エンドレスロール:カサノヴァの遺産
エンドレスロール 廃城セミラム・グラナディア
「っと……」
レイヴンが目覚めると、そこは水没した城の、真上の水面だった。特別な力を発揮していないが、なぜか地面のように水面に立てていた。すぐ横にはアーシャが立っており、ふらついてレイヴンに抱き着く。
「大丈夫か、アーシャ」
「はい……でも、ここは一体……」
見渡すと、水平線の果てまで海に覆われているのがわかる。更に赫々とした炎が尽きることなく燃え盛っており、舞い上がる火の粉が空を紅蓮に染めていた。
「離れんなよ」
レイヴンはアーシャを抱き寄せる。彼女も黙して強く身を寄せる。
「見つけた……」
炎の向こうから現れたのは、片耳のハチドリだった。
「ッ……!」
彼女から迸る力に怯んだか、アーシャは身を縮ませる。
「将来が楽しみな別嬪……って言うほど、平和な雰囲気でもなさそうだな」
レイヴンが呟くとハチドリは立ち止まり、右腕に鋼を纏わせて脇差を抜き、その刀身に赫々とした怨愛の炎を宿す。
「アーシャ」
「大丈夫……いつでも行けます、相棒……!」
アーシャは剣へと転じ、レイヴンはそれを左手に握る。
「どう見ても話せばわかるって感じじゃねえが、ひとつだけ答えてくれ」
「どうぞ」
「おお、マジかよ……」
普通に質問を許可されたことに少々面食らうが、レイヴンは続ける。
「お前さんが俺たちをここに呼び寄せたのか?」
「存じませぬ」
「おいおい……」
ハチドリは瞬間移動から空中に現れて一太刀与える。ギリギリのところで打ち返し、その瞬間にハチドリの左手から火薬がばら撒かれる。
「(相棒!)」
レイヴンが対応するより早く、脇差を下に向けて急降下して着火し、強烈な爆発で彼を怯ませ、着地した瞬間に脇差を下から上に振り上げ、熱波を放って押し込む。だが熱波を繰り出すほんの僅かな隙にレイヴンは体勢を立て直し、魔力の壁で受け流しつつすり抜けて絶大な衝撃を叩きつける。ハチドリはまるでダメージを受けず、素早く振り向いて横に薙ぐ。切り裂いたのは魔力の剣で、右手に持ち替えたレイヴンが上から斬り付け、続いて鋭い踏み込みと共に強烈な刺突を放つ。一段目は弾かれ、二段目は脇差の腹に受け止められるが、ハチドリは後ろに押し込まれる。
「ふう……」
レイヴンが左手の甲で額の汗を拭う。
「ったく、とんでもねえお嬢さんだな」
「(あんなに赤い怨愛の炎を出すなんて……それほど純粋な誰かへの愛を持っているんでしょうか……)」
「さあな。だが……」
視線の先に立つハチドリは、左腕で脇差の血を拭うような動作を取り、そして慈悲に満ちた笑みを向けてくる。
「あの顔で殺しに来るなんてな。冗談じゃすまないらしい」
「(相棒……)」
「ああ」
レイヴンは竜化する。
「本気で行くぜ」
剣を消し、両手に拳銃を持って乱射すると、ハチドリはさも当然のように脇差で全て弾きつつ急接近し、怨愛の炎でリーチを補強しながら舞うような連撃を放つ。レイヴンは全段を魔力の壁で受け流して力を蓄え、ハチドリが最後に放つ鋭い一閃に合わせて解放する。しかし二度目ともなれば読まれているのか、分身を身代わりに無効化され、逆にレイヴンのみが隙を晒す。即座に現れたハチドリが鋭い二連撃を叩き込み、大きく体勢を崩したところに飛びつき、力任せに脇差を胸元に突き入れ、引き抜きつつ飛び退く。大量のシフルの漏出によってレイヴンが立ち眩むが、すぐに傷を修復して立て直す。
「おいおい……」
「(流石に隙が少なすぎる……!相棒、この人とはまともに戦うだけ無駄です!逃げましょう!)」
「仕方ねえ!」
レイヴンが融合竜化し、空高く飛び立ち、凄まじい勢いでその場から離れていく。
「……」
ハチドリは見上げ、空の彼方へ小さくなっていくレイヴンを見る。
「この世の涯はただ一つ……」
左手を振り、莫大な火薬を周囲に撒き散らす。右手を上げ、脇差で水平線の彼方を指す。
「戦いに尽きる、死の淵のみ」
脇差を振るうと着火され、壮絶極まる大爆発が巻き起こる。当然ハチドリも巻き込まれるが、少しの傷も受けていない。海面を隙間なく紅蓮が包み込み、逃げていたはずのレイヴンが目の前にいた。
「どうなってやがる……」
「死以外に、この世から逃れる術はなし」
ハチドリが一握りの火薬を放ると、脇差を軽く振り抜いて着火させる。投じられた火薬の量に見合わぬ猛烈な連爆が辺りを覆う。
「(彼女の方が明らかに火力が上です!こうなったら……!)」
「伸るか反るか……腹括るしかないか……!」
魔力の剣を伴いつつ、レイヴンは剣に全ての力を懸けて振る。分身を盾にしようとするハチドリをそれごと巻き込んで仰け反らせ、続く斬り返しからの渾身の一撃を叩き込む。続けて左拳で水面を叩いて強烈な波動を起こして拘束時間を延長し、錐揉み回転しながら剣を突き出し、切っ先に魔力の剣を集中させてハチドリの腹を抉り、最後に膨大なシフルを解放し、魔力の剣を伴いながら壮絶な剣舞を繰り出す。極限まで高まった力を剣から解放し、最大級の大爆発を起こす。だが現れたのはほぼ無傷のハチドリで、脇差に変わって黒鋼の太刀を振り被っていた。咄嗟の防御には成功するものの、剣が両断される。
「……ッ!?」
「(レイヴンッ!)」
躊躇の無い斬り上げから驚異的な空中制御で背後に回り、背から刺し貫く。
「がはぁっ……」
「御免」
左肩を左手でがっちりと掴み、大量の火薬をレイヴンの体に纏わりつかせ、太刀を引き抜きながら着火させて蹴り落とす。水面に激突すると同時に爆発し、彼の融合竜化が解ける。ハチドリが着地して太刀を背に戻し、二人へ歩み寄る。
「あい……ぼう……」
「随分ツイてないぜ……なけるな、こりゃ……」
二人は抱き合いながら、程なくして燃え尽きる。
「旦那様……」
ハチドリは左手を天へ伸ばし、火薬を散らす。己に滾った怨愛の炎で勝手に着火し、彼女諸共爆発させる。
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