与太話:面積の話

 エラン・ヴィタール 屋敷

「(皆さんの衣装の露出が多いのは……旦那様のご趣味なのでしょうか……)」

 廊下を歩いていたハチドリは思案していた。

「(だとしたら、妻である私も旦那様の好みに合わせた服を着ないと……)」

 前を見ずに進んでいると、正面から向かってきていた人にぶつかる。

「あいたっ」

 ハチドリはようやく意識を戻し、ぶつかった相手を見る。

「ったく、家の中だからって気を抜き過ぎじゃないの」

「すみません、メイヴさん」

 正面に立っていたのはメイヴで、彼女は呆れ気味に溜息をつく。

「まあいいわ。女王は卑俗な民の愚行を、寛大に許してあげるのも仕事の一つだから」

「ありがとうございます!」

「ところで、真剣な顔をしていたけど、何か悩みでもあるわけ?」

「あ……う……えっとですね、その……この屋敷に住んでいる皆さんは、露出が多いなーって」

「アンタこの間もそれ言ってたわね」

「これって、旦那様のご趣味だったり……するんですかね?」

 メイヴは少し考える。

「んー、あいつの趣味は知らないけど、あいつも男だし、乳・尻・太腿の三種の神器には反応するんじゃない。ちなみに次点の神器は脇・肩・首筋よ」

「やっぱり旦那様の趣味……」

「直接聞けばいいじゃない。アタシは竿の好みに合わせたりはしないけど、聞けば教えてくれるわよ、多分。純粋に褒めるのは癪だけど、あいつ優しいし」

「なるほど!メイヴさんは旦那様と仲良しなんですね!」

「なかっ……よしではないとは思うけど?こういうのは腐れ縁って言うのよ、お嬢さん」

 照れ隠しなどではなく、聞き慣れない呼ばれ方に単純に困惑しつつもメイヴが皮肉っぽく返す。

「勉強になります……」

「あいつなら執務室に居たわ。いつもみたいに、クソ真面目に何かやってるんでしょうねー」

 メイヴは少々不服そうに告げて、立ち去った。

「ふむ……」

 ハチドリは執務室へ歩を進める。


 ――……――……――

「……ここに住んでる皆の衣装か……」

 豪奢なワークデスクに肘をつき、如何にも座り心地が良さそうなチェアに腰かけたバロンがそう言う。

「はい!えと、皆さんその……露出が多いと言いますか、目のやり場に困ると言いますか……」

「……そんなに足を大胆に出しておいてか?」

 バロンがハチドリへ視線を向ける。彼女はセーラー服を改造したようなワンピースで、ミニスカートから惜しげもなく生足を見せびらかしている。

「そう言えばそうですね……」

「……まあいい。先の質問だが……ここでは自由に生活してくれと全員に言っている。彼女たちのあの服は、好きで着ているだけだ。君が気になるなら……まあ、メイヴやエリアルを説得出来たら、たぶん露出は減る」

「い、いえ!止めてほしいというわけではなく!少し疑問になっただけなんです!そ、それで……旦那様は、どのような衣装が好きなのでしょう?妻として、旦那様の好みは把握しておきたいな、と!」

「……そういう属性で好き嫌いを考えたことは余りないが……そうだな、エリアルのように……細いがほどよくふくよかで、ほどよく筋肉質な足と、そして引き締まっているが硬すぎない尻と、手入れの行き届いている背中……辺りだろうか。意図せずそういう要素に目が行っているかもしれないな」

「ほうほう……」

「……以前明人に巨乳の良さを力説されたような気がするが、僕個人としてはそこまで気にしていない。大きくても小さくても、どちらにも相応の魅力があると思う」

「なるほど……えーっと、つまり……」

「……そうだな、今自分で言ってみた、〝好み〟で言うなら君とエリアルとメイヴがドンピシャだったな……まあつまるところ、衣装の話なら足を露出してボディラインが良く出るものが好き、と言うことだな。いつもの君の服で大丈夫だ」

「そうだったんですね!安心しましたよ、旦那様!」

「……だが無理して僕の好みに合わせなくていい。瘦せ細っても、はち切れんばかりに豊満になっても、僕は接し方を変えたりはしない……あ」

 ハチドリが頷いていると、バロンが何か思い出して声を出す。

「……全裸で活動しても構わないが、頼むからセクシーランジェリーのようなクレイジーな衣装で歩き回ったりは……なるべく勘弁してくれ。それこそ目のやり場に困るからな」

「例えば?」

「……アウルが紐下着で歩き回るんだ、時々。メイヴやアリシアも、たまに服を着るのが面倒だと言って全裸で生活してるところを見る」

「旦那様は私がそういう風になったらどうします?」

 ハチドリが訊ねると、バロンは苦笑いする。

「……ハハッ、まあそうなったら……しばらく全員ヌードオンリーで生活してみるか、試しに」

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