エンドレスロール:銀嶺の猛吹雪
エンドレスロール 永劫の銀嶺・白百合の墓場
「このような場所に訪ねてくるとは。かような婆に何用ですかな」
筋骨隆々の老婆の姿を取るコンゴウシンリキが吹雪の向こうへ声をかける。そこから現れたのは、軽装のローブに身を包んだアルバだった。
「えっと……ご迷惑、ですよね……すみません、すぐにどこかへ行きますので……」
「いえいえ、遠慮する必要はありません。婆はいつでも、だれでも歓迎していますよ」
吹雪が一瞬強まる。アルバの視界が白けて、そして元に戻ると、コンゴウシンリキの姿は獣に変わっていた。
「時には強くぶつかることも重要ですよ、天象の鎖」
「そう、てすね……それでは、お手合わせ願えますか……?」
「無論」
コンゴウシンリキが右前脚を踏み下ろすと、凄まじい量の雪が舞い上がる。それに合わせ、アルバも構える。
「参ります……!」
アルバが竜化した右腕を振ると、暗黒竜闘気の巨大な爪が現れてコンゴウシンリキを掠める。だがコンゴウシンリキの頑強な表皮には少しの打撃にもならず、彼女は鼻先から猛烈な吐息を放出して雪を巻き上げつつ高速で頭を振り上げ、氷の礫を混ぜ込んだ吹雪を向かわせる。アルバは鎖を呼び出して盾とし、そのまま自身の周囲に黄金の渦を呼び出し、そこから螺旋状の暗黒竜闘気の槍をいくつも撃ち出す。
「飛び道具に頼るも戦いの術の一つ。だが……」
コンゴウシンリキは一歩一歩を力任せに進め、そのままの勢いで槍を粉砕しながら突き進み、鎖の防壁もまるでビスケットを破砕するように瞬時に打ち砕く。続けて右前脚でストンプを繰り出すと、退避の遅れたアルバが両足と左手で体を支えつつ、右腕で脚を受け止める。
「う……く……なんてパワー……!?」
「曙の鎖よ、あなたの力はこの程度ではあるまいッ!」
コンゴウシンリキは更に込める力を増し、アルバを地面にめり込ませる。
「あぐ……!」
アルバは左手から時間を放出して自分と退路をクロックアップさせながら後方に吹き飛ぶ。右前脚が激しく地面を叩き、吹雪は更に勢いを増していく。
「危ない……ぺしゃんこになるところだった……」
「時間、ですな。時の流れと言うモノは人間にしか感知できぬもの……あなたも人外に辿り着いていながらも、未だその体はヒトであると」
コンゴウシンリキは左前脚を折り、肩を低く据えてタックルを繰り出す。
「っ!?」
巨体と剛力から来る気迫に、アルバは怯む。仕方なく、右腕でコンゴウシンリキの肩を受け止める。全身が砕けたかと思えるほどの重たい力が激突し、押し込まれつつも拮抗することに成功する。
「ほほう、その細身で我が力受け止めるとは」
アルバの右腕の爪が肩に食い込んだのを見てから、コンゴウシンリキは体勢を勢いよく戻して彼女を放り投げ、素早く鼻で掴んで地面に叩きつけ、そのまま幾度も容赦なく打ち付ける。そして真正面へ投げ飛ばし、己の頭を地面に叩きつけ、振動と共に力を溜め始める。解放されたアルバは受け身を取るも、蓄積されたダメージによってふらつく。大気が震えるほどの力を高めていくコンゴウシンリキを見て、アルバは一度深呼吸をする。
「(大丈夫……戦う気持ちを呼び起こして……怖がらなくても、私はちゃんと戦える……!)」
体の制御が上手くいくようになったのと同時、見計らったようにコンゴウシンリキは突進を開始する。岩盤ごと雪とオオアマナの花弁を舞い上げ、陸上であるにも関わらず波濤を感じるほどの勢いで突っ込んでくる。
「行きます!せいやああああっ!」
アルバは右腕を突き出し、左手で支える。右掌から最大出力の暗黒竜闘気を放射し、コンゴウシンリキの突進と拮抗する。
「カーッカッカッカ!」
コンゴウシンリキの高笑いが木霊し、突進の勢いが更に増す。エネルギーの放射も強化していくが、それでも徐々に押される。
「まだ……ッ」
残りの力を注ぎ込んで瞬間的に威力を増加させ、突進と相殺して爆発し、コンゴウシンリキは仰け反って後退する。
「ふう……」
アルバが右腕を脱力し、その場にへたり込む。コンゴウシンリキはそれを見て婆の姿に戻り、笑みを向ける。
「ははは、少々派手にし過ぎましたかな?」
「えへへ……少し、強すぎですね、おばあさんは……」
コンゴウシンリキが右手を挙げると吹雪は止み、日差しに紛れて花弁が降り注ぐ。
「しばらくここで休んでいきなされ。ちと寒いが、婆が温めて見せましょう」
「よろしく……お願いします……」
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