キャラ紹介:ヴァル=ヴルドル・セミラミス
「バロンさん」
屋敷に遊びに来ていたアーシャが、キッチンでコーヒーを嗜んでいたバロンへ尋ねる。
「……アーシャ君か。どうかしたかね」
「話によればバロンさんは、始源世界にて為政者として過ごしておられたとか」
「……そうだな。君ほど高貴な身分ではないが、市長……絶海都市エウレカの首長として、市政を担っていた」
「では、我々の始祖……セミラミス様とも面識が?」
「……もちろん。彼女……いや、彼とは腐れ縁、と言ったところか」
「お話を聞かせていただけませんか?」
「……ああ、構わない」
バロンは自分のカップを置き、ガラスのコップとリンゴジュースの詰まった瓶を持ち、テーブルへ向かってアーシャを促し、彼女が座ってから自分も座る。
「……どこから話すか……そうだな、彼は地雷がわかりにくくてな……察しの良さには自信があるんだが、それでも毎回冷や汗をかいたものだ」
コップにリンゴジュースを注ぎ、アーシャへ差し出す。
「ありがとうございます。その、地雷がわかりにくいというのは?あと、始祖様は女性では?」
「……ああ、それがだな……」
回想 王城セミラム・グラナディア
「……」
巨大な応接間にて、左右に異常に長いテーブルを隔て、エウレカとグランシデア両国の重鎮が、面と向かい合っていた。バロンの横に座っていたベリスが咳払いし、そして口を開く。
「セミラミス女王陛下、今回の会談でございますが――」
言葉を遮るように、バロンの正面に座っていた麗しい金の長髪と、血のような真紅の瞳を備えた女性……セミラミスが、手に持っていたグラスをベリスへ投げつける。バロンが素早い反応で受け止め、内容液を一滴を溢させずに受け渡す。
「失敬。そなたは今、予のことを女王と呼んだな?」
氷のような冷たい瞳に、ベリスが思わず怯む。
「わざわざ、王たる予に女と冠詞を付けたが……それは、予が女の王でしかない、この世の王とも、人の王とも、このグランシデアを滑る王とも呼べぬ、蝶よ花よと愛でられるに過ぎぬ、紛いの王と言いたいと、そう言うことか?」
「……失礼した、セミラミス王」
ベリスには喋らせず、バロンが答える。元よりセミラミスの目線はベリスには向いておらず、バロンとセミラミスの両者は、気迫に満ちた眼力を流し合いながらも、柔和な表情を崩さない。
「……こちらもあなたとの距離感を測りかねていてね。最初からそのように、刃で突かれては、部下が怯えてしまう」
「ほう。そなたの国では、王は男がするものと、そう決まっているのか?生憎、予は生まれてから一度も、己を女だと思ったことは無い」
「……先ほどのものは不注意ではあった。だが便宜的なものだ。あなたの性に関して、我々は悪意を持って刺激しているわけではないと言うことを理解していただきたい」
「質問に応えよ。そなたの国では――」
「……ない。僕の国に、そのような制約はない」
「ふん」
セミラミスは鼻で笑い、言葉を続ける。
「次に会談の機会があった時は、その男は要らん。違う傍仕えを用意して参じていただこう」
「……承知した。して、今回の議題だが……」
――……――……――
「……ということがあったんだ。いやはや、あの時は肝が冷えたな。その後は、彼とはいい友であれたとは思うが」
「え、えーっと……つまり、始祖様は、無性……?」
「……本人としてはそう言うことだろうな。男扱いも嫌悪していたから、彼はつまるところ、性別:セミラミスと言ったところなのだろう。彼には妻も夫もいたしな。正直、僕よりも王らしい王だったよ。カリスマの極がメイヴで、奔放な力の極がディード、揺れ惑う心の極がリーズなら、彼は王たる覇気の極、冷酷非道の極だろう」
「ほへえ……始祖様がそれほどすごいお方だったとは……」
「……後世で女王として語り継がれている、なんて知ったら怒り狂うだろうなぁ……そして彼の行動力なら、全ての歴史を塗り替えるなんてこともやりだしかねん……子孫の君にこう言うのも不謹慎だが、奴がクライシスで落命してくれて助かったよ」
「そうですね……始祖様に会ってみたい気持ちはあったのですが、ちょっと厳しいかもしれません……」
「……まあ、根性だけで蘇りそうなほどの活力に満ち溢れていたのも彼だったがな」
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