エンドレスロール:極楽道中壊血譚
エンドレスロール 枢機卿機アウラム・パンテオン
「ご苦労なことね」
壁に埋め込まれた荘厳なパイプオルガンの前、己の席にて足を組み、マレは踏ん反り返る。視線の下、広間の下層に立っていたのはバロンだった。
「……」
この空間の上部は破壊されており、そのまま空に開いた巨大な次元門が見える。
「アタシも、アンタも……目的地に辿り着けなかったってわけね。ここがどういう性質の場所なのかわからないけど……これだけはわかるわ」
マレは足を戻し、立ち上がる。
「この空間では、勝とうが負けようが永遠に戦うことを強いられる。お兄と幸せに暮らすことも、アンタがエリアルと共に歩むことも許されない。死のうが生き残ろうが、どれだけ嘆き悲しもうが……ね」
「……」
バロンは己の拳を突き合わせる。
「まあ、アンタにはそれがお似合いかもね。なんたって、自分の意思で別の女に鞍替えした癖に、真摯に愛したとかほざく奴なんだし」
「……形はそれぞれだ。僕はお前の望む楽園を否定するつもりはない」
マレは飛び降り、バロンの前に着地する。
「相手したげるわ。帰るべき場所に戻れず、彷徨う同志としてね」
「……感謝する」
マレが右手を振ると、指の本数に沿った斬撃――指線が飛んでくる。バロンは前へのステップと共に闘気の鎧で砕き、愚直に右正拳を繰り出す。
「最強の人間にしては安易な択ね!」
左前腕で拳を受け、右手を振り下ろす。指線と、それに伴う血の刃がバロンの胴を切り裂く。反撃に左拳を振り下ろすが、左貫手を合わされ、まるで刃物がぶつかり合ったような音を立てて両者は同時に後退する。
「……」
バロンは己の胸に触れ、そして指についた血を見る。
「……お前は……僕の、クロザキの手によって、そのリミッターを付けられた」
「そうね。始源世界でのアタシ……ブリュンヒルデには、体液を吸わないと生きていけない機能なんてないもの」
「……」
「でもすこぶる調子がいいわ。メビウス化して、ブリュンヒルデとマレが一体となってからはね……」
マレが見せつけるように右手を力ませると、彼女の白めの黄褐色の表皮を、紅い血液が駆け巡る。
「完全同位体……Chaos社に居た頃は、単なる他人の空似でしかないと思ってたわ。でもこうして自分と合一してみると……これが、これこそが完全な形なんだってよくわかる」
マレが右鷹爪を繰り出す。指線を伴って血の刃が床を走り、バロンは周囲の気迫を受け流して急接近し、拳を繰り出す。素早く左手を振り上げ、血の刃で切り裂くが、大した挙動も無しに威力が逃げ、拳の直撃を受けてマレは吹き飛び、壁に激突する。好機とばかりにバロンは吹き飛ぶ速度とほぼ同速で肉薄し、追撃をぶつけようとする。その瞬間マレは竜骨化し、凄まじい熱波でバロンを吹き飛ばす。赤熱した鋼のような質感の竜人が現れ、バロンは即座にそれがマレの竜骨化形態だと悟る。
「何かを得るために、何かを犠牲にしなければならない道理など存在しない。自分にとって犠牲だと、身を切って痛むようなものを差し出す選択肢など、愚かに過ぎるわ」
「……確かにお前たちは極楽浄土の戦いで、完璧に計画を果たした。不必要な損害は一つも無く、僕たちが千早とお前たちを倒して、果たされた」
「蝶の導きよ」
「……ラドゥエリアル……」
バロンは竜化し、黒鋼となる。マレは両手を構え、その狭間に力を溜め、解放する。直線状に大爆発が連鎖し、続けて大火球を天空へ射出する。爆炎の向こうから鋼の波が押し寄せ、マレは続いて熱波を解き放って迎撃する。更に頭上から大量の鋼の棘が降り注ぎ、浮遊して中空から黒鋼が突進してくる。それに伴って床を押し潰すように鋼の波が再び発生する。突き出した両腕から紅蓮を放って波を抑え、接近から打撃を与えようとした黒鋼に大火球が落下する。が、その壮絶な紅蓮にも怯まずに黒鋼は攻撃を直撃させ、強烈なラリアットで壁際に追い込み、殴り合いに持ち込む。紅蓮を纏った爪が振るわれ、黒鋼の左前腕が阻み、右掌底を腹に極め、手を開いて衝撃を解き放ち、マレの体を壁でバウンドさせて渾身のアッパーを叩き込む。打ち上げられて拘束から逃げたのを利用して受け身を取り、口から極太の熱線を吐きつける。黒鋼は力んでから解放し、立ち上る闘気の柱で熱線を打ち消しながら頭上のマレを直接狙う。直撃か、それとも防御を嫌ってマレが引いた瞬間を見定め、瞬間移動で頭上を取って叩き落し、止めに胸部を拳で刺し貫き、地に臥せさせる。
「……極楽浄土では、試合に勝って勝負に負けたが……今回は僕の勝ちだ」
「好きにしたら……?別にこの空間での勝敗なんてどうでもいいし……」
マレは火の粉になって消えていった。
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