キャラ紹介:ベルフェル・イーリス

 絶海都市エウレカ 都庁・執務室

「んー……」

 小柄なショートカットの女性が、悩みを吐息に替える。

「……イーリス?」

 なぜかパンツ一丁のバロンが女性イーリスに呼びかけると、彼女は執務室に持ち込んだ大量の衣服を眺めたまま、言葉を返す。

「ウチのまだお披露目してない新作を全部持ってきたけれど」

「……ああ」

「あなたっていい体してるわよね」

 会話が通じていないと言えるほど脈絡のない返事をされ、バロンは腕を組んで鼻息を一つする。

「……つまり、僕の体形に合うような服を持ってきてないんだろう」

「そうね、そうとも言うわ。あなたの体は着飾って隠したりグラデーションを楽しんだりって言うよりは、裸でいいんじゃない?」

「……脱がせるだけ脱がせて放置しないでくれないか。いくら僕と君の関係だとしてもだ」

「別にいいでしょ……オフの日にお互い、裸は見慣れてるんだし」

「……」

「これでも感謝してるのよ?」

 イーリスはバロンの方へ向く。

「グランシデアで燻ってた私を、専属のファッションコーディネーターとして雇うって言うんだし。夢を追ったまま野垂れ死んだり、妙な奴の手駒にされるよりよっぽど恵まれた人生を送れてるわ」

「……そうか、それは良かった。僕にとっても、君が居てくれるお陰で色々と助かっている」

「色々と、ね。それって、私とあなたが仕事上のパートナーであると同時に、セフレでもあるってことを濁して言ってるの?」

 バロンは腕を解く。

「……別に君との関係はやましいものじゃないだろう。互いに尊重して、だが心理的に深い部分には踏み込まず、あくまでも良い友達でいること。理想的じゃないか、大人になってからの友人関係としては、な」

「相変わらず口が上手いわね。それで私以外の女の子も言い負かして食い散らかしてるってこと?」

「……性欲は持て余すものだからな」

「あなたはいいわね、立場が上だから」

 イーリスが皮肉っぽく言って、近場に用意された椅子に腰かける。

「……と言うと?」

「わかってるくせに。私には信用できる人があなたしかいないわ。家族も、あなたの部下も、私の他のビジネス相手もね……だから先に、釘を刺しておいてもいい?」

 そう言って彼女は立ち上がり、歩み寄ってバロンに体を預ける。

「私を見捨てたりしないで。あなたが居なかったら、私は……何を信じて生きて行けばいいか、わからないから」

「……言われるまでもないな」

「仮に――」

 イーリスはそこまで口に出して、喋るのを止めて離れる。

「さて、実はあなたのために特別に用意した一式があるわ。それを着て頂戴」

「……わかった」

 二人は今の会話など存在しなかったかのように、フィッティングに勤しむのだった。

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