面に粘ついた熱波を起こし、瞬間移動で背後を取って同じ攻撃を繰り出しつつ、炎の剣の弾幕を撃ち出して飛び上がる。来須は直剣を逆手に持って地面へ突き刺し、炎の壁を産み出して熱波を防ぎつつ、一時的に月詠に竜化して凄まじい衝撃波を起こし、掴み技を放とうとしていたアルメールを牽制する。アルメールが次の手を思考した一瞬に竜化を解き、ライフルを取り落としつつ左腕を白い蔦と黒苔の嚢胞で覆って変異させ、空中を蹴って肉薄し、アルメールの首を掴んで急降下し、地面に叩きつける。そのまま直剣での追撃を行おうとするが、アルメールの強引な起き上がりからの蹴り上げで突き飛ばされる。来須は崩れることなく下がり、左腕を元に戻す。
「そう来たか……」
「当然だろ?これは私の発明なんだから……」
再び左腕を変異させて伸ばし、アルメールは躱す。そして頭部から熱線を乱射し、飛び込みつつ右腕に炎を纏わせて振り下ろす。来須は変異を元に戻し、拳で地面を殴りつける。すると、爆発的に成長した蔦がアルメールを阻み、重ねて生み出された黒苔の塊が爆発してダメージを与える。着地したアルメールが全身を使って左腕を振り、生じた紅蓮が来須を包み、右腕を掲げて構え、一閃して切り裂く。続けて突進し、翼で弾き飛ばし、炎の剣を撃ち込み、空中で爆発させる。直撃を受けた来須は全身を黒苔の嚢胞で覆って大幅に威力を軽減させ、着地と共に元に戻る。
「さて……」
来須は直剣を手放し、両腕を変異させる。右腕は盾のような剛腕に、左腕は槍のような鋭利な鰭に変わる。
「人間を越えた先にある力……存分に楽しんでね!」
衝撃波を伴いつつ踏み込み、左腕を突き出す。アルメールが後方に瞬間移動するが、それを既に見切った来須は再度踏み込みつつ右腕を突き出し、強烈な打突を叩き込み、硬直させたタイミングで大きく構えて翻りつつ左腕で一閃し、前宙返りから左腕を縦に振り抜き、直線に地面を割る衝撃波と鋭利な蔦を起こし追撃する。対するアルメールはふらつきつつも僅かな動きでそれを避けつつ、莫大な力を右手に蓄えて破顔する。
「いいじゃないか月香ァ!だが……ッ!」
全身を使って右腕を振り抜き、絶類なる威力を以て地面が紅蓮で引き裂かれる。来須は右手で地面を捉えて堪えるが、間もなく巻き上げられて宙へ飛ぶ。そして彼女を中心に、周囲の熱気と炎と冰気が凝縮され、圧縮され切り、砕け散って大爆発を起こす。
「君のことを考えてたらさ、ここまで来ちゃったんだよね」
土煙の向こうから竜化した来須……即ち、月詠が姿を現す。
「高尚な人間様の説教では、執念や執着は唾棄するものだと言われやすいね……でも……でも……それが無ければ、そもそも救われようと、救おうと、苦しみから逃れようとはしない。執着って言うのは生きる力……憎しみこそが、怨嗟こそが、愛こそが!魂にくべる、薪の王なんだ!」
月詠は全身から怨愛の炎を噴き出す。兎を模したような垂れた長い耳が立ち上がり、まるで角のようになる。
「ハハハハ!」
大合唱のような笑い声と共に凄まじい火炎を口に滾らせ、超特大の火球を吐き出す。地表に解けて壮絶な大爆発を起こし――同じ威力の火球を二発、三発と連続で撃ち込む。熱風が逆巻き、アルメールは菱形の装甲が全て逆立ち、氷の四翼が生えて飛び立つ。背に巨大な魔法陣を産み出し、そこから大量の氷柱や電撃を降り注がせ、間髪入れずに極大の熱線をいくつも束ねて放射する。月詠はどっしりと構え、口に再び爆炎を滾らせながら、全ての直撃を受けても怯まず溜め続ける。そしてほどなく、全ての力を解放しつつ火球を地表に吐き出して反動で飛び上がり、超絶的な威力の爆発が弾け飛び、追撃にもう一発更に出力を上げた火球を叩き込み、自身も吹き飛ぶほどの衝撃波が轟き渡る。
全てが消し飛んだあと、仰向けに倒れて虫の息となったアルメールへ人間態の来須が歩み寄る。
「楽しかったね。別れる前に思い出を振り返れてよかったよ」
「く……くはっ……」
来須はライフルを抜き、排莢をしてから、アルメールの右脚と左腕を撃ち抜き、千切る。そして彼女は背を向け、立ち去っていく。
「おい……トドメを刺さないのか……くは……はははっ……!」
アルメールは体の向きをゆっくりと変え、這いずりながら延々と来須の通った後を進み続けるのだった。
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