エンドレスロール:終局の双腕
エンドレスロール 外宇宙エノシガイオス・クレーター
「ん……んー?」
ホシヒメが目を開くと、そこは殺風景な荒野だった。天上を無限の闇黒が支配し、他の生物の気配を一切感じない。
「くんくん……」
いや、正確には一つだけ……どんな雑兵であれ無視することなど出来はしないであろう、圧倒的に過ぎる覇気が、致命的に過ぎる狂気が、こちらへ猛進しているのがわかる。
「うんうん!いっちょ来い、大自然!」
地平線の彼方より空気の壁を貫いて突貫してくるは、黒い体に、その体表を紅い血液の駆け巡る、翼腕を持つ双角の竜だった。そう……滅王龍エンガイオスである。エンガイオスは姿勢を低く、角を真正面に構えて呆れるほどの猛スピードで真っすぐ突っ込んでくる。ホシヒメは避けず、角の先端を手で掴んで押し留める。両者の力が激突し合った瞬間、エンガイオスの内側に溜め込まれたシフルエネルギーが空前絶後の超爆発を起こす。だがホシヒメは怯みもせず、寧ろ笑顔で拮抗する。
「えへへ……君から感じるこの殺意、憎悪、憤激!こんなにすごい力を、本当に他人にぶつけるために高め続けてるなんて!すごいよ!」
エンガイオスは頭を振り上げ、手の戒めを解く。そのまま構え直し、頭を叩きつける。地面に突き刺さった頭を、翼腕を使って強引に突き進ませ、振り上げて衝撃波で追撃する。ホシヒメは腕を交差させて簡単な防御をしつつ、振り上げの隙に光の球を連射していく。牽制とは思えないほど痛烈な威力を持ってはいたが、所詮は様子見ということか大してダメージを受けず、エンガイオスは角で地面を削りながら左右で一度ずつ繰り出す。一段目を蹴りで往なし、二段目に合わせて飛び上がり、拳を下に向けて降下し、地面から光を噴水のように沸き上がらせる。
「ガアアアアアッ!」
狂奔の絶叫を撒き散らし、エンガイオスは左翼腕に重力を凝縮させ、その掌を地面に叩きつけて炸裂させる。瞬間、水平方向外周に強烈な重力が発生し、ホシヒメが引き寄せられる。
「ほほう!水平に落っこちるなんて斬新だね!でもでも、そんなものは子供騙しだよ!」
ホシヒメは僅かな力みで重力の方向を自分の望む、地面側へ捻じ曲げ、エンガイオスは右翼腕に重力を蓄えて今度は縦に投げ飛ばす。重力の刃がどこまでも切り裂いていき、ホシヒメは超光速移動で回避する。エンガイオスは彼女の接近を見据え、身を右に引いて頭を構え、壮絶極まる紅い闘気を滾らせる。
「ふっふっふー……」
超光速で接近していたホシヒメは不敵な笑みを溢す。それとは裏腹に特に策がないのか、エンガイオスへ直進する。ホシヒメが眼前に現れた瞬間、エンガイオスは溜め込んだ力を全開放しながら角を地面へ突き立て、見境無しにのたうち回って周囲を破壊しまくる。止めの振り上げに合わせ、内側に溜め込んだシフルエネルギーが超絶的な大爆発を起こして一切合切を粉砕する。
「せいっ!」
その隙を狙っていたホシヒメが、総身に黄金の輝きを纏って現れる。さしものエンガイオスも対処が間に合わず、渾身の一打で左角を折り取られる。左角は尋常でない重量を持っているのか、ほとんど回転せずに地面に突き刺さる。エンガイオスは多少なりとも気勢を削がれ――ず、低く構えて翼腕で地面を掴み、悍ましい咆哮とそれに伴う音波でホシヒメを吹き飛ばす。
「ゼロ君とかバロン君はどっちかっていうと技タイプだからね……君みたいに純粋にパワータイプと戦うのって、意外に新鮮だよね!」
ホシヒメは着地すると、なおも楽しそうな態度を崩さない。エンガイオスの咆哮が慟哭の如くなるのに合わせ、体表を巡る紅い闘気が蒼く色づいていく。瞬間――もはや素早過ぎて不意打ちにも思えるほどの速度で――錐揉み回転しつつ突進し、ホシヒメは左に避ける。エンガイオスはそのまま潜航し、飛び出した勢いでホシヒメへそのままボディプレスを繰り出し、回避されるも蓄積されたシフルエネルギーを爆発させて追撃する。だが超絶的な威力を誇るそれさえも往なされると既に把握したか、機敏に隙を潰して両翼腕を向け、掌から直線状に重力波を放つ。ホシヒメはその猛威の中を突き進み、彼の口許へ飛びつく。当然凄まじい抵抗に遭うが、彼女は構わずエンガイオスの口を左手で抉じ開け、掲げた右手に光を集めて、渾身の拳を叩き込んで彼を叩き伏せる。エンガイオスは地面に倒れ込むも即座に立て直し、度重なる被弾で怒りが限界を超えたか、体表を守る甲殻がシフルへと変換されていき、まるでボーラスのごとく、巨大なシフルエネルギーの塊へと変貌していく。
「おおっ……!これはすごいッ!こんなに迸る憤激、他じゃ絶対見れないよ!」
ホシヒメは肩を回し、首を回し、心底楽しそうな表情で、拳を鳴らす。エンガイオスは右翼腕を握り締め、その拳を踏み込みつつ振り下ろす。
「ふふ……でもね、勝つのは私なんだよ!」
拳を蹴りで弾き、エンガイオスは隙潰しのために咆哮を挟み、同時に自爆して更にホシヒメを突き放そうとする。だが彼女の体表を巡る黄金の闘気が衝撃を逃がし、逆に至近距離での打突を許してしまう。強烈な殴打で体表が波打ち、恐るべき出力の代償とも言えるように急速にシフルエネルギーが霧散していく。エンガイオスは左翼腕のパンチを直接当てて後退させ、頭を構える僅かな隙を創出する。
「へへっ……」
ホシヒメにも狙いがわかっており、そして次の瞬間に来る暴威に対する準備を、この僅かな内に整える。エンガイオスは頭を叩きつけるような勢いで力を解放し、先ほどの大暴れを繰り出す。だが今度は動きに合わせて細かく超絶威力の大爆発が連続して起こり続け、更に常時発する重力によって自分側に引き寄せ、逃がさずに全段叩き込む。
「ワハハハハハッ!」
エンガイオスの最後の振り上げと大爆発に、狂気が入ったように笑うホシヒメの拳が合わさる。余りの破壊力に両者ともに耐えられず、相殺して吹き飛ぶ。気付けば荒野は二人が交戦していた場所だけを残して消し飛んでおり、ホシヒメはすぐに立ち上がる。
「……」
エンガイオスは恨めしそうに彼女へ視線を向ける。流動していたシフルエネルギーは元の黒い甲殻に戻り、極まった闘気が元に戻ることを示す蒸気が上がる。そして翼を広げ、何処かへと飛び去って行った。
「えへへ、楽しかったね。また会う機会があったら、その時は……どっちかが消し飛んじゃうまでやってみよっか」
ホシヒメは名残惜しそうに呟いた。
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