☆☆☆エンドレスロールEX:不朽の蒼金剛

 この世に有るもの 無きもの

 その境はいずれのものにも在りはせず

 また その欲の境さえ 在りはしない


 女神より零れ落ちた三つの果実

 知恵を 死穢へと変える 禍の実

 知恵への欲望を以て 死を撒き散らす


 やがて果実は夢見鳥へとまろ

 滅びの螺旋を描いて昇る

 まれびと誘い 明けぬ闇の果てへ征く








 エンドレスロール ゼフィルス・アークェンシー

 外界の全てと遮断された神殿の内部、一つの広間にて。

「バロン」

 その中央に座っているエリアルは、自らの膝上に乗せたバロンの頭を優しく撫でていた。バロンはその巨体を床に擲ち、目を開かず、単に膝枕で眠っているようにも見える。

「私を裁くのはあなたじゃなかった。夫婦で決めたことだったけど……あなたが私を、殺してくれるって思ってたの。でも違った。だったら、一体誰が……」

 エリアルが撫でていた右手を虚空へ伸ばすと、その掌に灰色の蝶が留まる。

「無限の力、満ち足りぬ愛……知識を満たす欲は、ただ私たちの飢え渇きに過ぎない。ね、そうでしょ――」

 壮絶な気迫を帯びた灰色の蝶とバロンとを吸収し、エリアルは立ち上がる。

「ハチドリ」

 振り返ると、片耳のハチドリが立っていた。

「奥様……」

「止めてよ。私はもう、バロンの妻じゃない。バロンもまた、私の夫じゃない。これからはあなたが妻よ、あの人の」

「勿体ないお言葉です……」

「追従は不要よ」

 エリアルは左手を顎に当て、悪戯っぽく笑う。

「ここはルナリスフィリアの中、記憶の世界。そうでしょう?現実のあなたは既に自我を失い、バロンの全てを背負って彷徨い続けているはずだから」

「……」

「あなたは私を殺しに来た。そして私も、この世界に立っている以上はあなたを殺さなくてはならない」

 ハチドリが脇差を抜く。

「奥様……いえ、エリアルさん。私は旦那様の全てを許容し、理解しようとしてこの道を進んでいます。でも……ひとつだけ、エリアルさんにお恨み申し上げたいことがあるんです、妻として」

「どうぞ。恨み節なら立場上聞き慣れてるわ」

「旦那様の心の中に私は居らず……ただあなたへの愛だけが満ち満ちていたこと……それだけが、少々恨めしい。あの方は、私のことを都合のいい孕み袋だとしか見ていない。私は……あなたたち夫婦の、礎にされた」

「それでもバロンのことを憎んではいないんでしょう?あくまでも、それは私にだけ、向けられてるってことね」

「……」

 ハチドリは頷く。

「結構。その手の愚痴は散々聞いてきたけど、アウルと同じくらいキくわね」

 エリアルは右腕を振り抜いて外套を翻し、杖で床を突く。小気味良い金属音が一度だけ響き渡り、再びの静寂が現れる。

「ならばその気魄、ぶつけて御覧なさい。バロンに代わり、あなたが私に滅びを与えてみせて」

「エリアルさん……いえ、あえてここは、奥様と呼ばせていただきます……!」

 ハチドリが構えると、エリアルも笑みを浮かべて身構える。爆炎を起こしてハチドリが消え、次の瞬間には眼前に現れて舞うような連撃を繰り出す。エリアルは杖に鋼を纏わせ、あちらの連撃に合う速度で打ち返し続ける。

「奥様……!」

「ふふっ、意外でしょ?私がここまで近接格闘が出来るなんて、さ……!」

 連撃の締めの一打を打ち返してハチドリの姿勢を大きく崩させ、その隙に杖で彼女の左胸を刺し貫き、蹴り飛ばして引き抜く。後退したハチドリへ激流で加速した巨大な鋼の槍を二つ撃ち込み、自らの足元から潮を起こしてそれを流体金属へと変え、次々に地面から棘を生やす。槍を弾き返して返す刀で熱波を起こして潮を沸騰させると、ハチドリは脇差を突き出しつつ凄まじい速度で突進する。エリアルが紙一重で凌ぐと、ハチドリは杖を踏み台にして飛び上がり、脇差に爆炎を滾らせて落下し、同時に脇差を振り下ろす。そのまま回転しつつ二回斬り付けて脇差を投げ飛ばし、もう片方の手で背の太刀を引き抜きつつ薙ぎ払い、大上段に構えて右手を添え、縦振りを与えて追撃する。膨大な土煙が起こり、それが晴れると、広間の中は怨愛の炎が燃え移っていた。

「奥様のことは、旦那様の生きる意味であると同時に、あの方を助ける頭脳であるとしか見ていませんでした」

 怨愛の炎でリーチを伸ばした太刀は、杖が変じた鎌の柄に阻まれていた。

「へえ、そう?私は今、バロンがあなたを選んだ理由をひしひしと感じてるわ……こんなに無垢で綺麗な心、自分で汚したくなるもの……ね!」

 太刀を弾くとハチドリは飛びのき、脇差を手元に戻しつつ太刀を背に収め、互いに構え直す。

「それがどうでしょう……奥様は、全ての元凶でした。世が捻じれる原因となって、あまつさえ、旦那様の傍に居続けた、世界の毒でした」

「正しい形なんて誰も知らないしどこにもないでしょ?あなただって、バロンの遺志を継いで世に猛毒を吐き続ける現象として新たに生まれ落ちた……」

 エリアルから放たれた力が、延々と燃え上る怨愛の炎を掻き消して、広間を冷気で満たす。

「修羅なんだから。帰る場所なんてどこにも無くて、ただ、有るものたちへ禍を撒き散らすだけの……ね」

 エリアルが左手を振ると、ハチドリを貫くように巨大な氷柱がいくつも生成される。分身を盾にして前方へ移動すると、まるで獣が嚙合わせるように上下から氷柱が生成され、ハチドリは一気にエリアルへ距離を詰める。互いに互いの動きを読んでいたか、両者の分身がそれぞれ激突し、同じ方向へ移動してハチドリが刺突を繰り出すと、左手を凍り付かせて籠手のごとくしたエリアルの引っ搔きがかち合い、エリアルが素早く身を屈めて足払いを放ち、ハチドリは飛び上がって太刀を抜き、串刺しにするように下に向けて落ちる。だが鎌に阻まれ、太刀を巻き込みながら鎌を回してハチドリの体の動きを乱し、左手を突き出して冷気を撃ち込む。分身に阻まれるもハチドリは後退し、エリアルは姿勢を戻す時間を稼ぐことに成功する。太刀を収めたハチドリは瞬間移動から、舞うような連撃を繰り出しつつ、己に分身を被せて動きを追従させる。剣閃に伴ってそれら以外の衝撃波も乱れ狂い、さしものエリアルも防御に専念する。余りに鋭い攻撃故に防御を貫通して削り取っていき、止めに強く打ち込んで硬直による防御からの態勢転換を妨害し、目にも止まらぬ速度で納刀し背の太刀を抜き、横縦と切り裂く。一段目で防御を砕かれ、二段目の直撃を受けてエリアルは吹き飛ばされる。辛うじて倒れることは回避するが、右肩口から左太腿にかけてを大きく切り裂かれていた。

「レメディもそうだけど……世の中ってのは気紛れで雑なもんね……」

「……」

 ハチドリは太刀を収め、脇差を構え直す。

「自我って言うのは絶対の答えや、物事の繋がりを欲しがるものよ。どうしたらいいか、どうしてこうなったか……けれどそんなものは無いし、価値もない。あるのはただ、目の前のことだけ。だからこそ……全部知りたくなる、全部欲しくなる。目の前にあることだけが全てなら、全ての瞬間を記憶してたい……!」

「それが奥様の生きてきた意味ですか」

「そうよ。〝それ〟を見た私は、今の私とは違う。だから知識として集めて、先の私を作り出していく……これが知識欲よ。明日の私をより良いものにするためには、よりよい、より多くの瞬間が必要なの。だから……私とバロン以外ならなんでも犠牲になってくれて構わないわ。物語のヒロインとしては、傲慢に過ぎるけれどね」

「ヒロイン……与えられた役割を、奥様はそう理解したと」

「主役が清く正しくある必要なんてない、そうでしょ?」

 エリアルは力むと、竜骨化する。莫大な冷気を帯び、傷も完全に癒えている。

「私の人生だし、私が主役。それにさ……因果応報、って素敵な言葉があるじゃない?あれって、やったことに対して相応の報いが来る……ってことだけど、良い方にも悪い方にもね。つまりは、その結果を受け入れるならどんなことをしても許されるってことでしょ?」

「生きたいように生きて、その報いを受けて砕け散る……?」

「そ。いいでしょ、この生き方。現実の私はたぶん、バロンに勝てずに死んだんでしょうけど、今は生きてる。ならもっと、好きにさせてもらうわ」

 エリアルが左手を翳すと、莫大な冷気が前方に解放され、大量の氷柱が絡み合って巨大な牙のごとくなり、ハチドリの進路の下から次々と生成されていく。ハチドリは駆けて躱していくが、途中で自らを爆発させてエリアルの頭上に瞬間移動して逃げ、左手から火薬を撒き散らして、脇差で着火して爆発させる。エリアルは分身となって凍結し、爆発して冷気を放出する。そして既に背後を取り、鎌の一閃から続いて連続蹴りを与えつつ鎌を振り下ろし、大量の斬撃を叩き込みつつ着地する。即座に対応したハチドリは大半の攻撃を受け流し、止めを分身に受けさせ、ほぼ同時に着地する。それを見切ってエリアルは鎌を薙ぎ払って強大な氷の波を呼び起こすが、ハチドリも同時に怨愛の炎を呼び起こし、差し向けて激突させる。その最中、前方からエリアルが突っ込んできて鎌を振る。ハチドリは素早く対応してその首を左手で掴み、一気に火薬を送り込んで大爆発させる。だがそのエリアルは氷となって爆散し、背後から猛突進してきたエリアルが渾身の鎌の一閃を与え、もう一度振り、最後に極限まで高めた一閃と共に極限大のエネルギーが立ち昇る。

「この世の涯はただ一つ……」

 同時に全てを滅却するような大爆発と共に業火が弾け、二つのエネルギーが交じり合って壮絶極まる力が弾け飛ぶ。二人は同時に吹き飛び、堪えきれずに地面に叩きつけられる。力の奔流が収まったあと、ゆっくりと態勢を立て直す。

「なかなかどうして……」

「あー、まだ死なないし死ねないなんてね」

 エリアルは首を回し、半分砕けた頭部に触れる。

「あのさ、知識を深める上での一番の障害って何かわかる?」

 やや唐突に、ハチドリへ言葉を向ける。

「目の前の瞬間だけが全て……そうなら、他者の目に映る瞬間……でしょうか」

「ご名答」

 エリアルは鎌を消す。

「私が見る瞬間は、いくらでも覚えていられるわ。でも……他人の目を、他人の心で感じた形を、私は知ることは出来ない。もちろん、色々な方法を使って、他人の目を奪って、心さえも操ってもね。誰かが瞳を通して得た啓蒙を、私はそのままの形で知ることは能わない。だから私は……他者の目を得て物語を覗き込む狂人が羨ましくて堪らない……」

 彼女から溢れる謎の力によって、大気が震える。ハチドリは構え直し、警戒を示す。

「まだ私は終わりたくないわ……まだまだ、知りたいことがあるもの……」

 背を砕いて蒼い蝶の翅が生え、彼女が浮かび上がる。周囲の気配が複雑に変化し、律動していく。そして獣の咆哮を放ち、体の奥から冷気の光線をでたらめに放出し、複雑に動いて周囲の何もかもを粉砕していく。ハチドリはその最中を潜り抜けながら、飛び上がって肉薄し、砕けた頭部に脇差を捻じ込み、一気に怨愛の炎を注ぎ込む。冷気と反応して暴発し、ハチドリは後退しつつ着地し、エリアルは光線を放射を続けられずに悶える。だがすぐに構え直し、大量の氷柱をハチドリを貫くように、虚空から次々と生成する。先ほどよりも圧倒的に物量も攻撃の密度も激しく、避けきれずに仕方なく怨愛の炎で打ち消すと、そこに小型のブラックホールが産み出され、周囲を飲み込みつつ圧潰していく。ハチドリが怨愛の炎を撃ち込んで対消滅させると、その影からエリアルが鎌を二つ飛ばし、続けて極限大の冷気を光線状にして合わせた両掌から放出する。ハチドリは脇差で受け止め、脇差を放り投げることで光線を偏向させつつ、自らは鋼を帯びて突進し、エリアルを一刀両断して着地する。エリアルは繰り出していた光線の暴発を受けて体表が砕け、言葉にならない絶叫を撒き散らす。どこにそんな力が残っているのか、なおもエリアルは力を放出し、黒鋼によく似た竜化体となって着地する。

「執念深さとしぶとさは流石のものです、奥様……」

 この姿のハチドリですら少々呆れるほどの余力を解き放って、エリアルが相対する。

「ハァーッ……」

 口を開くと冷気が漏れ出し、瞳は完全に獣のそれになっていた。エリアルは右腕を大きく振り回して地面に叩きつけ、直線上に冷気を撃ち出す。機敏な動きをする余裕はないのか、ハチドリは鈍重なその動きを躱すまでもなく、ただの移動で無効とし、接近して脳天に太刀を突き刺す。

「奥様……」

 全体重をかけて頭をかち割り、エリアルは膝から崩れ、そこで耐える。

「っ……?」

 力を込めきったハチドリが一瞬疑問に思うと、エリアルの体内から莫大な冷気が漏れ出す。爆発してハチドリを吹き飛ばし、割れた体内から白い蝶の群れが飛び出ていく。

「何が……!」

 漏れ出た冷気が部屋中に満ち、間もなく溶けて膨大な量の水に変わる。抜け殻のようになった竜化体から巨龍が飛び出し、天井を突き破る。空に顕現したのは、両翼を喪っているヴァナ・ファキナに、頭足類のような触腕が靡き、頭部が竜のものとは異なる異形の三つ割れ顎になっているものだ。

「奥様ァッ!」

 エリアルは咆哮し、凄まじく巨大な津波を呼び起こす。

「クライシス……」

 間もなく圧倒的な質量を誇る津波が神殿もろとも獣耳人類の都市を、自然を、全てを飲み込んでいく。


 エンドレスロール 深淵領域ヴァニティ・キンドルフィーネ

 ハチドリが津波の威力を相殺しながら満ちていく海の上に辿り着く。展開された深淵領域に、極楽浄土の景色は塗り替えられたようで、頭上から注ぐ淵源の月の蒼光が、淡く周囲を照らす。

 「淵源の月……!」

 驚くのと同時に高度を合わせてきたエリアルが吠え、水面が突如巨大な渦潮を作り出し、急速に収縮して爆発し、巨大な水柱を作り出す。ハチドリは即座に躱し、脇差を素早く二回振って炎の斬撃を飛ばす。だがそれはエリアルの体表で迸る水流に打ち消され、彼女は飛び上がって回遊し、その軌道に水で象った巨大な杖を次々と生み出し、水面目掛けて射出する。杖は水面に突き刺さって停止し、その度に小規模な津波を起こす。

「どこからまだこんな力が……!」

 回避に専念するハチドリ目掛け、エリアルは急降下突進を放つ。体格を活かして強引に当てようとするも、分身を使った加速で回避され、そのまま水中へ突入する。直ぐ様ハチドリの足元に動き、水面を勢いよく突き破って現れる。弾ける海水が火薬による爆発のように広く衝撃を起こし、防御したハチドリを大きく吹き飛ばす。再び空中に出たエリアルは向き直って力を溜め、口から強烈な激流を吐き出し、水面を刈り取るように乱雑に薙ぎ払う。更に逃げ場を塞ぐように再び杖を降り注がせ、ハチドリは立て直して構える。

「(威力こそ恐ろしいまでのもの……ですが!)」

 ハチドリは太刀に持ち替え、投げつけ、エリアルの頭部を過たずに貫く。怨愛の炎を帯びた太刀が爆発し、エリアルの行動を中断する。怯んだところを逃さず脇差を抜きつつ巨大な刀の像を被せ、居合抜きで巨大斬撃光線を飛ばし、エリアルの頭部の付け根に叩き込んで高度を強制的に落とさせる。そして脇差を手元に戻した太刀へ持ち替えつつ、抜刀した勢いで刀身に怨愛の炎を宿してリーチを爆増させながら縦振りをぶつけ、返す刀で薙ぎ払い、左手に持ち替えつつ逆手にし、水面に突き刺して超巨大な炎を噴出させて追撃する。だがエリアルは咆哮で煙を吹き飛ばし、衝撃で残った炎も弾き飛ばす。口を開いて低く構え、一気に息を吸い込んでハチドリを引き寄せながら、一瞬で溜めた激流を吐き出し、回避したハチドリを威力の余波で怯ませる。

「くっ……!奥様からこれほどまでの力が出るとは……ッ!」

 エリアルは激流が続く間に構え直し、高くとぐろを巻いて水の壁を自身の周囲に生み出しながら、強烈な引き潮を発生させる。

「奥様……!」

 ハチドリは脇差へ持ち替えて再び巨大な刀の像を被せ、瞬間移動を繰り返して接近しながら大量の火薬をエリアルの周囲に配置し、即座に爆発させて水の壁を削る。エリアルは水の壁と引き潮を同時に発生させながらも巨大な杖の雨を降り注がせて迎撃する。杖の着弾が起こす津波を打ち消しながら槍状にした火薬を水の壁に撃ち込んで爆発させつつ、蒼い太刀と脇差をそれぞれの手に持って防御を考慮せずにひたすらに攻撃を加え続ける。エリアルは迎撃と引き潮による水の吸収を並行させつつも、残る力で水の壁を補強して抗い、ハチドリは自身目掛けて六本の杖が打ち据えられたところで自身の周囲の空間を歪めて飛び退き、刀の像を被せた脇差一本を居合抜きのように構え、即座に抜刀する。凄まじい衝撃とともに激突し、激しく拮抗する。それによって水の壁が強引に突き破られ、エリアルは大きく体勢を崩しつつも杖による迎撃を止め、体表の水流すら解除して一気に距離を取り、けたたましい咆哮を撒き散らす。引き潮によって蓄えられた莫大な力が解放され、最初に繰り出したのを大幅に上回る超巨大津波が発生し、高空に浮かぶエリアルすら追い抜いて、天を覆い尽くすほどの威容となる。

「いいでしょう、奥様。私も全力で、あなたを焼き尽くす……!」

 エリアルの号令とともに超巨大津波が動き出し、海上の全てを飲み込み破壊しながら接近してくる。ハチドリは軽く息を一つし、脇差を納刀し、左腕に力を込め出す。装着された籠手のから凄まじい業火が滾り、手を握り締めるのすら困難なほどの力が漏れ出ようとしている。

「確かに、智慧への欲望に底はない。けれど……!」

 目前に迫った超巨大津波へ、左腕を掲げる。

「この世の涯は、ただ一つ!」

 瞬間炎が解き放たれ、超巨大津波を押し留め、押し込む。そのまま全ての威力を打ち消し飲み込み、エリアルもろとも空間の全てを焼き尽くして撃墜する。炎が収まるとともに、ハチドリは軽く一息ついて歩み寄る。

「エリアルさん」

「……」

 既に事切れているのか、急速に塩となって砕けていく。

「旦那様の伴侶は、永遠にあなただけです……その強欲が無ければ……」

 深く意味を含んで言い淀むと、ハチドリは立ち去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る