エンドレスロール:似非の雪

 エンドレスロール テスタ・ロッサ享楽雪原

 猛吹雪の吹き荒れる、夜の雪原。滅びの墓標にほど近きこの場所を、一人の騎士が彷徨っていた。

「父上……母上……ボーマン……ここはどこだ……」

 譫言のように呟きながら、騎士……オリジナルセブンが一人、ニルは歩いていた。彼女が気配を感じて立ち止まると、前方の地面が割れる。そこから這い出てきたのは、山岳が動いていると錯覚するような、白亜の甲殻を纏った巨竜だった。翼はなく、その代わりにがっしりとした四肢を備えていた。

「こいつは……王龍カルムウバスか!?」

 ニルは即座に反応し、左手に盾を、右手に大剣を呼び出し構える。カルムウバスが右前脚を踏み下ろすと、吹雪は更に勢いを増す。彼が息を吸い込み、一瞬の静寂が身をよぎる。次の瞬間に解放された強烈な咆哮が吹雪の全てを吹き飛ばし、天蓋を覆っていた雲をも払い除け、煌々たる月明かりが両者を照らす。カルムウバスは軽い動作で飛び上がり、発達した顎の刃を当てるようにニルへ飛び込む。ニルは盾にて受け止め、カルムウバスの巨体を押し返す。

「秘剣……」

 振り被った大剣に凄まじい電撃が宿り、素早い十字斬りにてそれが解放される。恐らくは急所であろう顔面にその直撃を受け、カルムウバスは大きく仰け反る。だが素早く立て直し、両前脚で体を支えると、口から超低温の激流を吐き出す。再び盾で受け止めるが、放たれた激流は盾に触れた端から凍り付き、どんどんニルを氷で覆っていく。そして彼女が巨大な氷塊になったところで撃ち切り、大きく振り上げた右前脚で踏みつぶす。氷だけが砕け散り、内部のニルは大剣でそれを受け止めたが、強烈な重量と、地面を走る衝撃波によって押し込まれ、距離を離される。

「神へと凋落する前のカルムウバスか……多少なりとも本気を出す必要があるらしいな」

 ニルが構え直すと、大剣の刀身が宇宙の淵源を示すような蒼色に変わる。その光を見て察したか、カルムウバスも甲殻の狭間から冷気を噴出して猛る。フロントステップから顎を地面に突き刺し、捻じ込むように潜航する。カルムウバスは連立した鋸のような尾鰭だけを地表に露出して猛突進を仕掛ける。ニルは大剣にて容易に受け止め、反撃の一閃で鰭を折り取り、その苦痛でカルムウバスは地面から飛び出す。重ねてエネルギーを大放出しつつ大剣の一閃を加えて浮かせる。しかし、カルムウバスは空中で体を縮み込ませ、冷気を爆発させて凄まじい衝撃波を周囲に撒き散らす。不利終わりから急いで盾を構えるも冷気に巻き込まれ、一時的にニルは完全に氷結する。空中から落ちてきたカルムウバスは、全ての甲殻を失い、まるで足の生えたミミズのようだった。

「これは中々……骨身に沁みたぞ」

 氷を破砕しながらニルは気勢を取り戻す。カルムウバスもすぐさまに甲殻を再形成し、咆哮する。カルムウバスは右前脚を振り抜き、氷の礫と強烈な冷気で以て攻撃する。ニルは盾を構えてその中を突っ切り、単調に縦振りを放つ。カルムウバスは右から左へと振った脚をそのまま戻す勢いで大剣と競り合う。ニルは盾の殴打を加えて押し返し、瞬間、電撃を宿した一閃で押し込み、もう一閃加えて右前脚の甲殻を破壊する。カウンター気味に強烈な冷気が噴出すが、どちらもそれを気にせず、ニルは飛び上がる。カルムウバスは激流を地面へ撃ち放ち、その勢いを利用して首を振り上げ、飛んだニルへ当てんとする。ニルは大剣を向け、激流を突っ切りながらカルムウバスの頭部へ接近していく。カルムウバスはこの攻防がもたらす結果を理解したか、激流を放つことは止めずに甲殻の狭間から冷気を吹かす。そして読み通りにニルが最接近した瞬間、カルムウバスは先ほどの大爆発を起こす。同じ通りに甲殻が弾け飛び、本来の姿を露にした。そこへ、氷結を免れたニルが急降下し、渾身の一閃を頭部へ叩き込む。大剣が突き刺さったことで当然カルムウバスは悶える。ニルは大剣で強引に斬り進め、背から尾先まで両断する。二つに分かれたカルムウバスは地面に崩れ折れ、自らの保持していた冷気によって、程なく氷塊となる。

「ふぅ……全く、何だと言うのだ……」

 ニルは武装を消し、自らが屠ったカルムウバスの亡骸を見る。

「まさか……戦うためだけの、世界か……ここは」

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