エンドレスロール:女神の三果実・沈溺

 エンドレスロール 王龍結界デミウルゴス・アイオーン

 輝く炎の嵐に包まれて、マドルとハチドリが相対する。

わたくしのこと……殺しに来たんですの?」

「……」

 マドルの言葉に、ハチドリは沈黙で返す。ハチドリの耳は片方折れており、衣服も所々破け、焼け焦げている。

「あなたがバロン様の愛をその身に受けたこと……恨めしく思いますわ。とても、とてもね……」

「私には」

 ハチドリが口を開く。

「私には、返す言葉は有りません。皆様からの恨みをこの身に受け、それでも旦那様の寵愛を抱いて、世を進むのみ……」

 脇差を抜き、刀身に赫赫とした怨愛の炎を宿す。

「嗚呼、羨ましい……バロン様もメルクバ様もソムニウム様も……誰も!私を大切にはしてくれなかった!全部……全部、死穢の実に奪われて!」

 マドルは竜化し、王龍フィロソフィアとしての姿――銀と鋼に包まれた、巨大な翼を持つ四足竜へと転じる。

「どうして私だけが、恩を仇で返されて……!」

 右翼で前方を薙ぎ、振り下ろす。輝く炎の波が二度巻き起こり、一段目を分身で往なし、二段目をすり抜けながら接近し、舞うような連撃の初段を見せる。フィロソフィアは左前腕にて脇差を受け止めるが、鋭い攻撃の余波によって防御の上から削られる。

「……」

「どうしてどうして、どうして……!」

「哀れですね。永く平和に暮らすためには、永遠に思考を止めることは許されない。あなたは幸せに目が眩んで、立ち尽くすだけ」

 左前脚を押し切って切断し、自身の左腕に装着している籠手から鞘を展開し、脇差を収め、そのまま太刀を引き抜いて刀身に怨愛の炎を宿してリーチを補強し、横、縦と連続で斬り払う。

「うぐぉあっ!?」

 フィロソフィアは大きく仰け反り、後退する。

「この世の涯はただ一つ……」

 ハチドリは太刀を背に収め、少しずつ歩み寄る。

「戦いに尽きる、死の淵のみ」

 籠手に収めた脇差を抜刀し、その勢いで大量の火薬を炸裂させ、周囲を埋め尽くす輝く炎を塗り替えながら爆炎が咲き誇る。

「私の……私の……!」

 フィロソフィアから鋼が剥げ落ち、有機的な表皮の白竜が顕現する。そして天を仰ぎ、咆哮を解放する。輝く炎が螺旋を描いて天へ昇り、蒼い闘気と鱗粉が彼女の体から溢れ始める。

「神の炎……」

「愛が足りない……愛して欲しい!もっと、愛し合うために生まれてきた……のにッ……!」

 フィロソフィアは飛び上がり、身をもたげて輝く熱波を解き放つ。

「っ……」

 ハチドリは威力こそ大したものではないそれを受けて、多少怯む。フィロソフィアの着地とほぼ同時に、地表から次々と輝く火柱が沸き上がり、爆発する。口許で燻らせた火炎を吐き出すと、放射と共に炎の塊が扇状に地面を走り、一拍置いて爆発する。フィロソフィアは同時に右へ大きく回り込み、ハチドリは前に出つつ攻撃を往なして向きを合わせる。瞬間、フィロソフィアは同じ攻撃を繰り出し、今度は真上を通って移動する。着地と同時に四肢でしっかりと地面を捉え、口から輝く炎の巨大な熱線を吐き出す。塊の爆発のついでとばかりに豪快なサイドステップの回り込みで熱線を躱され、ハチドリは右足による踏み込みで地面から怨愛の炎を呼び起こし、脇差で地面を切りつつ直線状に炎を帯びた斬撃を飛ばし、続く薙ぎ払いで熱波を起こし、間髪入れずに脇差を納刀する。二つの攻撃が無防備な体側面に届いてフィロソフィアは怯み、ハチドリは目にも止まらぬ急接近から抜刀し、凝縮された大量の斬撃が一度に飛び交い、それによって拘束している内に籠手に納刀し、火薬による推進と炎の付与で強化された脇差による三連斬りから、踏み込み突き、飛び上がり爆炎を纏った脇差を振り下ろして爆発させる。コンボから解放されたフィロソフィアは即座に咆哮して炎の勢いを取り戻し、飛び上がる。

「王龍式!」

 技名を叫んで強引に必殺技へと移行し、天地を結ぶほど巨大な輝く炎の柱がハチドリを囲むように何本も産み出される。順回転と逆回転のそれらが中心へ収束し、力が一瞬の内に凝縮されて、次の瞬間に超絶的な威力を以て大爆発を引き起こす。

「〈プルシャルカ・プロパトール〉!」

 だが同時に、この大爆発を飲み込むほどの紅蓮が巻き起こり、無傷のハチドリが現れる。

「王龍式……隙も体力の収支も度外視した、派手さ重視の行為と言うのは本当だったんですね」

 脇差を既に収めたハチドリは、瞬時にフィロソフィアの上を取り、体格差をものともせずに地面へ叩き落し、太刀をその頸椎に突き刺す。そのまま脳天まで斬り捌き、フィロソフィアへ向き直りつつ納刀する。

「旦那様には戦いしかない、それだけです」

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