エンドレスロール:司銀の凶星

 銀を纏った流星が天を射貫き、そして地上の標的を見つけて軌道を変え、一切速度を落とさず、それどころか加速して激突し、赤黒い衝撃を地の果てまで飛ばし、凄まじい闘気の柱が天へ上る。

「……」

 地に墜ちた流星……星王龍メルクバが一歩踏み出すと、眼前に居たのはストラトスだった。

「っと……いきなりここに投げ出されて何事かと思ったけど、なんだこいつ……」

 困惑する彼を尻目に、メルクバは頭をもたげて体に周囲のシフルを吸収し、流体の鋼が体を循環し始め、闘気の粒子が漏れ出す。

「時の落胤……相手にとって不足はない」

 メルクバがぼそぼそと喋るが、自分の翼からジェット噴射のごとき轟音を立てて噴出する闘気のせいで掻き消える。

「まあいいや。ともかく、戦う以外になさそうだしな……!」

 ストラトスは背の槍を抜き放ち、構える。

「あんたの名前を聞かせてもらうぜ。俺はストラトス・レイナードだ」

「我が名は星王龍メルクバ……」

 放った言葉は轟音に掻き消され、右翼を変形させ、槍状にして突き出す。闘気の噴射で加速し、ストラトスが時間障壁を張ってなおギリギリの回避になる。ストラトスは前転しつつ槍を振り、時空を歪めて、物理的に捻じ曲がった空間をメルクバに直接当てる。メルクバは左翼を縦にして受け止め、そのまま闘気を噴出して急上昇し、一気に接近しつつ中空から翼を槍に変形させて右、左と繰り出す。一段目を時間障壁で受け、二段目を翻って避け、その回転の間に、白い竜人形態へ竜化する。同時に展開した棘から真如の光を射出し、一点集中でメルクバの胸部を狙う。爆風に包まれるが、メルクバは空中で制御を失わずに両翼をストラトスに向け、翼の指先から闘気を射出する。プラズマ迸る凄まじい火力が飛び出るが、ストラトスも先ほどよりも高出力の砲撃で応戦する。メルクバは早々に切り上げ、翼を戻して光速で突撃する。まるで示し合わせたがごとく、ストラトスも竜化を一段階落とし、拳を構えて加速する。だが流石に速度の差による衝撃を嫌ったか、ストラトスの方が正面衝突を避ける。拳がメルクバの体側面を削るが、それ以上に鋼の体に拳骨が擦れたことで赤熱した体表から、かなりの痛みを感じる。擦れ違ってすぐストラトスは白い竜人に戻り、メルクバは圧倒的な速さの代償として止まり切れずに地面に激突し、桁違いの大爆発を起こす。だが着地後すぐに転換し、翼の指を空中のストラトスに向け、小粒な闘気の弾を乱射する。ストラトスは即座に機動を開始し、魅せるように弾が爆発していく。メルクバは乱射しつつシフルを吸収し、射出を切り上げると同時に翼を戻して飛び立つ。ストラトスの傍を通り抜けてなお更に高空へ飛び、凄まじい速度で飛び回る。その軌道から遅れて流体の鋼の刃が大量に飛んできて、回避に専念していたところに、巨大な鋼の球体となったメルクバが直接激突しようとしてくる。

「うぉっ!?」

 動体視力で捉えるには速すぎる突貫に反応が遅れ、鋼の膜に撫でられて吹き飛ばされる。更に尋常ならざる急カーブで再びストラトスを正面に捉え、今度は流石に余裕を持って躱す。通り抜けたメルクバは赤く染まり、大量の鋼の礫となって天に飛ぶ。程なくして隈なく空間を埋め尽くすほどの怒涛となって降り注ぎ、回避を諦めて時間障壁で耐えようとするストラトスを、障壁の上から叩き落す。空中で元の球体に戻ったメルクバが着弾し、ストラトスは吹き飛ばされ、しかし常軌を逸した衝撃を受けつつも即座に受け身を取り、右手でブレーキをかけて踏み止まる。

「へへっ、すげえパワーだ……」

 体勢を立て直しつつ、左手で口許を拭い、右手で槍を持ち直す。

「時の落胤……流石は輪廻の夜明けを導いただけはある」

「さっきからなんて言ってるか全然わかんねえけど……あんたがすげえのはわかる」

「この力は原初の王龍より剥がれ落ちし、古の残滓」

「ん……ん?まあいいや。いくぜ!」

 棘を一気に展開し、掃射する。右翼が変形させて放たれ、光線を打ち砕かれて届き、迎え撃つ槍の一振りで空間が歪んで受け止められ、歪みをそのまま槍で撃ち出し、メルクバの右翼を伝って本体に届かせ怯むが、強引に右翼を戻して両翼を合わせ、渾身の闘気を放出する。それに合わせてストラトスが棘を穂先に集中させながら飛んで構え、強烈に渦巻く時間を纏わせて突進する。力がぶつかり合い、押し込まれたことでメルクバは暴発し、後退する。

「……」

 メルクバは再びシフルエネルギーを吸収する。ストラトスが構えるが、メルクバは即座に飛び立ち、次の瞬間には空の彼方へ消えていった。ストラトスは竜化を解く。

「誰だったかわかんねえけど……ま、勝ててよかったぜ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る