エンドレスロール:深怨の御霊代
エンドレスロール ???
「オオオオオア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!」
掲げた右手に膨大な量の憎悪を迸らせ、無謬は突撃する。相対していた寂滅を一閃し、地に斃す。寂滅の体は大量の蒼い蝶に変わって天へ消え、無謬は上体を反らして吠え猛り、悍ましいほどの憎悪を宿した無明の闇が火炎のように地を埋め尽くす。しばらく歓喜に浸っていた無謬だったが、闇の向こうから近づいてくる気配に注意を向ける。
「しゅ……ら……」
無謬はもはや言語を満足に発せぬのか、不埒者の姿を見るや否や譫言のように呟く。その言葉通り、正面から現れたのは片耳の鬼……ハチドリだった。
「戦乱を潰えさせるわけにはいかぬ……」
脇差を引き抜くと、その刀身に赤々とした怨愛の炎が宿る。
「グアアアアアッ!」
無謬が獣の咆哮を上げ、身を固めつつ周囲の無明の闇を吸い上げる。そして凝縮しきると大爆発を起こし、全身から莫大な質量の憎悪を迸らせる。軽い構えから右腕を振り抜き、前腕部から生やした粗目の鋸のような刃による斬撃と共に、猛烈な連爆を起こす。当たったかどうかなど関係なく、重ねて左刃も振り抜きつつ一回転し、闇を撒き散らしつつ尾でも薙ぎ払い、漂っていく闇が次々と大爆発を起こす。だが既に引いていたハチドリがその間隙に六連装をフルバーストし、銃弾よりも早く接近して脇差の一閃を与える。無謬は闇を噴射剤にして荒唐無稽も甚だしいような超絶的な加速で上昇して回避し、もはや無謬が二体いるとすら思えるほどの速度で急降下し、伴う爆発で迎撃する。ハチドリは分身を盾に飛び上がって刀身から湧き出る炎を一気に増加させ、着地と同時に地面に炎を引火させ、薙ぎ払って拡散し、無謬を火達磨にする。更に後退しながら空間の歪みを飛ばし、高速で着弾したそれが内包していた真空刃と怨愛の炎が炸裂する。無謬は怯まず両腕の刃に力を瞬時に高圧縮し、飛び上がりつつ振り抜く。放たれたエネルギーは刃状になって悍ましいまでの速度で走り抜け、終点で爆発する。交差する形になったために回避は容易で、ハチドリも位置取りで避けている。無謬はそれを目掛けて先ほどのような常軌を逸した速度で突撃し、分身を盾に回避したハチドリへブレーキもほどほどに急加速し、尾を繰り出す。脇差に尾先を弾かれ、逆手に持たれたその得物で地面へ串刺しにされそうになるが、無明の闇を全身から逆噴射させることで後退し、今度は尾を突き出した際に生まれたエネルギーを直接投射してくる。あらゆる力が混濁としたそれは螺旋状の槍のような形となり猛進する。無謬は立て続けに二発繰り出し、トドメとばかりに圧倒的な暴威を尾先から放ちながら薙ぎ払う。その軌道では真っ黒な爆発が凄まじい連鎖を起こしており、だがその最中をハチドリが突っ切り、怨愛の炎で脇差を爆発的な速度で鞘から射出し、その勢いに任せて居合のごとく振り抜いて飛び上がり、無謬の尾先を折り取る。無謬は流石に怯み、ハチドリはすぐさま無謬の首筋に飛びついて脇差を力任せに捻じ込み、反撃が来る前に引き抜いて離脱、そして距離を取って着地する。
「グッ……」
折り取られた尾先が地面に突き刺さり、無謬は首筋を抑える。即座に傷は言え、だが尾先は再生しない。彼は律儀に無明の闇を元の形状に整えて噴き出させる。
「この憎しみ……」
無謬は右刃に凄絶極まる力を蓄え、指先で地面を削り取りながら衝撃波を起こす。ハチドリはいつものごとく分身を盾にし、もはやギャグとしか言えないような猛烈な平行移動で肉薄し、爆炎と共に着地する。それに合わせて身を翻し、刀身を怨愛の炎で大幅に伸ばし、十字に全力で切り裂く。さしもの無謬もその極悪な破壊力に晒されて堪えきれず、大きく姿勢を崩す。ハチドリが好機を逃すまいと斬りかかると、無謬は不意に踏み止まり、脇差を左刃で受け止める。だがハチドリは身を縦に翻しながら一閃して刃を折り取り、降下に合わせて再び一閃し、爆発と熱波で無謬を崩れさせ、後方へ押し込む。
「オ……オオ……」
無謬は左刃を尾と同じように無明の闇で補強する。が、体内から溢れ出る力を制御できなかったか、突如として彼の体を覆っていた甲殻が弾け飛ぶ。彼の体は原型も実体も留めておらず、猛烈な勢いを伴った、黒い嵐のような姿になっている。無謬は急に両手を合わせるとその狭間から極大の闇を放出し、縦に薙ぎ払い――頭上で出力を更に急激に上げて叩きつけるように上から下に薙ぎ払う。続けて超光速で飛び立って上空をでたらめに飛び回り、ハチドリに狙いを定めて急降下して激突し、大爆発を起こす。分身に凌がれ、更にその爆発で反撃を受けるが、続けて彼が飛び回った軌道から大量のエネルギー塊がハチドリをホーミングして次々と弾幕のごとく落下してくる。エネルギー塊は着弾後少し膨張してから、急速に凝縮されて大爆発する。無謬が更に重ねて右刃を振り抜くと、三方向に衝撃波が解放され、終点で爆発してそれぞれが更に三つの刃を展開しつつ、ハチドリへ急激な銃口補正を行って前進する。左刃による同じ攻撃の追撃も行われ、夥しい数の刃が乱れ飛ぶ。ハチドリは納刀から一気に抜刀し、遠隔から真空刃で正確無比に無謬を切り裂き、大量の分身を産み出し、刃に当てて爆発させて相殺しつつ、未だ大量に残った彼女らと共に急接近する。
「ガアアアアアアッ!アアアアアアアッ!」
無謬は天を仰いで咆哮し、分身を全て破壊する。
「ッ……」
ハチドリは彼が何をしようとしているのかを即座に察知し、後退しようとする。それと同時に無謬の体を形成する無明の闇が迸り、両腕の刃が順に振り抜かれ、続けて尾で加速した目にも止まらぬ突進を三度繰り出し、無明の闇を撒き散らし、爆発の衝撃に合わせて飛び上がり、エネルギー塊を撒き散らしつつ落下し、エネルギー塊が続いて降下することで爆発させ、のたうつように肉薄して噛み付き、ばら撒かれた無明の闇の残滓に着火させて爆裂し、爆発を伴いつつ右刃を振るって、間髪入れずに左刃を振るい、限界まで高めた闇を解き放ち、螺旋状の極悪なまでの暴威を前方のあらゆるものを巻き込みながら前進させる。
「(旦那様、私に二の太刀を……)」
回避したものの、猛烈な余波に煽られて上空へ大きく打ち上げられたハチドリが、胸から黒鋼の刀身を備えた太刀を引き抜き、急降下する。
「御免……」
全力の連続攻撃を終え、ほんの僅かな隙を晒した無謬の脳天に太刀を突き立て、体重と力を一気にかけて頭を割る。無謬は膝から崩れ、そして跡形もなく消え去る。ハチドリは着地し、どこからともなく背に現れた鞘に、太刀を収める。
「旦那様、私は……」
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