エンドレスロール:天門の黒騎士

 エンドレスロール 古代竜の森林 灼熱の死闘場

「貴殿が来たか」

 騎士の姿のテウザーが前方から現れた気配に対して告げる。

「……気が付いたらここに居た。まあ、お前が居てくれて助かったが……」

「ふっ」

 テウザーは鼻で笑うと、竜の姿に戻る。

「五王の役目は貴殿を守り、道を歩ませること。ならばその迷いを断ち切り、新たな境地へ導くこともまた、守ることに他ならない」

「……感謝する、テウザー」

「礼には及ばない。貴殿との約束を守っているだけだ」

 テウザーは構え、咆哮する。異常に甲高い金属音が耳をつんざく。バロンはそれに応えるように竜化する。

「……」

「我が燼滅の刃、無心にて森羅万象を断つ!」

 尾を地面に擦らせ、踏み込みつつ振り上げる。黒鋼が防御すると、軌跡に遅れて噴出する紅蓮と、爆発性の煤が撒き散らされ、防御の硬直を伸ばす。動作の流れで口から可燃液を吐きつけ、遅れて起爆することで更に硬直を延長し、テウザーは己の尾を食んで凄まじい熱気を立ち上がらせ、硬直の切れるギリギリのところで解放し、絶大な威力を誇る回転斬りを繰り出す。黒鋼の防御の上に押し当て、その衝撃で突き飛ばす。その一閃に伴って煤と紅蓮が周囲の木々に飛び散り、大爆発から大炎上を引き起こす。

「……流石の鋭さだ。五王龍を統率しているだけはある……」

「ふっ、五王がどんな集まりなのかわかっている貴殿がそう言うのは、皮肉としか考えられんな」

「……何にせよ、お前のことは正しく評価しているつもりだ」

 黒鋼は左拳を下に向け、闘気を発して急上昇しつつ接近する。飛び立つ瞬間にそこを中心に鋼の波が起こり、接近の隙を潰す。だがテウザーも足元に可燃液を撃ち込んで爆発させ、その衝撃で飛び立つ。黒鋼は動じず、拳を構えて放つ。テウザーは尾の煤を炸裂させて更に高度を稼ぎ、そこで尾を黒く染め、巨大な炎を纏わせて振り下ろす。黒鋼は咄嗟に腕を交差させて受け止め、そのままの位置関係で両者は地面に到達し、大爆発に合わせてテウザーが飛び上がり、着地して両者立て直す。

「新たな境地に至らんとする時、まさに迷いは最大の力を発揮する。今までの己を捨て去り、新たな力を得んとする時、まさに技は錆のごとく曇る。なればこそ、我が刃は無心にて振るわれる。戦いに興じる貴殿には、わからぬやもしれんが」

「……いや……今、身を以て痛感しているところだ」

「ならば良し。俺が貴殿と戦っている意味も出ようというものよ」

 テウザーは大股を開いてがっちりと地面を捉え、尾を構えて凄まじい熱気を立ち上らせる。多大な隙を晒す必殺技の構えを開幕で行うことで黒鋼の虚を衝き、渾身の力で振り下ろす。尾が地面に触れると共に大爆発が起き、そこを中心として幾度も波状の爆発が広がっていく。黒鋼は飛び上がって爆発から逃れ、テウザーの足元に鋼を噴出させて拘束し、拳を叩き込む。テウザーは寸前で直撃を躱すが、黒鋼は鋼に右拳を突き刺し、莫大なエネルギーを注ぎ込んでから左拳で破壊することで圧倒的な威力を放出し、重ねて体から内側に溜まった闘気を一気に解放して大爆発を起こす。

「うぬぉ……ッ!」

 テウザーは尾で防御するが、それでも大きく後退し、尾の赤熱化が解除される。

「大技の撃ち合いでは勝てんか」

「……お前にしては運任せな戦術だったな」

「偶にそういうことをした方が良いだろう?強い動き、弱い動き……それぞれに役目があるが、一人に打てる戦術は限られている。避けられぬ、防げぬ、耐えることも許されぬ技があったとて、受ける側が慣れてしまえば後の祭りだ」

「……時には奇を衒うこと……まあ、納得だ」

 テウザーが踏み込みつつ下段に斬り込み、黒鋼の後退を誘う。だが敢えて黒鋼は踏み込み、素早くテウザーの頭を抱え込む。テウザーは飛び上がり、黒鋼の腹を蹴り飛ばして距離を取り、尾で地面を斬り払う。直線状の熱波が進み、それが鋼の波に飲まれ、再びテウザーは己の尾を食んで構える。一瞬で溜めを完了し、絶大な力を伴う回転斬りを繰り出し、防御した黒鋼に重ねてもう一撃の回転斬りを加え、回転しつつも終わりに黒鋼を正面に捉え、可燃液を燃焼させた状態で吐き出して反動で飛び上がり、着地しつつの振り下ろしを二回重ね、度重なる爆発で拘束しつつ、最後に尾に蒼炎を纏わせてから渾身の力で振り下ろす。壮絶極まる大爆発が起こり、テウザーはすぐさま尾を戻し盾のように構える。読み通り爆炎の向こうから黒鋼が飛び出してきて右拳を繰り出し、ちょうど尾で防がれる。

「……何……!?」

「読む読まれるとはこういうことだ、気を抜き過ぎたな。貴殿らしい愚直な戦法だ」

 右腕を上へ押し上げ、流れるように体を翻して黒鋼の腹に一文字加え、付着した煤の爆発によって吹き飛ぶ。黒鋼はバロンに戻り、少々傷を受けた状態で立ち上がる。

「……いい刺激だ。これからもお前に稽古を頼んだ方が良いかもな……」

「光栄だ。貴殿と斬り結ぶことは、こちらとしても利が多い。守るべき対象の実力を知っておくこともまた重要だからな」

「……ふっ」

 バロンは黒鋼に戻る。

「……では続けよう。お前との組み合いは価値が高そうだ……」

「では行くぞ」

 二人はしばらくの間、あらゆる技を駆使した試合を繰り広げていた。

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