☆☆☆エンドレスロールEX:大いなる冬の慶弔
誘われるように辿り着いたその地は
最後の騎士の故郷
雪解けを知らぬその心を溶かし
その熱を共にしたたむ
騎士は姫の心を守るため
姫は騎士へ温もりを伝えるため
噓で固めた礼服を纏い
民草に可憐な夢を振りまく
炎と氷の痛苦に壊れた姫は
壮絶なる境界を越え
鋼との逢瀬を以て
エンドレスロール 王龍結界ニーベルング・オルム・グラキエス
凄まじい猛吹雪に覆われたテスタ・ロッサで、リーズと片耳のハチドリが相対していた。
吹雪く雪は地面に触れると共に燃え上り、ハチドリの発する赫々たる怨愛の炎にも劣らぬ紅蓮を灯す。
「あなたは……」
ハチドリが脇差を抜き、構える。
「私と変わらぬ、愛の色……」
「……。消えて」
リーズは酷く退屈そうに、貫き殺すような視線とともに告げる。
「……」
脇差に手をかけたハチドリへ、リーズは掌に生成した鋼の棘を五本飛ばしてくる。素早い抜刀によって全て打ち落とし、構える。
「やっぱりバロンは、私のことなんてどうでもよかったんだ」
失望に満ちた言葉が吐き出され、だが右掌には赫々たる炎が灯る。
「(この人から漂う、複雑な臭い……)」
ハチドリは脇差の刀身に炎を宿しつつ、吹雪に目を細める。
「あんたからバロンの気配がすること自体が……私には納得できないんだけど」
炎を握り潰すと同時に爆発し、リーズは氷と冰気を帯び、一対の巨大な翼を携えた四足竜となる。
「〈双極の王冠〉、冰王龍アデュラリアの名において命ずる。我が前に跪き、拝し、そして立ち去れ」
竜化したリーズ――アデュラリアが声を凄ませて告げるが、当然ハチドリは一歩も退かない。
「私は出会った全てを殺し尽くす役目がある。あなたがいくらそう言おうが……私には関係がない」
「バロン……」
アデュラリアは頭をぐっと低めて丸め込み、足元で超低温の激流を吐き出しつつ素早く上に薙ぎ払う。ハチドリはステップからの脇差を突き出して一気に接近するが、アデュラリアは彼女の斬撃を氷を盾にしてこちらもサイドステップを踏んで大きく空け、激流が薙ぎ払った箇所が氷結し、まるで菌糸類の成長のように氷壁を形成する。脇差の振りで氷壁を全て砕くと、その影から再び激流を放ち、ステップで躱した瞬間に素早くもう一発の激流が撃ち込まれ、そちらは分身を盾にして往なす。急接近、そこから籠手から抜刀して一閃し、アデュラリアは意外なほど素早く反応して直上に飛び上がり、直下に向けて冷気混じりの激流を撃ち込む。粘ついた冷気と波濤が地面に広がり、円状に次々と氷柱を生成する。ハチドリは激流を分身の爆発で相殺しつつ、アデュラリアの更に直上を取って赤黒い太刀を抜刀し、投げつけて左翼を貫き、落ちた紅雷によって左翼を覆っていた氷の鎧を粉砕し、よろめいたところへ蒼い太刀を抜きつつ一閃し、切断して着地する。もんどりうったアデュラリアが地面に激突して転がる。二本の太刀を背に戻し、ハチドリは脇差を握って向き直る。
「ムカつく……!〝僕〟は選ばれなかったのに!全部賭けて全部見せつけたのに!バロンは僕を……私を……受け止めるだけで!抱きしめ返してくれなかったんだッ!」
アデュラリアの身体から赫々たる爆炎が起こり、左翼を再生しつつ、左半身は炎に包まれ焼け焦げて、しかし右半身は氷結したままで起き上がる。
「あんたは愛して愛されて!何の疑いもなく男女の関係に甘えてるんだ!」
「ジャ――リーズ、殿……」
アデュラリアは尻尾を頭部の横に据え、剣士のように構える。
「わあああああああああああッ!」
発狂したような叫びで吹雪が更に強く吹き荒れ、それに混じって火の粉が注いでくる。アデュラリアは凄まじい速度で急接近して噛みつきを繰り出す。冷気と爆発によって威力を増強し、脇差に往なされたところへ素早く尾を振り抜いて一閃しつつ一回転して引き、飛び上がりから器用に尾での刺突を繰り出す。分身による防御に阻まれるものの、その隙を付けるほどの時間は稼げず、続いてアデュラリアは翼を使って雪と火の粉を集め、一気に力を注ぎ込んで大爆発を起こす。火炎での攻撃などではなく、純粋に物理的な衝撃が飛び散り、一瞬だけ空が晴れる。空中で肉薄してきたハチドリの脇差を尾で凌ぎ、巧みな空中機動で距離を離しつつ口から巨大な氷塊を乱射する。それらは先程の爆発と似た衝撃を伴って爆散し、更に内部から火炎が漏れる。ハチドリが機を窺いながら飛び回っていると、アデュラリアが平然と光線状の冷気と熱線を同じ口から一本のレーザーとして吐き出してくる。軌道上では氷結と爆発が次々に発生し、更に飛び回りながら頭を振り回して、出鱈目に攻撃する。ハチドリは蒼い太刀で光線を偏向させつつ距離を詰めていくが、吹雪の向こうから倒壊してきた巨大な塔が両者を遮り、大きな地鳴りと共に視界が晴れる。吹雪が弱まったか、倒れてきていたのは
「初めから、僕に居場所なんてなかったんだ。上辺だけを取り繕って、そんなものが大好きだなんてほざく
「そうです」
アデュラリアは尾を突き出し、先端から熱線を撃ち出す。脇差で弾くと、熱線は地表の塔の残骸を両断する。
「旦那様の最期の記憶に、あなたは居ませんでした。そしてあなたは、力で旦那様をねじ伏せることも、また叶わなかった。確かに旦那様は、あなたに不誠実だったのかもしれない」
「……」
「けれど、だとすればなぜ、その炎は紅いのですか」
巨大な氷塊が口から放たれ、爆散し、ハチドリは分身を盾に躱して突っ込む。空中を猛烈な速度で動きながら、脇差で舞うような連撃に移行する。アデュラリアは氷の鎧で威力を軽減しつつ、体格差をものともせずに尾で的確にハチドリの胴体を捉え続ける。そして脇差と尾が強く擦れ合い、次の一撃で交刃し、競り合う。
「わかってる……そんなことはずっとわかってる。全部僕に……勇気がないだけだってことぐらい」
「リーズ殿……いいえ、ジャック殿ッ!」
氷で覆われた尾を切断し、そこへ即座に蒼い太刀に持ち替え、刀身に怨愛の炎を宿して頭部に大上段から斬りつけ、叩き落とす。追って同時に着地し、追撃に薙ぎ払って吹き飛ばす。
「旦那様は、ありのままのあなたを認めていました。それはもう……あなた自身が一番知っていたはず。あなたのことを一番許せなかったのは、あなた自身だと……」
「そう、だよ……!人間は、獣は……なんて下らないんだろうって、ずっと思い続けてたんだ……!」
右半身を覆う氷の鎧が砕け、融解しながらアデュラリアは立ち上がる。
「バロン……僕は……君にとって大切で、魅力的な存在でありたいんだ……!」
翼を広げ、熱波を起こす。
王龍結界 レッドオーシャン・ワンダラー
テスタ・ロッサの景色は消え去り、天に淵源の光を帯びた巨大な月が漂う、灰に覆い尽くされた紫の湖に到達する。
「ああ……そっかぁ……ずっと感じてた、この安心感は……」
アデュラリアはハチドリを、妙に落ち着いて見やる。
「あんたの言葉は……君の言葉なんだ……よね……?」
ハチドリは小さく頷く。
「愛してるから、バロン……」
揺らめく炎で剣を象った尾を正面に構え、アデュラリアは所々が焼き裂けた文様が体表に刻まれた姿を見せる。
「僕の中の全部、君がどう受け止めるかじゃなくて……僕なりに、君に叩きつけるよ!」
「いざ……」
アデュラリアは飛んで翻り、尾を叩きつける。灰を巻き上げ焔が舞い、熱波が吹き荒れる。分身を盾にした回避を目で追い、空気の揺れから肉薄を選んだことを察し、気流を帯びて不自然なほど滑らかな挙動で着陸し、口から激流を放つ。ちょうど現れた中空のハチドリをピンポイントで捉え、彼女に再び回避を選択させる。激流の軌道上で次々に氷塊を形成しつつ、そして尾を振りつつ後退する。流石に安易な牽制が過ぎたか、ハチドリは退いたところまで一気に接近して蒼い太刀を抜き、刀身に怨愛の炎を宿して横、縦と薙ぎ払う。アデュラリアは強力な衝撃に大きく怯むが、だが重ねて放たれた舞うような連撃を尾で鋭く往なし、口許に紅蓮を滾らせながら弾き返して後方中空へ飛び上がり、一気に出力を高めた激流を、全身を使って振り回して薙ぎ払う。軌道上の地表には次々に巨大な氷塊が産まれ、そして内部から炎が迸って大爆発を起こす。弾きの硬直からステップで爆発を抜けたハチドリは、激流を撃ち終え着地して隙を晒したアデュラリアへ、脇差を突き出しつつ猛突進する。迎撃するようにサイドステップから全身を使って尾を振り抜き、そして逆回転に振り抜く。一段目を姿勢を低くして躱し、二段目に脇差を尾に突き刺し、振り抜きによって放り投げられ、アデュラリアは周囲の大気が震えるほどのシフルエネルギーを発し、即座に解放して激流を撃ちながら一回転して飛び上がる。放られたハチドリは空中で受け身を取りつつ、空中に爆発的に形成される氷塊を避け、分身を当てて壊して時間を稼ぐ。アデュラリアは地面に向けて激流を撃ち込み、大地が翻るほどの強烈な大爆発が起こり、大量の灰が巻き上がる。その強烈な衝撃を分身を盾に躱して前に出、籠手から莫大な火薬を撒き散らし、即座に起爆する。アデュラリアは直撃を受けて吹き飛ばされ、叩きつけられて地面を転がる。ハチドリが着地すると同時にアデュラリアも立て直し、呼吸を整える。
「胸がすくよ……なんでかな」
「……」
「えへへ、僕が素直になったから、かな?」
アデュラリアが尾を掲げると、断ち切られていた先端部が鋼で再生される。
「そうだよ……僕はずっと、バロンが全てを受け入れてくれてたことに、自分で気付かなかっただけなんだ……!」
尾による刺突を繰り出し、その先端から熱線が解放される。脇差の腹でそれを往なしつつ超高速で接近するがアデュラリアは咆哮とともに壮絶極まる冷気を起こし、強引にハチドリの足を取って動きを止める。もちろん、本当に僅かな一瞬だけではあったが、アデュラリアはその隙に後退し、剣を振りかぶるように尾を掲げる。そこに寄り添うように鋼の両腕が現れ、力を注ぐ。
「王龍式――」
尾が巨大な氷晶で覆われ、炎が宿って巨大な剣となる。
「〈プライマル・アンティクトン〉!」
振り下ろされ、一瞬の溜めの内に高められた力が解放されて、直線上に最大級の破壊力と波濤を呼び起こす。ハチドリは蒼い太刀の一閃で打ち消し、両者はゆっくりと構え直して歩み寄る。アデュラリアの尾に力を与えた腕が消え去り、彼から更に炎が迸る。
「さあ、決着をつけよう。君を知って、僕を認めて、そうしたら……」
天を仰ぎ咆哮すると、彼から次々と光弾が立ち上る。
「いつまでも傍に居るよ、僕は。君だけのアイドルになってみせるから」
ハチドリは頷く。
「ならば道はただ一つ」
そうして竜化し、余燼が姿を現す。両者は同時に口からブレスを吐き出し、衝突によって爆散する。爆風に合わせて二人は同時に空に飛び出し、余燼が錐揉み回転しながら突進するのを、アデュラリアが巧みに躱し、尾による猛烈な刺突を横から繰り出す。余燼も突進の威力を弱めつつ自身の尾で応戦して向き直り、強い剣戟のように弾いて離れ、アデュラリアが先手を打って冰気光線を撃ち出す。軌道上の乱雑な範囲に次々と氷塊が現れ、紅蓮を灯して爆発していく。余燼は自身の周囲に火薬溜まりを続々と形成し、纏って突っ込む。下方に回り込んで逃げようとするアデュラリアを、爆発の嵐の中をものともせずに突っ切って捉え、両者お互いの爆発を表皮に直撃させながら揉み合い、余燼がアデュラリアを翼で弾いて地面に叩き落とし、そのまま熱線を撃ち込んで爆発させる。余燼は素早い着地から左翼を盾に突っ込むが、熱線の直撃を避けて立て直していたアデュラリアによる、翼の合間を縫うような尾の刺突にて先手を取られて突進の威力を弱められ、即座に後方中空へ飛び退いてから、再び左翼を盾にして突進するとそこに冰気光線を合わせられ、だがそれでも強引に突破して左翼の薙ぎ払いを当てて仰け反らせ、右翼で打ち上げて瞬時に肉薄し、翻って尾で叩き落とす。重ねて両翼を合わせて急降下して叩きつけようとするが、アデュラリアに追従していた光弾が一斉に射出されて迎撃に上がり、動作を無効化することこそ出来ないものの降下の速度を若干緩めることで立て直し、叩きつけを回避する。
「バロンは……不器用だよね」
「誰かが犠牲にならねば成り立たぬものもあります故」
余燼は瞬間移動から右翼を槍のように突き出し、アデュラリアはバックジャンプからの薙ぎ払いブレスで迎撃し、地面から生じる氷柱が勢いよく突き出し、そして爆発する。地面でそれを受けつつも、ブレスの硬直に着地したアデュラリアを左翼による二度目の刺突で捉え、続けて薙ぎ払いを当て、右翼爪で地面を抉って直線上の熱波を起こしつつ翻って飛び退き、尾先に形成した熱の刃で斬りつけて着地し、右翼を盾にしつつ再び突進する。アデュラリアはその全てを受けつつも最終段の突進に対し自爆することで相殺し、光弾を生じさせつつ尾に力を集中させ、カウンターのように振り下ろす。尾の直撃で翼を破り、続く光の波濤が余燼を飲み込む。と、光が全てを飲み込む空間を、紅いシフル粒子が捻じ曲げて、余燼の右翼が届く。そこから薙ぎ払い、左翼の刺突、薙ぎ払い、熱線を撃ち込みながら反動で後退しつつ、莫大な威力で自身を押して瞬間移動しつつ両翼を振り抜き、後方中空に瞬間移動してから突進して再び両翼を振り抜き、蓄積され凝縮された絶類なる闘気を爆発四散させ、至近距離で直撃させてアデュラリアを縦回転で吹き飛ばす。
「……」
余燼はハチドリに戻り、アデュラリアもリーズの姿に戻っている。
「ジャック……殿……」
ハチドリは倒れているリーズへ歩み寄ると、彼は上体を起こして迎える。
「負けちゃった、えへへ……」
リーズは憑き物が落ちたような、屈託のない笑みを見せる。その笑顔に応え、ハチドリは鋼を纏ったままの右手を差し伸べる。
「さあ、行こうジャック。ずっと一緒に、最期まで」
「うんっ……うんっ!」
リーズは手を取り、シフルエネルギーへと変わってハチドリに吸収される。
「あなたは
右手に仄かな冰気を帯び、ハチドリはその場を去った。
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