☆☆☆エンドレスロールEX:終劇のエフィリズム・追想
「つぅかぁまぁえたぁ♡」
そうして二人が抱き合い、突如として空中に現れたルナリスフィリアの力を得て、千早は再び怪物の姿へと転じる。
「……ストラトス……」
バロンとエメルは拳を構え直す。千早の体は眩い黄金の光に包まれ、脱皮して真白い肌になる。それと相反するように瞳は赤黒く染まり、生気が失せているように見える。
「命の終わりを……天地の崩壊を……物語の終劇を……ここに……!」
千早が左手を頭上へ掲げると、開いていた次元門は更に大きく口を開き、膨大な力の接近を感じさせる。
「……どうなっている、エメル……!」
「まさか……世界の狭間を流動する次元門をここに凝縮させる気ですか!?」
「……この世界だけでも押し潰すということか……」
千早は後方へ一気に飛び退き、両腕を頭上に向けて巨大な無明の闇を産み出し、光線状にして射出する。バロンが大型の鋼の盾を張り、真正面から防ぐと、エメルが竜化して、翼を一気に巨大化させて振り下ろす。確かに直撃したものの、周囲の時空を歪めることで破壊力を逃がし、災厄目掛けて槍を構えて高速で突進する。災厄は胸から極大の光線を撃ち出し、千早は時間障壁で衝撃を歪めて射線から逃れ、再び加速する。災厄はそれを確認してすぐさま光線の放射を止め、エネルギーを胸部で凝縮して圧壊させ、無数の光の礫に変えて迎撃する。千早は礫のいくつかを撃ち落とした後、対処が不可能と察したか、分身を残して急降下し、バロンを狙う。礫が着弾した分身は爆発し、巨大な時間の歪みを産み出す。バロンの眼前に着地しつつ槍を地面に突き立てると、強烈な衝撃波が迸り、続いて頭上に無数の小さな次元門が開かれ、そこから巨大な槍の幻影が撃ち込まれ、そこからも衝撃波が起こる。バロンは竜化し、鋼の波を起こしてそれらを無力化すると、即座に踏み込んで拳を繰り出す。千早は拳の届く寸前に爆発的に出力を上げ、黒鋼の主体時間を、まさに一瞬だけ停止させる。その極僅かな隙に構え直し、槍を腹に突き出す。踏み込んで押し込み、穂先から闇を放出して連鎖爆発させ、大きく後退させる。だが今度は千早に生まれた隙目掛けて、竜骨化したエメルが急降下し、咄嗟に張られた時間障壁を容易に切断しつつ強烈な手刀が千早の頭部に与えられ、こちらも大きく後退する。エメルは着地してすぐに暴力的なまでの拳圧を纏った猛攻を繰り出し、千早は時間障壁を次々と生み出して対応し、次の右拳を構えた瞬間に時間を放出してエメルの動きを止め――られずに、左拳の直撃を受けて吹き飛ばされる。黒鋼も竜骨化してバロンに戻りつつ、エメルの横に並ぶ。
「……ストラトスと融合したことで時間を操れるようになったか。だが、そもそも――」
「時を奪わねば反撃の隙を見つけられないとくれば、私とバロンのタッグに勝てる道理はありませんね」
二人は少々退屈そうに述べると、千早も何事も無いように立て直す。そして身悶え、胸部からボーマンを排出する。
「……!」
二人が少々驚いた瞬間、千早は全身から先ほどまでとは比べ物にならないほどの無明の闇を産み出して猛る。ボーマンはどこからともなく現れた灰色の蝶が連れ去り、千早は瞬間移動で高空へ飛び立ち、五体に分身してバロンに突貫する。当然、その程度の攻撃が当たるはずも無いが、彼女たちは地面に次元門を開通させ、その中へ飛び込んでいく。同時に次元門が乱立し、大量の光線状の無明の闇が飛び交う。バロンが鋼を放って次元門を塞いでいき、エネルギーの暴発で空間が砕け、そこから千早が飛び出してくる。接近したエメルの右拳骨からの左爪によるかち上げからの闘気の刃の直撃を受け、千早の表面を覆っていた無明の闇が弾け飛ぶ。だが自分の体を覆うように体表の時空を歪めていたおかげでダメージを大幅に軽減し、即座に槍を地面に突き立てて衝撃波で押し込み、続けて竜巻を五つ生み出してエメルへ向かわせつつ、五体に分身しつつ一気に距離を取り、槍を下に向けて次々と凄まじい速度で地面を削りつつ飛びぬけていく。三体目に飛んできた千早の攻撃をバロンは受け止め、先の攻撃を往なしたエメルが千早を叩き落す。歪曲した空間による防御が少しの役にも立たないほどの渾身の一撃によって左翼が吹き飛びながら、千早は地面を転がる。
「ぐうっ……!」
強大な力を発揮してなお、二人に全く追いすがれない千早はひどく消耗しており、槍を支えにしているのがやっとの状態になっていた。そして彼女が力尽きつつ、胸部から輝く球体が抜け出て浮遊する。
「……なんだ……」
「まだ何かが……」
不気味に明滅する球体の登場と共に、世界の崩壊が進んでいく。次元門の解放は止まらず、砕けた空がガラスの破片のごとくなって地表へ落下してくる。球体は千早を分解しながら吸収し、絶大な闘気を纏い始める。それに呼応するように次元門も開き、そしてトランス・イル・ヴァーニアの立ち並ぶ建造物群も浮力を得て上昇を始める。
「……空の器か……!」
「杉原明人は死んだはず……」
「……空の器としての機能だけがまだ生きているんだ!つまり……」
「本体が生きていなければ空の器は機能しないという推論が間違っていた……?」
「……わからん。一時的に無の無とここが繋がっているのが原因かもしれん……!」
会話もほどほどに、球体に視線を向ける。それは明滅の頻度を高めながら、二人に高度を合わせる。
「無謬なる虚空に湛えられし寂滅を
烈風が巻き上げ浄火となれば
月詠閃光を放ち
常闇黄昏に沈む
三千十方世界に無が満ちるとき
無明の闇はついぞ
真如の光に破られる
これなるは狂いし竜たちの王の嘆き
我らが解き放たれるべき魂の声である」
球体は長々と詠唱し、白い蝶たちが七頭の群れごとに天へ昇っていく。
「パパ」
「お父様」
「父上」
「お兄ちゃん」
「お兄」
「じぃ」
「だぁ」
蝶たちは呻き声のようなものを上げながら消え去る。
「
球体は光の弾を高速で撃ち出す。小さな一発が、着弾するだけで凄まじい爆発と閃光を迸らせる。バロンの鋼の盾が衝撃を受け流し、盾を投げ飛ばす。球体は防御などせずに、次に極太の光線を放射する。二人が躱すが、光線は元々地面を狙っていたようであり、着弾と同時に天へ昇る柱となり、猛烈な速度で膨れ上がっていく。限界まで蓄えられた熱と光が解放され、絶大な破壊力が地の果てまで響き渡る。バロンがエメルの攻撃を肩代わりしながら二人は前進し、エメルの拳が叩き込まれる。すると球体は波打ちながら悶え、距離を取る。更なる力が放たれ、眩い真如の光を解放する。
「
球体は浮遊しているビルを粉砕して移動を始め、地面を擦りながら巨大化して通り抜ける。二人は飛び上がって回避し、飛んでくる瓦礫やら無明の闇の塊やらをバロンの鋼の盾が受け流し、球体が続いて突進を繰り出す。
「……エメル!」
「了解!」
バロンが竜化し、球体を真正面から受け止める。黒鋼は押されながらも拮抗し、エメルも竜化して、巨大化させた翼で黒鋼ごと両断する。更に下から上へと口から吐いた光線を薙ぎ払い、止めに胸部から極大限の威力と出力を帯びた光線を解放する。球体は形を大きく歪ませながら地面にバウンドし、ゆらゆらと浮き上がる。全身から蒸気を上げつつも、大して傷を負っていない黒鋼が災厄に並ぶ。
「唱える魂、交える魄……」
球体はそう呟いた後、無数の蝶になって消えていった。
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