キャラ紹介:フレス・ベルグ

 エラン・ヴィタール 書庫

 重い扉を押し開けて中に入ると、内部に用意されたデスクに、既に人の姿があった。バロンはその人物の下へ歩み寄り、話しかける。

「……何の本を読んでいるんだ?」

 本を読んでいた人物……ショートカットの美しい金髪の、端正な顔立ちの少女……フレス・ベルグ。彼女はその言葉に反応して横を向き、思ったよりも近くに居たバロンに驚く。

「わっ……!なんであんたここにいるのよ!」

「……ここに住んでいるからだ。お前こそ、毎日顔をあわせているのにどうしてそこまで驚く」

「どうもこうもないわよ!普通黙って近づいてこないでしょ!」

「……戸を開ける音はそれなりにあったと思うが……」

「はっ……あんた待って、まさか……」

 フレスは本を閉じ、立ち上がり、後ろ歩きでバロンから離れていく。

「ここに誰も居ないからってあたしを襲いに……!」

「……待て。なぜそうなる。僕はただ、お前が何の本を読んでいたか気になっただけだ」

「本当に……?」

 明らかに警戒したままの視線を向けてきて、バロンは呆れ気味に溜息をつく。

「……本当だ。そんなに僕は信用できないか?」

「そりゃ……初対面で痛覚を性感に変えて犯してくるような相手を信用する方が……」

「……あれは不可抗力だった、知ってるだろう」

「それにあんたはいつも思わせぶりだし誰に対してもガチ恋距離っていうか別にあたしはあんたのこと好きじゃないのよ?でもスズメとかハチドリみたいな純粋な子はあれで落ちるのは当然っていうかむしろあんたが自分の魅力を把握してないのが悪いっていうかあたしがこうしてるのだって好意の裏返しっていうか早く察して欲しいからこういう態度取ってるのにあんたはいつも鈍感だし」

 フレスは小声や呟きに等しい声量で凄まじい早口を捲し立てる。バロンが反応に困って棒立ちしていると、彼女が急に大声を出す。

「ねえ聞いてる!?」

「……ん、ああ、聞いていた」

「ともかく!今あたしが言ったことは全部嘘だから!」

「……まあ、そうだろうな。会って間もない相手のことをそこまで信用していたら心配になる」

「ちょっ、それはちが――」

 否定しようとしたフレスに歩み寄り、バロンは彼女の右手を、自身の両手で包む。

「……無理せずゆっくり信頼し合っていけばいい。何かやりたいことがあれば、いつでも言ってくれ。僕に言うのがまずいなら、エリアルや、他の子でもいい。僕もなるべくお前が――君が過ごしやすいよう注意しておく」

 手を離す。

「……読書の邪魔をして悪かったな。それじゃ僕はこれで」

 バロンは踵を返して立ち去る。

「真面目なヤツ……」

 フレスは少し不貞腐れたように呟いた。

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