与太話:ダダ甘女王様
「っとと……前が見えない……」
ハチドリが屋敷の廊下にて、積み上げた段ボールを運んでいた。
「うむむ……っとわぁ!?」
唸りながら進んでいると、不意に躓いて段ボールを前方に放ってしまう。そこへ突如鞭が振るわれ、あちらこちらへ飛んでいく段ボールが一列に並んで積み重なり、事なきを得る。
「いやー、済みませんでした、メイヴさん……」
ハチドリが一息ついて前を見ると、そこに居たのはその通りにメイヴだった。彼女は鞭を消し、腰に右手を当てて溜息をつく。
「全く……気をつけなさい。女王たるアタシにこんなものをぶつけたら、世が世なら即死刑よ」
「ひぇ……ごめんなさい!」
「まあいいわ。アタシは寛大な女王だから。アンタの頑張りに免じて許してあげる。ところで……」
メイヴは段ボールに目を向け、そしてハチドリを見る。
「なんでこんなもん運んでんのよ。力仕事ならバロンに任せればいいでしょ」
「いえ、旦那様のお手を煩わせるわけには……」
「いいのよ。適材適所、というでしょ。アイツがちゃんと出来てないなら、文句を言って然るべきよ。特に、アンタみたいな物を言いやすい立場ならなおさらね」
メイヴはハチドリの手を掴み、そのまま連れて行く。
「ちょちょちょ!メイヴさんどこへ!?」
「決まってるでしょ。あの鈍感のアホに直談判よ」
二人は進み、メイヴが執務室の扉を蹴破る。室内では、座っているバロンと立っているシマエナガが会話していたようだ。
「……」
バロンがメイヴたちへ視線を向けると、二人は彼の前まで歩み寄る。
「アンタ、コイツに荷物運ばせてるでしょ」
「……ああ、庭に飾ろうと思っていた石像の部品をな」
「なんでアンタが運ばないのよ。どうみても、コイツの体格じゃ足りないでしょ」
バロンは少々思考を巡らせた後、言葉を返す。
「……なるほど、お前はわざわざ僕にそれを言いに来たのか。確かに……腕力は問題ないと思って任せたが、視界のことは余り気にしていなかったな。ありがとうメイヴ」
「分かればいいわ」
「……それと、済まない、ハチドリ。僕が浅慮だった」
バロンが話を振ると、ハチドリはぶんぶんと頭を振る。
「いえ!旦那様が謝る事は無くてですね……!」
「……だとしても、メイヴが居てくれなかったら気付かなかったのも確かだ」
メイヴがそれに割り込む。
「荷物は廊下に放置してるから、アンタが自分で運びなさい。じゃあね」
そして再びハチドリを伴って退室しようとすると、バロンが呼び止める。
「……メイヴ」
「何かしら?」
「……いつも済まないな。お前の繊細な気配りには、いつも世話になっている。これからも頼むぞ」
「あくまでもアタシは、賎民の失敗を赦してあげてるだけよ。アンタのためじゃないわ」
二人は立ち去った。
「……一緒に暮らしてみると分かる優しさだな……なあ、シマエナガ」
バロンが話題を振ると、シマエナガも頷く。
「始源世界の時はとてもそうとは思っていませんでしたが」
「……だよなぁ……もし僕に姉が居たら、ああいう風なのが一番いいな」
「左様ですか。では、私と家族になるなら、私はどこに?」
「……義妹……か……」
「シマエナガショック!」
「……急にどうした……」
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