エンドレスロール【FINAL】:究王龍ファーストピース
※色々な意味でクライマックスなので、前提となる「☆☆☆IFエンド:夢の終わり、蝶の嵐」を必ず先にご覧になってから進んでください。ファイナル第五弾です。
この先へは、全ての戦いを終えた狂人のみが進むことが出来ますわ。
準備はよろしいですの?
……
…………
………………
言うまでもない、とでも言いたげですわね?
では進みましょう。
全ての物語の終焉に相応しい、本当に本当の最終決戦……
三千世界も、極楽浄土も、安楽浄土も、十万億土も越えた先にある、最期の景色。
是非とも、わたくしたちと共に見届けましょうね。
瞳を捧げた はじまりの龍
夢見に飽いた狂人のために 夢を見続ける者
現の終わりを その手で下す
蝶の群れは螺旋を描き 狂人たちの脳を覗き見る
現を眺めた代償に 夢すら犯して啜るために
来たれるは究極の否定 全ての終幕
新たなはじまりを以て 此処に顕現する
エンドレスロール ???
宇宙の片隅、無の無にて――
「アンタの力になる前に……一つだけ試したいことがあるんだけど」
ディードが究王龍ファーストピースを見上げる。
【試したいこと】
どのような姿になっても口調は変わらず、いつもの雰囲気で返す。
「アンタは今、どんな世界のどんな存在よりも強い。どんな屁理屈みたいな特殊能力を持ってるやつでも――まあその程度の相手なら私どころか誰とも融合してない空の器でも倒せるでしょうけど――どんな力を持っている存在が相手でも、それを打ち倒せるだけの力がある。そのレベルでアンタは強い。だとしたら……気にならない?どれだけの力を結集したら、アンタを打ち負かせるのかってね。私を助けると思って、どうよ?」
【なるほど確かに、悪くないかもね】
「ここは無の無……全て無く、逆説的に全てを内包する空間。だからこそ……」
ディードが右腕を掲げると、次々と存在が召喚されていく。
「……?」
最初に現れたバロンが、困惑気味にディードを見る。
「……ディード!?」
珍しく大声を上げた彼に、ディードはニヒルな笑みを浮かべる。
「久しぶりね、バロン。あの頃からだいぶ強くなってるみたいだから、試してみたいところはあるけど……今回は相手が違うわ」
彼を顎で使ってファーストピースの方を向かせる。
「……なんだこれは……白金零、なのか……?」
「その通り。厳密には、究王龍ファーストピースらしいわ。ああいうの、燃えるでしょ?」
「……確かにな」
「ま、いざとなれば私がぶっ飛ばせばいいだけだから」
バロンが落ち着きを取り戻し、そしてディードと彼の間に怨愛の炎を纏った脇差が突き刺さる。
「ほら、来たわよ。アンタのせいで全部狂わされた兎が」
「……?」
遅れて片耳のハチドリが着地し、脇差を右手で引き抜き二人に並ぶ。
「ディード殿……今はそのお力に甘えさせてもらいますぞ」
「ええ、期待してなさい」
ハチドリはバロンへ視線を向ける。
「……君は……」
「参りましょう、バロン殿。私はあなたの刃であり……その理想を継ぐものです」
「……ああ、頼むぞ」
バロンはその一瞬だけで全てを察したか、それだけで会話を切り上げて正面を向く。
「さあファーストピース!派手な決戦と行こうじゃない!」
ディードが興奮気味に叫ぶと、ファーストピースは巨大な翼を広げ、極彩色の波動を発する。
【わかった。ならばこの場に相応しいよう、私も全力で行く】
咆哮が空間を歪め、開戦の合図となる。
エンドレスロール 竜乱
そこから少々離れた空間に、ホシヒメ、ゼロ、ルクレツィアの三人が呼び出される。
「わわっ!?なになに!?」
ホシヒメがわかりやすく狼狽えると、ゼロが続く。
「喚くな。ここは無の無か……?」
「正直ウチらにはなんもわからへんな、この状況」
ルクレツィアが軽く返すと、彼方から極彩色の波動が響き渡ってくる。
「とわぁーっ!?」
ホシヒメがよろけ、それが収まると三人の正面に、同じ色の繭のような何かが現れる。
「次から次へと何だ……」
ゼロとルクレツィアが同時に刀に手をかける。繭が自然に解け、白金の身体に、コバルトブルーの輝きを放つ――アルメールが羽化する。
「アルメール!?」
ゼロがいち早く気付いて驚き、されどアルメールは生気の失せたようにだらりと立ち上がる。
【この身体は彼のものだけど、意志は私のもの。あなたたちと遊ぶために用意させてもらった】
「この声!……って、白金ちゃんだっけ?」
アルメールから聞こえる声にホシヒメが反応し、そして彼は背から炎の二翼と氷の二翼を生み出し、浮き上がる。
【私の治世に反旗を翻せること、証明して欲しい】
「よーし、なんかよくわかんないけどオッケー!」
ホシヒメがノリノリで闘気を発し、それにゼロとルクレツィアが続いて構える。
「事情は知らんがこの男だけは葬り去る」
「ゼロ兄と一緒に戦えるんならウチは文句無いで!」
アルメールは咆哮し、全身のパネルを沸き立たせる。そして周囲に大量の炎剣を生み出し射出する。ゼロが光の刃を同数撃ち込んで相殺し、急接近したホシヒメが、アルメールが反応するよりも早く拳を打ち込み、肉体と拳の間に圧縮された閃光が爆発して後退させ、ルクレツィアがその頭上から神速の抜刀を繰り出してから逆手に持ち替え、柄で頭部を殴打して更に追撃する。二人がゼロに並ぶように後退すると、アルメールは更に力み、パネルの隙間から極彩色の闘気を噴出する。
「なにあれー!?」
「わからん。が……異質過ぎる。俺達の知る既存のエネルギーではないようだ」
「ホシヒメの持っとるのも根源エネルギーなんやろ?なんかわからへんの?」
アルメールは会話を遮るように大きく身体を捻り、右腕を振り抜いて直線上に強烈な火炎を起こす。ゼロとルクレツィアが左右にそれぞれ逃げ、ホシヒメが再びの肉薄から右拳を繰り出す。しかし今度はアルメールが一歩引いて避け、そこから飛び込むようにして大上段から左腕を振り下ろす。腕には武器のように巨大な炎の爪が伴い、着地してからも右腕を下段から同じように炎を伴って振り上げる。ホシヒメはそれらを拳の圧だけで打ち消し、全身から発する黄金の闘気だけで押し返し、そのまま両手の合間に溜め込んだ極大の闘気を螺旋状にして右手から撃ち出す。アルメールはその直撃を受けながらも、内部から吹き出る極彩色の闘気で相殺し続ける。撃ち終わりと同時にアルメールが行動を再開してホシヒメの後隙を狙うが、その瞬間に巨大な空間の歪みに囚われ、ホシヒメもろとも乱れ飛ぶ大量の斬撃に飲まれる。
「もちろん準備万端!」
だがホシヒメは漲る闘気で斬撃を無効化しつつ、対照的に斬撃を食らい続けるアルメールにジャンプで接近し、右手に蓄えた莫大な出力の輝きを直接捩じ込む。無の暗闇の中でも眩いほどの閃光が迸り、ガラスのように切り刻まれた空間が元に戻る。煙を上げながら落下していくアルメールへ、トドメとばかりにルクレツィアが豪快に一閃し、続けて縦に振り下ろす。その斬撃の軌道全てに結晶が現れ、斬撃と同時に爆発する。しかしアルメールは落下慣性を無視して飛び上がり、ルクレツィアの頭を右手で掴んで炎上させる。彼女は反射的に竜骨化しつつ、アルメールの腕を切り落としてから蹴り飛ばし、吹き飛んだそこへ頭上から大量の光の刃が降り注ぐ。大半の直撃を受けたアルメールの動きが一時的に完全に停止し、愚直に突進してきていたホシヒメによって、渾身の右拳を頬に受ける。
「ぶっっっ飛べええええええええええ!!!!!」
殴り抜かれて頭部が半壊し、アルメールは錐揉み回転しながら面白いように吹き飛んでいく。
「いよぉし!」
凄まじいダメージを受けたアルメールはなおも人形のように立ち上がって抵抗しようとするが、事切れて崩れ落ちる。
「感じた力の凄まじさに対して、随分とあっさり沈んだか……」
ゼロが構えを解き、その横に人間の姿に戻ったルクレツィアが並ぶ。
「まあ、身体の動かし方は本人が一番わかっとるっちゅうことやな。逆に言えば、本人じゃないんやったらあの程度しか動けんっちゅうことやな、ゼロ兄?」
二人が話していると、どこからか声が轟く。
【よし。ならそこから、私たちの戦いを見ていて】
「ええー!?呼んでおいて放置!?」
エンドレスロール 黒転
閃光と共にレイヴンとアーシャが現れて着地し、それに続いてロータも現れる。
「なんだ?何がどうなってる?」
「確かに私たち死んだはずなんですけど……」
二人が困惑していると、ロータが両腕を組んで鼻息を一つする。
「ソムニウムの気配がする。それもいつも以上に凄まじい力を伴ってる……私たちが完全に消し去られたはずなのにまだここに一個体として生きてるってことは、ここは無の無ってこと」
「ったく、完全に消滅してもまだ働かされるたぁ、世知辛いな」
そして彼方から極彩色の波動が響き渡り、同じ色の繭が現れる。
「相棒!」
「ああ、そりゃ起こされたんなら仕事もあるだろうな」
アーシャが剣へと変わり、レイヴンの右手に収まる。程なくして繭がほどけ、その中から白金の身体にコバルトブルーの装飾がなされたペイルライダーが現れる。
「兄様のトラウマを刺激したいみたい」
「ソムニウムってのはよっぽど趣味が悪いらしい」
「ふふっ。まあよりにもよってペイルライダーを選ぶなんて、人材不足なんだろうね」
ロータは鎖を呼び起こし、構える。
「ソムニウムのことだから、どうせこういうの遊び感覚でやってる。私たちも、たぶんそんなに全力出さなくていいはず」
「だといいがね」
ペイルは体色と同じ色の鎌を呼び起こして握り、そして三体の分身を生み出す。
「どうやらあちらさんも準備万端らしい。行くぞロータ」
「うん……」
一体目の分身が飛び込み、二体目の分身が後方から氷柱を連射する。一体目はロータに狙いを付け、大きく振りかぶって横から引き寄せるように鎌を振る。ロータは難なくそれから逃れ、氷柱の弾幕を編んだ鎖の壁で防ぎつつ、別の鎖で一体目の分身へ巻き付け、振り回す。ペイルライダーの分身そのものが遠心力を生み出す槌頭となり、二体目を轢き潰す。そのまま一体目を強く戒めて粉砕し、レイヴンの方を見る。
「……」
レイヴンは魔力の壁を構え、三体目の分身の攻撃を軽々と受け流して強力なカウンターで一撃粉砕する。そのままの勢いで剣を構え、上段から振り下ろす。ペイルは柄で切っ先を流し、翻りつつ一気に鎌を振り抜く。レイヴンが剣を籠手に変形させて受け流しつつ、剣に戻して刺突を繰り出すと、ペイルは鎌を回転させつつ手元に戻し、その回転によって弾き、素早い動作で先程分身がロータに繰り出したのと同じような振りを見せる。レイヴンが瞬間移動で一歩退き、そこに竜化したロータが鋭く拳を振り下ろし、ペイルを吹き飛ばす。竜化を解きつつラータへと転じ、縦に回転しながら背から生えた黒い骨の翼を叩きつけて、表皮を大きく削ぎ取り、正面向き直って右手を突き出し、掌から暗黒竜闘気の槍を螺旋状に撃ち出して反動で後退する。手放した鎌が虚空に突き刺さって甲高い音を立て、胴体に大穴が空いたペイルが膝を折る。ロータに戻ってレイヴンの横に着地し、砂を払うように両手をはたく。
「流石は俺の
「当然……」
崩れ折れたペイルは鎧が融解し、巨大な肉塊のように変わっていく。
「ハハッ、随分豪華なディナーだな?」
「ああいう色合いの熟成肉を見たことあるよ」
二人が雑談をしていると、肉塊は獣の姿を取り、筋骨隆々な四肢が生えてくる。
「二回戦だ」
「兄様は何回連続で出来るの?アーシャは知ってる?」
剣となっているアーシャはせわしなく発光してロータへ何かしらの抗議を見せる。
「じゃあ、さっさと終わらせてじっくり聞くから」
ロータは右手で指を鳴らし、自身の背後の空間から大量の鎖と暗黒竜闘気の槍を構える。
「おっかねえな、相変わらず」
レイヴンも応えるように融合竜化し、同時に獣となったペイルが大きく伸ばした右前足で薙ぎ払ってくる。ロータが右手を握り締めると、構えられた弾幕が解放され、怒涛の勢いでペイルの右前足を虚空へ縫い留める。だがペイルは身を引くことで右前足を引き千切り、分離した肉塊が鎌になってロータへ飛んでいく。ロータは力を込めて左拳を振り抜き、拳圧だけで鎌を相殺する。その隙に瞬間移動で肉薄したレイヴンが魔力の剣を伴いながら剣の振りを二度当ててペイルを怯ませ、渾身の力で刀身から闘気を解放しつつ一閃を叩きつける。それだけでペイルの半身が消し飛ぶが、レイヴンは容赦なく剣を籠手に変え、拳先に魔力の剣を集中させつつ足元を殴りつけて闘気の衝撃波で追撃し、籠手を剣に戻して突き出し、今度は剣先に魔力の剣を集中させて高速回転して突進し、その勢いで翼から大量の光弾を放ち、そして強く一回転して翼で切り裂き、トドメに左手から大火球を撃ち込み爆発させる。ペイルが大きく仰け反ったところにロータが鎖で縛め、レイヴンが逃さず大量の魔力の剣を伴いながら壮絶な剣舞を見せ、空間の闘気が限界まで高まったところで大爆発させる。ペイルは木っ端微塵に消し飛び、レイヴンは人間に戻ってロータの横に戻り、剣をアーシャに戻す。
「よし、まあこんなもんだろ」
余裕綽々というふうにレイヴンが言うと、アーシャが続く。
「遊びというのも納得でしたね、何か妙に手加減されてるような……」
その言葉にロータが頷く。
「だから言ってる。ソムニウムはそういう性格。良くも悪くも超越者だから、状況を楽しんでるだけなんだと思う」
「で、俺達は何をすりゃいいんだ?このままお茶会ってわけにもいかねえだろ?」
「私に考えがある。ボーっとしてても暇なだけだし、多分今しか出来ないから」
「おっ、そいつは気になるな。教えてくれよ」
ロータがレイヴンに手を伸ばす。
「じゃ、久しぶりに合体しよ――」
エンドレスロール 始源
「うぉっ!?」
続いて虚空に放り出されたのは明人だった。既にアリアと燐花がその場に居り、姿を見留めると即座にアリアが抱きしめてくる。
「明人くん!」
「もごぁ!?」
明人が悶えると、アリアは優しく離し、燐花が歩み寄ってくる。
「その……」
「よっ、燐花!」
燐花はバツが悪そうに声をかけるが、明人は気さくに返す。
「アリアちゃん、これどういう状況?」
中腰の状態で頭を抱えられたまま、明人が尋ねる。
「わからないのです。急に燐花ちゃんと一緒にここに放り出されて……ともかく、また生きて会えてよかったのですよ!」
「そうですね、その……最後は最悪な別れ方でしたけど」
微妙な空気になったそこへ、極彩色の波動が響き渡る。
「きゃっ!?」
アリアが非常に少女らしく驚いてすぐ、明人が傍を離れて立ち上がる。
「これは……零さんの!」
【そう、その通り】
続いて虚空を切り裂いて、竜人形態のソムニウムが、左手の甲に灰色の蝶を乗せて現れる。
「白金さん……!」
燐花とアリアは即座に警戒態勢に入り、燐花は旗槍を右手に呼び出す。
「よくものこのこ私達の前に出てきましたね……!」
【どうどう、落ち着いて。私は久しぶりに、杉原くんで遊んでみたいだけだから】
「遊ぶ……?」
一行が意図を理解できないでいると、ソムニウムが続ける。
【ここはルナリスフィリアの生み出す記憶の中、その最果て。私が手に入れられる極限の強さを再現した結末。この力を試す前座として、あなたたちを呼んでみた】
「それって……」
アリアが明人の方を見て、彼も向き合ってくる。
「空の器の力が無いかもしれんわ、俺」
「ええ!?」
驚きはしたものの、すぐに策を思いついて、アリアは背から触手を生み出す。更にその先端から細い触手を展開して、明人の耳元から頭に捩じ込む。
「むほおおお!?」
「オーバーホール、なのです!」
【まあともかく、適当に私と戦えばそれでいい】
ソムニウムは三人と同じ高さに着地し、灰色の蝶は手を離れてラドゥエリアルとなる。
「そうだ。お前たちに華のある最後の役目をくれてやった、ただそれだけのことだ」
ラドゥエリアルが右手にロッドを呼び出し、ソムニウムは真水鏡とルナリスフィリアをそれぞれの手に生み出す。
【せめて君の妄執が、少しでも晴れるようにしてあげる】
「よっしゃ来い!」
明人は乗り気に、アリアから受け取った力で竜化する。変わらず無謬の姿だが、最終決戦時と違って、元々のものに戻っているようだ。
「今日こそぶち殺してやる、零さん!」
【ふふ……ラドゥエリアル、二人の相手を任せてもいい?】
何を言うでもなく頷き、ソムニウムと無謬がゆっくりと歩み寄る。残ったアリアと燐花は、ラドゥエリアルと向かい合う。
「真にあるに足る世界なのか……既にわかりきっていることではあるが、消滅の前に遊ぶこともまた肝要だ」
ラドゥエリアルが翼を広げ、応じるように燐花が怨愛の炎を鎧から吹き出し、アリアが背から巨大な触手を二本呼び出す。
「今度こそ絶対に逃さないのですよ、明人くんを!」
「その通りです、アリアちゃん!」
ラドゥエリアルが握った左手を振り抜き、五頭の蝶たちが前へ進む。燐花が炎で長いマントを背に呼び起こし、それを左拳で巻き込んで地面に叩きつけて炎の壁を生み出し、蝶を打ち消す。翻りながら旗槍を振り抜いて熱波を飛ばし、ラドゥエリアルはその場で翻って蝶となり、回避する。再び現れた瞬間、ロッドに大量の蝶が集り、光の槍となって地面に叩きつけられる。粘ついた火炎が円形に広がり、それを燐花が押し留めつつ、アリアが飛び上がって触手をドリルのように高速回転させて突っ込む。ラドゥエリアルは右手を突き出して音波を生じさせ、それで押し止める。そしてロッドを左手に戻し、アリアの攻撃を止めながら振りかぶる。だが急速に接近してきた燐花による旗槍の投擲でロッドを弾かれ、仕方なく左手の音波も合わせて放ってアリアを弾き返す。右手にロッドを戻し、燐花に対応しようとするが、彼女はそれより速く最接近し、旗槍ではなく単純に強烈な右ストレートを顔面に極める。打面が爆発し、ラドゥエリアルは激しく吹き飛ぶ。追撃としてアリアが右の触手を槍のようにしながら猛烈な勢いで伸ばすが、大量の蒼の蝶に阻まれ、更に彼らが放つ音波によって槍の剛性が失われ、触手はアリアの許へ急速に撤退する。
「現の終わりが近くもあれば、互いの力がこれほどに高いのも納得だな」
なおも猛追する燐花の旗槍をロッドで往なし、再びロッドを光の槍へと変えて応戦する。右へ往なして切り返すと、燐花は素早くマントを振り抜いて一歩退き、切り返しの終わりを狙いすまして刺突し、それでも的確に反応して穂先を槍で下に向けさせ、左手から音波を発して燐花を吹き飛ばす。だが背後で力をひたすらに溜めていたアリアが、触手の合間に生じた力場を燐花へ投げつける。彼女を中心として時間が発生し、強引な受け身から加速して突進する。
「ッ!」
ラドゥエリアルが反応するより速く、燐花はタックルを極め、浮いた彼の身体を左手で掴み、躊躇なく旗槍で首筋を貫く。傷こそ入ったようだが、ラドゥエリアルは即座に蝶へと変わって逃げる。
「十分だ。理由のない戦いに命を賭けられるほど、私は死合いが好きではないのでな」
そして間もなく、灰色の蝶へと変わって逃げ去る。アリアは燐花へと歩み寄り、二人は明人とソムニウムの方を見る。
「手出し無用、でしょうか……」
「助けたくはあるのですけど、ここで明人くんがあの人に勝てば……それで執着を捨ててくれるかも知れないのです」
無謬が地面を叩き、衝撃波が素早く地面を走る。当然のように真水鏡を軽く振るだけで無効化され、駆け寄ってからの渾身の右拳も同じように弾き返され、生じた致命的な隙にルナリスフィリアの一閃を叩き込まれ、光波の爆発で大きく吹き飛ぶ。しかし、怯みの途中でも力を蓄え、強烈な吹き飛ばしでさえも両足で堪え、赫々たる大火球を手元に生み出す。そして衝撃波を今度は地面を蹴る推進力に変え、大火球を押し付ける。ソムニウムは一瞬、何を繰り出すか思案してから真水鏡で受け止める。
「どぉうらあああああああッ!」
【私への憎しみはどうしたの】
「そんなもんあるに決まっとろうが!」
大火球を握り潰し、大爆発を起こす。至近距離で直撃を受けた真水鏡は損壊し、ソムニウムが衝撃で若干怯む。その瞬間に無謬は両手を合わせ、衝撃波に乗せて爆炎を解放する。その追撃をも直に受け、虚空を滑りながら押し込まれる。
【結局はちっぽけな羨みを、空の器で強引に増幅してただけなんだ】
「うるせえ!」
無謬は明人の姿に戻り、籠手と具足を装備して突進する。
【ティアスティラ!】
ソムニウムも同じように、ルナリスフィリアを消して籠手と具足を装備する。明人の右拳とソムニウムの左拳が激突し、同時に弾かれて仰け反り、両手を互いに掴んで押し合う。
【他のみんなはやるべきを成し、自分の人生の意味を果たした。君はそうして、いつまでエンディングを迎えないつもり?】
「あんたに勝ったらハッピーエンドなんだよ!だからさっさと……」
明人がソムニウムの籠手を握り潰し、右手を離して拳を作り、振りかぶる。
「くたばれぇッ!」
だがその大仰な動作故か右手で左手を捕まれ、その場に投げ倒される。しかし明人も即座に反応し、足で彼女の頭を抱えて放り投げつつ起き上がる。更に黄金の双剣を呼び起こし、距離を詰めにかかる。
【あはは。人の全力を見るのって楽しいよね】
ソムニウムは身軽に受け身を取る。
【エクスハート!】
打刀を右手に呼び出し、左手には赤黒い直剣を呼び出す。そして肉薄した瞬間に交わった直剣と片方の双剣が弾かれて手放され、打刀ともう片方の双剣で競り合う。
【世の中には納得できないことなんていくらでもある】
「そんなんわかっとうっちゃ!そげでも納得できんことが……」
打刀をへし折り、左手に再び黄金の剣を呼び戻して斬りつけ、後退させる。
「あるっちゃろうが!」
【うんうん、はいはい】
明人は右手に燐花の旗槍を呼び出す。
【スプリンクル!】
ソムニウムの手にも金属製の杖が握られ、二人が同時に投げつける。
【でもさ、君には愛してくれる人が居る。そもそも君は弱くないし、そうやって被害者面して私を目の敵にしてさ、自分を認められてないだけだよね】
旗槍と杖が拮抗していたが、徐々に杖が押し切ろうとしている。
「明人くん!一人でなんとかしようなんて思っちゃダメなのですよ!ちゃんと私たちがいつでも傍にいることを思い出すのです!」
「そうです!私たちの愛が、あなたの力になれるって信じてますから!頼ってください!」
外野の二人が声援をかけ、明人は旗槍から更に炎を吹き出させて押し切り、旗槍がソムニウムを貫き通す。
【よしよし、それで合ってるよ、杉原くん】
ソムニウムは壊れた真水鏡から、剣の柄を取り出す。
【ルナリスフィリア!】
そして抜刀すると、同時に明人は竜を模した黒い鎧に身を包み、無骨な大剣を右手に握る。刀身には、眩く紅い怨愛の炎が宿っていた。
【そう、所詮は意地の問題に過ぎない。どんなものでもね。生き続けるのだってそう。何か譲れないからこそ、ここで呼吸をする、そうでしょ?】
「もうどうでもいい!なんかもうわからん!あんたをぶっ倒すだけだ!」
説明も思考も放棄した回答から突進し、刺突から抉るように下段に切り込む。ルナリスフィリアで軽く弾き返され、しかし即座に力を溜めて縦振りを叩き込み、漲る爆炎で視界を塞ぐ。左手を地面に当て、主体時間を加速させながら火柱を起こし、ソムニウムを飲む。重ねて起き上がりながら大剣の一撃を与えて後退させ、無謬へと転じる。そしてソムニウムもまた、寂滅へと転じて迎え撃つ。同時に放った右拳が激突し、凄絶な威力を以て競り合う。無謬の炎を纏った拳が押し切り、そして力を溜めて用意していた左拳が寂滅の顎を強打し、その巨体を吹き飛ばす。空中でソムニウムへ戻り、着地する。無謬も同様に明人に戻り、片膝をついて崩れる。
【ふふ。まあ、君にしては悪くないね。じゃ、後はそこでイチャイチャしてて】
彼女はそう告げると、現れたのと同じように虚空へ消え去った。
「やったー!なのですー!」
アリアが笑顔で駆け寄り、明人をこれでもかと抱きしめる。
「よし、後は白金さんの言う通りゆっくりしましょう。戦いはもう十分です」
燐花が呟き、二人は頷く。
エンドレスロール 時諦
「よっ……と」
虚空から召喚されたストラトスが、見事な着地を見せる。
「なんだここ……」
「ここは無の無、本当の根源的な領域ですね」
全く気配なく、彼の右真横に千早が現れていた。
「うわ!?びっくりしたぞ!」
「うふふ、もちろん。あなたの千早ですからね?お忘れですか?」
「いや、もちろん覚えてるけどさ……」
今度は左の真横にアルバが現れ、手を握ってくる。
「うお!?アルバか、よう」
「はい……えへへ、お久しぶり、です……」
「まさに両手に花ってワケね、色男さん?」
声のした方……つまり前へ向くと、そこにシエルが立っていた。
「お!シエルもいるのか!安心だな!」
「何が安心か知らないけど。千早、説明の続き、してくれる?」
シエルが千早へ会話を振ると、彼女は笑顔で応対する。
「ええ、はい。先程も言いましたが、ここは無の無。文字通りの完全なる無であり、無いという概念すら無い、逆説的には全てを内包する異常空間です」
「まあつまり……ここに居るってことは、完全な死を私たちは迎えたってわけね?」
「そう思っていただいて構いません。ここで肝要なのは、逆説的に全てを内包する空間……即ち、表面的な解釈であれば、何物も存在することはないということです」
「要は私たちに在ることを要求してきた存在がいるってこと?」
「そうですね。普通はここには完全な消滅を果たした存在しか辿り着けないので、アルヴァナの仕業ではないです。となるとディードか、もしくは――」
言葉を遮るように、彼方から極彩色の波動が轟き渡る。
「この気配は……零なる神!?」
シエルが驚き、背後へ振り返る。四人が見る方向には、極彩色の繭が現れ、程なく孵化する。現れたのは、白金の地肌にコバルトブルーの装備をしたグラナディアだった。
「グラナディアさん!」
「ふむ、何か感じたことのない未知の力が多分に含まれていますが……この気配はソムニウム――零なる神のもので間違いないでしょう」
千早がストラトスから離れ、準備運動のように身体を動かす。
「よし、アルバ!なんかよくわからねえけど、準備はいいか!?」
「はい……!いつでも行けます……!」
アルバも離れ、両腕を龍の鱗で覆う。ストラトスも槍を呼び出し、構える。
「……!」
グラナディアはこちらを見留めると、全身から黒黒とした怨愛の炎を吹き出し、右手に赤黒い直剣、左手にレバーアクションライフルを取り出す。一発放ち、スピンコックをわざわざしてみせるが、正面から突進していたシエルが平然と右腕で銃弾を弾き返し、鋼の槍を撃ち出す。グラナディアは右斜め後方の空中へ不自然なほどの加速で逃げ、急降下しながらシエルに肉薄して直剣を薙ぎ払う。だが左腕に阻まれ、右手による撃掌でグラナディアは悶える。そこへシエルもろとも飲み込まんとする無明の闇が足元から噴き出し、シエルがグラナディアの足を流体金属で拘束しながら飛び退き、直撃させる。
「行くぜ!」
ストラトスとアルバが交差するように通り抜け、グラナディアに強烈な一撃を叩き込む。彼女は両腕を嚢胞で包み込み、右腕は盾のような剛腕に、左腕は槍のような鋭利な鰭へと変貌させる。そして電撃の軌跡を残しつつ瞬間の踏み込みで千早を捉え、左腕を突き出す。千早は両手で受け止め、だが左腕の先端が白い蔦へと変わって首に巻き付く。そのまま右腕で頭を掴まれ、圧壊させんとばかりに力まれる。当然がら空きの背後に向かって暗黒竜闘気の螺旋槍が打ち込まれ、更に千早が首の力だけで蔦を引き千切り、両手でグラナディアの右腕を引き裂く。続いてシエルが豪快な飛び回し蹴りを踵側からグラナディアの頭部に叩きつけ吹き飛ばし、竜化したストラトスが全力の砲撃を直撃させる。
「よしッ!意外と連携できてるじゃない!」
シエルがそう誇ると、ストラトスが高度を合わせてくる。
「当然だろ?俺とシエル、アルバに千早も居るんだ、負けるわけねえって」
「答えになってないけど、まあいいわ」
煙が晴れると、グラナディアは竜化しており、兎の耳のような突起が生えた竜人・月詠の姿を現す。
「こちらの戦力が万全というのもありますが、やけに加減されているようですよ」
千早が指を鳴らしつつそう言うと、アルバも続く。
「遊ばれてる……みたいです……出力だけで言うなら、この四人がかりでも歯牙にかけないくらいなのに……」
「まあ、タスクは簡便に限ります。すぐに終わらせて、誰がストラトス様に相応しいかじっくり話し合いましょう」
千早がストラトスに微笑みかける。
「え?ああ……まあそれは一旦置いといて……」
月詠が口元に爆炎を滾らせ、極彩色の大火球を三連続で吐き出してくる。一発目を鎖の防壁で凌ぎ、二発目を千早が拳で打ち返し、三発目に激突して相殺する。シエルが全身から闘気を放ちながら巨大な鋼の槍を作り、月詠は続けて両腕を交互に振り、巨大な火柱を直線上に大量に発生させる。それを千早がシエルを守るように拳を振って掻き消し、振りの後隙に合わせたストラトスの砲撃で動作を鈍らせつつ、力を溜め終わったシエルが槍を投げつけ、月詠は避けようと咄嗟に動こうとするも鎖で縛められ、しかし辛うじて直撃を避け、槍が左腕を吹き飛ばす。そこにストラトスが再びの全力砲撃を叩き込み、そのまま急接近して突き刺さった鋼の槍を拳で押し込み、月詠は大破して消滅する。竜化を解いて着地し、四人は集まる。
「終わったわね」
「ああ。しっかし、何がしたいんだろうな?俺達を引っ張り出してまで」
「さあ……?」
エンドレスロール 黎明
虚空からアストラムが着地し、続いて降ってきたレメディとヴィルヘルムを彼女が受け止める。
「え……なんですか、ここ」
「先に俺から降りろよ」
レメディの反応にアストラムが冷静に返し、ヴィルも同時に肩から降りる。
「確かに僕たちはソムニウムさんに殺されたはず……」
「はぁ?んだよてめえら、最終決戦で負けたのか?」
口から出た想定外の言葉に、アストラムは驚きと若干の怒りを見せる。
「そうなんですよ、急に襲われて……」
彼方より極彩色の波動が響き渡り、同じ色の繭が現れる。中から切り裂いて、白金の身体にコバルトブルーの装具の不知火が現れる。
「シラヌイ!?死んだはずじゃ……」
「ああ、そういうことか」
アストラムが納得し、そこにヴィルが訊ねる。
「どうなってんスか、これ」
「ここは無の無だよ。てめえらが負けたせいでソムニウムに創世を奪われたんだ。そんで、新世界王サマのお遊びに付き合わされてるってこった」
「創世を奪われた……」
レメディが深刻な表情をするが、アストラムが笑い飛ばす。
「ワハハハ!まあこっからでも巻き返せるだろうぜ!ここに俺達がいるってことは、まだ新世界は出来てねえ。それどころか、全部永遠に消し飛ばすって選択肢もあるかもしれねえ。だから、今からソムニウムのクソ野郎をぶっ倒せば、てめえが創世出来るってわけだ」
右手に双頭斧を呼び出し、闘気を沸き立たせる。
「てめえらが死物狂いでこっから巻き返せってわけだよ、いいか!」
「はい!」
「うっす!」
レメディとヴィルが同時に返事をし、それぞれの得物を抜く。
「おそらくあれは本物じゃねえ。なら負ける道理もねえ!行くぞ!」
獣のように低く構えたアストラムが突っ込み、最下段から豪快に斧を振り回す。不知火は目にも止まらぬ速度で回り込み刀を振り下ろすが、カウンターウェイトのように伸ばした足による強烈な蹴りに弾かれ、その隙にヴィルが頭上から急降下して貫き、着地してからの薙ぎ払いで後退させる。レメディが長剣の切っ先から闘気塊を撃ち出しつつ蹴りで突っ込み、連続で当たって硬直した不知火に渾身の三連切りからの豪快な切り上げで吹き飛ばす。流石と言うべきか、不知火は空中で受け身を取って優雅に着地する。
「確かに手応えが薄いですね……」
「油断大敵だぜ、レメディ」
構え直したヴィルが警告し、レメディが頷く。
「そうだね」
不知火は悶え、全身から極彩色の波動を放つ。防具が変異していき、白金の表皮と融合する。素早い接近から斬りつけ、そこから前転して兜割りを放つ。狙われたレメディは長剣で一段目を相殺し、二段目に強く当てて不知火を弾く。アストラムの全身を使った捻り振り下ろしの直撃を受けて身体が欠け、ヴィルが槍から光線を放って援護する。しかし不知火は身体の制御を素早く取り戻し、光線を避け、姿を消して高速移動する。
「それなら……!」
レメディが長剣を逆手に持ち、自身の背後に向けて突き立てる。ちょうど現れた不知火の腹に突き刺さり、引き抜いて翻りつつ、一刀のもとに首を断ち切る。
「ふう」
一息つき、ヴィルとアストラムも合流してくる。
「よし、後は……」
アストラムが見る方向には、極彩色に輝く戦場があった。
「行け、レメディ。てめえがやるはずだった役目を果たしてこい」
レメディは言葉を発さず、頷きだけで返す。
エンドレスロール 深淵領域ニュージェネシス・カタルシス
極彩色の波動が視界一切を掻き消し、無の無を埋め尽くしていた虚空が塗り潰される。
「……これは……!」
バロンが怯み、ハチドリが目を細める。ディードは余裕そうに、寧ろこれから起こることに対する期待に満ちた笑みで前を向く。
【全ての意思は私の下にある。けれど、あなたたちとの戦いのために全て解放した。今ここは、私が生み出した
「へえ、なるほどね」
ディードが紅い闘気を放ち、真炎を帯びる。続いてハチドリも全身に怨愛の炎を纏い、右半身を鋼で覆う。
「さあバロン殿。正真正銘の全身全霊、全てを賭して逝きましょう」
「……ああ。強敵に挑む、これ以上の誉れなど有りはしまい……!」
バロンも一切の余力も残さずに全ての力を解放し、そのまま竜骨化する。
【全てを消し去り、揺らぎも失せた未来へ】
ファーストピースは翼を畳んで力を溜め、即座に解放する。極めて単純な攻撃ではあるが、バロンとハチドリでも防御せねばならないほどの、筆舌に尽くしがたい圧倒的な暴力が響き渡り、大量の魔法陣が続いて生成され、そこから極大の光線が吐き出される。甚だしい威力の暴威の中でも怯まずディードが巨大な火球を生み出して投げつけるが、着弾する寸前でファーストピースから漲るエネルギーに阻まれ爆発する。これまた凄絶な力を帯びて強烈な飛び蹴りを叩きつけると、漲るエネルギーが球形のバリアのように生じているのがわかる。光線を潜り抜けたハチドリも脇差に刀の像と怨愛の炎を被せ、糸目をつけずに力を注ぎ込んで攻撃を叩きつけ、バロンも愚直に、真正面に全ての力を集中してバリアを粉砕しようと力み続ける。だがファーストピースは意に介さず、全身から光の線のような弾幕を放出する。バロンがいち早く離脱し、全力でディードとハチドリを守るように鋼の壁を生み出す。光弾は壁に弾かれ遠く彼方へ飛んでいき、ディードは姿勢を変えて力を込めて踵落としを繰り出す。バリアを引き裂き、生じた亀裂に手を突っ込み、強引に抉じ開ける。ファーストピースは左半身を引き、翼で一閃する。バロンを狙ったその攻撃を躱すと、既に用意されていた大量の魔法陣から極大の光線が次々と発射され、バロンが回避に専念してさえギリギリなほどの密度と速度、読みを両立した凶悪な弾幕を形成する。それで彼の援護を封じつつ、再び全身から光弾を放出する。ディードがバリアを完全に破壊し、ハチドリがその影から分身を乗り継ぎつつ超高速で接近していく。しかしファーストピースは極彩色の波動を風圧代わりに繰り出しながら退き、周囲の時空が歪むほど凄まじい力を練り上げる。
「おっと……」
ディードが躊躇するほど凄まじい覇気がファーストピースから放出され、そこに魔法陣の弾幕から逃れたバロンが合流する。
「……あれはまさか……!?」
「どうやらファーストピースの王龍式……っぽいわね」
「……巫山戯た威力だ……!」
バロンは直進し、突き進み続けるハチドリの援護へ向かう。
「こんな気持ち初めてよ、ファーストピース……」
ディードが竜化し、更にもう一段竜化し、超巨大な長蛇へと転じる。そしてこちらも負けじと、あらゆる言葉が陳腐に感じられるほどの壮絶な力を蓄える。
【王龍式!】
幾重もの超巨大な魔法陣が何層にも形成され、接近するどころかもはやまともに動くことすらままならないほどの力の嵐が吹き荒れ、ハチドリも接近を強制的に中断させられて吹き飛ばされ、バロンに受け止められる。
「バロン殿……!」
「……今は身を守ることに全力を尽くせ――」
言葉を遮るように、力の解放が訪れる。
【〈エヴォリューショナル・ワールプール〉!】
ファーストピースの口から解き放たれた輝きは、一瞬にして深淵領域を越え、無の無全てを照らし尽くし、唯一無二たる破壊力を以て突き進む。バロンとハチドリはその余波で吹き飛び、荒れ狂う純粋な力の波濤に飲み込まれる。輝きが魔法陣を超える度に力を文字通り無尽蔵に増幅させて猛進し、そしてディードが力を込めて螺旋状の闘気を吐き出して迎撃する。二つの恐るべき力の激突が、もはや語彙も思考をも放棄せざるを得ないような、冗談のような衝撃を生み出し、やがて耐え切れずに超絶的な大爆発を起こす。
「確信したわ、ファーストピース。アンタじゃ私は倒せない」
ディードは形態を人間に戻し、何とか耐えきったバロンとハチドリを見やる。
「じゃ、最後の竜狩り、その栄誉は譲るわ。怨愛の修羅」
そして彼女は、炎となって消える。
「……くっ、大丈夫かハチドリ」
「ええ、もちろんです……!」
ハチドリはバロンから離れるとすぐに余燼へと竜化し、二人とファーストピースが向かい合う。
【ディードは立ち去った。あなたたちに託したらしい】
「……あいつめ……」
【もっと見せて欲しい、全力を。真に否定されるのはどちらなのか……極まった力と力の激突は、まさに滅びと同義なのかを】
「……だがディード抜きで……」
バロンの言葉を遮り、余燼は翼で彼を制する。
「……ハチドリ……君は何者なんだ……?」
「バロン殿、私と合体しましょう」
「……つまり……融合竜化をするということか」
余燼が頷く。
「玉鋼すら超えた境地へ」
「……わかった」
バロンがシフル粒子となって余燼に吸収され、黒鋼の身体に余燼の翼と尾が生え、あらゆる種類の闘気が迸る姿となる。
【(竜骨化ではない……)】
ファーストピースが軽く力むと、前方に大量かつ大小様々な魔法陣が形成され、一気に光線を撃ち放つ。重ねるように魔法陣がカバーするよりも広い範囲に光弾を放出し、融合竜化状態となった余燼が右腕を突き出しながら、光線を真正面から破壊して突き進む。そうして魔法陣を突き破って肉薄すると、ファーストピースが両翼を振り抜きながら後退し、その軌跡に極彩色の大爆発が連続して発生し、口から極大の光線を吐き出す。余燼がバレルロールで回避し、光線をそのまま振り上げて撃ち切る。頭上に巨大な力の渦が生まれ、巨大なエネルギー塊が隕石のように降り注ぎ、当たるより先に余燼が最接近し、巨大な闘気の爪を伴いながら右腕を振り抜き、重ねて左腕で薙ぎ、両腕を交差して切り裂き、続けて前方に強烈な闘気を大爆発させて反動で後退する。今度は逃げずに攻撃を喰らいつつも、ファーストピースは力を溜めて再び筆舌に尽くしがたい衝撃波を起こし、余燼は鋼の盾を発生させて受けきり、受けたダメージと鋼の盾を球体に変え、右腕を掲げてその掌で巨大化させていく。明らかな大技の動作に応じるように、ファーストピースは再び幾重もの超巨大な魔法陣を生み出し、圧倒的な力を放出し始める。
【王龍式!〈エヴォリューショナル・ワールプール〉!】
壮絶極まる螺旋状の光線が吐き出され、全てを蹴散らしながら突き進む。余燼が巨大な鉄球を投げつけて光線の先端に当て、直後に自身の手で球体にぶつかり、ひたすらにシンプルに力を注ぎ込んで光線を押し込んでいく。しかしファーストピースも一気に力を注ぎ込み、余燼を押し返す。
【まだです!】
余燼が押し切られそうになったところに、黄金の輝きに満ちた超大剣が飛来し、余燼の真横で鉄球に突き刺さり、遅れて最終形態のレメディが現れ、超大剣を掴んで共に光線と押し合う。
「そうじゃ!」
「わたくしたちもいますわ!」
「サポートはばっちし!」
本来の姿のオオミコト、アプカル、ローカパーラが現れ、彼女らの力を受けたメルクバがまさに彗星のように現れる。
「撃ち抜く……!」
「女王がやったことないことと言えばー?」
その背に乗るメイヴが呼びかけると、オオミコトたちが律儀に返す。
「「「げこくじょー!」」」
メイヴが右手に鋼の大剣を生み出し、淵源の光を纏わせて突き出し、メルクバの突貫の威力を高める。そのままの勢いで余燼たちに合流し、光線を押し返す力に加わる。
【ぬおおおおおおおッ!】
「……!」
「ハアアアアアアアッ!」
三者が示し合わせたかのように同じタイミングで力を込め、光線を押し切って、各々の一撃がファーストピースの胸部に届く。ファーストピースの巨体が吹き飛ばされ、黒煙を上げながら落下していく。
「ッ……」
余燼は呼吸を整える。ファーストピースは当然のことだとでも言うように立て直し、飛び上がって高度を合わせる。
【素晴らしい。全てが私に牙を剥いてるのなら、全てを否定するためにこうなった私には好都合】
【感情の熱を感じない……?】
ファーストピースから漲る力に、レメディが反応する。
「どうやらそのようじゃな。ヤツの放つ力……完全に新たなものじゃ。前にも後にも決して無い、ヤツだけのエネルギーじゃ」
オオミコトが答え、アプカルも続く。
「興味深いですわ。他の力と違って、振れ幅がない……常に、どんな状況でも最大限のパフォーマンスを発揮し続ける……」
「あんなの、滅ぼすための力にしかならないよねえ」
ファーストピースは胸部の傷を修復させる。
【それで合ってる。私は全てを滅ぼす。もう二度と、どんなものさえ生まれないよう、全てを完全に、永遠に否定する】
翼を畳み、身を丸くする。同時に猛烈な強風が吹き荒れ、深淵領域が吸収されていく。
【ハチドリさん!止めましょう!】
レメディが叫び、メイヴを乗せたままのメルクバは飛び抜けて退場し、余燼がレメディと共にファーストピースへ突っ込む。ファーストピースは光に包まれ、巨大な繭へと変貌する。レメディの超大剣の縦振りがぶつけられ、生じた超巨大な光の刃が追撃する。だが繭には傷一つ付かず、余燼が大量の分身とともに一気に斬撃を与えながら、本体が口から強烈な熱線を撃ち込んで爆裂させてもなおダメージを受けない。
「ええい!王龍式!〈生命の海、絢爛なる大蓮華〉!」
背後からオオミコトが巨大な光の柱を繭に幾つも突き立て、その一つ一つが極大の黄金の光を放ち、焼き払う。程なく大爆発し、更に余燼が巨大な闘気塊を叩きつけて爆発させ、レメディの超大剣の薙ぎ払いから黄金の激流を叩き込む。
「プライマル……」
余燼は右腕に氷炎を纏い、不滅の太陽で刀身を形作る。
「アンティクトン!」
渾身の一撃が叩きつけられ、強烈な波濤が繭の表面を駆け巡る。遂に繭の表面に穴を開け、そこに極限まで凝縮された小さな宝石のような純シフル塊を吐き出す。繭の穴を抜け、絶対に躱せない力を以て内部のファーストピースに着弾して、筆舌に尽くしがたい超絶的な大爆発を起こす。繭がひび割れ、光を放つと徐々に開き、巨大なオオアマナを象る。どこからともなく紅と蒼の蝶の群れが現れ、姿勢を元に戻したファーストピースは両翼を広げ、更に骨格を外して展開する。蝶たちが翼膜に集り、そしてひたすらに巨大な光の翼を形成する。
「にょわあああああ!?」
ファーストピースから放たれる輝きによって、後方に控えていたオオミコトたちが排除される。
「何が……?」
余燼が目を眩ませながら呟くと、同じく横で目を細めるレメディが答える。
【あの人のエネルギーが完成したみたいですね……それで、力が一定の基準に満たない存在を強制的に押し出したようです……!】
「なるほど……」
ファーストピースは力み、両翼の先端を合わせてその狭間に巨大な光球を作り出し、掲げて無数の光線を多方向に放出して、高速回転させる。二人はそれぞれで動いて躱し、光球はほどけて大量の光線に変わり、今度は二人に狙いを付けて飛んでいく。高速で飛び回る余燼に狙いを定め、ファーストピースは全身を使って右翼を振り抜く。同時に翼の大きさに見合った巨大な光刃が飛んでいく。更にそこに大量の魔法陣からの光線を重ねて進路を潰していき、オーラを纏った強烈な尾の一撃を叩きつけて撃ち落とす。背後からレメディが接近して一太刀加えると、ファーストピースは両翼を畳んで彼を押しつぶそうとする。攻撃の手が若干緩んだタイミングで余燼が衝撃波を起こして周囲の魔法陣を破壊し、瞬間移動で肉薄して巨大な闘気の爪を纏いつつラッシュをぶつけ、強烈な右振り下ろしから飛び上がり、急降下して翼で斬りつけつつ連続で爆発を起こし、隙を潰して大量の分身とともに一瞬の内に強烈な一撃を連続で叩きつけ、最後に右拳を叩き込んで自身の体内に溜め込まれた闘気を自爆のように解放し、反動で吹き飛んで後退する。衝撃で巨体が僅かによろめき、両翼の力みが緩み、レメディが脱出する。ファーストピースが直上へ飛び上がり、翼を全開にして構える。開幕で繰り出したのと同じ衝撃波を、溜め無しで連打しつつ再び深淵領域が広がっていく。
「くっ……!」
極彩色の輝きは際限なく広がっていく。涯のない無の無の全てを、隙間なく彼女の力が埋め尽くす。そして咆哮とともに、ファーストピースの前方に十三個の球体が現れる。
「まさか二つ目の王龍式を……!?」
【あの球体を!】
二人は球体の破壊に飛ぶが、ファーストピースは力を溜めつつも魔法陣の展開と光線弾幕の展開を並行し、やがて球体は一つになって吸収される。
「……!」
【腹を括るしか無い……ッ!】
ファーストピースから放出される力は極限まで高まり、口から視界が一瞬で潰れるほどの閃光が放たれる。
【
解放された力は極彩色の空間の全てを塗り潰し破壊し、余燼、レメディ共に凄まじい傷を負う。レメディは特に限界が近いように見える。ファーストピースは続けて十三個の球体を放出し、即座に二度目の射出を狙う。同じように衝撃波と魔法陣、そして弾幕での猛烈な妨害を行うが、彼方から飛んできた凄まじい勢いの無明の闇によって六つがすぐに粉砕される。竜の形態のアルヴァナと、その背に乗ったシェリアが登場する。
「なんでもありなら私たちがいてもいいわよね、アルヴァナ?」
【無論だ。征こう、シェリア!】
アルヴァナがフルパワーで無明の闇を吐き散らして弾幕を消しつつ、シェリアが莫大な力を帯びた槍を投げつけて衝撃波を貫き、ファーストピースの胸に届いて、吹き出す無明の闇で貫かんと滾り続ける。余裕が出来たところでレメディが魔法陣を全て破壊し、先んじて突っ込んだ余燼に超大剣を投げつける。余燼はそれを闘気で自身に随伴させ、全ての力を注ぎ込んで突き進む。
「兄様、姉様、みんな!準備はいいッ!?」
更に彼方から現れた、純白のヴァナ・ファキナが全身全霊の衝撃波で残りの球体を破壊する。
【王龍式――〈エヴォリューショナル・ワールプール〉!】
三度目となる螺旋状の極大火力光線に余燼は真正面からぶつかり、全身から赫々たる怨愛の炎を、際限なく放出して力を増していく。既に全ての力を解放しているにも関わらず、それでも出力が上がり続ける。
【(シフルエネルギーを強めるのは感情……自らの全てとも言える人と融合しているのだから、無限を越えて感情が溢れ出るのも当然か)】
ファーストピースは光線に力を注ぎ込み、だがそれでも貫き押し通る余燼が見える。余燼は超大剣を殴りつけて飛ばし、光線を遂に撃ち抜いて、シェリアの投げた槍に激突し、構え、握り締めた拳を再び超大剣に叩きつける。二本の武器とともに余燼がファーストピースを貫通し、砕けた甲殻が煌めきながら宙へ散っていく。
【……】
黙して崩れ、眼下に広がる極彩色のオオアマナへ落下していく。
【これが……
両翼から輝きが失せ、絶命した蝶たちが雪のようにポロポロと剥がれ落ちる。右腕を伸ばし、指先から灰色の蝶が飛び去っていく。間もなく、ファーストピースの身体は霧散し、空間が全て元に戻る。
エンドレスロール ???
「はあっ……はぁーっ……」
余燼がハチドリとバロンに戻る。
「……いい、体験だったな……?」
「ほんと、ですね……」
ハチドリは自身の傍に浮かぶ槍と超大剣を見て、後ろへ振り向く。アルヴァナたちとレメディ、そして純白のヴァナ・ファキナは消滅していき、同時に武器たちはハチドリへ吸収される。
「まるで夢のような戦いでした……」
ハチドリの手元に、極彩色の蝶が一頭、ひらりと舞い降りる。
「……それが戦利品らしい。受け取っておいてくれないか。あれでも、僕とは兄弟のようなもので……」
「知っています。もしかすると、あなたよりも」
「……君は不思議な子だな。もし新たな世界があれば、君とまた出会いたいものだ」
蝶を吸収し、ハチドリはバロンへ向き直る。
「はい。その時は……私を、思い切り抱き締めてください」
「……約束しよう」
バロンははにかみながら消滅する。
「……」
ハチドリは右手に怨愛の炎の種火を生み出して握り潰し、そしてどこかへと歩き去っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます