☆☆☆エンドレスロールEX:怨愛の修羅・追想
「貴様は……その事実を知ってなお……主への愛を、ここまで強く……持っていたというのか……妾にはもう、何も理解できん、信用できん……もう、嫌だ……」
アリシアの頭部に銃弾が一発だけ撃ち込まれ、彼女は壁にもたれかかって瀕死の状態となる。
「(待って……!)」
「こ……の……声……は……」
アリシアは途切れかけた意識の中で、聞き慣れた声を耳に受ける。
「(待ってくださいまし!死んだらダメですわ、アリシア!)」
「マドル……」
「(ふふっ、わたくしのことを名前で呼んでくださいましたわね!わたくしも力をお貸ししますわ!アリシア、あなたの手で……あの子を止めてくださいまし!)」
アリシアは力尽き、ピクリとも動かなかった体を動かし、突如として電気が這う。背を向けて怨愛の炎を放っていたハチドリがそれに反応し、振り返る。
「確かに止めを刺したはず。旦那様の子を遺すために、命を供したのではないのですか」
ハチドリは目のハイライトが消えており、既に衣服も黒ずみ、かつてのように天真爛漫な彼女の面影はなく、ただひたすらに狂気と慈愛に満ちた笑顔を見せる。
「妾たちは……主に生きていてほしい。それが奴の……主の意志を踏みにじることだったとしても……!妾が、妾たちが奴の生きる理由になって見せる!」
アリシアは体を一気に修復し、再び竜骨化する。屋敷を消し去り、ハチドリとアリシアは草原に降り立つ。
「残念です……旦那様は、そんなことは望んでおられないのに」
「奴がどう思おうが構わん!何度戦うことになろうが、必ず妾たちと生きることが楽しいと、奴に思わせて見せる!」
アリシアは白い電撃を放つ。ハチドリは分身を盾に即座に接近し、舞うような連撃を繰り出す。
「甘いぞハチドリ!」
迎撃に右足を引き、回し蹴りからストンプを繰り出し、回し蹴りの凄まじい衝撃に初段を潰され、ストンプを弾くが大きく後退させられ、黒雷を纏った右腕を振り抜き、ハチドリは脇差で黒雷を受け止めて飛び上がり、降下と共に薙ぎ払い、反撃する。アリシアが両腕を交差して受け止めると、ハチドリは好機とばかりに舞うような連撃で押し込み、鋭い攻撃で防御の上から削り取る。最終段をキャンセルして二連斬りを放ちつつ上昇し、もう一度一閃する。そのまま落下し、アリシアの頭を掴んで体勢を崩させつつ振り回し、首許を狙って刺突を繰り出す。だがその瞬間に白雷と黒雷を融合させて解放し、ハチドリを貫きつつ吹き飛ばす。彼女が受け身を取るのを見るまでもなく追撃に熱い閃光を解放し、ハチドリは分身を盾にして眼前に高速移動し、兜割を放つ。だがアリシアは左腕で弾き、怯んだところへ黒雷を纏った右腕を振り下ろし、三つの爪が追従してハチドリを地面に叩き伏せる。そこへアリシアは電撃を全開放し、両腕でのラッシュを叩き込んでから至近距離で融合した電撃を極限まで叩き込む。大爆発してハチドリが吹き飛び、その余波たる暴風をアリシアは腕を交差して耐える。
「どうだ!」
「なるほど」
ハチドリは平然と立ち上がり、脇差を鞘に納める。
「私はあなたを、少し見くびっていたみたいです……生きる意味を失ったあなたが、ここまで粘るとは。相手に相応しい実力を持って、真正面から打ち砕く……それこそ、旦那様の望む、価値の高い戦い……」
彼女の胸から刀の柄が出てくる。それを己の手で引き抜き、右手で持つ。黒鋼の刀身を持った、彼女の身長と殆ど同じ長さの太刀が現れる。
「あなたを捻じ伏せ、否定するために……旦那様のお力、貰い受けます」
刀身に脇差と同じように赫々とした怨愛の炎が纏われ、更に宇宙の淵源を示すような蒼に変わる。
「ルナリスフィリア……!?」
「参ります」
ハチドリの右腕が竜骨化する。鋼の鎧のごとき質感へと変わり、そのまま頬の辺りまで張り付けられたように鋼が纏われる。
「(マドル……!)」
「(大丈夫ですわ、まだこちらにも手はありますの!)」
アリシアが力み直すと、彼女の周囲を蒼い蝶が舞い始める。
「……」
ハチドリは興味深そうな顔をする。
「貴様の無法を許すわけにはいかん。ここで討つ!絶対の絶対にだ!」
もはや駄々をこねているような言葉を発し、両者は戦闘を再開する。太刀が振られると、蒼い光の刃が飛んでいく。アリシアは黒雷で鎌を象って薙ぎ払い、刃を砕いて黒雷の波が扇状に広がっていく。その中を突っ切ってハチドリが現れ、切っ先を白雷の盾で受け止められ、そのままハチドリは飛び上がり、急降下しながら一回転して薙ぎ払う。アリシアは攻撃を後退でギリギリまで近距離で躱し、両手で一度ずつだけ繰り出し、即座に融合した電撃を放つ。一段目を弾き返し、分身を盾に二段目を受け止め、電撃を受け止めつつ構え、十字斬りを横、縦と繰り出す。二段とも直撃させて大きく怯ませ、身を引いて構え、渾身の力で振り抜く。太刀の一撃と共に圧倒的な破壊の波が続いてアリシアを押し込む。
「ぐぁあっ!?」
防御の出来ない状態で直撃を受けたために体力を大きく削られ、威力のままに後退させられる。だがそれでも致命傷とまで至らず、代わりに攻撃を受けた蒼い蝶がはらりと体から剥がれ、砕け散る。追撃に重ねられた光の刃と、それと同速で突っ込んでくるハチドリを視認し、アリシアは立ち上がる。鎌で刃を砕き、舞うような連撃の初段を強烈に弾いて右腕を掬い上げるように振り上げ、黒雷の爪を発生させてハチドリの鋼の覆われていない左半身を致命的に切り裂き、だがそれでもあちらは怯まずに薙ぎ払い、瞬間移動で頭上を取って切っ先を真下に向けて急降下する。回避するが、着地と共に爆炎が噴き出し、太刀をいつの間にか現れた背の鞘に戻し、脇差を引き抜きつつアリシアの肩に飛びつき、反撃覚悟で鎖骨の辺りに強引に突き立てる。甲殻を引き剥がし、逆流したシフルエネルギーに煽られてハチドリは吹き飛ぶ。だが即座に受け身を取り、膝をついて崩れたアリシアに対し、背の太刀に手を伸ばす。
「くっ……!」
「(アリシア!)」
ハチドリがまさにこの瞬間に決着をつけんとしているのをマドルの叫びで覚悟し、アリシアは肉薄してきたあちらの太刀を両手で掴んで受け止める。
「ぬぅ……!」
その戒めを一瞬で脱し、ハチドリの寸分違わぬ一閃に続く踏み込みを前に、アリシアは竜骨化を解いて人間体へ変わる。刀身が大幅に変わることで太刀は眼前に現れ、だが既に構えていたアリシアは白と黒の玉を撃ち出し、その対消滅で太刀を消し去る。得物を失ったハチドリの腕だけが虚しく振り抜かれ、瞬間にアリシアは竜骨化し直し、融合した電撃を彼女の頭部にぶちまける。
「旦那様……」
小さな呟きは壮絶な電撃がもたらす轟音に掻き消され、瞬きの内にハチドリは跡形もなく消滅する。アリシアの甲殻から蒸気が漏れ出し、片膝をつく。そのまま人間体に戻り、荒く呼吸をする。
「倒した……か……」
アリシアは呼吸を整えてから立ち上がり、先ほどまでハチドリが居た場所に落ちている鉄片を拾い上げる。
「これは……!」
そして続いて、ハチドリに斬殺された味方の残骸を搔き集めていく。
「……」
その一部始終を見ていたルナリスフィリアは、無慈悲にも光を放って場面を強制終了させるのだった。
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