エンドレスロール:夜空に輝く幽界の星

 エンドレスロール 王龍結界 クインデアヴェルト・エンデ

 縦に開けた巨大な洞穴、その奥底にて、クインエンデと明人が相対していた。

「クインエンデさん……見逃してくれる……とかは、無いんすかね?」

 明人の微妙な問いに、クインエンデは目を伏せたまま返す。

「空の器。あなたならば、私がどういう存在か理解しているはず」

「ニヒロの懐刀、一番の忠臣……」

「ご名答。そのニヒロ様があなたの抹殺を望んでいるのです、あなたに拒否する権利はない」

「そこを何とか……なんとかかんとか……」

「無駄です」

 クインエンデは目を開き、総身から絶大な力を発する。

「確実な遂行のため、本気で行かせてもらいます」

 やがて光が渦巻き、総逆鱗に包まれた、刺々しい四足の黒龍が顕現する。

「ソムニウムに恋焦がれるあなたに、世にも素敵な滅びを授けましょう」

 クインエンデが力を発すると、洞穴の内部に揺らめいていた掠れた襤褸に火が灯る。それに続いて暴風と、豪雨、豪雪が巻き起こり、まさにこの世の終わりのような風景を再現する。

「くっ……!」

 明人は竜化し、腕刃と尾を携えた姿の無謬となる。

「まあいい。めんどくせえとは思ったけど、零さんの前哨戦にするには十分な相手だ……!」

「ほう、想像より遥かに強力になっていますね。いいでしょう……同じ宿敵を持つもの同士、白黒つけておくのもまた一興!」

 クインエンデがバックジャンプすると暴風が巻き起こり、強烈な冷気と共に大量の落雷が発生する。無謬は防御し、硬直したところへ怒涛の雷霆が撃ち込まれる。更に着地したクインエンデは赤黒い電撃を纏って猛突進し、頭部に備わった異常なまでに鋭利で巨大な角を突き立てる。無謬の腹を貫き、そのまま乱暴に頭を振り上げて肩口まで一気に引き裂く。引き剥がされた肉を焼き穿つように莫大な雷霆が至近距離で迸り、傷の修復を許さず追撃する。だが無謬もすぐさま防御態勢を解き、右腕刃から闇を噴出させて薙ぎ払う。クインエンデの鱗と削り合い、鋸のごとくなる腕刃が薄く荒く削ぎ落される。逆鱗に覆われた甲殻の向こうから強烈な冷気が噴き出して無謬を押し返し、クインエンデは角を帯電させて小さく振りながら後退し、直線状の雷霆を十字に繰り出す。無謬は自身から放出した無明の闇を即座に爆発させる奇策で吹き飛び、虚をつきつつ一気に肉薄し、右から左へと薙ぎ払いつつ連鎖する大爆発で押し込みつつ、一回転して尾を振り抜き、止めに口許に燻らせた闇を噛み砕いて爆発させる。だがクインエンデは途中でコンボから抜け、右翼で爆発を防いで飛び上がり、直下へ冷気を吐きつける。無謬の足元が凍り付き、僅かな隙を産み出したところに飛び退きつつ溜め、無数のエレメントが渦巻く極彩色の火炎ブレスを吐き出す。無謬は即座に氷結の戒めから逃れて距離を取るものの、ブレスの着弾と同時に解けた螺旋状のエネルギーに跳ね上げられ、クインエンデは着地してから水を足元に吐き出してから、下から上に薙ぎ払って狙う。無謬は身動きが取れるようになった瞬間に無明の闇を尾先から炸裂させて空中で高速移動して避け、全身から闇を放って禍々しい火球となり、目にも止まらぬ速度で急降下して着弾する。クインエンデは置くように上体を起こして直撃を避け、通常の火球を撃ち出し、その反動で後退する。煙の中から出てきた無謬は体表を流れる無明の闇だけで火球を破壊し、左腕刃にて斬撃を与え、両腕刃を擦り合わせながら左右の順で振り抜いて暴風、怨愛の炎、無明の闇の三段攻撃を二発撃ち出す。小さめの飛翔から不自然なほど滑らかに空中を移動して無謬の背後に寄ると、巨大な水塊を放つ。無謬は見ずに尾で打ち返すと噴き出る闇の勢いを爆発的に増加させ、突進を開始する。軌道にエネルギー溜まりを作りながら三角に囲み、飛び上がってから急降下して激突する。クインエンデはあえて逃げず、その場で構える。彼女から凄まじい属性の波動が溢れ、周囲の雰囲気が一瞬にして変わる。無謬は突進の勢いを打ち消されて吹き飛ばされ、どこか非現実な感覚を覚えるほどの静寂に包まれる。

「クソが……!」

「鐘の音に従い……魂の導きに任せ……悠久の心に誓いて……言の葉に乗せ全て語れよ、求める意志と心に!」

 クインエンデが飛び上がり、力む。

「王龍式!〈エスカトロジー・アセンション〉!」

 咆哮に合わせ、莫大と言うのも愚かしいほどの破壊的な属性エネルギーが解放される。視界が完全にゼロになるほどの熱と閃光、冷気の暴威に飲まれ、無謬は押し込まれる。景色が晴れると、先ほどとは違って冷気が強まり、燃え盛って靡いていた襤褸は凍てついていた。

「征者征天征骸、遍く者のなんと脆く、愚かしきか」

 クインエンデは緩やかに歩を進める。無謬は一時的に完全な氷像と化しており、だがまるで燃え盛るような無明の闇によって破砕し、活動を再開する。

「こんな程度の氷なんてな、零さんのに比べれば……」

「ソムニウム……」

「行くぜクインエンデ。ぶっ殺してやる!」

 盛んに燃えているように揺らめいていた無明の闇が全て彼の内部へ引っ込み、そして凄まじい力場を伴って凝縮され、己の甲殻を粉砕しながら解放する。顕現した彼の姿は、巨大な火の玉のごとくなっていた。

「怨嗟だけを燃料に、自らを満たした……?ふ、ふふ……まさか空の器に、そんな使い方があったとは」

「結局俺はどこまで行こうが、劣等感で呼吸するしかねえんだよ」

「ソムニウムへの恨み妬み嫉み……人の罪でも、神の罪でもない。生物のヒエラルキーから弾き出された、我々のような被造物が持つのは……」

「この、身を焼く怨嗟以外に無い!」

 右腕を振り下ろし、右腕刃が伴って落ち、地面を猛烈な勢いで直線状の衝撃が走る。クインエンデが空中に逃げると、無謬は即座に闇を噴出して飛び出し、クインエンデと揉み合って上を取られて叩き落される。だが落下を始めた瞬間に闇を放出して即座に組み付き直し、自傷すら厭わずにむやみやたらに自爆し続ける。クインエンデは仕方なく全力で冷気を発しながら、至近距離で極彩色のブレスを撃ち込んで爆発させ、自分ごと吹き飛ばすことで無理やり離脱する。冷気を逆噴射することで堪え、クインエンデは続けて大量の氷柱を無謬へ向けて射出し、着弾寸前で自らの雷霆で撃ち抜き、礫に変えて攻撃する。無謬はその猛威に晒されつつも立て直し、闇の噴射だけで急加速し、そのまま彗星の如くなって暴れまわり、剥がれ落ちた闇の塊を正確無比にクインエンデへ撃ち出す。クインエンデも構え無しに氷柱を撃ち込んで塊を破壊しつつ、先回りして進路を潰すように雷霆による猛攻を仕掛ける。無謬は上空で一度勢いをつけ、クインエンデまで一直線に突貫する。当然そんな読みやすい攻撃が通るはずもなく、素早いバックステップから渾身の火炎放射で出迎えられる。しかし無謬もまた読んでおり、着弾と同時に両腕を構え、そこから闇を凝縮して光線状に撃ち出す。両者の攻撃が激突し、拮抗する。クインエンデが押し切ろうと出力を上げた瞬間に、無謬は発射を止めて右腕を盾にしながら突進する。火炎放射を間近に受けながらじりじりと距離を詰め、詰め切ったところで放射を押し切って暴発させ、その一瞬に左腕刃で切り裂きすり抜ける。見た目よりも遥かにダメージが大きかったか、クインエンデは大きく仰け反って怯む。無謬は即座に翻り、両腕刃による直線攻撃を左右一発ずつ放ち、口許に闇を滾らせて急接近する。

「怨嗟に浸るのは勝手ですがね、空の器……」

 クインエンデは向きを無謬に揃えつつ翼を使って防御し、接近してくる彼を見止める。

「己を不幸と悦に入って実に惨めな被造物ですよ、あなた……!」

 再び絶大な力が迸り、先刻よりも遥かに強大な属性エネルギーが満ち満ちる。噴き出た波動は無謬の攻撃を抑え込みつつ押し返し、解放までの時間を稼ぐ。無謬は堪え、一歩一歩進んでいくが、凄まじい抵抗によって前進することが出来ない。

「鐘の音に従い……魂の導きに任せ……悠久の心に誓いて……言の葉に乗せ全て奏でよ、和合する意思と想いに!」

 同じように飛び上がり、力む。

「王龍式!〈エスカトロジー・アセンション〉!」

 先程のそれを遥かに上回る破滅的な属性エネルギーの波が解き放たれ、今度は紅蓮を多く含んで一切合切を飲み込み破壊していく。壮絶極まる熱が空間の隅々まで覆い尽くし、掲げられていた襤褸たちは再び燃え出す。クインエンデが着地すると、竜化の解けた明人は仰向けに斃れていた。

「決して届かぬ天の涯を目指す旅……その無意味な生から救ってあげたのですから、多少は感謝なさい」

 クインエンデはその死骸に吐き捨てると、右前脚で踏み壊した。

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