エンドレスロール:Don’t touch V.F.D.

 エンドレスロール 茫漠の墓場

 人間体のソムニウムが空虚な砂漠で佇んでいると、上空から何者かが降下してきて、着地する。それは子供のような身長ながら、胸にたわわな果実を実らせ、狐の耳と尻尾を備えた少女だった。目の光からは人間らしさを感じられず、眼球の動かし方に癖があるように感じる。

「杉原君の……娘、だっけ」

「私は、ハル。だぁとまぁの間に生まれる、ちょーじょなの」

「ハルちゃん」

 ソムニウムは確認するように呟き、頷く。

「それで、あなたは私に何の用」

「ん」

 ハルは腰に佩いた刀を見せ、鯉口を切る。

「そむぬぅ居なくなったら、だぁ、私たちのこと見て。たくさんえっち、したい。子供、ほしい」

「なるほど。私が居るから、あの人の興味が私に向いてるって、そういうこと」

「うん」

「彼からどう思われようがどうでもいいし、粘着されたところで敵ですらないけど」

「でもだぁは恨んでる」

「そこは私もよくわからない。彼も、あなたみたいな可愛い女の子に好かれていれば全部忘れて骨抜きになると思ってた」

「きらい」

「黒崎さんが聞いたら卒倒しそう」

 ソムニウムは右手にルナリスフィリア、左手に真水鏡を呼び出す。

「まあいい。立場上、恨みは買いやすいから慣れてる。それに……信念を持って戦う相手を、完膚なきまでに叩き潰すのは気分がいい」

「下衆……きらい、なの……」

 ハルは抜刀する。胸が萎み、臨戦態勢に入ったことを明確にする。

「大丈夫。最初は手加減してあげる」

 ソムニウムはゆっくりと歩み寄り、そこから瞬間移動から真水鏡を振る。ハルは咄嗟に納刀してからの抜刀で弾き返し、薙ぎ払いから縦振りを繰り出す。ソムニウムは微塵も体勢を崩さずにルナリスフィリアで受け流し、飛び退く。

「曲がりなりにも最終決戦まで生きていただけはある」

 再びの瞬間移動からルナリスフィリアを振り、ハルは同じように弾き返そうとする。しかし、圧倒的な出力の差に刀をへし折られ、続く斬り返しを、掌から新たな刀を生み出して受け止める。

「なるほど」

 ソムニウムは短く呟くと力を込め、刀を再びへし折りながらハルを吹き飛ばす。そこへ、上空から何者かがソムニウムへ奇襲をかける。

 ――当然、難なく回避される。しかしそれでハルへの追撃は免れる。現れたのはミズナギだった。彼女は立ち上がると、得物たる棒を構え直す。

「僕たちのために死んでよ、ねえ!」

「ふぅん……」

 ソムニウムは溜息混じりに声を出すと、左手で目頭の辺り――尤も、竜人形態のソムニウムに目らしき部位はないが――を押さえ、やれやれと首を横に振る。

「雑魚が何体群れようが、私には関係ないけど……寧ろ、なんでこんなかわいい女の子に囲まれておいて彼は私に執着するの?」

 そこへ遠方より巨大なパイルバンカーが撃ち込まれ、ソムニウムは横へ小さく瞬間移動して躱し、パイルバンカーを手元に戻しつつアオジが、ハルの横に着地する。

「ソムニウム。私たちは幸せに過ごしたいんだよ。でもそのためには、明人の頭の中からあなたを消し去らないと」

「彼の頭を弄るくらいなら簡単でしょ。彼から、器の機能を剥がせばいい。杉原明人と言う人間そのものは、気の抜けた少年でしかない」

「器だけを引き剥がすなんてことが出来ないから言ってるんだよ」

 超特大の雷撃が天から注ぎ、ソムニウムに直撃する。彼女が無傷で佇んでいると、上空からゆっくりとランが降下してくる。

やつがれたちのために、お前には死んでもらう」

 ランは着地し、そこへハルが並ぶ。

「正直」

 ソムニウムは相変わらず扁平なアクセントで言葉を発する。

「あなたたちで勝手に乳繰りあってればいいと思うんだけど。まあ、わざわざ私に喧嘩を売りに来たことは認めてあげる。……そして、ある程度私が納得したら、杉原君をただの杉原君にする手伝いくらいは、してあげようかな」

 ランは薙刀を帯電させ、薙ぎ払いつつ放電する。ソムニウムは姿を消し、瞬時に眼前に現れルナリスフィリアを振り被る。それをアオジのパイルバンカーが受け止め、左右から挟むようにハルとミズナギが仕掛ける。

「生温い」

 ソムニウムはパイルバンカーを両断し、左拳をアオジの顔面に叩き込んで吹き飛ばし、彼女は襤褸雑巾のように地面を転がる。更にルナリスフィリアを逆手に持ち、真水鏡と併せて二人を吹き飛ばし、順手に持ち替えてから着地する。三人を一斉に処理したその行動は、複数の行動が組み合わされたとは思えないほどコンパクトに纏まった早業であった。

「……」

 ランはただ黙して薙刀を構え、穂先を帯電させる。

「全く。意味の無いことは嫌い。やるべきことのない状況で、無駄な戦いをするなんて……ね」

「……!」

 左半身を引き、ランはより深く構える。

「そう熱り立たなくていいよ。杉原君は、私が責任を持ってボコボコにしてあげる。仕上げは……あなたたちに任せるけど」

 ソムニウムはランに背を向けルナリスフィリアを振るい、空間を切り裂いて立ち去る。

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