エンドレスロール:ハチドリ
エンドレスロール エラン・ヴィタール
「……ふむ……」
屋敷前の草原、その一区画に耕された畑で、バロンは作業をしていた。しゃがみ込み、土を掬い上げ、質を確かめているようだ。
「旦那様っ!」
後方から元気のいい声がして、バロンは土を戻しつつ立ち上がり、振り向く。そこに立っていたハチドリは凄まじいほど爽やかな笑顔で佇んでおり、バロンもつられて微笑む。
「……どうした、ハチドリ。昼食の時間だったか?」
「いえ、そうではなく!手合わせなど如何かと!」
「……手合わせか。そうだな、農作業や彫刻では体が固まりがちになる……ちょうどいいかもしれんな」
「やったぁ!それでは旦那様、勝った方が負けた方を一日好きにできるというのはどうですか?」
「……君がそういうことを言ってくるのは珍しいな」
「メイヴさんが――」
言葉を返して、ハチドリからその名前が出た瞬間にバロンは少し残念そうな表情をする。
「――旦那様はそういうのを賭けて戦うのが大好きだとおっしゃられたので!」
「……あいつ……ハチドリ、ここで生活するうえで気をつけてほしいことがあるんだが……」
「はい!なんでしょうか!?」
「……メイヴとアウルの言うことは聞かないでくれ。あとはビュルガーもだ」
「ほえ?なぜですか?」
「……いや、君に余計な知識を身に着けてもらいたくないというか……君の性格だと、あいつらとの会話はかなり毒になるからな」
「そうですか……?他にも、旦那様は膝枕が好きとか、髪を綺麗にしておくと褒めてくれるとか、怪我をするとすぐに手当てしてくれるとか」
「……あることないこと吹き込んでいるな……まあいい、後でその真偽に関しては話そう。手合わせと行こうじゃないか」
二人は畑から離れ、障害物の無い草原の中央へ移動する。ハチドリは目を伏せて深呼吸した後、目を開きながら得物を構える。左手に六連装、右手に脇差。
「えへへ、旦那様と戦うのは胸が高鳴りますなぁ!」
「……君は無垢でいいな」
バロンも拳を構え、ハチドリが六連装をフルバーストして開戦する。軽く闘気を纏って銃弾を弾き、それと同じ速度で突進してきたハチドリの脇差の一閃を左腕で受ける。
「……鋭い攻撃だ。守りの上からでも命を削り取るほどのな」
バロンが返した右拳に対し、身を翻しつつ分身を残すことで姿を消し、躱した瞬間に現れて脇差を二度振るい、返す拳を再び分身で避けると後退し、再びフルバーストする。バロンは左拳の拳圧で銃弾を弾き落とし、背後から飛びかかってきていた分身を掴み、消滅させる。その隙にハチドリは超高速で接近し、舞うように連続で脇差を振り抜いて猛攻を仕掛け、バロンは全て軽く受け流す。強く一閃をぶつけることでバロンを硬直させ、地上から二連続で振り抜きながら上昇し、更にもう一度強烈な一撃を加え、空中を蹴って逃げようとする。バロンは彼女の右足を掴み、流れるような動作で得物を軽く弾いて取り落とさせ、バランスを崩したハチドリを受け止める。
「のわわっ!」
「……勝負あったな」
バロンは優しくハチドリを下ろし、二人は六連装と脇差をそれぞれ拾い上げる。
「旦那様は流石ですなぁ~!どんな攻撃も軽く受け止めてくれるので、大技の練習にぴったりです!」
「……頑丈さには自信があるからな」
「最初の約束通り、私は旦那様の好きにされますね!」
そう言うとハチドリは得物を収め、そして体をバロンへ預ける。
「……全く……いいか、よく聞いてくれハチドリ」
「はい?」
「……頼むから妙なことを吹き込まれて危険なことはしないでくれよ」
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