エンドレスロール:王位の顕現
エンドレスロール 廃城セミラム・グラナディア
崩壊した城の頂上、星の海を模したような内装に、賭博用の回転円盤が床に嵌め込まれた、奇怪な部屋にて、金髪の少女が佇んでいた。己の体躯の倍以上ある剣を眼前に突き立て、空虚な風が吹き抜ける中を、一人で。
「……」
ドレスと甲冑を組み合わせたような装束に身を包んでいる彼女は、氷のように凍てついた表情で、眼前の特大剣……聖剣クンネ・スレイマニエにこびりついた血を眺める。
「姉上……」
背後から現れたのは、レイヴンとアーシャだった。
「アーシャ。見ない内に、随分と大きくなりましたね。姉として、妹の健全な成長を嬉しく思います」
オーレリアの冷ややかな表情は変わらないが、声色は優しく落ち着いている。
「この城は、始祖様のお作りになられたもの。我らヴルドル王家の始まりの地なのです」
彼女は右手を差し伸べる。
「さあ、アーシャ。私と共に、王家を再建しましょう。私には居ませんが、あなたには跡継ぎの種もいることですし……この姉の言葉、聞いてくれますね?」
「……」
アーシャは一歩退き、レイヴンの右手を握る。それで察したレイヴンは、左手で素早く拳銃を抜いてオーレリアへ一発放つ。
「そういうことだ、女王サマ。俺たちは王家に興味なんてねえ。そもそも俺がそういう性分じゃねえってのはよく知ってるだろ?」
銃弾が肩口を掠め、オーレリアは心底呆れたようにゆっくり瞬きする。
「立場上、思い通りに事が進まないのには慣れていますが……大切な妹を浮浪者に奪われたことだけは、少々傷つきました」
背後でスレイマニエが自ら飛び立ち、掲げられたオーレリアの右手に収まる。その切っ先を向け、声を低める。
「ならばレイヴン。あなたを倒すことで、アーシャを私の手に取り戻す」
アーシャが剣へと変わり、レイヴンはそれを右手に握って肩に乗せる。
「悪いな、このお姫様はもう俺が攫っちまった。誰にも譲る気はないぜ」
『相棒……!』
オーレリアは八相の構えを取り、レイヴンもそれに従って剣を構える。スレイマニエに電撃が宿り、オーレリアが飛び上がりつつ大きく振りかぶる。
「秘剣・雷刃破ァッ!」
レイヴンは分かり切った挙動を潰すように魔力の壁で受け流しつつすり抜け、絶大な破壊力を叩き込む。
『後ろッ!』
振り返りつつ剣で防御すると、電撃を帯びたままのスレイマニエをちょうど受け止め、重たい衝撃と共に電流が流れて痺れる痛みをもたらしてくる。
「シビれるねえ!」
「……」
オーレリアは動作なく幻影剣を数本飛ばすと、レイヴンも魔力の剣を撃ち込んで無力化し、闘気を発しつつスレイマニエを押し返し、大きく宙返りで飛び退き、竜化する。続けて剣を消して二丁拳銃を抜き、乱射すると、帯電するオーレリアの眼前へ銃弾が偏向して阻まれる。
『相棒、姉上の体は半端な遠距離攻撃では届かないようです!』
「はっ、らしいな」
拳銃をホルスターに収め、剣を手元に戻す。オーレリアは飛び込みつつ振り下ろし、両腕を使って豪快に振り回す。スレイマニエの軌跡に多量の落雷が起こり、大振りな攻撃の隙を潰す。振りに合わせてどんどん速度が上がり、威力も相まってレイヴンですら手出しできないほどの猛攻へと変わっていく。
「おいおい、キレすぎだろ」
薙ぎ払いを二度凌いで受け流し、三段目の切り上げに合わせて飛び退き、牽制――になるかはともかく、拳銃を素早く抜いて二発撃ち込む。当然届いていないようだったが。
「汝の躯を王の煤へ、かくあれかし!」
一際強烈な電撃を帯び、飛ぶような踏み込みから瞬時に肉薄し、剣閃を放つ。
「秘剣・雷刃交撃破!」
即座にもう一撃の斬撃を繰り出し、交差した電撃が迸る。レイヴンは寸前で防御するが余りの威力に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。間髪入れずに電撃で亜光速まで加速して刺突を繰り出し、レイヴンはまたもギリギリで回避しつつ、大きく飛び退き、空中で融合竜化し、左手に力を集中させ、急降下して殴りつける。強烈な衝撃波が起こってオーレリアを押し込み、突き放す。
「そうか……二人は私の思っている以上に、愛し合っていると」
『姉上、この姿が答えです。私たちは既に文字通りの一心同体です!』
「わかったわ、アーシャ。わかった……」
オーレリアは飛びのき、円盤の中央へ着地する。両手でスレイマニエを握り、天に掲げる。
「ならば、私は一人でいい。お婆様のように、独り裁く者……独裁者となればいい」
彼女の周囲に、人間の姿をした幻影が産み出される。セミラミス、グラナディア、ホルカン、ジデルの四人の幻影が、オーレリアに侍る。
「さあ、我が魂は王家と共に」
「はっ、今更お人形遊びか?それで俺に勝つってんなら、百万年早いな」
「始祖様」
セミラミスの幻影が動き始め、腰に佩いた長剣を抜いて掲げる。それに伴い、大量の幻影剣が降り注いでくる。
『相棒!』
「お前の家族全員で俺を歓迎してるってわけか?」
レイヴンは右に逃げ、魔力の剣で打ち返していく。高速で回転しながら剣を突き出し、切っ先に魔力の剣を集中させながら突っ込む。
「お父様!」
オーレリアの声に応えるように、ホルカンの幻影が前に出る。ホルカンの巨大な体躯よりもまだ大きい壁のような大剣を床に突き立て、レイヴンの突進を真正面から受け止める。そこへ頭上からグラナディアとジデルが現れ、それぞれの剣を掲げて急襲をかける。
「いくぜ!」
突進を解除するのに合わせて衝撃波を起こして二人を牽制し、再び床を殴りつけて衝撃波を起こし、ホルカンをよろめかせ、剣の出力を大幅に上げて薙ぎ払い、返す刀でホルカンを消し去る。そこへセミラミスの幻影が七体現れて攻撃を仕掛け、最初からいたセミラミスの幻影が最後に強烈な一閃を繰り出す。魔力の剣で七体を打ち消し、続く一閃をそれを上回る破壊力の剣閃で飲み込み、幻影諸共破壊する。と、そこにオーレリアが現れて電撃を帯びたスレイマニエを振る。
「秘剣・雷刃破!」
咄嗟にレイヴンは左手から闘気弾を放ち、その爆発に巻き込まれて強引に距離を開け、小粒な闘気弾と魔力の剣でジデルを蜂の巣にしつつ、グラナディアを空間ごと圧潰させる。オーレリアが飛び込んで距離を詰め、再び電撃を帯びたスレイマニエを振り被る。
「じゃあな、お姉さま」
再三繰り出された雷刃破を弾き返し、即座に繰り出した刺突にてオーレリアの腹を貫き、蹴りで引き抜きつつ吹き飛ばす。オーレリアは玉座に叩きつけられ、スレイマニエは円盤に突き刺さる。
「よし……」
融合竜化を解いて二人に戻ると、玉座まで歩み寄る。
「姉上……」
更に近寄ろうとすると、オーレリアが右手で制する。
「アーシャ……あなたが生き続けるのなら、それでもいいと……子を、成すかどうかも……好きになさい、私にはもう……関係のないこと……」
程なく、彼女は塩となって消える。
「姉上……」
レイヴンはアーシャの肩に、そっと触れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます