夢見草子:聖女の後進

 始源世界 響く暁闇の大地

「オ、オォ……」

 蠢く黒苔の怪物が、もぞもぞと草原を進む。言葉にならない呻きを上げながら、あてもなく彷徨っている。そこへ凄まじい速度でシュンゲキがやってきて、強烈な右翼の一閃で吹き飛ばす。怪物は草原を転がり、受け身もせずにでろでろとした体を持ち上げ、辛うじて残る人間の両足で立ち上がる。

「ジャンヌとか言ったか、てめえは……雑魚にかまけて奇跡をねだった末路がそれかぁ?」

「ウ……ア……」

「汚ねえなぁ、プータンイナモって奴か?まあいい。てめえも出番が終わったんだろ?なら……」

 シュンゲキは吠え猛り、真雷を全身で励起させる。

「舞台から降りねえとなぁッ!」

 バックステップから頭部に真雷の刃を産み出し振り下ろす。

「ウア……ァァ……!」

 ジャンヌは全身から黴の液体を吹き出し、それらが即座に膨張して刃を防ぐ。が、もちろん児戯にも等しいそんなもので防御しきれるはずもなく、撫でるように両断されて吹き飛び、草原の果ての森林地帯まで転がる。苔の鎧が粉砕され、全身の皮を剝がされたジャンヌの体が一瞬だけ露になるが、すぐに増殖した苔に覆われ立ち上がる。そして距離を詰めてきたシュンゲキによって即座に叩き伏せられる。翼爪を突き立てられ、そこから真雷を直接注ぎ込まれる。ジャンヌは体を切り離し、飛び上がって草原の中央に戻りつつ距離を取る。その際にシュンゲキの体に付着した苔が次々と爆発するが、全くダメージを受けている様子はない。

「天に祈れ神に祈れ主に祈れ!縋ることしか出来ない三下の己を嘆いて、旧い時代と共に消え失せろ、害獣が!」

 シュンゲキは飛び上がり、巨大な雷球を放つ。草原の中央で展開し、莫大な吸引力を持ってジャンヌを吸い込む。

「争いを嫌って平和を願い、ねだり、己で選ばずに与えられた善に励む愚か者は!そもそもこの世に生まれたことを後悔するべきだったなァッ!」

 更に高空へ上昇し、全身から真雷を出力を大幅に上げながら放出する。

「王龍式!〈払暁滅尽轟電雷〉!」

 凄絶に過ぎる雷の雨が降り注ぎ、その全てがジャンヌ目掛けて直進する。撃ち抜かれる度に彼女は再生するが、それすら追いつかぬほどの暴威に晒され、怯んだところで雷球に巻き込まれ、驚異的なまでの雷の嵐によって、まるでミンチのようにぐちゃぐちゃになっていく。攻撃の終わりと共に、ただの苔の塊になったジャンヌへボディプレスを叩き込み、入念に真雷で消し飛ばしていく。一息ついたシュンゲキは、やってくる気配の方を向く。

「てめえが特異点か。待ってたぜ」

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